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一章:賢者と精霊とスローライフ
一話:賢者と森と火の精霊
しおりを挟む賢者が森の奥で見つけた精霊は、若い女の姿をしていた。
おそらく、精霊の一種族である、「サラマンダー」だろう。
そこで賢者は、どういう行動を取るか少し迷った。
力ずくで協力させることも、不可能ではないのだろうが、
勇者のパーティを離れた賢者はひとりなので、戦力に不安が残る。
それに、そのような「優雅でない」力押しのやり方は、
そもそも賢者の好みとするところではなかった。
そこで、精霊に対して、正面から話しかけることにした。
協力を得るのだから、変な小細工を考えずともよいだろう。
「やあ」
「……誰!? 人間!?」
サラマンダーは、目の前に現れた賢者の姿を見て警戒した。
この森を訪れる人間は少ないので、予想外だったのだろう。
「ボクは賢者だ。キミは精霊だね?」
「そうよ。炎の精霊、サラマンダー」
精霊サラマンダーは、少女の姿をしている。
彼女は、赤い髪で、赤い瞳で、赤い服を着て、赤い炎をまとっている。
「さっそくだが、ボクがこの森で暮らすのに、協力して欲しいんだ」
「やなこった、パンナコッタ、だわ!
なんで、『霊超類』である精霊の私が、
アンタみたいな人間を助けないといけないのよ」
この世界での精霊は、「霊超類」に分類される。
人間が「霊長類」なら、精霊はそれを超える存在であるからだ。
サラマンダーがとくに気性が荒いということもあるが、
精霊の高いプライドを支えている根拠が、
生物の真の頂点である霊超類であるということだ。
「ボクの優雅な生活に、キミの力が必要なんだよ」
「いやよ。そんなアンタの都合は知らないわ。
どうしてもというなら、私に力を証明しなさい」
サラマンダーがそう言うと、彼女の身体が赤く発光した。
それは、火の魔法を使う予兆だ。精霊はその身体自体が、
魔法でできているようなものなので、
厳しい訓練を積んで魔法使いになる人間と違い、
息を吸って吐くように、生まれつき魔法が使えるのだ。
だからとうぜん、並の魔法使いよりも、強力な魔法が使える。
「喰らいなさい! 紅蓮(ぐれん)の弾丸、ファイアーボール!」
とつぜん、賢者の目の前に、紅い火球が飛んでくる。
しかし、賢者は少しもうろたえない。
勇者たちと共に、モンスターと戦ってきた戦歴があるのだ。
「むなしき虚無の深淵、賢者タイム!」
火球と賢者の間に、小さなブラックホールのような闇が出現した。
その無の空間に、火球は飲み込まれていく。
「賢者タイム」は、賢者の境地に到った者だけが扱える時空魔法だ。
「えーっ! ファイアーボールが、消えちゃうなんて……。
チートよ! 反則よ!」
サラマンダーは騒ぎ出したが、
すぐに落ち着いて、こう言った。
「でも、普通の人間とは違って、
力があるのはたしかね。私は強者が好きよ」
「ボクに協力してくれるのかな?」
「いいわ。呼び出したいときは、これを使いなさい」
彼女は宝石を投げてよこした。彼女の髪のように赤い宝石だ。
これはいわゆる「召喚石」というもので、
この石を持つ者の場所に、精霊は瞬時に転移できる。
こうして賢者は、火の精霊サラマンダーの協力を得た。
あとあと、彼女の力が役に立つ場面が出てくることだろう。
勇者パーティから離脱して、まるで賢者タイムのように、
落ち込んだ気分の賢者だったが、サラマンダーを味方にしたことで、
この森での新しい生活に向けて、意欲が湧いてきたのだった。
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