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②:売り出し中の若手芸人。
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俺、実はあんまりおもろないんちゃうか。
周りは気を遣って笑ろてくれてるだけなんちゃうやろか。
ふいにそう思って不安になった、とある日のドラマ撮影現場。
「あははははは!!」
「!」
「いや岡島さんってほんっと面白いですね!」
「え、ほんま?ほんまにおもろい?」
「面白いですよ!撮影前なのにお腹よじれる~あははっ」
しかし、現場の待ち時間でたまたま隣にいた、亜衣と同い年の女優さんに、亜衣にも話した同じおもろい話をしたら、女優さんは本気で笑ろてくれた。
そしてその本気で笑う周りの反応に、いつも救われる。
…なんや俺の話おもろいんやんけ!なんっで亜衣にはウケへんねやろ!?
「もうヤダ~撮影中に思い出したらどうするんですかぁ」
「いやアカンよ次葬式のシーンやん」
「泣かなきゃいけないのにもう、役作り役作り!」
「笑いながら葬式に参列する女がどこにおんねん」
ドラマの撮影現場は結構和気あいあいといった感じ。
本当はドラマ撮影より、コントがしたいんやけど。
…と、いう本音は今は言うたらアカン。
仕事を貰えるうちが華やから。芸人の世界は厳しい。
俺は元々学生の頃から、お笑い芸人になるのが夢やった。
どんなに張り詰めた空間も、芸人は一瞬にしてその空気を変えられるから凄い。
いや、自画自賛やなくてね。
コンビもええけど、自分一人で考えて一人でやるネタに、多くのお客さんが笑ろてくれるのがめちゃめちゃ気持ちええから、ずっと一人。
一人で大手の芸能プロダクションのお笑いのオーディションに応募して、1次2次と合格して、トントン拍子で夢のお笑い芸人になれたのが19ん時。
それでも5年ほどは、なかなかメディアに出させて貰えんかった。が…
「岡島さんてよくドラマとか映画出てますよね。あたし観てましたよ。去年の岡島さんの主演ドラマ」
「あ。看護師の役やったやつ?ありがと!」
「芸人さんなのに主演男優賞とか貰ってたじゃないですか。このドラマも主演だし」
凄いですよね、と。嫌味なく純粋にそう言ってくれる女優さん。
その言葉に、周りにいた他の出演者さんも頷いてくれるけど…。
実は俺がテレビに出だしたのも、「お笑い」関係やなくてとあるドラマ出演がキッカケやったりする。
や、けど、今はバラエティーも体張ってるで!
引っ張りだこやから!マジで!
深夜やけど、テレビでレギュラー番組も始まるし!
…それでも、ドラマ撮影をようやく終えたその日の夜。
自宅のマンションに向かう車の中で、マネージャーが運転しながら俺に言った。
「岡島さん、今度映画決まりましたよ!しかも主演!」
「は…」
「なんかミュージシャンの役で、しかも聞いて下さいよ。曲も出せるかもしれないです!ソロで!」
…誰が聞いても大きな仕事。
喜ばなアカン。アカンけど。
「…ライブの仕事とか無いんか」
「あー、あるかもしれないですね。曲を出すってことは」
「いやちゃうくて、お笑いライブ」
「!」
「俺お笑いライブやりたいねんけどな~」
…世間で俺は「かっこいいのに面白い人」というイメージが定着しとるらしい。
「かっこいい」と言われて別に嫌な気はせぇへんけど。
その「おもろい」は一体どこいってん。最近なんか特に、や。
バラエティー収録でもそれなりにウケてんねんけどな。
けど俺の言葉を聞くと、マネージャーがいつもと同じ言葉を言った。
「注目されてるうちが華ですよ」
「…」
それを言われると何も言われへんやん。
そして車はやがてマンションに到着して、俺が車を降りる前にマネージャーが自身の手帳を開いて言う。
「明日はドラマ収録の前にCMの打ち合わせがあるんでちょっと早いです」
「ああ、あの洗顔のCMな。何時?」
「8時です」
…早いなぁ。まぁええやろ。そうは言うてもこの仕事自体嫌いやないし。
芝居もCM撮影も、好きやし。
そして俺はやがてマンションの中に入ると、ふいにスマホの時計に目を遣った。
「…23時」
アカン。今から会いに行くわけにいかんかな。
下手に見つかって撮られたらめんどいし。
しかし気が付けば俺は、マンションのエレベーターに乗り込みながら、亜衣に電話をかけとった。
「…あ、もしもし。俺やけど」
俺にとっての亜衣の存在は、周りには何があっても極秘にせなアカン。
実は事務所にいつも言われとんのが、「世間的に人気がある今は絶対に彼女は作ったらアカン」こと。
俺はお笑いをやりたい。
けど俺の見た目の良さもプッシュしたいらしい事務所は、その思惑通りになった今、俺が彼女を作ったら今ある土台が全て壊れてしまうと考えとる。
…いや、俺ジ●●ーズちゃうねん。
「え?今終わったんやって。マジで。…いやずっとドラマ撮影やし」
普段はそんな愛の言葉とか俺からは言わへんし、そんなにべたべた引っ付くような間柄でもないと俺は思っとるけど。
けど、「失う」のは何が何でも勘弁してほしい。
いや、亜衣本人には絶対内緒やけどな。
「…共演しとる女優さん?いや、何もないて。忙しすぎてそんな暇ないっちゅうねん」
めっちゃ我慢させとんのは、なんとなく予想はしてる。
嫉妬もすること。いや、俺もしてんねんで。
「亜衣」
そして俺は部屋の前まで着くと、鍵を開けながら電話越しに亜衣に言った。
「ごめんな。全然会われへんな」
…ここで「愛してる」とか言ったら、さすがに笑わない彼女も多少ニヤけるやろか。
けど俺は言われへん。あほ、恥ずかしすぎるわっ!
けど俺が謝ると、亜衣が言った。
『平気です。私はとっくんさんのこと愛してますから』
「…あほ」
いや、俺がニヤけてどうすんねん。
周りは気を遣って笑ろてくれてるだけなんちゃうやろか。
ふいにそう思って不安になった、とある日のドラマ撮影現場。
「あははははは!!」
「!」
「いや岡島さんってほんっと面白いですね!」
「え、ほんま?ほんまにおもろい?」
「面白いですよ!撮影前なのにお腹よじれる~あははっ」
しかし、現場の待ち時間でたまたま隣にいた、亜衣と同い年の女優さんに、亜衣にも話した同じおもろい話をしたら、女優さんは本気で笑ろてくれた。
そしてその本気で笑う周りの反応に、いつも救われる。
…なんや俺の話おもろいんやんけ!なんっで亜衣にはウケへんねやろ!?
「もうヤダ~撮影中に思い出したらどうするんですかぁ」
「いやアカンよ次葬式のシーンやん」
「泣かなきゃいけないのにもう、役作り役作り!」
「笑いながら葬式に参列する女がどこにおんねん」
ドラマの撮影現場は結構和気あいあいといった感じ。
本当はドラマ撮影より、コントがしたいんやけど。
…と、いう本音は今は言うたらアカン。
仕事を貰えるうちが華やから。芸人の世界は厳しい。
俺は元々学生の頃から、お笑い芸人になるのが夢やった。
どんなに張り詰めた空間も、芸人は一瞬にしてその空気を変えられるから凄い。
いや、自画自賛やなくてね。
コンビもええけど、自分一人で考えて一人でやるネタに、多くのお客さんが笑ろてくれるのがめちゃめちゃ気持ちええから、ずっと一人。
一人で大手の芸能プロダクションのお笑いのオーディションに応募して、1次2次と合格して、トントン拍子で夢のお笑い芸人になれたのが19ん時。
それでも5年ほどは、なかなかメディアに出させて貰えんかった。が…
「岡島さんてよくドラマとか映画出てますよね。あたし観てましたよ。去年の岡島さんの主演ドラマ」
「あ。看護師の役やったやつ?ありがと!」
「芸人さんなのに主演男優賞とか貰ってたじゃないですか。このドラマも主演だし」
凄いですよね、と。嫌味なく純粋にそう言ってくれる女優さん。
その言葉に、周りにいた他の出演者さんも頷いてくれるけど…。
実は俺がテレビに出だしたのも、「お笑い」関係やなくてとあるドラマ出演がキッカケやったりする。
や、けど、今はバラエティーも体張ってるで!
引っ張りだこやから!マジで!
深夜やけど、テレビでレギュラー番組も始まるし!
…それでも、ドラマ撮影をようやく終えたその日の夜。
自宅のマンションに向かう車の中で、マネージャーが運転しながら俺に言った。
「岡島さん、今度映画決まりましたよ!しかも主演!」
「は…」
「なんかミュージシャンの役で、しかも聞いて下さいよ。曲も出せるかもしれないです!ソロで!」
…誰が聞いても大きな仕事。
喜ばなアカン。アカンけど。
「…ライブの仕事とか無いんか」
「あー、あるかもしれないですね。曲を出すってことは」
「いやちゃうくて、お笑いライブ」
「!」
「俺お笑いライブやりたいねんけどな~」
…世間で俺は「かっこいいのに面白い人」というイメージが定着しとるらしい。
「かっこいい」と言われて別に嫌な気はせぇへんけど。
その「おもろい」は一体どこいってん。最近なんか特に、や。
バラエティー収録でもそれなりにウケてんねんけどな。
けど俺の言葉を聞くと、マネージャーがいつもと同じ言葉を言った。
「注目されてるうちが華ですよ」
「…」
それを言われると何も言われへんやん。
そして車はやがてマンションに到着して、俺が車を降りる前にマネージャーが自身の手帳を開いて言う。
「明日はドラマ収録の前にCMの打ち合わせがあるんでちょっと早いです」
「ああ、あの洗顔のCMな。何時?」
「8時です」
…早いなぁ。まぁええやろ。そうは言うてもこの仕事自体嫌いやないし。
芝居もCM撮影も、好きやし。
そして俺はやがてマンションの中に入ると、ふいにスマホの時計に目を遣った。
「…23時」
アカン。今から会いに行くわけにいかんかな。
下手に見つかって撮られたらめんどいし。
しかし気が付けば俺は、マンションのエレベーターに乗り込みながら、亜衣に電話をかけとった。
「…あ、もしもし。俺やけど」
俺にとっての亜衣の存在は、周りには何があっても極秘にせなアカン。
実は事務所にいつも言われとんのが、「世間的に人気がある今は絶対に彼女は作ったらアカン」こと。
俺はお笑いをやりたい。
けど俺の見た目の良さもプッシュしたいらしい事務所は、その思惑通りになった今、俺が彼女を作ったら今ある土台が全て壊れてしまうと考えとる。
…いや、俺ジ●●ーズちゃうねん。
「え?今終わったんやって。マジで。…いやずっとドラマ撮影やし」
普段はそんな愛の言葉とか俺からは言わへんし、そんなにべたべた引っ付くような間柄でもないと俺は思っとるけど。
けど、「失う」のは何が何でも勘弁してほしい。
いや、亜衣本人には絶対内緒やけどな。
「…共演しとる女優さん?いや、何もないて。忙しすぎてそんな暇ないっちゅうねん」
めっちゃ我慢させとんのは、なんとなく予想はしてる。
嫉妬もすること。いや、俺もしてんねんで。
「亜衣」
そして俺は部屋の前まで着くと、鍵を開けながら電話越しに亜衣に言った。
「ごめんな。全然会われへんな」
…ここで「愛してる」とか言ったら、さすがに笑わない彼女も多少ニヤけるやろか。
けど俺は言われへん。あほ、恥ずかしすぎるわっ!
けど俺が謝ると、亜衣が言った。
『平気です。私はとっくんさんのこと愛してますから』
「…あほ」
いや、俺がニヤけてどうすんねん。
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