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11.七不思議編
55焔フォーミュラ ②
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「せつな、下がっていろ」
ルシルがいよいよ抜刀体勢に入る。
しかし。
「いやよ」
「なっ……」
「久々に大暴れする大義名分ができたのよ。血沸き肉躍るとはこのことだわ」
「大暴れって、お前……!」
「そういえば、あなたは誰なの? 非番の希兵隊?」
その言葉に、せつながぴくりと反応した。普段動じぬ彼女の何かに、いずれかの言葉が、触れた。
「希兵隊? 私が希兵隊に見えるの? こんなひ弱な少女が?」
皮肉げに笑いながら、せつなが左手を持ち上げる。そこに冷気を収縮させながら、彼女は高らかに名乗り上げた。
「いいえ。私は学府の住人、猫力学研究者・天河雪那!」
ガキィン……ッ。
高音と低音が混ざり合った不協和音とともに現れたものに、ホムラが目を見張った。
せつなの手元に巨大なつららが生成されたのは、一瞬のこと。
「村長を祖父にもちながら、村政を父に丸投げし、故郷の治を捨てて知を求めた――垂河村の一の姫よ!」
そして、そのつららがホムラに向かってミサイルのように発射されたのも一瞬のことだった。
ガラスが盛大に砕け散るような、数秒間聴力を奪うほどの凄まじい音とともに、アスファルトに激突したつららが粉々に飛び散る。
きらきらと舞い散る破片の中から、辛くも滑り出たホムラが、ひきつった笑みで悪態をついた。
「……どこがひ弱よ」
「せつな! 下がっていろって!」
水の弾丸が乱れ飛ぶ。ホムラがすばしっこくかわす間に、ルシルは体勢を作り直し、術を止めるとともにすばやく抜刀した。
正面から切りかかり、急ブレーキとともに反対方向に跳ぶホムラをすくいあげるように切り上げ、姿勢を変えて逃れたところへ水平切り。巧みに体勢を変えるしなやかな敵は、三連続の剣技の末にようやくしっぽの先半分だけを差し出した。
「やるじゃない……水よりそちらの方が本領のようね」
言いながら、ホムラは"浮き上がる"。四つ足の裏から噴き出す炎によるホバリングだ。
にや、と笑ったホムラは、そのまま方向転換し、猛スピードでモータープールの端へ飛んだ。突然始まった戦闘から身を退いた小柄な少女めがけて、炎をまとって突っ込む。
「雷奈!」
「当たり前よ、こっちが本命……」
燃える砲弾と化したホムラが、思わず顔をかばう雷奈に着弾する、直前。
突然、速度を手放し、急速にバックした。その鼻先を、わずかにかすめる斬撃。
「なっ……」
絶句したのはホムラだけではない。雷奈も氷架璃も芽華実も、眼前に躍り出たせつなが構えるものに瞠目した。
「なぎなた……!?」
使い手の身長ほどもある細い棒。ホムラに向けている側の先端には、日本刀とは異なる、平たく反りの強い刃。反対の端には尖った石突。およそ、テレビで白い頭巾をかぶった男が携えているところしか見たことのない武具だ。
ただし、雷奈たちの知るなぎなたとは決定的に違うところがあった。
その刃も、石突も、鋼ではなく、見事な氷の造形でできていた。
「……何か隠し持っていると思ったら」
「源子化していたのは柄だけよ。刀剣類の所持は希兵隊の特権だもの。刀身と石突は毎度即席の手作り」
言いながら、慣れた手つきで一振り、二振りと薙ぐ。後方へ避けたホムラが、リーチの長さを逆手にとって、逆に接近しようとした時だ。
「……くっ!」
背後から切りかかってきた日本刀をすんでのところでかわし、剣士に向けて灼熱の散弾。炎術において緋燐弾と呼ばれるその技を、ルシルは後ろに跳び、刀を持ったまま片手を地についてバク転二回、さらに追ってくるのを大きく宙返りしてかわしながら、空中で身を二回ひねってホムラへ向けて水砲を放つ。
かつてアワが「見たことないの?」と言及した、ルシルの「ロンダートからのバク転からのバク宙二回ひねり」。ロンダートがあろうとなかろうと得点は変わらない。まさか十点満点の床をこんな局面で見ることになるとは、と雷奈たちは唖然とした。
ホムラへの水砲は、たやすくかわされた。だが、攻撃を牽制する役目は果たした。ホムラが口元から息吹のように炎を噴射したのは、ルシルが着地と同時に納刀してからだ。足元を盤石に、両手で放つ奔流・洪瀧で迎え撃つ。本来、炎と水のぶつかり合いなら水が圧勝するところだが、炎のチエアリ・ホムラの火炎放射はそう簡単には潰えない。
白い煙を立ち昇らせながら拮抗する二つの力。水を放つ彼女の瞳に、放火魔へと背後から斬りかかるせつなの姿が映る。
「……!」
気配で感づいたか、ホムラは瞬発的に横に跳び、水流の標的から逃れた。力任せに放たれていた水が向かう先にいるのは、その後ろにいたせつなだ。
「しまっ……避けろ!」
慌てて放水をやめるも、すでに放たれた激流が運動を止めるはずもなく、人一人くらい吹き飛ばしそうなほどの勢いで放たれた水がせつなに……ぶつかる前に、凍り付いた。手をかざすまでもなく、赤い目が見つめるそばから、ビキビキビキ、と固まっていく。
その氷塊を一薙ぎでガッシャァン! と砕いたせつなは、すまし顔でルシルの横に並んだ。
「すまん」
「どうってことないわ」
一言ずつ交わし合うと、各々の得物を構える。そつのない息の合いようは、雷奈たちに入り込む余地のなさを叩きつけ、ホムラの苛立ちに火をつけた。
ホムラの口が、ふぅっ、とくすぶるものを吐き出す。
「……先にあなたたちを消した方がよさそうね」
言い終わるや否や、またも苛烈な火炎放射。だが、ルシルは怖じることなく前に出た。
「轟け、洪瀧!」
迎え撃つ放水が、真っ向からぶつかった。水と炎、性質と利と質量の利の意地の張り合い。押し相撲が、再び繰り広げられた。
正面から衝突した両者は、互いを削りあった分だけ白い煙になって昇っていく。
「何度やっても無駄よ!」
煽るホムラ。
対するルシルは、同じように好戦的に言い放った。
「それはどうかな」
水圧で狙いがぶれないよう、洪瀧を放つ左手に添えていた右手を――離す。
そして、その手で刀印を結び、凛と謳い上げた。
「誕りて始、紀めて終瀑布を飲み干しここに捧げ、緘黙を罰し、佇立を刑し、世統より濃く誘い呼べ!」
詠唱。
術を放つ、本来の手続きだ。
雷奈たちは、彼女の口から詠唱が紡がれるのを耳にしたことがない。刪略――詠唱の省略が、ルシルの標準スタイルだからだ。
それは発動速度を上げる一方で、威力とのトレードオフでもある。
ゆえに、これまでのルシルの洪瀧は、威力が低減されたものであり。
膠着の合間に付加された詠唱によって起こる事象は、必然だった。
迸る水の勢いは膨れ上がるように増し、炎の蛇を飲み込む水の龍と相成った。
「なっ……!」
水龍の顎が己に到達する前に、ホムラがさっと身を引く。その鼻先を、凄まじい勢いの放水が突き抜けていった。跡地に、置き土産の蒸気と水煙が、白く渦巻きながら立ち上っていく。
もし雷奈たちが下手に加勢して、うっかり流れ弾を食らえば、数メートルは吹き飛ばされるだろう威力。やはり迂闊に手を出すべきではない、と雷奈たちは身を震わせた。
「ああ、火事のときもこうすべきだった。我ながら動転していたな」
水剋火。そのプライドを取り戻した水猫が、会心の笑みを浮かべる。
そして、逃れた黒猫へ体を向けると、鋭い刀印を添えて、名誉挽回の口上を突き付けた。
「水は炎を消すんだ。当たり前だろう?」
「減らず口が……!」
口角をひくつかせたホムラは、予備動作なしに右後ろを振り返った。隙を見て斬りかかろうとしてきていたせつなに向かって、少し丈の縮んだしっぽを振りぬく。
「それなら!」
その軌跡から生まれた炎が、拡散しながらせつなに襲いかかっていく。急襲を見破られ、反撃を許したせつなは、素早くなぎなたを引っ込めて左手を突き出した。彼女の眼前に、早送りのような速度で氷の壁が形成されていく。
そこに、獰猛な炎が飛びかかった。
「炎は氷を融かす! それくらい知ってるわよね!?」
半透明の壁が隔てるせつなへ向けて、先発隊の炎のしぶきに加え、ダメ押しとばかりにホムラの尾の先が火を吹いた。広がる紅蓮が、せつなの姿を覆い隠す。
燃え上がる温度と反比例して、雷奈たちの背筋が冷えた。
「せつな!」
「ルシル、水ば……!」
「もう遅いわよ……おっと」
振り向いたホムラ目がけて、刃が一閃。飛びのく寸前に、その脇腹を浅く削った。
滴る血のかわりに、黒い霧をなびかせながらも、ホムラはせせら笑う。
「ひどいわねぇ、燃えてる仲間を助けるよりも私の討伐のほうが優先?」
「誰が燃えてるですって?」
普段と寸分たがわぬ、朗々とした声が響いた。
驚愕に目を見張るホムラの視線の先、炎の跡地にそびえたったままの分厚い氷の壁。その向こうで、乱反射でおぼろげな姿が、目の前の壁を長物の先端でとんと突いた。その瞬間、屈強な氷壁は、まるで幕が切って落とされたかのように崩れ落ちた。
姿をあらわにした少女は、したり顔に仁王立ちでうそぶく。
「炎は氷を融かす? 聞いたことないわよ」
「……バケモノが」
皮肉を飛ばすホムラ。
彼女に対峙したまま、ルシルはちらと横目でせつなをうかがった。
その表情には、どこか焦りが垣間見える。
「……せつな、そろそろ……」
「嫌よ」
「だが……!」
「何の内輪もめかしら?」
よそ見をいいことに、ホムラはルシルに向かって、赤い猪のような炎の塊をけしかけた。
バックステップで少しでも距離を稼ぎながら、ルシルは洪瀧を放つ。今度の炎は莫大な体積を抱えていたらしく、洪瀧と衝突した勢いで、広範囲に燃え広がった。
それに応じて、ルシルの洪瀧も範囲を広げる。単位面積当たりの水量は減るものの、ビームのような一方向に迫るものではない炎をしのぐには十分だ。
消火範囲に伴って、蒸気の発生も広域にわたる。辺りは五里霧中の世界と化した。
「……」
炎を飛ばした前足も地につき、四つ足で立ったまま周囲の気配を探っていたホムラ。
だが、ハッと何かに気づいて、足裏のジェット噴射で空中へ。
直後、自身の直下に、見た。
「!」
白く煙る中に光る、赤い双眸。蒸気に紛れて、小さな猫の姿で移動したせつなが、三メートルの眼下、つい今までホムラがいた場所に移動していた。
湯煙が薄れゆく。再び人の姿を取り、一度源子化したなぎなたを実体化し直したせつなが、頭上のホムラをとらえ、得物を突き上げる姿勢に構える。
ホムラは炎で牽制しながら、即座に浮遊位置をずらしたが、その時には顔の真正面に切っ先が迫っていた。目の高さに突き付けられた先端。その奥で、二つの瞳が炎に負けぬ赤さできらめく。
「はぁッ!」
ホムラが後退すると同時に、同じ目の高さまで跳び上がっていたせつなは、水平に構えたなぎなたを容赦なく突き刺した。
氷の刃が、金色の右目を貫いた。
――ように見えた。
「!?」
目標の金色も、周囲の黒も、残像だった。赤い軌跡は足元の炎の余光か。
ホムラが目にもとまらぬ速さで下方に移動したのだと察すると同時。
「ぁぐっ……!」
腹部に突き上げるような衝撃があり、落下を待つばかりだったせつなの体が、わずかに浮き上がった。炎をまとわぬただの頭突きとはいえ、ジェット噴射での高速上昇によるそれは、拳で殴られたような威力をもっていた。
力の抜けた手からなぎなたが滑り落ち、アスファルトに叩きつけられる。一秒遅れで、せつなも同じ運命をたどった。
「せつなッ!」
倒れこみ、肺に残った空気を咳として吐き出す彼女に、ルシルが駆け寄る。その手が触れるより早く、近距離で巻き起こった爆発に、二人の体は別々の方向へと吹き飛ばされ、金網フェンスに激突した。
ホムラは一仕事終えたように息をつくと、転がるなぎなたの先端の刃が砕け散っているのを一瞥してから、ルシルの方へと歩み寄っていった。
「あなたは前回の殺し損ねだから、先ね」
金網フェンスにへこみを残して地に伏したルシルは、頭に衝撃を受けたか、ぐったりと目を閉じている。ホムラは顔の両横に人魂のような炎をともすと、それを不気味に膨れ上がらせて――。
「奔れ、超電流!」
布を引き裂くような鳴き声を上げながら飛来した雷に、とっさに横へ飛び退いた。振り返れば、せつなとは似て非なる深紅の目が、ホムラを見据えていた。
ホムラが、わずかに陶酔した表情で笑う。
「やっぱり、あの方そっくり」
「うるさかっ!」
再来する雷。水より炎より速く到達する連撃に、ホムラは間をおかぬステップで退避を余儀なくされた。
ホムラの脅威から遠のいたルシルとせつなのもとに、氷架璃と芽華実がそれぞれ駆け寄る。
「ダメだ、気を失ってる。そっちは?」
「こっちもよ。しかも、すごい出血……」
眠るように目を閉じたせつなの白い顔。その右半分が、むき出しの額から流れ出た血で真っ赤に染まっていた。頭じゃないだけよかった、と震える息を吐きながら、芽華実はハンカチを傷口に押し付ける。
戦闘不能となった二人からホムラを遠ざけるように、電撃をけしかけながら、雷奈はあれから何分経ったかと考えをはせる。
(今、ヨスガがメルたちを誘導してくれているはず。もしかしたら、カラスに行く手を阻まれている可能性も……。ばってん、さっき二人が戦ってる間に、こっそり美雷にメールでチエアリとの戦闘ば伝えておいたし、じきに増援が……)
「何か企んでる?」
思考の隙間に入り込んだ鋭い指摘が、動揺を生んだ。雷鳴がやんだ直後、爆発音が轟く。反射的に頭部をかばった姿勢のまま、雷奈もルシルと反対側のフェンスに叩きつけられた。
「雷奈っ!」
「ぃ……たぁ」
かろうじて意識は手放さなかったものの、うつぶせに倒れたまま、動けそうになかった。ある程度の柔軟性を持つ金網フェンスとあなどるなかれ、強打した背中がビリビリとしびれて、呼吸まで阻害してくる。
そこへ、恍惚とした声が聞こえてくる。
「やっと、成し遂げられるのね」
熱感。すぐそばで炎がともったのが分かった。浅く咳き込みながら、視線を上げる。
「三日月雷奈、あなたを殺せる」
牙ののぞく口元で踊る、赫々たる凶器。
まずい――熱さのせいだけではない汗が噴き出る。
衝突のダメージで、雷一つも出せない。それどころか、寝返りも打てそうにない。
雷帆に憑依したクロガネを凌ぎ、卑劣な手をとったジンズウを破り、彼らの王たる実の父をも退けてきたのに。
最後のチエアリに、死の敗北を喫するか――。
「あああぁっ!」
その時、ホムラの背後から決死の叫びをあげて走って来る者がいた。
もはや氷のかけらがこびりついているだけの、なぎなたの柄。それを不器用な手つきで構えながら迫ってくる芽華実。
「うるさいわね」
長物の類を持ったことのない少女が振り下ろす棒きれなど、かわすのは造作もない。
ホムラは口元に蓄えた炎の塊を保持したまま身をかわすと、一八〇度方向転換した姿勢そのまま、アスファルトに棒を打ち付けた無防備な少女へと炎を放った。
「芽華実ぃぃっ!」
ルシルを支えたまま、氷架璃が絶叫する。迫りくる灼熱に、芽華実の目が大きく見開かれた。残虐な猛火は、絶望的な熱をまとって肉薄し、その萌黄色にもなっていない茶色い瞳に、絶望の紅蓮を映しこんで――。
何を燃やすよりも前に、消えた。
ルシルがいよいよ抜刀体勢に入る。
しかし。
「いやよ」
「なっ……」
「久々に大暴れする大義名分ができたのよ。血沸き肉躍るとはこのことだわ」
「大暴れって、お前……!」
「そういえば、あなたは誰なの? 非番の希兵隊?」
その言葉に、せつながぴくりと反応した。普段動じぬ彼女の何かに、いずれかの言葉が、触れた。
「希兵隊? 私が希兵隊に見えるの? こんなひ弱な少女が?」
皮肉げに笑いながら、せつなが左手を持ち上げる。そこに冷気を収縮させながら、彼女は高らかに名乗り上げた。
「いいえ。私は学府の住人、猫力学研究者・天河雪那!」
ガキィン……ッ。
高音と低音が混ざり合った不協和音とともに現れたものに、ホムラが目を見張った。
せつなの手元に巨大なつららが生成されたのは、一瞬のこと。
「村長を祖父にもちながら、村政を父に丸投げし、故郷の治を捨てて知を求めた――垂河村の一の姫よ!」
そして、そのつららがホムラに向かってミサイルのように発射されたのも一瞬のことだった。
ガラスが盛大に砕け散るような、数秒間聴力を奪うほどの凄まじい音とともに、アスファルトに激突したつららが粉々に飛び散る。
きらきらと舞い散る破片の中から、辛くも滑り出たホムラが、ひきつった笑みで悪態をついた。
「……どこがひ弱よ」
「せつな! 下がっていろって!」
水の弾丸が乱れ飛ぶ。ホムラがすばしっこくかわす間に、ルシルは体勢を作り直し、術を止めるとともにすばやく抜刀した。
正面から切りかかり、急ブレーキとともに反対方向に跳ぶホムラをすくいあげるように切り上げ、姿勢を変えて逃れたところへ水平切り。巧みに体勢を変えるしなやかな敵は、三連続の剣技の末にようやくしっぽの先半分だけを差し出した。
「やるじゃない……水よりそちらの方が本領のようね」
言いながら、ホムラは"浮き上がる"。四つ足の裏から噴き出す炎によるホバリングだ。
にや、と笑ったホムラは、そのまま方向転換し、猛スピードでモータープールの端へ飛んだ。突然始まった戦闘から身を退いた小柄な少女めがけて、炎をまとって突っ込む。
「雷奈!」
「当たり前よ、こっちが本命……」
燃える砲弾と化したホムラが、思わず顔をかばう雷奈に着弾する、直前。
突然、速度を手放し、急速にバックした。その鼻先を、わずかにかすめる斬撃。
「なっ……」
絶句したのはホムラだけではない。雷奈も氷架璃も芽華実も、眼前に躍り出たせつなが構えるものに瞠目した。
「なぎなた……!?」
使い手の身長ほどもある細い棒。ホムラに向けている側の先端には、日本刀とは異なる、平たく反りの強い刃。反対の端には尖った石突。およそ、テレビで白い頭巾をかぶった男が携えているところしか見たことのない武具だ。
ただし、雷奈たちの知るなぎなたとは決定的に違うところがあった。
その刃も、石突も、鋼ではなく、見事な氷の造形でできていた。
「……何か隠し持っていると思ったら」
「源子化していたのは柄だけよ。刀剣類の所持は希兵隊の特権だもの。刀身と石突は毎度即席の手作り」
言いながら、慣れた手つきで一振り、二振りと薙ぐ。後方へ避けたホムラが、リーチの長さを逆手にとって、逆に接近しようとした時だ。
「……くっ!」
背後から切りかかってきた日本刀をすんでのところでかわし、剣士に向けて灼熱の散弾。炎術において緋燐弾と呼ばれるその技を、ルシルは後ろに跳び、刀を持ったまま片手を地についてバク転二回、さらに追ってくるのを大きく宙返りしてかわしながら、空中で身を二回ひねってホムラへ向けて水砲を放つ。
かつてアワが「見たことないの?」と言及した、ルシルの「ロンダートからのバク転からのバク宙二回ひねり」。ロンダートがあろうとなかろうと得点は変わらない。まさか十点満点の床をこんな局面で見ることになるとは、と雷奈たちは唖然とした。
ホムラへの水砲は、たやすくかわされた。だが、攻撃を牽制する役目は果たした。ホムラが口元から息吹のように炎を噴射したのは、ルシルが着地と同時に納刀してからだ。足元を盤石に、両手で放つ奔流・洪瀧で迎え撃つ。本来、炎と水のぶつかり合いなら水が圧勝するところだが、炎のチエアリ・ホムラの火炎放射はそう簡単には潰えない。
白い煙を立ち昇らせながら拮抗する二つの力。水を放つ彼女の瞳に、放火魔へと背後から斬りかかるせつなの姿が映る。
「……!」
気配で感づいたか、ホムラは瞬発的に横に跳び、水流の標的から逃れた。力任せに放たれていた水が向かう先にいるのは、その後ろにいたせつなだ。
「しまっ……避けろ!」
慌てて放水をやめるも、すでに放たれた激流が運動を止めるはずもなく、人一人くらい吹き飛ばしそうなほどの勢いで放たれた水がせつなに……ぶつかる前に、凍り付いた。手をかざすまでもなく、赤い目が見つめるそばから、ビキビキビキ、と固まっていく。
その氷塊を一薙ぎでガッシャァン! と砕いたせつなは、すまし顔でルシルの横に並んだ。
「すまん」
「どうってことないわ」
一言ずつ交わし合うと、各々の得物を構える。そつのない息の合いようは、雷奈たちに入り込む余地のなさを叩きつけ、ホムラの苛立ちに火をつけた。
ホムラの口が、ふぅっ、とくすぶるものを吐き出す。
「……先にあなたたちを消した方がよさそうね」
言い終わるや否や、またも苛烈な火炎放射。だが、ルシルは怖じることなく前に出た。
「轟け、洪瀧!」
迎え撃つ放水が、真っ向からぶつかった。水と炎、性質と利と質量の利の意地の張り合い。押し相撲が、再び繰り広げられた。
正面から衝突した両者は、互いを削りあった分だけ白い煙になって昇っていく。
「何度やっても無駄よ!」
煽るホムラ。
対するルシルは、同じように好戦的に言い放った。
「それはどうかな」
水圧で狙いがぶれないよう、洪瀧を放つ左手に添えていた右手を――離す。
そして、その手で刀印を結び、凛と謳い上げた。
「誕りて始、紀めて終瀑布を飲み干しここに捧げ、緘黙を罰し、佇立を刑し、世統より濃く誘い呼べ!」
詠唱。
術を放つ、本来の手続きだ。
雷奈たちは、彼女の口から詠唱が紡がれるのを耳にしたことがない。刪略――詠唱の省略が、ルシルの標準スタイルだからだ。
それは発動速度を上げる一方で、威力とのトレードオフでもある。
ゆえに、これまでのルシルの洪瀧は、威力が低減されたものであり。
膠着の合間に付加された詠唱によって起こる事象は、必然だった。
迸る水の勢いは膨れ上がるように増し、炎の蛇を飲み込む水の龍と相成った。
「なっ……!」
水龍の顎が己に到達する前に、ホムラがさっと身を引く。その鼻先を、凄まじい勢いの放水が突き抜けていった。跡地に、置き土産の蒸気と水煙が、白く渦巻きながら立ち上っていく。
もし雷奈たちが下手に加勢して、うっかり流れ弾を食らえば、数メートルは吹き飛ばされるだろう威力。やはり迂闊に手を出すべきではない、と雷奈たちは身を震わせた。
「ああ、火事のときもこうすべきだった。我ながら動転していたな」
水剋火。そのプライドを取り戻した水猫が、会心の笑みを浮かべる。
そして、逃れた黒猫へ体を向けると、鋭い刀印を添えて、名誉挽回の口上を突き付けた。
「水は炎を消すんだ。当たり前だろう?」
「減らず口が……!」
口角をひくつかせたホムラは、予備動作なしに右後ろを振り返った。隙を見て斬りかかろうとしてきていたせつなに向かって、少し丈の縮んだしっぽを振りぬく。
「それなら!」
その軌跡から生まれた炎が、拡散しながらせつなに襲いかかっていく。急襲を見破られ、反撃を許したせつなは、素早くなぎなたを引っ込めて左手を突き出した。彼女の眼前に、早送りのような速度で氷の壁が形成されていく。
そこに、獰猛な炎が飛びかかった。
「炎は氷を融かす! それくらい知ってるわよね!?」
半透明の壁が隔てるせつなへ向けて、先発隊の炎のしぶきに加え、ダメ押しとばかりにホムラの尾の先が火を吹いた。広がる紅蓮が、せつなの姿を覆い隠す。
燃え上がる温度と反比例して、雷奈たちの背筋が冷えた。
「せつな!」
「ルシル、水ば……!」
「もう遅いわよ……おっと」
振り向いたホムラ目がけて、刃が一閃。飛びのく寸前に、その脇腹を浅く削った。
滴る血のかわりに、黒い霧をなびかせながらも、ホムラはせせら笑う。
「ひどいわねぇ、燃えてる仲間を助けるよりも私の討伐のほうが優先?」
「誰が燃えてるですって?」
普段と寸分たがわぬ、朗々とした声が響いた。
驚愕に目を見張るホムラの視線の先、炎の跡地にそびえたったままの分厚い氷の壁。その向こうで、乱反射でおぼろげな姿が、目の前の壁を長物の先端でとんと突いた。その瞬間、屈強な氷壁は、まるで幕が切って落とされたかのように崩れ落ちた。
姿をあらわにした少女は、したり顔に仁王立ちでうそぶく。
「炎は氷を融かす? 聞いたことないわよ」
「……バケモノが」
皮肉を飛ばすホムラ。
彼女に対峙したまま、ルシルはちらと横目でせつなをうかがった。
その表情には、どこか焦りが垣間見える。
「……せつな、そろそろ……」
「嫌よ」
「だが……!」
「何の内輪もめかしら?」
よそ見をいいことに、ホムラはルシルに向かって、赤い猪のような炎の塊をけしかけた。
バックステップで少しでも距離を稼ぎながら、ルシルは洪瀧を放つ。今度の炎は莫大な体積を抱えていたらしく、洪瀧と衝突した勢いで、広範囲に燃え広がった。
それに応じて、ルシルの洪瀧も範囲を広げる。単位面積当たりの水量は減るものの、ビームのような一方向に迫るものではない炎をしのぐには十分だ。
消火範囲に伴って、蒸気の発生も広域にわたる。辺りは五里霧中の世界と化した。
「……」
炎を飛ばした前足も地につき、四つ足で立ったまま周囲の気配を探っていたホムラ。
だが、ハッと何かに気づいて、足裏のジェット噴射で空中へ。
直後、自身の直下に、見た。
「!」
白く煙る中に光る、赤い双眸。蒸気に紛れて、小さな猫の姿で移動したせつなが、三メートルの眼下、つい今までホムラがいた場所に移動していた。
湯煙が薄れゆく。再び人の姿を取り、一度源子化したなぎなたを実体化し直したせつなが、頭上のホムラをとらえ、得物を突き上げる姿勢に構える。
ホムラは炎で牽制しながら、即座に浮遊位置をずらしたが、その時には顔の真正面に切っ先が迫っていた。目の高さに突き付けられた先端。その奥で、二つの瞳が炎に負けぬ赤さできらめく。
「はぁッ!」
ホムラが後退すると同時に、同じ目の高さまで跳び上がっていたせつなは、水平に構えたなぎなたを容赦なく突き刺した。
氷の刃が、金色の右目を貫いた。
――ように見えた。
「!?」
目標の金色も、周囲の黒も、残像だった。赤い軌跡は足元の炎の余光か。
ホムラが目にもとまらぬ速さで下方に移動したのだと察すると同時。
「ぁぐっ……!」
腹部に突き上げるような衝撃があり、落下を待つばかりだったせつなの体が、わずかに浮き上がった。炎をまとわぬただの頭突きとはいえ、ジェット噴射での高速上昇によるそれは、拳で殴られたような威力をもっていた。
力の抜けた手からなぎなたが滑り落ち、アスファルトに叩きつけられる。一秒遅れで、せつなも同じ運命をたどった。
「せつなッ!」
倒れこみ、肺に残った空気を咳として吐き出す彼女に、ルシルが駆け寄る。その手が触れるより早く、近距離で巻き起こった爆発に、二人の体は別々の方向へと吹き飛ばされ、金網フェンスに激突した。
ホムラは一仕事終えたように息をつくと、転がるなぎなたの先端の刃が砕け散っているのを一瞥してから、ルシルの方へと歩み寄っていった。
「あなたは前回の殺し損ねだから、先ね」
金網フェンスにへこみを残して地に伏したルシルは、頭に衝撃を受けたか、ぐったりと目を閉じている。ホムラは顔の両横に人魂のような炎をともすと、それを不気味に膨れ上がらせて――。
「奔れ、超電流!」
布を引き裂くような鳴き声を上げながら飛来した雷に、とっさに横へ飛び退いた。振り返れば、せつなとは似て非なる深紅の目が、ホムラを見据えていた。
ホムラが、わずかに陶酔した表情で笑う。
「やっぱり、あの方そっくり」
「うるさかっ!」
再来する雷。水より炎より速く到達する連撃に、ホムラは間をおかぬステップで退避を余儀なくされた。
ホムラの脅威から遠のいたルシルとせつなのもとに、氷架璃と芽華実がそれぞれ駆け寄る。
「ダメだ、気を失ってる。そっちは?」
「こっちもよ。しかも、すごい出血……」
眠るように目を閉じたせつなの白い顔。その右半分が、むき出しの額から流れ出た血で真っ赤に染まっていた。頭じゃないだけよかった、と震える息を吐きながら、芽華実はハンカチを傷口に押し付ける。
戦闘不能となった二人からホムラを遠ざけるように、電撃をけしかけながら、雷奈はあれから何分経ったかと考えをはせる。
(今、ヨスガがメルたちを誘導してくれているはず。もしかしたら、カラスに行く手を阻まれている可能性も……。ばってん、さっき二人が戦ってる間に、こっそり美雷にメールでチエアリとの戦闘ば伝えておいたし、じきに増援が……)
「何か企んでる?」
思考の隙間に入り込んだ鋭い指摘が、動揺を生んだ。雷鳴がやんだ直後、爆発音が轟く。反射的に頭部をかばった姿勢のまま、雷奈もルシルと反対側のフェンスに叩きつけられた。
「雷奈っ!」
「ぃ……たぁ」
かろうじて意識は手放さなかったものの、うつぶせに倒れたまま、動けそうになかった。ある程度の柔軟性を持つ金網フェンスとあなどるなかれ、強打した背中がビリビリとしびれて、呼吸まで阻害してくる。
そこへ、恍惚とした声が聞こえてくる。
「やっと、成し遂げられるのね」
熱感。すぐそばで炎がともったのが分かった。浅く咳き込みながら、視線を上げる。
「三日月雷奈、あなたを殺せる」
牙ののぞく口元で踊る、赫々たる凶器。
まずい――熱さのせいだけではない汗が噴き出る。
衝突のダメージで、雷一つも出せない。それどころか、寝返りも打てそうにない。
雷帆に憑依したクロガネを凌ぎ、卑劣な手をとったジンズウを破り、彼らの王たる実の父をも退けてきたのに。
最後のチエアリに、死の敗北を喫するか――。
「あああぁっ!」
その時、ホムラの背後から決死の叫びをあげて走って来る者がいた。
もはや氷のかけらがこびりついているだけの、なぎなたの柄。それを不器用な手つきで構えながら迫ってくる芽華実。
「うるさいわね」
長物の類を持ったことのない少女が振り下ろす棒きれなど、かわすのは造作もない。
ホムラは口元に蓄えた炎の塊を保持したまま身をかわすと、一八〇度方向転換した姿勢そのまま、アスファルトに棒を打ち付けた無防備な少女へと炎を放った。
「芽華実ぃぃっ!」
ルシルを支えたまま、氷架璃が絶叫する。迫りくる灼熱に、芽華実の目が大きく見開かれた。残虐な猛火は、絶望的な熱をまとって肉薄し、その萌黄色にもなっていない茶色い瞳に、絶望の紅蓮を映しこんで――。
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