異世界勇者のトラック無双。トラック運転手はトラックを得て最強へと至る(トラックが)

愛飢男

文字の大きさ
218 / 266
積み残し編……もうちょっと続くんじゃよ

周章狼狽

しおりを挟む
 出陣の準備も整い、あとは出陣するだけとなったある日、サーシャが産気づいた。

 もう間も無く……という事で魔王城改めてクリード城(仮)には医者や助産婦が控えていた。

 すぐに分娩用に整えられた部屋へと運び込まれ分娩が開始、俺はサーシャの隣で手を握り、汗を拭い、ひっひっふー!  とする役目を担うものだと思っていたが、どうやら分娩室は男性の立ち入りは禁止のようだ。俺の覚悟……

「落ち着かない……」

 ソワソワと分娩室の前をウロウロするしか出来ない。

「レオ殿、少し落ち着かれよ」

 そんな俺の様子を見て、ジェイドが呆れたように声を掛けてきた。
 俺を御館様と呼ばないのは周りに人が居ないからだろう。

「だってジェイドさん、出産ですよ?」
「出産だが……男が慌てても仕方があるまい?  こういう時男ならドンと構えて待つものだぞ?」
「ドンと構えて……」

【無限積載】から椅子を取り出し、腕と足を組んで座る。
 ううむ……落ち着かない……

「何をしておるのだ……」
「いや……ドンと構えて……」
「姿勢の問題ではなく心構えの問題なのだが……」

 しかしジェイドが居てくれて助かった。
 俺の周りは女性比率が高すぎてあまりこういった弱みを見せるのは憚られる。
 俺の周りの男性と言えば、マーク、ダニエル、フィリップ、そしてジェイドくらいであろうか?

 アンドレイさんやアレクセイは聖都に居るからな。

 フィリップはまだ未婚だし、マーク、ダニエルは最近結婚したばかりでまだ子供は居ない。
 父親はジェイドしか居ないのだ。

「ふむ、ならばライノス公爵とその跡取りに伝えに行ってはどうかな?」
「それだ!」

 ここに居て落ち着かないのなら離れるのも一つの手……
 ずっと離れておくのはダメだと思うがすぐ戻るし、気も紛れるだろう。

 いきなり訪ねるのも迷惑だろう。【思念共有】を発動してアンドレイさんに繋ぐと、暇では無いが今は屋敷に戻っているとの事。
 急いで【傲慢なる者の瞳】で転移先を確認、問題無さそうだ。

「行ってきます!」

 ジェイドに一言挨拶をしてライノス屋敷の目の前へと転移した。

「何者!?  ってクリード侯爵様!?」

 毎度のことだがライノス屋敷の目の前に転移で現れると警備兵に警戒されるな……
 少し離れた位置にとも思うが、今日は急ぎなので勘弁してもらおう。

「いきなり済まない。当主殿は居られるか?」
「はい。取り次いで参りますので少々お待ちいただけますでしょうか?」
「頼む」

 警備兵に取り次いでもらい中へ、使用人にアンドレイさんの執務室まで案内してもらう。

「いらっしゃいレオくん。今日は急にどうしたんだい?」
「急に連絡してすみません。実は、先程サーシャが産気づきまして……」
「なんと!  それで生まれたのかい!?  男の子か?  女の子か?」
「ちょ!  落ち着いてください!  まだです、さっき分娩室に入ったばかりです!」

 アンドレイさんは凄い勢いで立ち上がり問い詰めてくる。
 圧がすごい……落ち着いて欲しい。

「なんだ、そうだったのか……取り乱して済まないね。それで、わざわざ私に伝えに来てくれたのかい?」

 少し落ち着いたのか、アンドレイさんは椅子に座り直す。
 良かった……って慌てるアンドレイさんを見てたら何だか俺も落ち着いたな……
 ジェイドがここに来させたのはこのためか。

「ええ。部屋の前でソワソワしていたら家臣に落ち着けと……落ち着かないのならライノス公爵に産気づいたことを知らせに行ったらどうかと言われまして」
「なるほど……たしかにレオくんにとって初めての出来事だからね。落ち着かないのは私も分かるよ」

 アンドレイさんは先程までの狼狽っぷりはどこへやら、穏やかな笑みを浮かべてこちらを見ている。

「アンドレイさん……」
「さぁ、ここで話していたら生まれてもすぐに分からないよ?  領地に戻ろうか」

 アンドレイさんは立ち上がり、俺の肩に優しく手を置いた。

「ありがとうございます。少し落ち着けました」
「役に立てたようで何よりだよ。それより早く行こう」

 ……ん?
 一緒に行くの?  まぁ全然いいんだけど……
 仕事はいいのかな?

「キミ、アレクセイには私はクリード領に居ると伝えておいてくれ。じゃあレオくん、行こうか」
「あ、はい」

 特に反論することも無く素直にアンドレイさんを連れてクリード城へと戻ってきた。

 再び分娩室の前に陣取り使用人にお茶を持ってきてもらい心落ち着けて待機する。

「レオくん、貧乏揺すりが酷いよ?」
「すすすすみません」
「いや、いいんだけど……」

 またなんだかドキドキしてきた。
 カップを持つ手がバイブレーションしている。

「御館様、出産は長丁場、今からこれでは出産まで持ちませんぞ?」
「そうは言いますけど……」

 アンドレイが来たためにジェイドの言葉遣いも家臣のものとなっている。
 俺はそれに気付く余裕もない。

「少々失礼します」

 ジェイドは立ち上がりどこかへ行ってしまった。

 一体どこへ行くのだろう?
 主君の正妻の出産だぞ?  不敬だぞ?

 そんな益体もないことを考えながらソワソワしていると、イリアーナがやってきた。

 おかしいな、よめーずはリビングとして使っている部屋で待機すると言っていたのだが……

「レオ様落ち着いて。ほらいーこいーこ」

 俺の前までやった来たイリアーナはおもむろに俺の頭を撫で始める。

 何してるの?

「お父さんがレオ様が緊張で死にそうって言ってた」
「死にはしないけど」

 ジェイドめ……

「レオ様も今日からお父さん。お父さんがしっかりしないと奥さんも子供も心配」
「イリアーナ……ありがとう」
「どういたま」

 それだけ言うと、イリアーナは元来た道を戻って行った。
 え、このために来たの?

「いい娘さんじゃないか」
「ええ、そうですね」

 アンドレイさんの目線から見てイリアーナたちの存在ってどう見えるんだろ?

 隔意があるようには見えない、むしろ微笑ましいものを見るような目で見ている。
 俺がアンドレイさんの立場なら……イリアーナは娘の旦那の浮気相手にしか思えないと思う。

 それから次々とよめーずが現れて一言掛けてから俺の頭を撫でて戻っていくという不思議な時間が流れた。

 アンドレイさんはそれをただ微笑ましそうに眺めている。
 なんだかいたたまれない……

 最後に来たアンナが戻り、入れ替わりにジェイドの姿が見えた頃、部屋の中から元気な産声が聞こえてきた。
しおりを挟む
感想 194

あなたにおすすめの小説

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...