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1.フィライン・エデン編
2編入生は気づかれない 後編
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「改めて、私は樹香リーフ。名前の通り、草猫よ。なんだか緊張しちゃうわね」
「いや、緊張するのはこっちもなんだけどさ。フィライン・エデンに来るの、初めてだし」
「フーから聞いているわ。でも、何度も来たらきっと慣れるわよ」
そう言われ、氷架璃はきまり悪そうに頭をかいた。
「その……もう来る気はないんだけど」
「え? どうして? アワのパートナーでしょう?」
「実は断ったんだよね」
目に見えて、アワが沈んだ。
「あらら、アワ、フラれちゃったの?」
「うん……そうなんだ……」
「って言っても、なんか得体のしれないものに目をつけられてるって言われるし、鞄を取り返してもらった恩もあるしで、とりあえず説明だけ聞きに来たってわけ」
そこで、アワはリーフに、鞄奪取の事の顛末を聞かせた。リーフが不思議そうな顔をするのを見ながら、氷架璃はとりあえず疑問をぶつける。
「あの黒猫もどきは、いったい何なの?」
「あれはね、クロというんだ」
「クロ……普通に黒猫につけられる名前みたいったいね」
「でも、固有名詞じゃなくて、あの存在全部を指す名前なんだ。クロはたくさんいるよ」
アワの言葉を引き継いで、フーが真剣な表情で説明した。
「クロはね、私たちの負の感情の化身のようなもの。私たちの憎しみや怒りの感情は、神なる存在、君臨者によって吸い取られ、怪物のような存在として再構成される」
「なんでそんな回りくどいことに……?」
「憎しみや怒りがあったら、平和な世界にならないでしょ。君臨者はこの世界を平和に保ってくれているの。おかげで、人間界で起こるような犯罪はまずないわ。まあ、悪いことをしたら、その本人がクロになるとも言われているしね。それに、クロという共通の敵がいることで、みんなの団結力も生まれる。これがフィライン・エデンの治安維持システムよ」
リーフもうなずいた。
「クロはまだ小さくて、やることも可愛げがあるほうだけど、これが進化するとダークという、もっと質の悪いヤツになるわ。図体は大きいし、猫を襲ったり、物を破壊したりするようになるの」
「それ、倒せるのか?」
「ダークレベルになると、私には無理ね。でも、それ専門の組織もあるから、基本的にそっちに任せているわ。……それにしても、人間界にクロが現れるなんて、今まで聞いたこともないんだけど。確かに、選ばれし人間はフィライン・エデンに来ると、ほかの猫ばりに狙われるって聞くけど、それが人間界でもなんて」
先ほどの思案顔は、この点が引っ掛かっていたことによるらしい。
「時間の停止といい、人間界に現れるクロといい……」
そこで言葉を止めたリーフは、おもむろに雷奈たち三人を眺めた。
「アワ、フー。あなたたちは、この現状をどう考えているの?」
「いや、さっぱりだね」
「お母さんに相談してみたけれど、わからないみたい」
「情報管理局は何か言ってないの?」
「いくら情報管理局でも、人間に手出しはできないからね。人間と接するのは、基本ボクたち。その方針もボクたちに一任されている。何も言われてないんだ」
「でも、アワとフーの神託は……」
「ボクのパートナーになる人は氷架璃だ。間違いない」
「ちょっと待てっ」
三人で話し込んでいるところに、氷架璃が身を乗り出して口をはさんだ。
「私、言ったよね。パートナーにはならないって。ここにくるのも、これが最初で最後!」
「そこをなんとか、だよ。お願い、ボクのパートナーになって! ボクたちが悪いヤツじゃないのはわかったでしょ?」
「鞄のことといい、それは何となく伝わってる。でも、それとこれとは話が別! 芽華実は乗り気だから、フーとくっつけばいいかもだけど、私は遠慮したいって言ってるの。どうしてもパートナーが欲しいなら、雷奈をパートナーにすれば? せっかく三人目がいるんだからさ!」
「それが問題なんじゃないか!」
その言葉に、三人は目をしばたたかせた。
「……問題? 三人目って、私の事っちゃか? 私、問題?」
「ごめん、なんだか、君の存在を否定するような言い方だったね。でも、さっきリーフが言っていたのも、このことなんだ。選ばれし人間が三人いるというこの現状。まったくもって、イレギュラーなんだよ」
アワはそう言って嘆息した。
「ボクに神託があったのは、氷架璃。フーに神託があったのは、芽華実。……君のことは、預言にないんだよ、雷奈」
「私たちは、神託があった人間とパートナー関係を結んで、人間界とかかわる。神託もなしに現れて、ワープフープが見える人間の扱いは、一切わからないのよ」
「だから、氷架璃の代わりといって雷奈とパートナーになるわけにはいかないんだ」
アワはまっすぐに雷奈を見つめて、ゆっくりと問うた。
「雷奈。君は何者なんだい。何か心当たりはない?」
「心当たり……?」
「そう。人と違う体験をしたとか、そういうイレギュラーな何か」
雷奈は口に手を当てて考え込んだ。その姿を、氷架璃と芽華実が見守る。
「……わからなか」
「そっか。……じゃあ、保留かな」
アワが口を閉ざすと、沈黙が訪れた。しばらく視線をさまよわせていた氷架璃は、静寂に耐えきれなくなって、腰を浮かした。
「えっと、話は終わり? そろそろ帰っていいかな?」
「あ、ちょ、氷架璃……!」
「やだ」
「ぐぅ」
「アワ、闇雲に食い下がったって納得してくれないわ。今日のところは私が送っていくから、アワはもう少し説得材料を考えてなさい」
そう言ったリーフは立ち上がると、一つ呼吸をした。直後、リーフの体が溶けるように形を変え、縮んでいき、やがて猫の姿に変化した。若草色の体、耳元には花飾り。背中からは葉のような三枚羽が両脇にかけて生えている。
「これが私の本来の姿よ。……さあ、ワープフープまで送っていくわ」
「おおう……もはや猫なのか何なのか分からんな」
「人間の姿になったり術を使えたりする時点で、あなたたちの知る猫とは違うわ。……じゃあ、あとでね。アワ、フー」
樹香の花処を出た三人は、リーフに見送られ、ワープフープで無事人間界へと帰還した。いきなり大量の情報を詰め込まれた氷架璃は、げんなりしている。
「あー疲れた……明日から学校だし、もう家でゆっくりしよ……」
「氷架璃、本当にいいの? アワからの誘い、断っちゃって」
「いいの。ただでさえ授業やら宿題やらで忙しいのに、別世界とこっちを行き来するなんて、身がもたないよ」
「楽しそうなんだけどなー……」
「芽華実はフーに協力するんでしょ? また進捗聞かせてよ」
「うん……」
芽華実はあいまいにうなずいて、ちらと雷奈を見やった。どこかぼんやりとしていて、何かを考えているようだ。
「雷奈、大丈夫?」
「うん? 何がね?」
「びっくりしちゃうわよね、いきなり自分がイレギュラーだって言われたら……」
「ほんと、失礼だよね」
「ばってん、二匹の言うことが本当なら、私、なして選ばれし人間なんだろ……?」
自分へと意識を向けながら、雷奈は言葉をこぼしていく。
「確かに、普通の中学生とは違う道たどっとるかもしれんよ? 種子島から一人で上京したり、神社で居候していたり……。ばってん、上京くらい、する人はするし、下宿先が神社だって理由で、選ばれし人間になるとも思えなか」
「その通りだね、まったく」
腕組みしてうなずいた氷架璃は、雷奈に歩み寄ると、その頭をぽんぽんとたたいた。
「あんま気にすんなよ、雷奈。案外、その君臨者とやらが、神託し忘れていただけかもしれないぞ? ……今日はもう帰って休もう?」
「……そうっちゃね」
明日からは本格的に学校が始まる。気力体力の温存が満場一致で可決され、三人は解散した。
***
濡れそぼった髪をふきながら、彼女は私室に足を踏み入れた。
風呂や食事は、社務所で神主夫婦と共にしているものの、彼女の部屋自体は宿坊の一つを借りている。
床は一面畳で、純和風の内装。調度品もそれに合わせており、たんすや棚などはそろって木の色をしている。同じく自然色の鏡台の前に座って、彼女は鏡の中の自分を見つめていた。
――君は何者なんだい。何か心当たりはない?
――人と違う体験をしたとか、そういうイレギュラーな何か。
そう聞かれたとき、彼女の頭の中には、自分に関するたくさんの「イレギュラー」が渦巻いていた。
人より色素の薄い髪や目、小さな身長。これらは母親譲りだ。髪をここまで伸ばしているのも、母親の腰まで届くロングヘアに憧れてのことだった。
小学四年生にして、独りで種子島から上京。子宝に恵まれなかった神主夫婦のもとに、幸運にも身を寄せさせてもらい、巫女として過ごしてきた。これも、イレギュラーといえばイレギュラーだ。
しかし、それよりも鮮烈に思い出したことがあった。
容姿のことも、上京のことも、頭に浮かんだのはたったの一瞬。アワに問われて考え込んだあの時間のほとんどを占めた記憶は。
「……」
ふいに、鏡台の横に置いてあった写真に手を伸ばす。それは、ごく普通の家族写真だった。自分がいて、姉と妹がいて、父と母がいる。写真の中の子供たちは無邪気に笑い、母親は照れたように微笑み、父親はいつも通り仏頂面だ。
この幸せな家庭がずっと続いていれば、ここに来ることもなかっただろう。
少女は瞑目して、追憶する。
すべてが変わったあの夜の記憶。
鉄のようなにおいと、目に痛い色をしたおびただしい何か。永遠に閉じた瞳と、永遠に変わってしまった瞳。鼓動、息遣い、叫び声――。
やがて、閉じていた目を開き、写真を置いて、
「……猫とは、関係なかね」
三日月雷奈は、こともなさげに嘆息した。
「いや、緊張するのはこっちもなんだけどさ。フィライン・エデンに来るの、初めてだし」
「フーから聞いているわ。でも、何度も来たらきっと慣れるわよ」
そう言われ、氷架璃はきまり悪そうに頭をかいた。
「その……もう来る気はないんだけど」
「え? どうして? アワのパートナーでしょう?」
「実は断ったんだよね」
目に見えて、アワが沈んだ。
「あらら、アワ、フラれちゃったの?」
「うん……そうなんだ……」
「って言っても、なんか得体のしれないものに目をつけられてるって言われるし、鞄を取り返してもらった恩もあるしで、とりあえず説明だけ聞きに来たってわけ」
そこで、アワはリーフに、鞄奪取の事の顛末を聞かせた。リーフが不思議そうな顔をするのを見ながら、氷架璃はとりあえず疑問をぶつける。
「あの黒猫もどきは、いったい何なの?」
「あれはね、クロというんだ」
「クロ……普通に黒猫につけられる名前みたいったいね」
「でも、固有名詞じゃなくて、あの存在全部を指す名前なんだ。クロはたくさんいるよ」
アワの言葉を引き継いで、フーが真剣な表情で説明した。
「クロはね、私たちの負の感情の化身のようなもの。私たちの憎しみや怒りの感情は、神なる存在、君臨者によって吸い取られ、怪物のような存在として再構成される」
「なんでそんな回りくどいことに……?」
「憎しみや怒りがあったら、平和な世界にならないでしょ。君臨者はこの世界を平和に保ってくれているの。おかげで、人間界で起こるような犯罪はまずないわ。まあ、悪いことをしたら、その本人がクロになるとも言われているしね。それに、クロという共通の敵がいることで、みんなの団結力も生まれる。これがフィライン・エデンの治安維持システムよ」
リーフもうなずいた。
「クロはまだ小さくて、やることも可愛げがあるほうだけど、これが進化するとダークという、もっと質の悪いヤツになるわ。図体は大きいし、猫を襲ったり、物を破壊したりするようになるの」
「それ、倒せるのか?」
「ダークレベルになると、私には無理ね。でも、それ専門の組織もあるから、基本的にそっちに任せているわ。……それにしても、人間界にクロが現れるなんて、今まで聞いたこともないんだけど。確かに、選ばれし人間はフィライン・エデンに来ると、ほかの猫ばりに狙われるって聞くけど、それが人間界でもなんて」
先ほどの思案顔は、この点が引っ掛かっていたことによるらしい。
「時間の停止といい、人間界に現れるクロといい……」
そこで言葉を止めたリーフは、おもむろに雷奈たち三人を眺めた。
「アワ、フー。あなたたちは、この現状をどう考えているの?」
「いや、さっぱりだね」
「お母さんに相談してみたけれど、わからないみたい」
「情報管理局は何か言ってないの?」
「いくら情報管理局でも、人間に手出しはできないからね。人間と接するのは、基本ボクたち。その方針もボクたちに一任されている。何も言われてないんだ」
「でも、アワとフーの神託は……」
「ボクのパートナーになる人は氷架璃だ。間違いない」
「ちょっと待てっ」
三人で話し込んでいるところに、氷架璃が身を乗り出して口をはさんだ。
「私、言ったよね。パートナーにはならないって。ここにくるのも、これが最初で最後!」
「そこをなんとか、だよ。お願い、ボクのパートナーになって! ボクたちが悪いヤツじゃないのはわかったでしょ?」
「鞄のことといい、それは何となく伝わってる。でも、それとこれとは話が別! 芽華実は乗り気だから、フーとくっつけばいいかもだけど、私は遠慮したいって言ってるの。どうしてもパートナーが欲しいなら、雷奈をパートナーにすれば? せっかく三人目がいるんだからさ!」
「それが問題なんじゃないか!」
その言葉に、三人は目をしばたたかせた。
「……問題? 三人目って、私の事っちゃか? 私、問題?」
「ごめん、なんだか、君の存在を否定するような言い方だったね。でも、さっきリーフが言っていたのも、このことなんだ。選ばれし人間が三人いるというこの現状。まったくもって、イレギュラーなんだよ」
アワはそう言って嘆息した。
「ボクに神託があったのは、氷架璃。フーに神託があったのは、芽華実。……君のことは、預言にないんだよ、雷奈」
「私たちは、神託があった人間とパートナー関係を結んで、人間界とかかわる。神託もなしに現れて、ワープフープが見える人間の扱いは、一切わからないのよ」
「だから、氷架璃の代わりといって雷奈とパートナーになるわけにはいかないんだ」
アワはまっすぐに雷奈を見つめて、ゆっくりと問うた。
「雷奈。君は何者なんだい。何か心当たりはない?」
「心当たり……?」
「そう。人と違う体験をしたとか、そういうイレギュラーな何か」
雷奈は口に手を当てて考え込んだ。その姿を、氷架璃と芽華実が見守る。
「……わからなか」
「そっか。……じゃあ、保留かな」
アワが口を閉ざすと、沈黙が訪れた。しばらく視線をさまよわせていた氷架璃は、静寂に耐えきれなくなって、腰を浮かした。
「えっと、話は終わり? そろそろ帰っていいかな?」
「あ、ちょ、氷架璃……!」
「やだ」
「ぐぅ」
「アワ、闇雲に食い下がったって納得してくれないわ。今日のところは私が送っていくから、アワはもう少し説得材料を考えてなさい」
そう言ったリーフは立ち上がると、一つ呼吸をした。直後、リーフの体が溶けるように形を変え、縮んでいき、やがて猫の姿に変化した。若草色の体、耳元には花飾り。背中からは葉のような三枚羽が両脇にかけて生えている。
「これが私の本来の姿よ。……さあ、ワープフープまで送っていくわ」
「おおう……もはや猫なのか何なのか分からんな」
「人間の姿になったり術を使えたりする時点で、あなたたちの知る猫とは違うわ。……じゃあ、あとでね。アワ、フー」
樹香の花処を出た三人は、リーフに見送られ、ワープフープで無事人間界へと帰還した。いきなり大量の情報を詰め込まれた氷架璃は、げんなりしている。
「あー疲れた……明日から学校だし、もう家でゆっくりしよ……」
「氷架璃、本当にいいの? アワからの誘い、断っちゃって」
「いいの。ただでさえ授業やら宿題やらで忙しいのに、別世界とこっちを行き来するなんて、身がもたないよ」
「楽しそうなんだけどなー……」
「芽華実はフーに協力するんでしょ? また進捗聞かせてよ」
「うん……」
芽華実はあいまいにうなずいて、ちらと雷奈を見やった。どこかぼんやりとしていて、何かを考えているようだ。
「雷奈、大丈夫?」
「うん? 何がね?」
「びっくりしちゃうわよね、いきなり自分がイレギュラーだって言われたら……」
「ほんと、失礼だよね」
「ばってん、二匹の言うことが本当なら、私、なして選ばれし人間なんだろ……?」
自分へと意識を向けながら、雷奈は言葉をこぼしていく。
「確かに、普通の中学生とは違う道たどっとるかもしれんよ? 種子島から一人で上京したり、神社で居候していたり……。ばってん、上京くらい、する人はするし、下宿先が神社だって理由で、選ばれし人間になるとも思えなか」
「その通りだね、まったく」
腕組みしてうなずいた氷架璃は、雷奈に歩み寄ると、その頭をぽんぽんとたたいた。
「あんま気にすんなよ、雷奈。案外、その君臨者とやらが、神託し忘れていただけかもしれないぞ? ……今日はもう帰って休もう?」
「……そうっちゃね」
明日からは本格的に学校が始まる。気力体力の温存が満場一致で可決され、三人は解散した。
***
濡れそぼった髪をふきながら、彼女は私室に足を踏み入れた。
風呂や食事は、社務所で神主夫婦と共にしているものの、彼女の部屋自体は宿坊の一つを借りている。
床は一面畳で、純和風の内装。調度品もそれに合わせており、たんすや棚などはそろって木の色をしている。同じく自然色の鏡台の前に座って、彼女は鏡の中の自分を見つめていた。
――君は何者なんだい。何か心当たりはない?
――人と違う体験をしたとか、そういうイレギュラーな何か。
そう聞かれたとき、彼女の頭の中には、自分に関するたくさんの「イレギュラー」が渦巻いていた。
人より色素の薄い髪や目、小さな身長。これらは母親譲りだ。髪をここまで伸ばしているのも、母親の腰まで届くロングヘアに憧れてのことだった。
小学四年生にして、独りで種子島から上京。子宝に恵まれなかった神主夫婦のもとに、幸運にも身を寄せさせてもらい、巫女として過ごしてきた。これも、イレギュラーといえばイレギュラーだ。
しかし、それよりも鮮烈に思い出したことがあった。
容姿のことも、上京のことも、頭に浮かんだのはたったの一瞬。アワに問われて考え込んだあの時間のほとんどを占めた記憶は。
「……」
ふいに、鏡台の横に置いてあった写真に手を伸ばす。それは、ごく普通の家族写真だった。自分がいて、姉と妹がいて、父と母がいる。写真の中の子供たちは無邪気に笑い、母親は照れたように微笑み、父親はいつも通り仏頂面だ。
この幸せな家庭がずっと続いていれば、ここに来ることもなかっただろう。
少女は瞑目して、追憶する。
すべてが変わったあの夜の記憶。
鉄のようなにおいと、目に痛い色をしたおびただしい何か。永遠に閉じた瞳と、永遠に変わってしまった瞳。鼓動、息遣い、叫び声――。
やがて、閉じていた目を開き、写真を置いて、
「……猫とは、関係なかね」
三日月雷奈は、こともなさげに嘆息した。
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