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第一章
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オイル交換をした。
十一月下旬だがピットの中は熱気で暑いくらいだ。一度手に付いた油を落とす、正式名称は知らないが通称ピンク石鹸というざらついた粉状の特殊な石鹸だ。
続けてクーラントの入れ替えに取り掛かった。
もう冬が近づいてくる、クーラントとスタッドレスタイヤの入れ替えに来る客が増え始めていた。
クーラントの入れ替えには昔ながらの下抜きと、もう一つ近年主流になりつつある機械を使った上抜きというやつだ。
上抜きの方が時間は早いが、俺は下抜きの方が好きだった。
これが今日最後の一台だった、ありふれた国産車だ、素早く終わらせボンネットを閉め今日の仕事のノルマは終わった。
「お疲れさん」
と言いながら谷口が肩を叩いて事務所の方に歩いて行った。
この谷口というここの社長はただの車好きだったド素人の俺をここまで育ててくれた恩がある。谷口は社長と呼ばれることは好きでは無いようだった。
「お疲れ様です」
とだけ返事をした。谷口含め全員で六人の整備士がいるが、今日はもう他の四人はあがっていた、皆ノルマをこなすとさっさと帰ってしまうのだ。ノルマが終わって就業時まで残っていても給料が増えるわけではないのだ。
タイムカードを押し着替えて自分の車に乗り込む。
あまり疲れてはなかったがまっすぐに自宅に帰った、集合住宅の五階の最上階だがエレベーターは付いていない。一段飛ばしで駆け上がった。
夕食を済ませたところで部屋の呼び鈴が鳴った、この時間なので母が訪ねて来たのだろうと思い確認もせずドアを開いた。
ドアの向こうには見知らぬ二人の男が立っていた、六十歳くらいの男がいきなり写真を突き出して来た。
「坂井直人さんですね?この車に見覚えはありませんか?」
更に突き出す。珍しくもないシルバーのメルセデス・ベンツの側面の写真だったが、ナンバー等は写ってなかった。
「いきなり何ですか?」
と尋ねると、もう一人の若い方が。
「警察だ質問に答えろ、あんた谷口モータースの整備士だろ」
と警察手帳を見せて凄んで来た。
私服の警察か、テレビのドラマと同じようなシーンだ、初めてだったので苦笑した。
写真に視線を落とした、ありふれた車だが特徴があった、助手席のフロントドアの済に小さな穴が開いていた、見覚えはあったが暫く考えるフリをしてから。
「この辺りではありふれた車なのでわかりません」
「見かけたたら連絡してもらえますか?」
穏やかに老刑事の方が写真と携帯番号の書いた名刺を寄越して帰っていった、木下という名前の警部補らしいがどうでもよかった。
シャワーを浴びてから先程の写真を見直してみた、おそらく常連の客の車に間違いなかった、ナンバープレート等は写ってなかったが、田辺真理子というこの車の持ち主は確か二日前に冬用のスタッドレスタイヤの交換に来ていた。
その時にドアの穴の修理はしないのか尋ねたのだったが。
「乗り換えるつもりだからいいのよ」
と言っていた。おそらく俺と同じくらいの年齢だろう。
田辺真理子は市内で大規模のレストランのオーナー兼社長をしており、昼は普通のレストラン夜はバーになる店を構えていた。
レストランの方は何度か赴いたがバーには行ったことがなかった、しかも近隣にはあまりいい店がないので昼も夜も繁盛しているようだった、レストランで真理子を見かけた事はなかった。
先代のオーナーの上野は五年前に病死し、真理子が引き継いで経営していると小耳に挟んだ事がある程度で、五年前から付き合いのあるただの金持ちの客の一人で、信頼されているのかいつも指名されるお得意様と言った感じだった。
厄介事は苦手だ、写真と名刺をしまいタバコを一本吸った、まだ夜の二十時だった。
田辺真理子のバーには行かなかった、何となく行きづらかったのと、行っても会えないと思ったからだ。例え会ってもどう話を切り出すか店では難しいだろう。
携帯のアラームで目が覚めた、軽くストレッチをしシャドーボクシングをする、毎日の日課だった。
トーストをコーヒーで流し込み仕事の支度をし、昨夜の写真と名刺を持ち出勤した。
田辺真理子に会えるとは思わなかったが、会えたら聞こうと思ったからだ。しかし疑問が色々と思い浮かぶ、何故警察が探しているのか、ナンバープレートが写ってなくとも警察の捜査力で探すのは容易なはずではないのか、考えても埒が明かなかった。
そつなく仕事をこなし市内の大通りに向かった、まだ十九時だった。
山本興信所、小さなビルの三階に入った。学生時代からの付き合いのある望月に会いに来たのだ、所長の山本とも面識があった。望月は席を外してるようだった。
山本が所長で四人の探偵を抱えているが、今日は山本一人のようだった。
「よう坂井君、望月ならもう帰って来るから待つかい?」
所長の山本と暫し談笑しているとうんざりした顔の望月が戻って来た。
「坂井か、悪い今夜は浮気調査の仕事がまだ残ってる」
相変わらずうんざりした表情だ。
「いや、時間は取らせない写真を一枚見て欲しいだけなんだ、出直そうか?」
と言うと、きょとんとした表情に変わり、
「いいぜ、見せてくれ女の写真か?」
と笑みを浮かべる。
「違う、車の写真だ」
と言って例の写真と名刺を手渡した。
「ベンツか、これがどうした?」
鈍い奴だ、探偵には向いてない気がする、学生時代からの憧れだった探偵になれたのに、今では仕事が億劫な感じが漂っている。
「ここのドアの隅の穴だ」
と指を指す。
「わからんね、車はお前の方が詳しいだろ」
山本も覗き込んで来るが途端に山本の表情が固くなり、呟いた。
「銃痕だ、関わりたくはないな」
と言いながらデスクに戻って行った。
山本は元々刑事だった、優秀な刑事だったと望月から聞かされていた。何故エリートコースから外れ、しがない興信所の所長に落ちたのかは望月も知らないみたいだ。
「こんな平和な街で物騒だな、俺も関わりたくないよ、厄介事に首を突っ込むなよ俺は仕事を片付けて来る、その車見かけたら連絡するけどあまり期待はするなよ」
望月はそう言いまた元のうんざりした顔で出掛けて行った。
「じゃあ俺も帰ります」
と山本言いながら席を立つと、
「ちょっと待て、もう一度写真と名刺をよく見せてくれ」
と言うので写真と木下の名刺を見せた。
じっくり写真を見た後名刺にも目を通し。
「これはあくまで感だが、走行中に撃たれた後、どこかのパーキングエリアで写真を撮ったに違いないな、少なくとも殺そうとして撃ったわけじゃなさそうだ、運転手に脅しをかけているといった感じだ。それとこの木下だがかなりの腕っこきだから気を付けた方がいいな」
と言って席に戻って行った。山本に礼を言い小さな事務所を後にした。
予想はしていたが一つ事実確認が取れた。
ベッドで横になりながら考えていた、何故田辺真理子の車体に銃痕があるのか。
こんな平和な街にもヤクザの事務所は一軒あるが、ここのヤクザはヨットハーバーを経営していて繁盛しており、大人しく揉め事を持ち出しては来ないタイプだった。考えながら眠りに落ちていった。
十一月下旬だがピットの中は熱気で暑いくらいだ。一度手に付いた油を落とす、正式名称は知らないが通称ピンク石鹸というざらついた粉状の特殊な石鹸だ。
続けてクーラントの入れ替えに取り掛かった。
もう冬が近づいてくる、クーラントとスタッドレスタイヤの入れ替えに来る客が増え始めていた。
クーラントの入れ替えには昔ながらの下抜きと、もう一つ近年主流になりつつある機械を使った上抜きというやつだ。
上抜きの方が時間は早いが、俺は下抜きの方が好きだった。
これが今日最後の一台だった、ありふれた国産車だ、素早く終わらせボンネットを閉め今日の仕事のノルマは終わった。
「お疲れさん」
と言いながら谷口が肩を叩いて事務所の方に歩いて行った。
この谷口というここの社長はただの車好きだったド素人の俺をここまで育ててくれた恩がある。谷口は社長と呼ばれることは好きでは無いようだった。
「お疲れ様です」
とだけ返事をした。谷口含め全員で六人の整備士がいるが、今日はもう他の四人はあがっていた、皆ノルマをこなすとさっさと帰ってしまうのだ。ノルマが終わって就業時まで残っていても給料が増えるわけではないのだ。
タイムカードを押し着替えて自分の車に乗り込む。
あまり疲れてはなかったがまっすぐに自宅に帰った、集合住宅の五階の最上階だがエレベーターは付いていない。一段飛ばしで駆け上がった。
夕食を済ませたところで部屋の呼び鈴が鳴った、この時間なので母が訪ねて来たのだろうと思い確認もせずドアを開いた。
ドアの向こうには見知らぬ二人の男が立っていた、六十歳くらいの男がいきなり写真を突き出して来た。
「坂井直人さんですね?この車に見覚えはありませんか?」
更に突き出す。珍しくもないシルバーのメルセデス・ベンツの側面の写真だったが、ナンバー等は写ってなかった。
「いきなり何ですか?」
と尋ねると、もう一人の若い方が。
「警察だ質問に答えろ、あんた谷口モータースの整備士だろ」
と警察手帳を見せて凄んで来た。
私服の警察か、テレビのドラマと同じようなシーンだ、初めてだったので苦笑した。
写真に視線を落とした、ありふれた車だが特徴があった、助手席のフロントドアの済に小さな穴が開いていた、見覚えはあったが暫く考えるフリをしてから。
「この辺りではありふれた車なのでわかりません」
「見かけたたら連絡してもらえますか?」
穏やかに老刑事の方が写真と携帯番号の書いた名刺を寄越して帰っていった、木下という名前の警部補らしいがどうでもよかった。
シャワーを浴びてから先程の写真を見直してみた、おそらく常連の客の車に間違いなかった、ナンバープレート等は写ってなかったが、田辺真理子というこの車の持ち主は確か二日前に冬用のスタッドレスタイヤの交換に来ていた。
その時にドアの穴の修理はしないのか尋ねたのだったが。
「乗り換えるつもりだからいいのよ」
と言っていた。おそらく俺と同じくらいの年齢だろう。
田辺真理子は市内で大規模のレストランのオーナー兼社長をしており、昼は普通のレストラン夜はバーになる店を構えていた。
レストランの方は何度か赴いたがバーには行ったことがなかった、しかも近隣にはあまりいい店がないので昼も夜も繁盛しているようだった、レストランで真理子を見かけた事はなかった。
先代のオーナーの上野は五年前に病死し、真理子が引き継いで経営していると小耳に挟んだ事がある程度で、五年前から付き合いのあるただの金持ちの客の一人で、信頼されているのかいつも指名されるお得意様と言った感じだった。
厄介事は苦手だ、写真と名刺をしまいタバコを一本吸った、まだ夜の二十時だった。
田辺真理子のバーには行かなかった、何となく行きづらかったのと、行っても会えないと思ったからだ。例え会ってもどう話を切り出すか店では難しいだろう。
携帯のアラームで目が覚めた、軽くストレッチをしシャドーボクシングをする、毎日の日課だった。
トーストをコーヒーで流し込み仕事の支度をし、昨夜の写真と名刺を持ち出勤した。
田辺真理子に会えるとは思わなかったが、会えたら聞こうと思ったからだ。しかし疑問が色々と思い浮かぶ、何故警察が探しているのか、ナンバープレートが写ってなくとも警察の捜査力で探すのは容易なはずではないのか、考えても埒が明かなかった。
そつなく仕事をこなし市内の大通りに向かった、まだ十九時だった。
山本興信所、小さなビルの三階に入った。学生時代からの付き合いのある望月に会いに来たのだ、所長の山本とも面識があった。望月は席を外してるようだった。
山本が所長で四人の探偵を抱えているが、今日は山本一人のようだった。
「よう坂井君、望月ならもう帰って来るから待つかい?」
所長の山本と暫し談笑しているとうんざりした顔の望月が戻って来た。
「坂井か、悪い今夜は浮気調査の仕事がまだ残ってる」
相変わらずうんざりした表情だ。
「いや、時間は取らせない写真を一枚見て欲しいだけなんだ、出直そうか?」
と言うと、きょとんとした表情に変わり、
「いいぜ、見せてくれ女の写真か?」
と笑みを浮かべる。
「違う、車の写真だ」
と言って例の写真と名刺を手渡した。
「ベンツか、これがどうした?」
鈍い奴だ、探偵には向いてない気がする、学生時代からの憧れだった探偵になれたのに、今では仕事が億劫な感じが漂っている。
「ここのドアの隅の穴だ」
と指を指す。
「わからんね、車はお前の方が詳しいだろ」
山本も覗き込んで来るが途端に山本の表情が固くなり、呟いた。
「銃痕だ、関わりたくはないな」
と言いながらデスクに戻って行った。
山本は元々刑事だった、優秀な刑事だったと望月から聞かされていた。何故エリートコースから外れ、しがない興信所の所長に落ちたのかは望月も知らないみたいだ。
「こんな平和な街で物騒だな、俺も関わりたくないよ、厄介事に首を突っ込むなよ俺は仕事を片付けて来る、その車見かけたら連絡するけどあまり期待はするなよ」
望月はそう言いまた元のうんざりした顔で出掛けて行った。
「じゃあ俺も帰ります」
と山本言いながら席を立つと、
「ちょっと待て、もう一度写真と名刺をよく見せてくれ」
と言うので写真と木下の名刺を見せた。
じっくり写真を見た後名刺にも目を通し。
「これはあくまで感だが、走行中に撃たれた後、どこかのパーキングエリアで写真を撮ったに違いないな、少なくとも殺そうとして撃ったわけじゃなさそうだ、運転手に脅しをかけているといった感じだ。それとこの木下だがかなりの腕っこきだから気を付けた方がいいな」
と言って席に戻って行った。山本に礼を言い小さな事務所を後にした。
予想はしていたが一つ事実確認が取れた。
ベッドで横になりながら考えていた、何故田辺真理子の車体に銃痕があるのか。
こんな平和な街にもヤクザの事務所は一軒あるが、ここのヤクザはヨットハーバーを経営していて繁盛しており、大人しく揉め事を持ち出しては来ないタイプだった。考えながら眠りに落ちていった。
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