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12.文武抗争編
60ヒメゴト ①
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三者会議に招かれる。
学院研究者にその機会があったならば、それはトップ三名に必要とされるほどの有識者と認められたことを意味する、人生に刻むべき光栄な日だ。
だが、今、この場所に召喚された天河雪那に、誇るものなど何もない。
コの字型に配置された長机のそれぞれについた、学院長、情報管理局長、希兵隊総司令部最高司令官。三名に囲い込まれるように置かれた簡素な椅子にちょこんと座った白猫は、萎縮したようにうつむいて座っていた。まだ腹部に包帯を巻かれたままの彼女に、普段の堂々飄々とした様子はない。ただ、怯えている風でもないのは、こうなる可能性を全く考慮していなかったわけではなかった彼女が、その場合の覚悟の仕方を心得ていたからではあった。
時計がかかった壁の方向、上座に座る奈成が口を開いた。
「せつな」
その時が来たのだと悟った。腹は決まっていた。
「説明してくれますね」
「……はい」
顔を上げる。
もう、隠し立てはできない。
水守の森に上がった火柱。研究グループの襲撃。希兵隊の襲撃。
ひょんなことから交わった三つの歯車を、恣意的に組み替え、仕組まれた未来へと回し始めたのは。
「希兵隊と学院、両者の内情を把握し、利用し、ぶつかり合わせたのは……私です」
***
いくつもの糸が複雑に絡み合ったかのような今回の騒動も、発端は一本の電話だった。着信日は二日前。発信者は河道ルシル。研究室で昼食の準備をして、いざありつこうという時だった。
『南部地方に遠征している九番隊が、水守の森で巨大な火柱を目撃した』
返答すらできずにいたせつなに、ルシルは硬い声で続けた。
『加えて、出動した九番隊は攻撃を受けたとも報告している。美雷さんは、状況から水守の森にチエアリが出現した可能性があるとみて、特別編成隊を派遣するご意向だ。……そのメンバーに、私とコウも選ばれた』
普段、そんな連絡を逐一してくる彼女ではない。必要ないと思っている質だし、世間話でも電話してくることは少ない人物だ。
だから、彼女がわざわざそんな連絡をよこしたのには、明確な理由があることはわかっていた。そして、その理由が何であるかも。
ルシルは、九番隊からの報告を受けた時、ある可能性を予感したのだ。それは、同時期に報告を受けたコウも同じだったと推測され、ルシル曰く、実際そのようだったし、せつな自身、ルシルの一報を聞いてすぐ、全く同じ懸念を抱いていた。
ルシルとの通話を終えてから、せつなは昼食も忘れて、心ここにあらずのまま構内をそぞろ歩いた。何かをしていないと、この動揺が表に出るような気がしたから。誰に見られているわけでもないのに。
一周して、研究室棟に帰ってきた時だった。その日は別行動していたミストと廊下で会い、ある話を聞いた。
彼女は、総造学研究科の製作棟の近くを通った際、ある研究室メンバーが話しているのを立ち聞きしたのだという。
――チエアリ検出センサーの開発チームだと思うんだけどさ、水守の森でデータ収集してたら、何者かにセンサーを破壊されたうえ、メンバーが攻撃されたんだって。
昨今の情勢に鑑み、民間からも三大機関からも期待がかかるチエアリ検出センサー。その開発を手掛けている研究室があることは、学内誌でも取り上げられていたのでせつなも知っていた。そんな将来の治安を担う彼らを襲った、何者か。
――何者かではない。その正体を、せつなは確信していた。おそらく、同じ話を聞いたなら、ルシルとコウも同じ答えに辿り着くに違いなかった。
この時、せつなの頭に浮かんだのは二つ。
この事態は、危機だ――せつなは、まずそう思った。
なにせ、今に希兵隊が水守の森に出向き、火柱を上げたり攻撃を仕掛けたりした存在を排除しようと動きだしているのだ。あまつさえ、総造学研究科とはいえ、よりによって研究者が関与しており、おそらく近々、リベンジのため再度森に入るだろう。
最悪だ。
だが、同時に。
この事態は、好機だ――せつなは、そうも思った。
簡単なことだ。同時期に森に入ろうとする希兵隊と学院、二つの勢力をぶつけ合わせ、飛壇に戻って仕切りなおすような事態になれば、全て解決する。
行動は速かった。即座に一計を案じたせつなは、件の研究チームに接触した。
――センサー配備区画の外で待機してたら、遠くで急に火柱が上がってさ。センサーは無事かと思って慌てて見に行ったら、全部壊されてたんだよ。
そう語る、総造学研究科の手塚教授の門下生である手塚研究室のメンバーに、せつなは伝えた。当時希兵隊がそこにいたこと、チエアリ検出センサーの開発を学院に先越されると希兵隊は不利になることを、それとなく。
嘘は言っていない。ただ、センサー破壊と攻撃行動の犯人は希兵隊だと色めき立つ彼らの主張を、彼らの主張として受け入れただけ。そして、近日中に予定されていたデータの再収集を、忙しい研究チームに代わって行い、犯人確保も兼ねようという提案をしただけだ。
ぜひ仇を、と燃える研究チームの声を追い風に、せつなは実行メンバーを募った。急編成にも関わらず、三人の協力者が集まってくれた。よその研究科とはいえ、同じ学者としてのプライドにかけて争う姿勢を見せた三人を連れて、水守の森へ弾趾で飛んだ。
交戦当日の夜、同時に走り出した作戦は三つ。
一つ目は美雷の指令による、水守の森にひそんでいる有害因子の排除。
二つ目はせつなが主導し、瀧翠都、湯ノ巻絹、透里麗楽の協力を得ての、一つ目の作戦のため水守の森に入ってきた希兵隊の嫌疑の糾弾。
そして三つ目は、希兵隊と学院の衝突を隠れ蓑にした、両者の水守の森からの撤退。実行者は、二つ目の作戦に背を向けた天河せつな。そして、一つ目の作戦に背を向けた河道ルシルと大和コウだ。
せつなからの提案に、当初、二人は首を縦に振ろうとはしなかった。だが、横に振ることもできなかった。結局、二人とも、長いものに巻かれるしかなかった。最高司令官よりも長いものが、彼女らの原点にあったのだ。
作戦は、順調に進んだ。
ルシルとコウにあらかじめ確認していた、希兵隊到着時刻よりも早くに現地に到着し、データの再収集としてセンサーを設置。その後、予定通りやってきた希兵隊を、センサー破壊と攻撃行動について糾弾。導かれるままに、両者は対立構図を描いた。
あとは、希兵隊の作戦を延期させる形で飛壇での対談に持ち込ませ、十分な時間を稼ぐだけだった。
――希兵隊と学院、それぞれから歩み出た二人が、手を結ぶまでは。
***
「同僚に伝えた作戦はカバーストーリーだったというわけですか」
学院長のしわがれ声が、ため息交じりにそうつぶやいた。普段のせつなのいたずらをたしなめる呆れ声から、ほんの少し温度を奪い去ったような響きだった。
「……して」
口を開いたのは、情報管理局の長だ。初対面のせつなにも、まっすぐに言葉を向けてきた。
「そろそろ明かしてはくれぬか。今の話、肝要な部分をお主はまだ伏せたままであろう」
「そうですね」
奈成も首肯する。
「あなた方が初めに予感した『ある可能性』、あなたが確信した『犯人』、そして何より――希兵隊と研究者をあの森に近づけたくなかった理由とは、何なのですか」
せつなは静かに唇を引き結んだ。
この時が、来た。
彼女の問いに答えれば、一つの時代が終わる。
けれど、彼らの長は、全てを伝える決意をした。それを、せつなに託した。
だから、守り固めた鎧がはがれていく音を聞きながら、彼女は告げる。
「希兵隊と研究チームに危害を加えたのは、同一犯です」
けれど、それはチエアリではない。あの森に潜んでいたのは、チエアリではない。
「厳密に言うと、一人の個人ではありません。同じ立場に立つ何名かが、あの森にはいたんです」
三者が同時に抱いた印象を、情報管理局長が代表して口にする。
「その者達を、お主は知っておるのか」
「ええ。よく、よく知っています。あの後、本人達に確認が取れたので、彼らで間違いありません」
せつなは、まっすぐに前を見据え、その者たちの総称を口にした。
「希兵隊、および研究チームを襲撃したのは――垂河村の者です」
三名は顔色を変えなかった。ただ、ほんのわずか、部屋の中の空気が揺れた。それが、彼女らの動揺なのだとわかった。
「さっき、せつなちゃんは危機と言っていたわね。希兵隊、そして研究者が水守の森に向かうことが。だからこそ、森から両者を追い出すために謀りごとをした」
美雷は柔和な瞳を心持ちだけ細めてせつなを見つめた。
「もしかして、垂河村の方も、せつなちゃんと同じ理由で森に入ってほしくなくて、攻撃を仕掛けたのかしら」
「はい」
「そしてそれは……火柱と関係があるのね」
的確な指摘に、せつなは首肯した。美雷は考え込む様子もなく続ける。
「火柱を上げた人物は、希兵隊や学院を襲った方とは別でしょう」
希兵隊と学院に向けられたのは、水術だった。ゆえに、火柱を上げた何者かとは別になる。
「みなさん」
垂河村の姫は、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「これからお話しすることは、垂河村が数年間にわたって緘口令を敷き、門外不出の秘匿としてきたことです。祖父の――村長の命により、ここに真実を打ち明けます」
村長の孫、せつなに鍵は託された。今、彼女の手で、秘密が解かれる。
垂河村の前に広がる水守の森で火柱を上げた者の、その正体は。
「あれは、インフィニティ。南の地に生まれし、朱雀のインフィニティです」
***
インフィニティ。
フィライン・エデンには、いつの世も、そう呼ばれる猫が四名存在する。
普通の親から生まれ、背格好も通常。他の子どもたちを同じように育つ彼らは、しかし、生まれながらに「無限」の名を冠する。
何が無限なのか? それは、彼らの尺において最も強さを表すもの。
扱える源子の量が、無限なのだ。
源子を操り、術を使うには、体を動かすのとはまた別の体力を使う。精神力と相即といってもいい。幼い子供ほど扱える源子の量は少なく、慣れていくにつれて多くなっていく。猫力学者のような効率を極めた者はより多く、源子に懐かれる源子侵襲症の患者はさらに多い。
だが、それを上回るのがインフィニティだ。彼らは、威厳も魂の強さも要さず、ただ声をかけるだけで周囲の源子という源子を意のままに使う。当然、消耗はゼロだ。
生まれながらに源子に愛された子。それが、インフィニティ。
「……それが、火柱を上げた猫の正体」
雷奈の言葉に、ルシルはうなずいた。いつもの宿坊の部屋で、氷架璃と芽華実をも見渡して、彼女は続ける。
「飛壇が中心都市なのは知ってのとおりだが、あの地は機能的な話だけではなく、地理的にもフィライン・エデンの中心だ。そしてそれを囲むように、東部地方には大河が、西部地方には大路が、北部には山地が、南部に大湖が位置している。……この意味が分かるか?」
「川、道、山、池に囲まれた飛壇……?」
「四神相応だな」
興味なさそうに読書をしていた雷華が、ページから顔も上げずに呟いた。ルシルは大きくうなずく。
「フィライン・エデンの重要概念が陰陽五行説だといわれているのは、それが起源だ。東の大河は青龍、西の大路は白虎、北の山地は玄武、南の大湖は朱雀に対応している。これにより、中央の飛壇にエネルギーが集まった結果、できたのが――ワープフープだ」
――陰陽五行思想はフィライン・エデンにおける重要概念。
美雷の言葉が、雷奈たちの脳裏をよぎる。
「インフィニティは東西南北それぞれの地方に、一人ずつ生まれる。そして、五行においてそれぞれの方角に対応する事物にあやかった名前をもつ運命にあり、出自時はそうでなくても、いずれそうなることが決定されているという。その数奇な運命と、無限の力を使えるだけでなく、高い知能と特殊能力を持ち合わせて生まれる彼らには、畏敬の念を込めて四神の二つ名が授けられるんだ」
そして、村長家分家の令嬢は告げる。
「南部地方の大湖。それは、かつて私の妹が沈んだ鏡湖のことだ。当代の朱雀のインフィニティは、フィライン・エデンを四神相応たらしめる一角である鏡湖を擁する、垂河村に生まれたんだ」
***
「……なるほど、見えてきました」
奈成があごを撫でながら、得心がいった表情でうなずいた。
「村が緘口令を敷くのもわかります。インフィニティは謎多き稀有な、そして神秘的な存在。その所在が分かったとなれば、研究者、特に猫力学者や時空学者は欲しがるでしょう」
「ええ。わが子を研究対象にされることを是としない親も少なくない。だからインフィニティの実態は謎に包まれたままで、その時代のインフィニティが誰で、どこにいるのかを把握されているほうが少ない。特に垂河村は閉鎖的な村です。外部の研究者が入って探りを入れてくるなど、もってのほかです」
「ゆえに総造学研究科とはいえ研究者と遭遇することは避けたかった。加えて善良な市民たるインフィニティをチエアリと紛えて討伐せんとする希兵隊も然り。さりとて、その理由を口にすることも能わず、此度の件を企てた……というわけか」
「はい。……申し訳ありませんでした」
せつなは深くこうべを垂れた。
その様子をしばらく見ていた希兵隊と情報管理局の長が、ちらと学院長に目配せする。采配は任せる、の意だ。
奈成は老成した大息をつくと、厳かながら穏やかな口調で言った。
「いたずらに二機間をぶつけたとはいえ、あなたの行動理由にはやむを得ないものがあります。結果的に大惨事になったわけでもなし、情状酌量の余地があると言っていいでしょう。第一、あなたはあなたのままでいる。君臨者がお許しになっている証左です」
絶対的な悪は君臨者が裁き、罪人はクロと化す。フィライン・エデンの住人ならば、たとえ学術の中枢のトップといえど、根底にはその信仰がある。
「でも、どうしてその朱雀のインフィニティは、森で火柱を上げていたのかしら」
「力の発散です」
せつなは簡潔に答えた。
「あの子はインフィニティとして莫大な源子を扱える一方で、その制御ができないんです。源子を暴走させて、力の限り炎を吹き出し、そして疲れて眠る。その繰り返しです。村でそんなことをしては毎回火事になるので、インフィニティになるたび、大人たちがあの森に連れてきて、力を発散させているんです。あそこの木は燃えにくいものなので」
「……なるたび?」
不自然な語に、美雷がすっと目を細めた。
まるで、インフィニティでない時があるかのような言い方だ。
せつなは、それを聞き咎められるのをわかっていたように、すぐに頷いて答えた。
「朱雀のインフィニティは、双子なんです」
***
「双子が生まれてくるとき、一卵性であろうと二卵性であろうと、次のような能力の遺伝の仕方をする。同じものをそれぞれ持って生まれてくる場合。一つのものを分け合って半分ずつ持って生まれてくる場合。そして、一つのものを取り合ってどちらか一方が持って生まれてくる場合だ」
ルシルの説明は、せつなが雷奈と雷華の間で猫力のもつ・持たざるについて考察した時とほぼ同じだった。
「彼らの場合は三つ目だ。元々インフィニティの力を持って生まれた双子の妹は源子を暴走させる一方で、普通の子猫として生まれてきた兄はそうではなかった。そこで、大人たちは、制御不能な妹のインフィニティの力を、制御可能な兄に譲渡したんだ」
「力を、譲渡する……!?」
「そげなことができると?」
「学術的根拠のない方法だった」
ルシルは信じがたいものを目の当たりにしたかのような苦い表情をした。
「学院の研究者だって、少なくともあの当時のエビデンスでは、試そうと思ったかどうだか。だが、閉鎖的な村だからこそ、古からのいわれを頼みにし、陰陽五行説にあやかった民間療法的な手段に出た。先程、インフィニティは出生時はそうでなくとも、いずれ運命的に、その四神に対応した事物にあやかった名をもつことになると言ったな。兄に対してのみ、それを故意に行うことで、兄を四神に近づけたんだ」
「お兄さんに、より朱雀に近い要素を付け加えたってこと……?」
「そうだ。運のいいことに、分家に『南風河』の姓があったのでな。そこへ養子に出したんだ。『南』という朱雀の要素を名に組み込んだということだ。そして……その目論見は成功した。妹は普通の子猫と相成り、兄がインフィニティとなったんだ」
しかし、常にその状態が続くかといえば、そうではなかった。
「源子は力あるものに懐く。そして、立場は逆転したとはいえ、兄妹の差は紙一重だった。兄が少しでも力を失えば……簡単に言うと、体調を崩しでもすれば、インフィニティの力は妹に引き戻される。その時のみ、水守の森で過ごさせ、力を発散しても村に害が及ばないようにしているんだ」
「それじゃあ、せつなに火柱の出現を伝えたのって……!」
「ああ」
ルシルは大きくうなずいた。
「分家の私に連絡が来るくらいだ。せつなにも当然、双子の兄が体調を崩したことは伝えられていた。だから、九番隊によって火柱が目撃され、その大元を退治ようという動きになったとき、私も、コウも、そして私から話を聞いたせつなも、すぐに何が起こっているのか、真相に気づいた。だからせつなは、自身は学院に内密にし、私とコウには希兵隊に内密にさせ、独自の作戦で動いたんだ。村を、村民を守るために」
「だけど……」
言い淀んだ芽華実に、ルシルが先を促す。
彼女も分かっているのだ。雷奈たちが疑問に思って当然のことが、まだ語られていない。
「だけど、あの炎の中にいたのは……ううん、霧で炎の幻覚を作っていたのは、ミストだった」
「ああ」
月下、夜の森で渦巻いたいくつもの思惑。
有害因子を排除しようとする希兵隊。希兵隊を糾弾しようとする学院。両者を衝突させようとするせつな。
そして。
「それら全ての計画を狂わせ、一人の犠牲をもって万事を解決しようとした者がいた。あの夜にうごめいていた作戦は、もう一つあったんだ。そして、その首謀者と手を組んだのが……私だった」
学院研究者にその機会があったならば、それはトップ三名に必要とされるほどの有識者と認められたことを意味する、人生に刻むべき光栄な日だ。
だが、今、この場所に召喚された天河雪那に、誇るものなど何もない。
コの字型に配置された長机のそれぞれについた、学院長、情報管理局長、希兵隊総司令部最高司令官。三名に囲い込まれるように置かれた簡素な椅子にちょこんと座った白猫は、萎縮したようにうつむいて座っていた。まだ腹部に包帯を巻かれたままの彼女に、普段の堂々飄々とした様子はない。ただ、怯えている風でもないのは、こうなる可能性を全く考慮していなかったわけではなかった彼女が、その場合の覚悟の仕方を心得ていたからではあった。
時計がかかった壁の方向、上座に座る奈成が口を開いた。
「せつな」
その時が来たのだと悟った。腹は決まっていた。
「説明してくれますね」
「……はい」
顔を上げる。
もう、隠し立てはできない。
水守の森に上がった火柱。研究グループの襲撃。希兵隊の襲撃。
ひょんなことから交わった三つの歯車を、恣意的に組み替え、仕組まれた未来へと回し始めたのは。
「希兵隊と学院、両者の内情を把握し、利用し、ぶつかり合わせたのは……私です」
***
いくつもの糸が複雑に絡み合ったかのような今回の騒動も、発端は一本の電話だった。着信日は二日前。発信者は河道ルシル。研究室で昼食の準備をして、いざありつこうという時だった。
『南部地方に遠征している九番隊が、水守の森で巨大な火柱を目撃した』
返答すらできずにいたせつなに、ルシルは硬い声で続けた。
『加えて、出動した九番隊は攻撃を受けたとも報告している。美雷さんは、状況から水守の森にチエアリが出現した可能性があるとみて、特別編成隊を派遣するご意向だ。……そのメンバーに、私とコウも選ばれた』
普段、そんな連絡を逐一してくる彼女ではない。必要ないと思っている質だし、世間話でも電話してくることは少ない人物だ。
だから、彼女がわざわざそんな連絡をよこしたのには、明確な理由があることはわかっていた。そして、その理由が何であるかも。
ルシルは、九番隊からの報告を受けた時、ある可能性を予感したのだ。それは、同時期に報告を受けたコウも同じだったと推測され、ルシル曰く、実際そのようだったし、せつな自身、ルシルの一報を聞いてすぐ、全く同じ懸念を抱いていた。
ルシルとの通話を終えてから、せつなは昼食も忘れて、心ここにあらずのまま構内をそぞろ歩いた。何かをしていないと、この動揺が表に出るような気がしたから。誰に見られているわけでもないのに。
一周して、研究室棟に帰ってきた時だった。その日は別行動していたミストと廊下で会い、ある話を聞いた。
彼女は、総造学研究科の製作棟の近くを通った際、ある研究室メンバーが話しているのを立ち聞きしたのだという。
――チエアリ検出センサーの開発チームだと思うんだけどさ、水守の森でデータ収集してたら、何者かにセンサーを破壊されたうえ、メンバーが攻撃されたんだって。
昨今の情勢に鑑み、民間からも三大機関からも期待がかかるチエアリ検出センサー。その開発を手掛けている研究室があることは、学内誌でも取り上げられていたのでせつなも知っていた。そんな将来の治安を担う彼らを襲った、何者か。
――何者かではない。その正体を、せつなは確信していた。おそらく、同じ話を聞いたなら、ルシルとコウも同じ答えに辿り着くに違いなかった。
この時、せつなの頭に浮かんだのは二つ。
この事態は、危機だ――せつなは、まずそう思った。
なにせ、今に希兵隊が水守の森に出向き、火柱を上げたり攻撃を仕掛けたりした存在を排除しようと動きだしているのだ。あまつさえ、総造学研究科とはいえ、よりによって研究者が関与しており、おそらく近々、リベンジのため再度森に入るだろう。
最悪だ。
だが、同時に。
この事態は、好機だ――せつなは、そうも思った。
簡単なことだ。同時期に森に入ろうとする希兵隊と学院、二つの勢力をぶつけ合わせ、飛壇に戻って仕切りなおすような事態になれば、全て解決する。
行動は速かった。即座に一計を案じたせつなは、件の研究チームに接触した。
――センサー配備区画の外で待機してたら、遠くで急に火柱が上がってさ。センサーは無事かと思って慌てて見に行ったら、全部壊されてたんだよ。
そう語る、総造学研究科の手塚教授の門下生である手塚研究室のメンバーに、せつなは伝えた。当時希兵隊がそこにいたこと、チエアリ検出センサーの開発を学院に先越されると希兵隊は不利になることを、それとなく。
嘘は言っていない。ただ、センサー破壊と攻撃行動の犯人は希兵隊だと色めき立つ彼らの主張を、彼らの主張として受け入れただけ。そして、近日中に予定されていたデータの再収集を、忙しい研究チームに代わって行い、犯人確保も兼ねようという提案をしただけだ。
ぜひ仇を、と燃える研究チームの声を追い風に、せつなは実行メンバーを募った。急編成にも関わらず、三人の協力者が集まってくれた。よその研究科とはいえ、同じ学者としてのプライドにかけて争う姿勢を見せた三人を連れて、水守の森へ弾趾で飛んだ。
交戦当日の夜、同時に走り出した作戦は三つ。
一つ目は美雷の指令による、水守の森にひそんでいる有害因子の排除。
二つ目はせつなが主導し、瀧翠都、湯ノ巻絹、透里麗楽の協力を得ての、一つ目の作戦のため水守の森に入ってきた希兵隊の嫌疑の糾弾。
そして三つ目は、希兵隊と学院の衝突を隠れ蓑にした、両者の水守の森からの撤退。実行者は、二つ目の作戦に背を向けた天河せつな。そして、一つ目の作戦に背を向けた河道ルシルと大和コウだ。
せつなからの提案に、当初、二人は首を縦に振ろうとはしなかった。だが、横に振ることもできなかった。結局、二人とも、長いものに巻かれるしかなかった。最高司令官よりも長いものが、彼女らの原点にあったのだ。
作戦は、順調に進んだ。
ルシルとコウにあらかじめ確認していた、希兵隊到着時刻よりも早くに現地に到着し、データの再収集としてセンサーを設置。その後、予定通りやってきた希兵隊を、センサー破壊と攻撃行動について糾弾。導かれるままに、両者は対立構図を描いた。
あとは、希兵隊の作戦を延期させる形で飛壇での対談に持ち込ませ、十分な時間を稼ぐだけだった。
――希兵隊と学院、それぞれから歩み出た二人が、手を結ぶまでは。
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「同僚に伝えた作戦はカバーストーリーだったというわけですか」
学院長のしわがれ声が、ため息交じりにそうつぶやいた。普段のせつなのいたずらをたしなめる呆れ声から、ほんの少し温度を奪い去ったような響きだった。
「……して」
口を開いたのは、情報管理局の長だ。初対面のせつなにも、まっすぐに言葉を向けてきた。
「そろそろ明かしてはくれぬか。今の話、肝要な部分をお主はまだ伏せたままであろう」
「そうですね」
奈成も首肯する。
「あなた方が初めに予感した『ある可能性』、あなたが確信した『犯人』、そして何より――希兵隊と研究者をあの森に近づけたくなかった理由とは、何なのですか」
せつなは静かに唇を引き結んだ。
この時が、来た。
彼女の問いに答えれば、一つの時代が終わる。
けれど、彼らの長は、全てを伝える決意をした。それを、せつなに託した。
だから、守り固めた鎧がはがれていく音を聞きながら、彼女は告げる。
「希兵隊と研究チームに危害を加えたのは、同一犯です」
けれど、それはチエアリではない。あの森に潜んでいたのは、チエアリではない。
「厳密に言うと、一人の個人ではありません。同じ立場に立つ何名かが、あの森にはいたんです」
三者が同時に抱いた印象を、情報管理局長が代表して口にする。
「その者達を、お主は知っておるのか」
「ええ。よく、よく知っています。あの後、本人達に確認が取れたので、彼らで間違いありません」
せつなは、まっすぐに前を見据え、その者たちの総称を口にした。
「希兵隊、および研究チームを襲撃したのは――垂河村の者です」
三名は顔色を変えなかった。ただ、ほんのわずか、部屋の中の空気が揺れた。それが、彼女らの動揺なのだとわかった。
「さっき、せつなちゃんは危機と言っていたわね。希兵隊、そして研究者が水守の森に向かうことが。だからこそ、森から両者を追い出すために謀りごとをした」
美雷は柔和な瞳を心持ちだけ細めてせつなを見つめた。
「もしかして、垂河村の方も、せつなちゃんと同じ理由で森に入ってほしくなくて、攻撃を仕掛けたのかしら」
「はい」
「そしてそれは……火柱と関係があるのね」
的確な指摘に、せつなは首肯した。美雷は考え込む様子もなく続ける。
「火柱を上げた人物は、希兵隊や学院を襲った方とは別でしょう」
希兵隊と学院に向けられたのは、水術だった。ゆえに、火柱を上げた何者かとは別になる。
「みなさん」
垂河村の姫は、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「これからお話しすることは、垂河村が数年間にわたって緘口令を敷き、門外不出の秘匿としてきたことです。祖父の――村長の命により、ここに真実を打ち明けます」
村長の孫、せつなに鍵は託された。今、彼女の手で、秘密が解かれる。
垂河村の前に広がる水守の森で火柱を上げた者の、その正体は。
「あれは、インフィニティ。南の地に生まれし、朱雀のインフィニティです」
***
インフィニティ。
フィライン・エデンには、いつの世も、そう呼ばれる猫が四名存在する。
普通の親から生まれ、背格好も通常。他の子どもたちを同じように育つ彼らは、しかし、生まれながらに「無限」の名を冠する。
何が無限なのか? それは、彼らの尺において最も強さを表すもの。
扱える源子の量が、無限なのだ。
源子を操り、術を使うには、体を動かすのとはまた別の体力を使う。精神力と相即といってもいい。幼い子供ほど扱える源子の量は少なく、慣れていくにつれて多くなっていく。猫力学者のような効率を極めた者はより多く、源子に懐かれる源子侵襲症の患者はさらに多い。
だが、それを上回るのがインフィニティだ。彼らは、威厳も魂の強さも要さず、ただ声をかけるだけで周囲の源子という源子を意のままに使う。当然、消耗はゼロだ。
生まれながらに源子に愛された子。それが、インフィニティ。
「……それが、火柱を上げた猫の正体」
雷奈の言葉に、ルシルはうなずいた。いつもの宿坊の部屋で、氷架璃と芽華実をも見渡して、彼女は続ける。
「飛壇が中心都市なのは知ってのとおりだが、あの地は機能的な話だけではなく、地理的にもフィライン・エデンの中心だ。そしてそれを囲むように、東部地方には大河が、西部地方には大路が、北部には山地が、南部に大湖が位置している。……この意味が分かるか?」
「川、道、山、池に囲まれた飛壇……?」
「四神相応だな」
興味なさそうに読書をしていた雷華が、ページから顔も上げずに呟いた。ルシルは大きくうなずく。
「フィライン・エデンの重要概念が陰陽五行説だといわれているのは、それが起源だ。東の大河は青龍、西の大路は白虎、北の山地は玄武、南の大湖は朱雀に対応している。これにより、中央の飛壇にエネルギーが集まった結果、できたのが――ワープフープだ」
――陰陽五行思想はフィライン・エデンにおける重要概念。
美雷の言葉が、雷奈たちの脳裏をよぎる。
「インフィニティは東西南北それぞれの地方に、一人ずつ生まれる。そして、五行においてそれぞれの方角に対応する事物にあやかった名前をもつ運命にあり、出自時はそうでなくても、いずれそうなることが決定されているという。その数奇な運命と、無限の力を使えるだけでなく、高い知能と特殊能力を持ち合わせて生まれる彼らには、畏敬の念を込めて四神の二つ名が授けられるんだ」
そして、村長家分家の令嬢は告げる。
「南部地方の大湖。それは、かつて私の妹が沈んだ鏡湖のことだ。当代の朱雀のインフィニティは、フィライン・エデンを四神相応たらしめる一角である鏡湖を擁する、垂河村に生まれたんだ」
***
「……なるほど、見えてきました」
奈成があごを撫でながら、得心がいった表情でうなずいた。
「村が緘口令を敷くのもわかります。インフィニティは謎多き稀有な、そして神秘的な存在。その所在が分かったとなれば、研究者、特に猫力学者や時空学者は欲しがるでしょう」
「ええ。わが子を研究対象にされることを是としない親も少なくない。だからインフィニティの実態は謎に包まれたままで、その時代のインフィニティが誰で、どこにいるのかを把握されているほうが少ない。特に垂河村は閉鎖的な村です。外部の研究者が入って探りを入れてくるなど、もってのほかです」
「ゆえに総造学研究科とはいえ研究者と遭遇することは避けたかった。加えて善良な市民たるインフィニティをチエアリと紛えて討伐せんとする希兵隊も然り。さりとて、その理由を口にすることも能わず、此度の件を企てた……というわけか」
「はい。……申し訳ありませんでした」
せつなは深くこうべを垂れた。
その様子をしばらく見ていた希兵隊と情報管理局の長が、ちらと学院長に目配せする。采配は任せる、の意だ。
奈成は老成した大息をつくと、厳かながら穏やかな口調で言った。
「いたずらに二機間をぶつけたとはいえ、あなたの行動理由にはやむを得ないものがあります。結果的に大惨事になったわけでもなし、情状酌量の余地があると言っていいでしょう。第一、あなたはあなたのままでいる。君臨者がお許しになっている証左です」
絶対的な悪は君臨者が裁き、罪人はクロと化す。フィライン・エデンの住人ならば、たとえ学術の中枢のトップといえど、根底にはその信仰がある。
「でも、どうしてその朱雀のインフィニティは、森で火柱を上げていたのかしら」
「力の発散です」
せつなは簡潔に答えた。
「あの子はインフィニティとして莫大な源子を扱える一方で、その制御ができないんです。源子を暴走させて、力の限り炎を吹き出し、そして疲れて眠る。その繰り返しです。村でそんなことをしては毎回火事になるので、インフィニティになるたび、大人たちがあの森に連れてきて、力を発散させているんです。あそこの木は燃えにくいものなので」
「……なるたび?」
不自然な語に、美雷がすっと目を細めた。
まるで、インフィニティでない時があるかのような言い方だ。
せつなは、それを聞き咎められるのをわかっていたように、すぐに頷いて答えた。
「朱雀のインフィニティは、双子なんです」
***
「双子が生まれてくるとき、一卵性であろうと二卵性であろうと、次のような能力の遺伝の仕方をする。同じものをそれぞれ持って生まれてくる場合。一つのものを分け合って半分ずつ持って生まれてくる場合。そして、一つのものを取り合ってどちらか一方が持って生まれてくる場合だ」
ルシルの説明は、せつなが雷奈と雷華の間で猫力のもつ・持たざるについて考察した時とほぼ同じだった。
「彼らの場合は三つ目だ。元々インフィニティの力を持って生まれた双子の妹は源子を暴走させる一方で、普通の子猫として生まれてきた兄はそうではなかった。そこで、大人たちは、制御不能な妹のインフィニティの力を、制御可能な兄に譲渡したんだ」
「力を、譲渡する……!?」
「そげなことができると?」
「学術的根拠のない方法だった」
ルシルは信じがたいものを目の当たりにしたかのような苦い表情をした。
「学院の研究者だって、少なくともあの当時のエビデンスでは、試そうと思ったかどうだか。だが、閉鎖的な村だからこそ、古からのいわれを頼みにし、陰陽五行説にあやかった民間療法的な手段に出た。先程、インフィニティは出生時はそうでなくとも、いずれ運命的に、その四神に対応した事物にあやかった名をもつことになると言ったな。兄に対してのみ、それを故意に行うことで、兄を四神に近づけたんだ」
「お兄さんに、より朱雀に近い要素を付け加えたってこと……?」
「そうだ。運のいいことに、分家に『南風河』の姓があったのでな。そこへ養子に出したんだ。『南』という朱雀の要素を名に組み込んだということだ。そして……その目論見は成功した。妹は普通の子猫と相成り、兄がインフィニティとなったんだ」
しかし、常にその状態が続くかといえば、そうではなかった。
「源子は力あるものに懐く。そして、立場は逆転したとはいえ、兄妹の差は紙一重だった。兄が少しでも力を失えば……簡単に言うと、体調を崩しでもすれば、インフィニティの力は妹に引き戻される。その時のみ、水守の森で過ごさせ、力を発散しても村に害が及ばないようにしているんだ」
「それじゃあ、せつなに火柱の出現を伝えたのって……!」
「ああ」
ルシルは大きくうなずいた。
「分家の私に連絡が来るくらいだ。せつなにも当然、双子の兄が体調を崩したことは伝えられていた。だから、九番隊によって火柱が目撃され、その大元を退治ようという動きになったとき、私も、コウも、そして私から話を聞いたせつなも、すぐに何が起こっているのか、真相に気づいた。だからせつなは、自身は学院に内密にし、私とコウには希兵隊に内密にさせ、独自の作戦で動いたんだ。村を、村民を守るために」
「だけど……」
言い淀んだ芽華実に、ルシルが先を促す。
彼女も分かっているのだ。雷奈たちが疑問に思って当然のことが、まだ語られていない。
「だけど、あの炎の中にいたのは……ううん、霧で炎の幻覚を作っていたのは、ミストだった」
「ああ」
月下、夜の森で渦巻いたいくつもの思惑。
有害因子を排除しようとする希兵隊。希兵隊を糾弾しようとする学院。両者を衝突させようとするせつな。
そして。
「それら全ての計画を狂わせ、一人の犠牲をもって万事を解決しようとした者がいた。あの夜にうごめいていた作戦は、もう一つあったんだ。そして、その首謀者と手を組んだのが……私だった」
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