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MY ヒーロー
しおりを挟む10月はうちの学校の2大行事である体育祭がある。
応援団や集団競技も盛り上がるけど、やっぱり注目されるのは「リレー」だ。各学級女子100m3人、男子200m3人でリレーメンバーを組んで競争する「学級対抗リレー」は、どのクラスも朝練までして勝利を目指している。当然うちのクラスもこの1か月間、練習してきた。
私と翔は、同じクラスでまぁ…その…「お付き合い」してる仲なんだけど、2人揃ってメンバーに選ばれた。朝早く起きるのはシンドイけど、朝から翔と待ち合わせて学校に行って一緒にいられるのは……ちょっと(けっこう?)嬉しかったりする。「みんなに」って言ってハチミツレモンとか作ってきたり、お揃いのハチマキ作ったりしたり♪
あ、練習は真面目にしたよ?私だって「負けず嫌い」だしね。おかげで周りのクラスからは「7組って絶対3位以内に入るよね~」って言われるくらいにはなった。え?1位?……残念ながら陸上部が多い1組が本命っぽい。あれはちょっと勝てそうにないなぁ。でも、絶対賞状は獲りたいよね!ってみんなで頑張ったんだよ。
それなのに、私はやってしまったんだ。
8クラスで争うレース。
私はアンカーで走る翔の一つ前。
私にバトンが渡った時は、1位以外はあまり差が無い状態だった。
だから、カーブの途中で足が滑って転んだ人に巻き込まれてしまったんだ。
バトンを拾って懸命に走ったけど、どう見ても最下位。
視界が涙で曇る。
その先には翔が少しでも早くバトンを受け取ろうとこっちに手を伸ばしてる姿が。
悔しい。
悔しいよ!
でも、もう私ではどうすることもできない。
「ごめんなさーい!」
私は泣きながらバトンを差し出した。
ごめん、翔……
「任せろ」
みんなの歓声の中、確かに翔の声が聞こえた。
翔はバトンをひったくるように受け取ると、思い切り地面を蹴って走り出した。
私の周りには女子メンバーが心配して集まってきた。言われて初めて気づいたけど、ひざからは血が流れて身体中砂埃まみれだ。
でも、そんなのすぐにどうでも良くなってしまったんだ。
翔はスタートしてすぐのカーブで、あっという間に2人を抜き去って行く。周りのテントからの声援が飛び交っているバックストレートを、まるで風を切り裂くように走って行く。もう一人抜けば3位になれる。でも、その「あと一人」は、よりによって陸上部のエース。追いつくなんて……私が転ばなければ……!
そう思うと止まっていた涙がまた溢れてきてしまい、私はレースを見れなくなってしまった。
でも、俯いてた私を友達が揺さぶってきた。
「美鈴、顔上げて!見て!スゴイよ!」
涙をぬぐいながら顔を上げると、翔がカーブを走っている姿が。
え……?段々と距離を縮めている……?
「よっしゃ並んだ!」
「いけぇけーー!」
「抜けー!」
「負けるなー!」
「逃げろー!」
翔がゴールに向かって走って来る。陸上部のエース君は驚いた様子で、横目で見ながら抜かれまいと歯を食いしばって走ってる。
「リレーを走り終わった選手は座りなさい!っていう先生の注意なんて、誰も聞いてなかった。もちろん私もだ。みんなが立ち上がって二人のデッドヒートに声を張り上げて応援している。多分、今年で一番の歓声だ。放送部のアナウンスすらかき消されてよく聞こえない。
「お願い!勝ってー!」
私も全力で叫んだ。お願い、お願い!お願い!!
二人並んでゴール。
翔は勢い余ったのか最後に足がもつれたのか、転んでひっくり返っている。次の瞬間、アナウンスが順位を告げた。
「3着、7組!」
会場がどよめき、リレーメンバーが翔の元に駆け寄っていってもみくちゃにしてバチバチ叩いている。私はその後ろから翔に声をかけた。
「あ…ありが、とう…!」
「……ん。もうそんな顔すんなよ?」
やだな、また泣いてたよ私。
でもこれは嬉し涙だから、許してね?
「あ~疲れた…もうあんな走り二度とできねーぞ……」
「む。それは困る」
ハイ?
あ、応援団の人たちだ。
「お前、この後紅白リレーにでるぞ!」
「え?いやもうそんな力は残ってな……」
「ハッハッハ!いやいやまだ頑張れるよなっ!目指せ白組のヒーロー!」
「待って!?強引に運ばないでちょっとぉー?」
……あーあ。連れてかれちゃった。
────────────────
「あいたたた……足が~ 腰が~」
「だ……大丈夫?」
「あんま大丈夫じゃないかな~ 全身バッキバキ……!」
そうだよね。紅白リレーも結局頑張ってたもんね。
「それにしても…」
「ん?」
「翔、足あんなに速かったっけ?」
「あんま泣き顔見たくなかったから頑張った」
「やだ!あんまり言わないで!」
ばっちーん!
「痛ーっ!?」
「わ!ゴメン!つい!」
あーあ、やっちゃった。
でもね、翔。
すっごくカッコよかったよ。
ありがとう。私のヒーロー。
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