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12.文武抗争編
60ヒメゴト ②
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***
「端的に言えば、抵抗せずにここから撤退してほしい。それが、ここへ来たわたしたち学院勢の総意」
意識を刈り取られた相棒を抱いて、ルシルは一人、茶髪の猫力学者と対峙していた。
撤退するわけにはいかなかった。ここにチエアリはいない。だが、見つかってはならない――特に猫力学者に見つかってはならない存在が、この森にはいるのだ。
やり遂げなければならない。表向きの作戦実行を演じながら、同じく表向きの作戦をそうと知らずに実行させられている彼女に対し、裏の作戦を実行しなければならない。
複雑に交わりう思惑の交点に立ち、逡巡する。
さあ、どう出る――。
「……なんだけど」
そう言って、ルシルの制止も聞かずに歩み寄ってきたミストは、ルシルの耳元で、悪夢のような言葉をささやいた。
「……あの火柱の正体って、インフィニティなんでしょう」
聞いた瞬間、背筋が凍りついた。全身を硬直させるルシルに、猫力学者はなおも続ける。
「ユキナの指示に違和感を抱いたの。センサーをおとりに希兵隊の出現を待つなら、シルクと麗楽を西側、わたしを北側、ユキナ自身は南東を担当なんて役割分担は必要ない。何か裏にあるのかなと思って、こっそり持ち場を離れてみたら、森の南側で垂河村のひとらしき何人かが話してるのを立ち聞きしちゃった。希兵隊が討伐しようとしているのはその子だってことも――そうさせないために、あなたたち三人が動いてることも」
「…………」
「このままじゃ、希兵隊、学院、インフィニティ、その誰かが必ず犠牲になる。……わたしに提案がある。誰も犠牲にしない方法が」
そこまで言って、ミストは顔を離した。ルシルは動揺のまなざしでミストを見つめた。
せつな、ルシル、コウの秘密裏の作戦を把握したうえで、それすら上回る秘策を握っている。
信じてよいものか。なにせ、相手は猫力学者だ。インフィニティを垂涎の研究対象とする生き物のはずだ。
けれど。
「協力してくれるよね」
「…………」
「本家のお姫様の命は惜しいでしょう? ねえ、分家のお嬢様」
そうだ。
霊那と撫恋に先を越されては、朱雀のインフィニティは殺される。コウから離れて波音が、という可能性もありうる。もとより、希兵隊と学院が争わずにすみ、幼い命をも守れるなら、それに越したことはない。
それに――ああ、もうそこまで知っているのか。
「ついてきて。腕の中の相棒は置いて、ね」
ミストは踵を返して、呼び出した霧の中へと歩いていく。ルシルの返事など、最初から分かっているかのように。手玉にとられているようだと思えば癪だが、頭ごなしに突っぱねるのも得策ではない。
最終的に判断するのは、自分だ。新たな選択肢を聞きだして、自らの意志で選び取るだけだ。
そう言い聞かせる間があってから、ルシルは腕の中のメルを、一番近い木の根元に横たえた。
「……すまない、メル」
茶色いロングヘアが霧の中に見えなくなる直前に、ルシルはその後を追った。
水守の森はルシルの勝手知ったる場所だが、ミストも迷いなく進んでいく。
「どこへ」
「とりあえず、他のみんなから遠そうなところ」
源子の流れに敏感な彼女は、希兵隊や学院の者たちの気配を極力遠ざける位置で立ち止まった。
二人の周りを霧で包んだまま、ミストはルシルに向き合った。
ルシルは話の主導権を握ろうと、先に口を開く。
「お前が考えている算段は何だ」
「あなたの協力が必要なの」
初めにそう前置きして、瀧翠都は、うごめく三つの作戦全てをあざ笑うような、四つ目の作戦を口にした。
端的に言えば、それはインフィニティとミストがすり替わり、さらにミストがチエアリのふりをするというものだった。
まず、ルシルがインフィニティを監視の村びとたちごと、離れた場所へ誘導する。その後、ミストがもともと彼らがいたところに移動し、霧の幻影で火柱を再現する。すると、希兵隊が突撃してくると考えられるので、ミストはチエアリのふりをして適当に攻撃を受け、最後はまるでとどめを刺されたかのように、黒い霧を生み出しながら、別の霧で自らの姿を視認できないようくらませる。これにより、希兵隊はチエアリを討伐できたと認識するし、学院はチエアリが犯人だったと納得するし、せつなの希望通りインフィニティは無事なまま。全員のフラストレーションが解消され、水守の森から撤退する、という寸法だ。
「ちょっと待て」
そこまで聞いて、さすがにルシルも声を上げずにはいられなかった。
「誰も犠牲にしないと言わなかったか? お前が犠牲になるじゃないか。希兵隊から集中砲火を浴びせられるんだぞ」
「わたしも死ぬつもりはない。不自然じゃない程度に耐えて、限界を迎える直前でリタイアするから」
「しかし……! そうだ、せつなにも伝えよう。あいつの協力も仰いで、お前への負担を軽く……」
「ダメだよ」
まくしたてるルシルの提案を、ミストは当然のように拒絶した。
「わたしが多少なりともダメージを受けないと、希兵隊にそう見せないと、この作戦は違和感を残してしまうんだよ。それが前提だってユキナが知ったら、あの子、止めるにきまってるじゃん。だから、ユキナには黙ってて。ああ、でも、コウ君には伝えていいよ。ただし、口止めはしておくこと」
「……なぜ」
平然と言うミストの心境が見えず、ルシルはゆるゆると首を振った。
「なぜ、そこまでするんだ。無論、協力は私たちにとってありがたいことだ。だが、自身を危険にさらしてまで……。お前にとっては、インフィニティも村びとも、赤の他人だろう」
そこには、何か計算高い狙いがあるのかもしれない。学者らしく、論理的で妥当な理由があるなら、それを筋道立てて説明してくれるに違いない。
そう構えるルシルを、見事に裏切るように。
「ユキナは親友だもの」
一言のもとだった。ロジックもギミックもない、簡単な答えだった。
「その子に何かあったら、ユキナは悲しむ。それはイヤだからだよ」
***
そして、事態はミストの敷いたレールを選んで走りだした。
ルシルは、森にいた、よく知る村の者たちに事情を話して、離れた場所に誘導した。その間に、ミストは霧の幻影で火柱を上らせた。
ルシルが遅れて駆け付けた時、現場にはこの森にいたほぼ全員が集まっていた。その中心で、ミストとせつなは互いに向き合うように倒れていた。
決着はついた。ミストの作戦は、最後の最後で破られたのだ。
彼女の作戦を瓦解させた漏洩者はわかっていた。ミストが自ら口を割るわけがないし、ルシルも誰にも漏らしていない。必然的に、その場にいなかった彼に違いなかった。本部に戻ってからこってり絞ろうと思っていたが、せつなとミストの手当てを手伝い、森を後にする頃には、その気も失せていた。
結局、この波乱の一件は、最も犠牲の少ない終わり方で幕引きとなったのだから。
「今ごろ、せつなのヤツは御三方に取り囲まれて洗いざらい吐いてるだろうさ。あと、落ち着いたらお前たちにも謝罪に来るんだと」
ルシルは、以上だというように、ため息で締めくくった。
「にしても、あんたも災難だったな。美雷とせつなの板挟みになってさ。コウもだけど」
「別に災難でもないさ。確かにやり方は乱暴だったが、あれくらいしたくなる気持ちもわかる。もし仮にせつなが何も行動を起こさないようなことがあったら……私が動いただろうしな」
「美雷に怒られたりしなかった?」
「ああ。ただ無事を喜んでくれただけだった。詳しい事情は私の口からは話せなかったが、今日せつなから聞いたなら、怒るどころか、より理解してくださるだろう。そういう方だ。……それに、万が一怒られていたとしたって、構うものか」
ルシルはふっと薄く笑って、目を伏せた。
「あいつは……せつなは、私にできなかったことを成し遂げようとしたのだから」
小さく、小さく呟かれた言葉さえ耳に残るような静寂が続いた。
その一言を聞いた瞬間、雷奈たちの中で、先ほどの回想話を聞いた時に引っかかっていたものがほどけた。
――本家のお姫様の命は惜しいでしょう。
ミストはそう言ったのだという。
交錯していたどの作戦も、せつなを脅かすものではない。発言者のミストとて、自分一人を犠牲にして、ことを収めようとしたくらいだ。彼女を引き合いに出して脅す由もない。
だから、「お姫様」は、せつなのことではない。
「先刻、お前は言ったな。『南風河』の名を戴くよう養子に出すことで朱雀に近づけたと。つまり、元は『南』のつかない別の姓だったのだろう」
雷華の問いに、ルシルは静かに頷いた。
もう、その先は誰もがわかっていた。
その双子が生まれた本家、その姓を。
「よもや、その双子は――」
***
あの時見た光景を、忘れることはない。
いつも通りの穏やかな宵口。祖父と父は仕事の件で話し込み、祖母と母は食事の支度をしていた。せつなも配膳を手伝っていた。よく覚えている。あの日は、油揚げの味噌汁を食卓に並べていた。
そんな夕餉の香りの落ち着く居間を切り裂いたのは、もはやふすまの開く音とは思えない、雷鳴のような衝撃ですらあった。
恐慌しきった様子で飛び込んできたのは、叔母だった。彼女の口から飛び出した、悲鳴にも似た言葉は、坂道を転がり落ちるようにして居間に響き渡った。
それを聞いた父も祖父も、祖母も母も、慌てふためいて互いに何度も顔を見合わせる間があった。その間に、迷うことなく廊下に飛び出したのは、最もふすまに近い場所にいたせつなだった。子供ゆえに、手立てを熟考することなく衝動のままに動いたのだと、今なら思う。
母屋を回り込んで反対側を目指す。言葉で言ってしまえばそれだけだが、村一番の広大な屋敷を半周するのは、全速力で走っても十数秒はかかる。その間にも鼻腔に届き、景色をわずかに灰色に曇らせる嫌な予感を、ねじ伏せて、ねじ伏せて、走って――。
たどり着いた先、その嫌な予感に打ちのめされたのはせつなの方だった。
そこにあるのは、離れだった。はずだった。
だが、目の前にあったのは、離れを腹に収め、太りに太った火だるまだった。
小さいころから見慣れたものが、燃え盛っている――その事実に、壮絶な光景に、せつなは呆然と立ち尽くした。夢でも見ているのかと思うほど信じられず、めまいがした。
後ろで声がした。追いついた父と祖父が叫ぶのが聞こえた。それはせつなを呼び止めるものだったが、彼らの制止に背いて、せつなは地を蹴った。悲鳴と怒号に背を向けて、絶望的な灼熱の中へと飛び込んだ。
水猫が多い天河家の中で、せつなは氷猫だ。いざという時に炎に対して身を守る術は、あまりにも弱弱しい。
それでも、ためらっている暇はなかった。思い返しても自殺行為に等しい愚行だが、たとえ今、当時に戻ったとしても、全く同じ道をたどっていたに違いない。
それほどまでに大切なものが、炎の中に取り残されていた。
氷砲で木製の戸口を吹き飛ばし、中に押し入ったせつなは、喘ぎながら、惨状を目にした。
燃えていた。
壁が。
天井が。
調度品が。
上がり框の先に広がる畳が。そこに置かれた新しい命の誕生祝いに寄せられた品々が、愛をこめてしたためられた命名紙が、成長を待ちきれず用意した玩具の類が、何もかもが燃えていた。
――中央の赤ん坊二匹を囲んで、燃え盛っていた。
最悪の事態の予感に胸を貫かれるせつなの前で、次に起きた出来事は、いつかおのが運命を変える光景だった。
それを目にした直後、熱気と煙で限界を迎えたせつなは、その場に崩れ落ちた。
放水の音と家族の声を背中に聞きながら、薄れゆく意識の中、それでもその光景は、忘れようもなく強く彼女の目に焼き付いた。
――双子の片割れが、インフィニティと呼ばれる特別な子だと知ったのは、火事騒動が落ち着いたすぐ後だった。
炎をふいたのは、他でもない、赤ん坊の片割れだった。無意識下での源子の暴走だ。並んで眠っていた二匹を中心とした周囲が燃えていたのはそのせいだった。
熱量の反転と考えられている、氷猫からまれに炎猫が生まれる現象も珍しければ、インフィニティの出生など、当家では前代未聞の事態。子守り役だった叔母がほんの少し目を離し、離れの外に出ていた間に、その特殊体質が開花したのだった。誰一人予想できなかったうえ、奇跡的に失われた命はなかったのもあり、誰も叔母を責めはしなかった。
けれど、今後このような惨事を起こさないために、二匹は引き離さなければならなくなったこと。片割れを養子に出さなければならなくなったこと。子供だったせつなを置いてけぼりにして、あれよあれよという間にいろいろなことが決まっていった。
抗う術もなく、喪失感を抱いたまま、三年がたった。
留年を繰り返したせつなは、翌年の普通科卒業を控えた十一歳の秋に、希兵隊への入隊を志願した。先に行った従妹と幼馴染の後を追いたかった。
結果はすげないものだった。
あっけなく夢を破られ、挫折を味わった。劣等感と屈辱に打ちひしがれた。
自分には何も守れない。無力感に苛まれるたび、よみがえる記憶。
離れ一つを焼き殺した炎。引き裂かれた双子。
――せつなの中に、ある決意が芽生えた。
失望の闇の深さの割に、その先の光をすぐに見いだすことができたのは、その記憶が追い打ちではなく、追い風となったからかもしれない。
思い至ってすぐに、彼女は道を変えた。自らの才を信じ、立ちふさがる門戸を叩いた。
あの時、燃える離れの中で、最後に見たもの。
畳の上で、すやすやと眠る小さな体。その周囲で、絶えず源子が炎に変貌し、飛び火していく。
自らを中心とし、残酷に周囲を焼いていく子猫。
――その左前足に重なった、同じ小さな右前足。
それは、身を寄せ合って、そっくりに丸くなって眠るもう一匹のものだった。制止を意図したものではない。夢を見ているときの寝相に近い、無意識な動きが、偶然片割れの手に触れただけだった。
けれど、その瞬間に、出火はやんだ。離れ一つを焼き殺したインフィニティは、ただの生まれたばかりの赤子に戻った。夜泣きする子供が、絶対的な安心感に触れて安らぐのに似ていた。
大人たちは、あの光景を見ていたのだろうか。それどころではなかったかもしれないし、見ていたうえで、あのような決断を下したのかもしれない。
けれど、せつなは、重なりあった小さな手に誓ったのだ。
あの双子は、引き離してはならない。言葉も道理も分からぬうちから寄り添い、互いを慈しむ兄妹が、家族でいられないなど、あってはならない。
そのために叩いた門戸は、開かれた。
飛壇中央学院・猫力学研究科。そこでなら、きっと叶えられる。
希兵隊への憧れを捨てきれなかったのは事実だ。猫力の攻撃応用を専門とする師を選んだのも、半分はその理由による。
けれど、もう半分は、そしてこの道を選んだ原点は、あの日胸に抱いた信念に違いなかった。
暴走する源子が生み出すものが凶暴な炎であるせいで、家族の絆が引き裂かれるならば、自分が変えてやる。
猫種を変換する。
荒れ狂う炎を、咲き誇る花々に変えられたなら、きっとあの子の周りは美しい花畑にしかならない。
あの二人が、再び手をつなげる未来。それを創る使命が、自分にはある。
なぜなら、彼らは。
なぜなら、自分は。
「――生まれた双子の名は、天河ついなと天河しいな。垂河村の二の姫と一の彦」
陰謀、虚言、暴動。此度の行動の全ての動機が帰属する、たった一つの事実を、凛と告げる。
「一の姫である私、天河せつなは、四神朱雀の姉です」
学院の長も、情報管理局の長も、唇を引き結んだまま何も声を発しなかった。けれど、それが両名にとっての驚愕の表出であることは、一瞬たりともそらさない視線で伝わってきた。
ただ一人、希兵隊の長だけは、琥珀色の瞳に確信を宿し、まっすぐにせつなを見つめて、一言だけを口にした。
「それが、あなたの秘め事」
「端的に言えば、抵抗せずにここから撤退してほしい。それが、ここへ来たわたしたち学院勢の総意」
意識を刈り取られた相棒を抱いて、ルシルは一人、茶髪の猫力学者と対峙していた。
撤退するわけにはいかなかった。ここにチエアリはいない。だが、見つかってはならない――特に猫力学者に見つかってはならない存在が、この森にはいるのだ。
やり遂げなければならない。表向きの作戦実行を演じながら、同じく表向きの作戦をそうと知らずに実行させられている彼女に対し、裏の作戦を実行しなければならない。
複雑に交わりう思惑の交点に立ち、逡巡する。
さあ、どう出る――。
「……なんだけど」
そう言って、ルシルの制止も聞かずに歩み寄ってきたミストは、ルシルの耳元で、悪夢のような言葉をささやいた。
「……あの火柱の正体って、インフィニティなんでしょう」
聞いた瞬間、背筋が凍りついた。全身を硬直させるルシルに、猫力学者はなおも続ける。
「ユキナの指示に違和感を抱いたの。センサーをおとりに希兵隊の出現を待つなら、シルクと麗楽を西側、わたしを北側、ユキナ自身は南東を担当なんて役割分担は必要ない。何か裏にあるのかなと思って、こっそり持ち場を離れてみたら、森の南側で垂河村のひとらしき何人かが話してるのを立ち聞きしちゃった。希兵隊が討伐しようとしているのはその子だってことも――そうさせないために、あなたたち三人が動いてることも」
「…………」
「このままじゃ、希兵隊、学院、インフィニティ、その誰かが必ず犠牲になる。……わたしに提案がある。誰も犠牲にしない方法が」
そこまで言って、ミストは顔を離した。ルシルは動揺のまなざしでミストを見つめた。
せつな、ルシル、コウの秘密裏の作戦を把握したうえで、それすら上回る秘策を握っている。
信じてよいものか。なにせ、相手は猫力学者だ。インフィニティを垂涎の研究対象とする生き物のはずだ。
けれど。
「協力してくれるよね」
「…………」
「本家のお姫様の命は惜しいでしょう? ねえ、分家のお嬢様」
そうだ。
霊那と撫恋に先を越されては、朱雀のインフィニティは殺される。コウから離れて波音が、という可能性もありうる。もとより、希兵隊と学院が争わずにすみ、幼い命をも守れるなら、それに越したことはない。
それに――ああ、もうそこまで知っているのか。
「ついてきて。腕の中の相棒は置いて、ね」
ミストは踵を返して、呼び出した霧の中へと歩いていく。ルシルの返事など、最初から分かっているかのように。手玉にとられているようだと思えば癪だが、頭ごなしに突っぱねるのも得策ではない。
最終的に判断するのは、自分だ。新たな選択肢を聞きだして、自らの意志で選び取るだけだ。
そう言い聞かせる間があってから、ルシルは腕の中のメルを、一番近い木の根元に横たえた。
「……すまない、メル」
茶色いロングヘアが霧の中に見えなくなる直前に、ルシルはその後を追った。
水守の森はルシルの勝手知ったる場所だが、ミストも迷いなく進んでいく。
「どこへ」
「とりあえず、他のみんなから遠そうなところ」
源子の流れに敏感な彼女は、希兵隊や学院の者たちの気配を極力遠ざける位置で立ち止まった。
二人の周りを霧で包んだまま、ミストはルシルに向き合った。
ルシルは話の主導権を握ろうと、先に口を開く。
「お前が考えている算段は何だ」
「あなたの協力が必要なの」
初めにそう前置きして、瀧翠都は、うごめく三つの作戦全てをあざ笑うような、四つ目の作戦を口にした。
端的に言えば、それはインフィニティとミストがすり替わり、さらにミストがチエアリのふりをするというものだった。
まず、ルシルがインフィニティを監視の村びとたちごと、離れた場所へ誘導する。その後、ミストがもともと彼らがいたところに移動し、霧の幻影で火柱を再現する。すると、希兵隊が突撃してくると考えられるので、ミストはチエアリのふりをして適当に攻撃を受け、最後はまるでとどめを刺されたかのように、黒い霧を生み出しながら、別の霧で自らの姿を視認できないようくらませる。これにより、希兵隊はチエアリを討伐できたと認識するし、学院はチエアリが犯人だったと納得するし、せつなの希望通りインフィニティは無事なまま。全員のフラストレーションが解消され、水守の森から撤退する、という寸法だ。
「ちょっと待て」
そこまで聞いて、さすがにルシルも声を上げずにはいられなかった。
「誰も犠牲にしないと言わなかったか? お前が犠牲になるじゃないか。希兵隊から集中砲火を浴びせられるんだぞ」
「わたしも死ぬつもりはない。不自然じゃない程度に耐えて、限界を迎える直前でリタイアするから」
「しかし……! そうだ、せつなにも伝えよう。あいつの協力も仰いで、お前への負担を軽く……」
「ダメだよ」
まくしたてるルシルの提案を、ミストは当然のように拒絶した。
「わたしが多少なりともダメージを受けないと、希兵隊にそう見せないと、この作戦は違和感を残してしまうんだよ。それが前提だってユキナが知ったら、あの子、止めるにきまってるじゃん。だから、ユキナには黙ってて。ああ、でも、コウ君には伝えていいよ。ただし、口止めはしておくこと」
「……なぜ」
平然と言うミストの心境が見えず、ルシルはゆるゆると首を振った。
「なぜ、そこまでするんだ。無論、協力は私たちにとってありがたいことだ。だが、自身を危険にさらしてまで……。お前にとっては、インフィニティも村びとも、赤の他人だろう」
そこには、何か計算高い狙いがあるのかもしれない。学者らしく、論理的で妥当な理由があるなら、それを筋道立てて説明してくれるに違いない。
そう構えるルシルを、見事に裏切るように。
「ユキナは親友だもの」
一言のもとだった。ロジックもギミックもない、簡単な答えだった。
「その子に何かあったら、ユキナは悲しむ。それはイヤだからだよ」
***
そして、事態はミストの敷いたレールを選んで走りだした。
ルシルは、森にいた、よく知る村の者たちに事情を話して、離れた場所に誘導した。その間に、ミストは霧の幻影で火柱を上らせた。
ルシルが遅れて駆け付けた時、現場にはこの森にいたほぼ全員が集まっていた。その中心で、ミストとせつなは互いに向き合うように倒れていた。
決着はついた。ミストの作戦は、最後の最後で破られたのだ。
彼女の作戦を瓦解させた漏洩者はわかっていた。ミストが自ら口を割るわけがないし、ルシルも誰にも漏らしていない。必然的に、その場にいなかった彼に違いなかった。本部に戻ってからこってり絞ろうと思っていたが、せつなとミストの手当てを手伝い、森を後にする頃には、その気も失せていた。
結局、この波乱の一件は、最も犠牲の少ない終わり方で幕引きとなったのだから。
「今ごろ、せつなのヤツは御三方に取り囲まれて洗いざらい吐いてるだろうさ。あと、落ち着いたらお前たちにも謝罪に来るんだと」
ルシルは、以上だというように、ため息で締めくくった。
「にしても、あんたも災難だったな。美雷とせつなの板挟みになってさ。コウもだけど」
「別に災難でもないさ。確かにやり方は乱暴だったが、あれくらいしたくなる気持ちもわかる。もし仮にせつなが何も行動を起こさないようなことがあったら……私が動いただろうしな」
「美雷に怒られたりしなかった?」
「ああ。ただ無事を喜んでくれただけだった。詳しい事情は私の口からは話せなかったが、今日せつなから聞いたなら、怒るどころか、より理解してくださるだろう。そういう方だ。……それに、万が一怒られていたとしたって、構うものか」
ルシルはふっと薄く笑って、目を伏せた。
「あいつは……せつなは、私にできなかったことを成し遂げようとしたのだから」
小さく、小さく呟かれた言葉さえ耳に残るような静寂が続いた。
その一言を聞いた瞬間、雷奈たちの中で、先ほどの回想話を聞いた時に引っかかっていたものがほどけた。
――本家のお姫様の命は惜しいでしょう。
ミストはそう言ったのだという。
交錯していたどの作戦も、せつなを脅かすものではない。発言者のミストとて、自分一人を犠牲にして、ことを収めようとしたくらいだ。彼女を引き合いに出して脅す由もない。
だから、「お姫様」は、せつなのことではない。
「先刻、お前は言ったな。『南風河』の名を戴くよう養子に出すことで朱雀に近づけたと。つまり、元は『南』のつかない別の姓だったのだろう」
雷華の問いに、ルシルは静かに頷いた。
もう、その先は誰もがわかっていた。
その双子が生まれた本家、その姓を。
「よもや、その双子は――」
***
あの時見た光景を、忘れることはない。
いつも通りの穏やかな宵口。祖父と父は仕事の件で話し込み、祖母と母は食事の支度をしていた。せつなも配膳を手伝っていた。よく覚えている。あの日は、油揚げの味噌汁を食卓に並べていた。
そんな夕餉の香りの落ち着く居間を切り裂いたのは、もはやふすまの開く音とは思えない、雷鳴のような衝撃ですらあった。
恐慌しきった様子で飛び込んできたのは、叔母だった。彼女の口から飛び出した、悲鳴にも似た言葉は、坂道を転がり落ちるようにして居間に響き渡った。
それを聞いた父も祖父も、祖母も母も、慌てふためいて互いに何度も顔を見合わせる間があった。その間に、迷うことなく廊下に飛び出したのは、最もふすまに近い場所にいたせつなだった。子供ゆえに、手立てを熟考することなく衝動のままに動いたのだと、今なら思う。
母屋を回り込んで反対側を目指す。言葉で言ってしまえばそれだけだが、村一番の広大な屋敷を半周するのは、全速力で走っても十数秒はかかる。その間にも鼻腔に届き、景色をわずかに灰色に曇らせる嫌な予感を、ねじ伏せて、ねじ伏せて、走って――。
たどり着いた先、その嫌な予感に打ちのめされたのはせつなの方だった。
そこにあるのは、離れだった。はずだった。
だが、目の前にあったのは、離れを腹に収め、太りに太った火だるまだった。
小さいころから見慣れたものが、燃え盛っている――その事実に、壮絶な光景に、せつなは呆然と立ち尽くした。夢でも見ているのかと思うほど信じられず、めまいがした。
後ろで声がした。追いついた父と祖父が叫ぶのが聞こえた。それはせつなを呼び止めるものだったが、彼らの制止に背いて、せつなは地を蹴った。悲鳴と怒号に背を向けて、絶望的な灼熱の中へと飛び込んだ。
水猫が多い天河家の中で、せつなは氷猫だ。いざという時に炎に対して身を守る術は、あまりにも弱弱しい。
それでも、ためらっている暇はなかった。思い返しても自殺行為に等しい愚行だが、たとえ今、当時に戻ったとしても、全く同じ道をたどっていたに違いない。
それほどまでに大切なものが、炎の中に取り残されていた。
氷砲で木製の戸口を吹き飛ばし、中に押し入ったせつなは、喘ぎながら、惨状を目にした。
燃えていた。
壁が。
天井が。
調度品が。
上がり框の先に広がる畳が。そこに置かれた新しい命の誕生祝いに寄せられた品々が、愛をこめてしたためられた命名紙が、成長を待ちきれず用意した玩具の類が、何もかもが燃えていた。
――中央の赤ん坊二匹を囲んで、燃え盛っていた。
最悪の事態の予感に胸を貫かれるせつなの前で、次に起きた出来事は、いつかおのが運命を変える光景だった。
それを目にした直後、熱気と煙で限界を迎えたせつなは、その場に崩れ落ちた。
放水の音と家族の声を背中に聞きながら、薄れゆく意識の中、それでもその光景は、忘れようもなく強く彼女の目に焼き付いた。
――双子の片割れが、インフィニティと呼ばれる特別な子だと知ったのは、火事騒動が落ち着いたすぐ後だった。
炎をふいたのは、他でもない、赤ん坊の片割れだった。無意識下での源子の暴走だ。並んで眠っていた二匹を中心とした周囲が燃えていたのはそのせいだった。
熱量の反転と考えられている、氷猫からまれに炎猫が生まれる現象も珍しければ、インフィニティの出生など、当家では前代未聞の事態。子守り役だった叔母がほんの少し目を離し、離れの外に出ていた間に、その特殊体質が開花したのだった。誰一人予想できなかったうえ、奇跡的に失われた命はなかったのもあり、誰も叔母を責めはしなかった。
けれど、今後このような惨事を起こさないために、二匹は引き離さなければならなくなったこと。片割れを養子に出さなければならなくなったこと。子供だったせつなを置いてけぼりにして、あれよあれよという間にいろいろなことが決まっていった。
抗う術もなく、喪失感を抱いたまま、三年がたった。
留年を繰り返したせつなは、翌年の普通科卒業を控えた十一歳の秋に、希兵隊への入隊を志願した。先に行った従妹と幼馴染の後を追いたかった。
結果はすげないものだった。
あっけなく夢を破られ、挫折を味わった。劣等感と屈辱に打ちひしがれた。
自分には何も守れない。無力感に苛まれるたび、よみがえる記憶。
離れ一つを焼き殺した炎。引き裂かれた双子。
――せつなの中に、ある決意が芽生えた。
失望の闇の深さの割に、その先の光をすぐに見いだすことができたのは、その記憶が追い打ちではなく、追い風となったからかもしれない。
思い至ってすぐに、彼女は道を変えた。自らの才を信じ、立ちふさがる門戸を叩いた。
あの時、燃える離れの中で、最後に見たもの。
畳の上で、すやすやと眠る小さな体。その周囲で、絶えず源子が炎に変貌し、飛び火していく。
自らを中心とし、残酷に周囲を焼いていく子猫。
――その左前足に重なった、同じ小さな右前足。
それは、身を寄せ合って、そっくりに丸くなって眠るもう一匹のものだった。制止を意図したものではない。夢を見ているときの寝相に近い、無意識な動きが、偶然片割れの手に触れただけだった。
けれど、その瞬間に、出火はやんだ。離れ一つを焼き殺したインフィニティは、ただの生まれたばかりの赤子に戻った。夜泣きする子供が、絶対的な安心感に触れて安らぐのに似ていた。
大人たちは、あの光景を見ていたのだろうか。それどころではなかったかもしれないし、見ていたうえで、あのような決断を下したのかもしれない。
けれど、せつなは、重なりあった小さな手に誓ったのだ。
あの双子は、引き離してはならない。言葉も道理も分からぬうちから寄り添い、互いを慈しむ兄妹が、家族でいられないなど、あってはならない。
そのために叩いた門戸は、開かれた。
飛壇中央学院・猫力学研究科。そこでなら、きっと叶えられる。
希兵隊への憧れを捨てきれなかったのは事実だ。猫力の攻撃応用を専門とする師を選んだのも、半分はその理由による。
けれど、もう半分は、そしてこの道を選んだ原点は、あの日胸に抱いた信念に違いなかった。
暴走する源子が生み出すものが凶暴な炎であるせいで、家族の絆が引き裂かれるならば、自分が変えてやる。
猫種を変換する。
荒れ狂う炎を、咲き誇る花々に変えられたなら、きっとあの子の周りは美しい花畑にしかならない。
あの二人が、再び手をつなげる未来。それを創る使命が、自分にはある。
なぜなら、彼らは。
なぜなら、自分は。
「――生まれた双子の名は、天河ついなと天河しいな。垂河村の二の姫と一の彦」
陰謀、虚言、暴動。此度の行動の全ての動機が帰属する、たった一つの事実を、凛と告げる。
「一の姫である私、天河せつなは、四神朱雀の姉です」
学院の長も、情報管理局の長も、唇を引き結んだまま何も声を発しなかった。けれど、それが両名にとっての驚愕の表出であることは、一瞬たりともそらさない視線で伝わってきた。
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