主人公の所有物になりました。

狭間 長門

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プロローグ

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 夏と言えば何を思い浮かぶものだろうか。

 海やスイカ、かき氷等など、四季の中でも悠長に人気ランキング上位に入るだろうと、個人的であり主観的に捉えている。
 客観的に見ると夏を嫌う者もいるだろう。それこそ、夏の楽しみの如く様々な原因があるだろうが、やはり冬とは対照的な暑さが原因と考えられる。

 
 しかし、僕こと夢望むぼう 雫叉しずさは今までの人生の中で、一度たりとも暑さを嫌わない。


──自然と流れる女性の汗に憎悪はない。寧ろ露骨からしなやかに流れる汗は視界を狭めてまでして観察する意味がある。軽く血が集まってほのかに薄ピンクに染まる頬がまだしても魅力を醸し出している、写真でも絵でも表せないイメージを今後とも脳裏に焼き尽くしてくれる君に愛を囁きたいんだが」


 周りは炎天夏の陽の光を浴び、昨日の夕立の水溜りを消し去ってしまっていた。唯一、土に湿り気が感じられるのは自身を含め、二人の男女を影で覆う木陰のみ。
 つまるところ、今現在、女子生徒と二人きりの現場がつくられているのであった。


(…………やっちまった)


 心の奥底から湧き上がった言葉という水をすくい上げてすぐに、今の炎天夏にその水をまいているようであった。

 つまり蒸発。


「ごめん綾ちゃん、ちょっとストップ」


 何を止めたのかわからない。いや、意味がないことは十二分に理解している。しかし、今の現状を整理するには充分な時間だった。


 改めまして、僕は夢望 雫叉。皆からは平然と変態紳士という渾名らしからぬ勲章を与えられた高校二年生だ。
 明日からは夏休みを迎えるにあたって、夏のイベントを盛り上げるべく、かっこいい男子は憧れの女子に、大人しい女子は恥ずかしがりの男子にと、恋人という青春を謳歌すべくための条件を満たしているのを傍から見ていた。

 傍から見るのは楽だ。自分勝手に祝い、そして憎むことが出来るのだから。
 変態紳士の勲章を受けて以来、親しい友人はいるものの、恋人以下の存在が多数だった周りの様子により、恋愛とはという哲学に挑み、永遠とたどり着けないで人生を終えるのかと冷や汗を流していた中三の日。まさか別の意味で冷や汗が流れるとは思わなかった。

 篠崎 綾とは、先程も述べたように親しい友人枠、だったはずのクラスメイトだ。
 しかし、ほんの数十秒前までの彼女は明らかに大切な用事があったはずだ。その直前に僕はなんて言った?
 よし───


「──飛行機音がしたね」
「してないから。ちゃんとバッチリ全部まとめて聞こえたから」
「類義の単語多いけど文字通り心の底を全て吐いちゃったぁ………うん、言っちゃいましたね」
「いや、そこまで落ち込まれたら傷つくんだけど………」
「じゃあ羞恥心により自宅のベットから落ちて死ぬというニュースが流れる前に、一思いに殺っちゃってくれ」
「たまに聞きそうなないようだけど後にも前にも死んじゃダメだから」


 ほぼ全ての生徒が修了式を終えて下校した学校内に呑気なやり取りが蝉の鳴き声と同様に響き渡る。
 
 

「全く………もう立っていいから、シズ。死ぬ云々より女の子に対して羞恥な言動を抑えてほしいんだけど」
「よっと。しかしながら勝手に口に出てしまう性分なんでね。寧ろこの性格がなかったら存外ワンチャンでモテてたかもしれないかもしれぬ」


 辞世の句を考える途中だったため、正座の体勢を保っていたため、起き上がると目の前の女性いや、少女でも通じる幼い女子高校生を上から見ることになる。
 一般的な女子高生より小さい身長な彼女は、さらさらと流れる首元で揃えられたショートカットをたなびかせ、優しく微笑んだかのような表情を随時見せる彼女の項にはキラリと光が反射して───


「また変なこと考えたでしょ」
「常日頃から考えている事だよ。野郎と違って女性の夏用制服は素晴らしいって」
「つまり変なこと考えてるってことじゃん」
「待って。僕は何時も変な事考えていると考察してないか?」
「違うの?」
「その返しがグサッとくるわー………」

 
 目の前の少女の目がハイライトになると、途端に次は僕の目が乾ききった。
 断定する言葉を考えさせるセリフはくるものがある。改めて自分の考えが世間一般なものと悪い方面で違うとわかり、疎外感が生まれる。
 

「………今年の夏も一人花火で涼もう」
「あ……あの、その話なんだけど」
「え?花火付いてきてくれるの?」
「う、うん………」
「へ~。物好きだ─────え?」


 そう言えば、と僕は最初の場面まで記憶を辿り、そして固まった。
 

「シズはね、確かにキモい」
「一回屋上に行こう」
「雰囲気良さそうでも、そんな中で飛び降りさせないから。とにかく、それでもシズは真面目な時は真面目でギャップがある」
「そりゃあ全生徒の手本にーーー」
「なってない。何時もの言動が殆どでバランスが保ててない」
「確かにヤンデレもデレがなかったら監禁犯だからね」
「わかりやすい例え」


 つまり僕は何かの犯人なのか?いや、これはあくまで自分が出した例だ。決して牢獄にいる年取った自分を想像してはいけない。寧ろヤンデレは怖いものだと痛恨した気がした。
 すぐに本来の話題から思考を外す僕とは裏腹に、目の前の彼女は頬を赤らめながらも、真剣な表情で言った。
 

「色々まとめるとシズはモテない」
「直球ストレートが僕の胸に当たったんだけど」
「我慢して」


 出来ない。
 自意識過剰ではないが、その次に来るであろう言葉を僕は

 確かに、傍から他人の色恋沙汰をどうこう言うのは簡単だが、自分が主軸にくるなんて求めていない。
 

「私はね、シズ。私は───」


 ダメだ。何か別のことをしないと。
 眼鏡を落として探すふり?風も何も眼鏡を落とす要素はない。


「あの日からずっと───」


 今の時間帯に聞こえるバイク音はしない。熱中症?じゃなくて!


「シズのことが───」


 美人な神様ぁー!


「シズのことがす」


 次の言葉は聞こえることも、発せられることもなかった。
 
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