1 / 1
熟成ネタ
しおりを挟む
幼馴染というのは時に有難く、時に鬱陶しいものだと思う。失恋したタイミングを、どんな絡繰りかは分からないがいつもこいつは警察犬よろしく嗅ぎ付ける。そうして「そろそろだろ?」と自分の店に誘ってくれるのだ。
「会社のね、先輩なの」甘エビを口に放り込む。とろける程に美味しい。「告ろうとしたわけ、来週先輩の誕生日だし、一緒に過ごせたらなぁって。したらさぁ、今日の朝礼で結婚報告よ。玉砕なわけよ――どうしてこのタイミングで玉? オヤジか」
「お前が『玉砕』って言った瞬間に偶然玉子が出来上がっただけだ。狙ってるわけじゃない」「いーや! 玉もそうだし店に誘うのもタイミングばっちりだし、あれでしょ、絶対心が読めるんでしょ。プライバシーの侵害だわ」
「お前のプライバシーにもプライベートにも興味ない」
「ひっどい! 寿司馬鹿もここまで極まればご立派だわ」
「その寿司馬鹿の店に、毎度律儀に失恋報告しに来るお前も相当ご立派だよ」
店じまいされた空間に二人だけ。こいつが父親の店を継いでからだから、かれこれ8年この習慣は続いてることになる。滅多に会えないから口実代わりも兼ねて失恋してるんだと知ったら、一体何て言うんだろう。心が読めない男で本当に助かった。
「どーせ私生活に興味を持たれない程度の人間ですよ、ったく。お勘定!」「今回は早いな」
「明日から出張なの。入社した時指導してくれた先輩なんだけど、遅刻にうるさくってね」
勘定を終えて店の外に出れば冬の風。ご馳走様と告げた声が思わず震えた。
「……勘違いしてるみたいだけど」
振り返るが、店の明かりで逆光になった男の表情は良く見えない。
「俺なしのお前の私生活には興味がないってだけで、そこに俺の存在があるなら別ってことだ」
「え?」
「おやすみ。気を付けて行けよ」
ぴしゃりと鼻先で引き戸が閉まった。影が頭を掻くのが見える。
「……8年早く言えっての」
緩む頬もそのままに、店の裏口へ足を向けた。
「会社のね、先輩なの」甘エビを口に放り込む。とろける程に美味しい。「告ろうとしたわけ、来週先輩の誕生日だし、一緒に過ごせたらなぁって。したらさぁ、今日の朝礼で結婚報告よ。玉砕なわけよ――どうしてこのタイミングで玉? オヤジか」
「お前が『玉砕』って言った瞬間に偶然玉子が出来上がっただけだ。狙ってるわけじゃない」「いーや! 玉もそうだし店に誘うのもタイミングばっちりだし、あれでしょ、絶対心が読めるんでしょ。プライバシーの侵害だわ」
「お前のプライバシーにもプライベートにも興味ない」
「ひっどい! 寿司馬鹿もここまで極まればご立派だわ」
「その寿司馬鹿の店に、毎度律儀に失恋報告しに来るお前も相当ご立派だよ」
店じまいされた空間に二人だけ。こいつが父親の店を継いでからだから、かれこれ8年この習慣は続いてることになる。滅多に会えないから口実代わりも兼ねて失恋してるんだと知ったら、一体何て言うんだろう。心が読めない男で本当に助かった。
「どーせ私生活に興味を持たれない程度の人間ですよ、ったく。お勘定!」「今回は早いな」
「明日から出張なの。入社した時指導してくれた先輩なんだけど、遅刻にうるさくってね」
勘定を終えて店の外に出れば冬の風。ご馳走様と告げた声が思わず震えた。
「……勘違いしてるみたいだけど」
振り返るが、店の明かりで逆光になった男の表情は良く見えない。
「俺なしのお前の私生活には興味がないってだけで、そこに俺の存在があるなら別ってことだ」
「え?」
「おやすみ。気を付けて行けよ」
ぴしゃりと鼻先で引き戸が閉まった。影が頭を掻くのが見える。
「……8年早く言えっての」
緩む頬もそのままに、店の裏口へ足を向けた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる