7 / 25
ねえセンパイ? 責任取ってよね?
しおりを挟むきっかけがいつも良いものとは限らない。
そんな出会いから始まる物語もあるんだよ。
─────────────────────
大学の片隅にある砂利敷きの駐車場(空き地?)の、そのまた片隅にある小さな小屋。その小屋に立っている煙突からは煙が出ている。その煙を見ながら、私はぽそりと呟く。
(はぁ……私、なんでここにいるんだろ)
私が何をしてるのかというと……「焼成」。簡単に言うと陶芸の「焼き」の作業をしている。もちろん、新入生の私が一人でできるわけでもなく、同級生や先輩方併せて10名ちょっとくらいで集まってやっている。今日やってるのは「素焼き」と言って、釉薬をかけないで焼き固める作業。大体6~8時間かかるらしい。夕方5時から始めたから、終わるのは夜中だ。途中で火力の調整もしなきゃいけないってことで、代わる代わる様子を見るらしい。とは言っても私達1年生はまだ見てるだけだけどね。
別に陶芸に特別興味があったわけじゃない。この大学に来たのも、高校の担任の先生の母校だったっていうのと、近場で英語を学べる所って理由だけ。その担任の先生が陶芸部に入ってたと聞いて、様子を見に行ったらいつの間にか友達と入部したことになってて、まぁヒマだし強制もなさそうだし、まぁいいかぁって感じで、なんとなく。
それが私。
買ってきたお弁当を食べてヒマになったら、今度は周りは色恋の話があっちこっちで咲き誇ってる。あ~まぁそうなるよね……って、あ。目が合った。これ質問くるな?
「ねぇ、カレシいないの~?」
「ん~いない。まだいい人見つかんないし」
「じゃあこれからだね!」
「そ~だね~」
はぁ。なんてね。私の将来に希望なんてない。気がついた時には「婚約者」が決めれていて、そのレールのままに進むと周りが勝手に決めていた。その事を初めて知った時、私は「裏」で荒れに荒れた。夜に家を抜け出して街をふらつき、後はバレない程度にシンナー・酒・タバコにも手を出した。本格的にハマる前にやめちゃったから、親にはバレてない。
それが私。
みんなに愛想良く振りまく笑顔。その場の空気は壊さないように、当たり障りなく振る舞ってやり過ごす。でも心の中ではいつもどこか冷めた目で見ている。
それが、私だ。
と、言うわけで色恋沙汰の話なんて、今の私にとってはどうでもいい話だ。どーせ付き合ったところで先は長くないんだから。…でもヒマつぶし相手程度だったらいいのかな? そんなことをぼんやり考えながら小屋の外を見ていると、突然マウンテンバイクに乗った人が結構なスピードで現れ、小屋の前で急ブレーキをかけて止まった。
「わーりぃ!バイトで遅れた!」
「あー!遅ーい!」
……ちょっと待って。
誰この人?
え?先輩?
他の先輩たちと雰囲気違いすぎない??
えー……
芸術系やってる人ってこう、もっと大人しめって言うか、落ち着いてるって言うか、そう思ってたんだけど…この人も「先輩」って呼ばないといけないの?正直苦手なタイプなんだけど。
……よし。近寄らないでおこう。
そう思ってたんだ。
あの時までは。
その後しばらくして焼成小屋の中で「みんなで恋バナ暴露大会」になった時、先輩がジャンケンで負けて話すことになった。
「げ。負けた!」
「はーい先輩の番!」
「いや、俺この前フラれたって言ったよな?」
「じゃあその話でいいじゃん」
「……オニかよ?」
「いーから早くー(笑)」
「あーもう!わーったよ!話せばいいんだろが!」
そうやって他の人達と話してる先輩は、おどけた口調で「フラれ話」を話し始めた。そんなだから、みんなはクスクス笑いながら「あーかわいそー」とか言ってたんだ。私は最初そんな話も聞く気がなかったんだけど、ふと先輩を見たときに、ドキリとしたんだ。淡い光を放つ白色電球を映した先輩の目は、笑ってるんだけど、時々すごく寂しそうな色をしていて、私は目を離せなくなってしまった。
それで私は、いつの間にか、先輩と話をするようになったんだ。
その日から2日たった夕方。
「ピンポーン」
アパートのドアチャイムが鳴った。
スコープを覗いてみてビックリ。
(え?なんでセンパイが立ってるの?なんで?)
「は……い どう、しました?」
「あー…あの、その、なんだ」
「?」
「あれから、どうも気になっちゃって。」
「……なんでですか?」
「いや、君だけが、ちゃんと気持ちを聞いてくれた気がして」
ドキリ、とした。
そんなとこ、見てたんだ。
「なんで、よかったら付き合ってくれないかな?」
「……はぁ。……はい?え?え?」
「じゃ、また明日答え聞かせて!じゃあオヤスミ!」
「え?あ、はい。おやすみなさい?」
バタン。
閉めたドアに背中を預けて、私はずるずると床に座り込んでしまった。
………え?
えっと…今のは…告白、なのかな?
え?なんで私?
胸が、バクバクいってる。
顔が、なんだかすごく熱いよ。
ちょっと待ってよ。
私、何か変だ。
どうしたらいいのかわかんなくて友達に聞いてみたら、思いっきり爆笑された。ちくしょー面白ネタを提供しただけだったか!そう思ってむくれてたら「ねぇ、相談するってことは、悩んでるってことだよね?それ、そーいうことじゃないの?」って言われてしまった。
そうだよね。
私、なんで悩んでるんだろう?
断るのなら、あの時、断ってたよね?
え……やっぱ「そーいうこと」なのかな?
結局、私は「OK」して、センパイと一緒に過ごす時間が増えることになった。
今、私は困ってる。
すごくすごく困ってる。
感情が流れ出す
ゆっくりとセンパイのほうへ
こんなにゆっくりなのに
どうして止めることができないの
鏡の中に映っているあなたは誰?
あなたは私じゃない
私は、そんな顔しないもの
きっかけがいつも良いものとは限らない。
そんな出会いから始まる物語もあるんだって、初めて知ったよ。
いつの間にか、私はセンパイの事を考えてる。
いつの間にか、私はセンパイがどこにいるか、探してる。
いつの間にか、私はセンパイがそばにいると、嬉しいって思うようになってる。
くやしい。
だから、本当の気持ちなんか、まだ教えてやらない。
私の心を、そう簡単にあげないんだから。
ねえセンパイ?
責任、とってよね?
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる