13 / 54
1.フィライン・エデン編
5始まった非日常 後編
しおりを挟む
***
五時間目、六時間目、そしてホームルームと、氷架璃は考えていた。
彼女がフィライン・エデンとのかかわりを拒んでいた当初の理由は、怪しいから、かつめんどくさいから。
この一週間を過ごしてきて、前者は杞憂かもしれない、と感じてきていた。
となれば、残る理由はめんどくさいから、これ一つ。
この単純な無精さで、人生をささげるほどの本気を一蹴していいのだろうか。
確かに、クロやダークという、忌避すべき要素はある。しかし、パートナー関係を結んでいない今でも襲われているのだから、結ばない理由にはならない。
(だったら、私は……)
「氷架璃」
突然、そばで声がして、氷架璃は座ったまま飛び上がりそうになった。
くだんのアワが、すぐ隣に立っていた。
(いつの間に、ホームルーム終わってたんだ……)
もう教室に担任の姿はなく、生徒たちもばらばらと解散しつつある。氷架璃の胸中も知らず、アワは暢気な声で言った。
「雷奈たちがね、帰りにたい焼き食べに行かないかって。屋台が出てるらしくてね」
「そう、私は別に構わないけど……。そういえば、あんた、たい焼き好きなの?」
「うん、好きだよ。あれ? 何で知ってるの?」
「……日曜日に買いに行ってたから、そうかと」
家族の分も買いに行っていたようだが、なんとなく、アワの好物なのかと思ったのだ。
すると、彼は満面の笑みを浮かべた。
「すごい、よく覚えてくれてるね! 氷架璃って意外と洞察力あるんだ……あ、意外とって言っちゃった」
「ああ、言っちゃったな!? 聞いちゃったぞ!?」
氷架璃がこぶしを振り上げるとともに、アワが「痛ぁっ!」と叫んだ。
「……まだ殴ってないじゃん」
あきれ顔の氷架璃は、腕を押さえて声を詰まらせるアワを見て……見つめて、そして気づいた。
「アワ、あんた……?」
「ご、ごめん、ちょっと冷やしてくる……」
右腕をかばいながら、彼は急ぎ足で教室を出て行った。氷架璃の中に、いやな予感がよぎる。手早く荷物をまとめると、廊下に飛び出した。そこに、氷架璃の準備を待つ雷奈と芽華実の姿があった。
「あ、氷架璃。準備できたっちゃか?」
「なんか、アワがすごい勢いで飛び出してきたけど……。今、フーが様子を見に……」
その直後だった。
廊下の洗面所のほうから、悲鳴が上がった。周りの生徒も、びくりと肩を震わせて、声のしたほうを振り返る。振り返るだけで、そちらへ行こうとはしない。悲鳴は短く、何かに驚いただけのようなものだったので、皆たいしたことないと判断したのだろう。
しかし、雷奈たちはすぐさま走り出した。その声は、まぎれもなくフーのもので。そしてフーが追った先には、ただならぬ様子のアワがいるはずで――。
「アワ、フー……、……っ!?」
そこへ駆けつけた雷奈たちは、立ちすくむアワとフーを見て――一瞬、アワの肘から先にあるものが何か、わからなかった。
それは、腕の形をしていた。さもありなん、それはアワの腕なのだから。
しかし、それは人の肌の色をしていなかった。毒々しい紫色のあざが、袖をめくってあらわになった右腕を覆いつくしていた。
「な……なんだよ、これ!?」
混乱した氷架璃が、怒鳴りながらアワへ歩み寄る。アワは茫然と自分の腕を見ながら、こぼした。
「……どうりで痛かったはずだ。しかもこの二時間で急に変色が広がった。……毒だ」
「毒……!?」
言葉を失う氷架璃。雷奈がハッと息をのんだ。
「まさか、あのダーク……傷口に毒ば仕込んだっちゃか!?」
「そうだろう。草術の中には毒を操るものがある。それにやられたかな」
「それって……命にかかわったりは……?」
「ともすれば、ね」
芽華実が声にならない悲声を上げた。
「それ、朝言ってた猫術で治らないわけ!?」
「毒抜きはできないよ。進行を遅らせることはできても」
「じゃあ、病院! あ、救急車か!?」
「焦りすぎだよ、氷架璃。ボクが人間じゃないのを忘れたの?」
「なら、どうしろっていうんだよ!?」
自分の身が危ないというのに冷静なアワに、いら立ちを隠せない氷架璃は声を荒らげる。そこへ、フーが震える声をしぼりだした。
「フィ、フィライン・エデンの病院なら何とかなるわ。私が先にワープフープまで迎えを手配するから……!」
「フィライン・エデンに行けばいいんだな? わかった。アワ、行けるか!?」
「まだ歩けるよ。……途中で痛みのあまり気が狂わないといいんだけど」
そう言う彼の頬には、すでに汗が伝っていた。変色した腕はだらんと垂れ、もう力も入らないことがわかる。
「そうと決まれば、急ぐったい。鞄は私が持つけん……」
言って、階下へ降りる階段を振り返った雷奈は、そこで初めて、周りにギャラリーができていることに気づいた。皆アワの腕を指さし、ざわついている。
「大丈夫か、あれ……」
「すごい色になってるけど……」
「さっき毒とか言ってなかった?」
「ど、どうしよう、フー」
うろたえる芽華実に、フーは「まかせて」と一言。震える体を叱咤し、右手を突き出すと、ぱちんと指を鳴らした。その途端、ギャラリーの生徒たちの目の前で、ポンと小さく煙が上がり、彼らはたちまちその場に崩れ落ちた。
「記憶を消したわ。起きるころには、アワの腕のことは忘れているはずよ。さあ、早く行きましょう!」
フーの声に急かされ、一同は足早に階段を下りた。
向かうは、ワープフープ。その先の、異世界へ。
***
道中、痛みの中自分の足で歩くアワを見かねて、雷奈は主体に戻ることを提案した。しかし、体が小さくなれば、毒が回るのが早くなるという理由で、人間姿「双体」のままワープフープを目指した。
やっとのことで青い輪をくぐり、人間界からフィライン・エデンへと転移した、直後。
それまで自力で歩いていたアワが、膝をついた。
「い……たい……っ、痛い痛い……!」
「アワ!」
骨を溶かされるような激痛が、アワの右腕を襲う。痛みのあまり、変色した部分に触れることもできず、少し離れた上腕を握りしめた。
もっと静かに蝕んでいくものだと思っていた雷奈たちは、想像以上の悶えようを見て、恐怖と焦りを募らせた。あの落書きのような化け物の攻撃がかすっただけ。それだけのはずなのに、ことは重大になりつつある。
(まさか……こんな)
氷架璃は茫然と、今朝のことを思い出していた。軽口を叩きあう、いつも通りのアワとの朝。ダークの出現によって一変した事態。その直前にあったのは、この状況に陥る原因となったのは――。
(私を、かばったから……)
氷架璃の頬を、冷たい汗が流れる。
と、その時。
「おい、こっちだ! 早く!」
斜め後方から、白衣の男性が駆けてきた。そのあとを、男性と女性一人ずつが追ってくる。先頭の男性は、フーに早口で話しかけた。
「さっき連絡をくださった風中さんですね? お待たせしました、流清さんを先に病院へお連れします」
「は、はいっ」
フーは雷奈たちを振り返り、「病院の人だよ!」と告げた。その間に、三人は手早く布担架を展開すると、あっという間にアワを包んだ。そして、
「っ、消えた!?」
「弾趾よ。猫術の一つ。私も使えるけど、あなたたちを置いていくわけにはいかないわ。ついてきて!」
言って、フーは走り出した。瞬速とは高速移動のようなものなのだろうと解釈した雷奈たちは、自分たちが足を動かすことしかできないもどかしさを感じながら、フーの後を追った。
二十分強ほど走っただろうか。雷奈たちは、いつか見た大きめの建物の一つと見られる場所に着いた。窓の数から、三階建てと見えるが、横幅の広い造りになっている。皇学園の中等部校舎より一回り小さいくらいか。フーによると、この地域はちょうどフィライン・エデンの首都のような場所で、その中央病院だという。
「それでこの規模ってことは、フィライン・エデンって人口少なかね。まあ、町並み見とってもわかるけど」
「確かにそうね。……そんなことより、ほら、戻ってきたわ」
受付から帰ってきたフーは、アワが二階の検査室にいることを三人に伝えた。雷奈たちが走っている間に、検査が一通り行われていたのだ。
受付と薬局、そして相談窓口のような場所を設けている一階を後にして、上の階へ上がると、とたんに病院特有のにおいが鼻をついた。いくつか並ぶ扉の上のプラカードに書かれているのは、処置室1、処置室2、薬品室、検査室1、そして検査室2――ちょうどその扉を開けて、中から半身を乗り出す一人の女性がいた。
「風中さん、人間さん、こっちデスー!」
「アイさん!」
フーがアイと呼んだ彼女は、淡い桃色のセミロングヘアに糸目の、一見おっとりした若い女性だった。しかし、身にまとう白衣の着こなしや、ポケットから四色ペンやらライトやらがのぞいているさまが、彼女がれっきとした医者であることを物語っている。
「今結果が出て、お伝えしようとしていたところデスー。どうぞ一緒に聞いてくだサイー」
間延びした甲高い声だが、表情は真剣そのものだ。雷奈たちが検査室に入ると、可動式のベッドに寝かされたアワと目が合った。
「アワ、大丈夫っちゃか?」
「一時は失神するかと思ったけど、今は麻酔のおかげでなんとかね。でも……よくないんでしょ、アイさん」
疲れ切った表情のアワは、ため息まじりにアイに話しかけた。アイは笑ったような糸目のまま、しかし難しい表情をした。
「ダークの毒デスが、悪い組み合わせの二種類が混ざっていマスー。はっきり言って、解毒できないんデスー」
「どういうこと!?」
氷架璃が声を上ずらせる。アイは冷静に答えた。
「まず、二種類をいっぺんに解毒する薬はありまセンー。それぞれに効くものならあるのデスが、やっかいなのは、一方の毒に対する解毒剤を使うと、もう一方の毒が助長されてしまうことデスー。前者と後者を入れ替えても同じで、はっきり言って、ここにある薬では手の施しようがないのデスー」
「なん……だよ、それ」
フィライン・エデンに来れば助かると言ったフー。気休めではなく、フー自身も、そう信じていた。それが、あっさりと裏切られた。
泣き出しそうなフーと、その隣で震える芽華実を背に、氷架璃はアイにつかみかかった。
「じゃあ、どうすんだよ!? 死ぬかもしれないんだろ!? 何とかしろよ、医者!」
「何とかするには」
アイの声が、きんと冷えたものになる。それは、命を預かる者が、残酷な事実を口にするときの声。
「――侵食された腕を切断して、毒が回るのを防ぐ。これだけデスー」
白衣をつかむ氷架璃の手から力が抜けた。
フーと芽華実が声を失った。
アワが目を見開き、雷奈は自分が呼吸を忘れていることに気づいた。
「切断……って」
「厳密には、投薬のタイミングや猫術を工夫して命を救うことはできマスー。しかし、投薬の結果毒の進行が早まって、命の危険や後遺症につながるのを防ぐためには、腕を切らなければならないのデスー」
淡々と告げるアイは、決して冷徹なのではない。一刻を争うがゆえに、要点だけを述べているのだ。
当人のアワは、想像だにしていなかった通達に、茫然としていた。腕を失うという事実が、事実として受け入れられない。なのに、
「処置には、流清さんの同意が必要デスー」
決断の時は、もう目前にあった。すごい速さで近づいてきたというより、瞬き一つの間に目の前に立ちはだかっていた。そんな感覚だった。
(アワの腕が……なくなる。たぶん、猫の姿に……主体に戻っても、腕はなくなったままだ)
自分の腕が切られるのを想像して、氷架璃はぞっとした。今までの彼の仕草を思い返せば、アワも右利きだったはずだ。その損失は大きい。
けれど。
(そうでもしないと、命ごとなくなる。だったら……)
「もういいよ」
静かな検査室に、ざらついた声が落ちた。
「アワ……?」
「アイさん、腕は切らなくていい。もう麻酔もしなくていい。このまま……、このまま……」
「何、言ってんの!?」
氷架璃はベッドのふちに手をついてアワに怒鳴った。彼の表情は、諦念がにじみながらも、穏やかだ。
「そりゃわかるよ、ショックだよ! でもそれで助かるんだよ! 腕一本失ったって、それで生きていけるなら……!」
「生きるの? パートナーを得られなかった正統後継者のボクが?」
二の句が継げなかった。言葉を詰まらせた氷架璃に、アワはゆっくりと静かに告げる。
「選ばれし人間がいながらもパートナーを得られなかった正統後継者はね、一家の恥なんだよ。ボクは人生をかけて君に臨んだ。そしてあっけなくフラれた。それだけで、ボクの価値はもうないんだ。この先どこへ行っても蔑まれ、指をさされる。そんなことになってまで、生きたくないなぁ、ボク。……そんなことになるくらいならさ、せめて……パートナーになるはずだった人をかばっての、名誉の死で終わらせたいよ」
氷架璃は、じわじわと心が腐食され、崩れ落ちていくのを感じた。命を簡単にあきらめたアワが解せなかった。その原因を作った自分が許せなかった。でも、それ以上に、
(なんで……そんな穏やかな顔で私に向かって言えるんだよ……!)
誇りを、名誉を、あまつさえ自分自身を失う原因となった少女に、淡い微笑みさえ浮かべて彼は言う。恨みも憎しみもなく、そこにあるのはあくまでも氷架璃を尊重する心。その理不尽な一途さが、気に食わなかった。
リンから聞いた、神託があってから一年間のアワ。
フーが口にした、正統後継者のこれまで。
遅まきに失して、それらを心の底から本当のことだったのだと信じた。そして、もしやり直せるなら、どうするべきなのかも。
(……違う。やり直せればとか、そういうのじゃなくて、今からでも、私は……!)
歯噛みして、決意する。氷架璃が口を開きかけた時、一瞬早く、沈黙を破る者がいた。
「ユウ……そうだ、ユウ!」
今まで黙っていた雷奈が、徐々に声量を上げて言葉を発した。アイに歩み寄り、興奮した様子で言う。
「アイ、ユウって子が、この辺にいるお姉さんが医者だって言ってたばい! ユウのお姉さんなら、もしかしてほかの薬を持ってたり、方法を知ってたり……!」
氷架璃と芽華実がいなかったときに交わされた会話を思い出して、雷奈はまくしたてた。新たな希望に、氷架璃と芽華実の表情が晴れる。
が、その喜びはほんの束の間だった。
「それは無理よ、雷奈」
「フー……?」
苦しげに口にしたフーの言葉の意味が分からず、呆ける雷奈。
「ユウなら、私たちの友達よ。よく知ってるわ。……でも、その子のお姉さんは」
「雷奈さん」
アイが自分の白衣の胸元を指した。そこにつけられた名札を見て、雷奈は希望が崩れ落ちる音を聞いた。
「……知念……アイ……」
「ユウは私の妹デスー。その医者とは、十中八九、私のことデスー」
「……そんな」
今更ながら、雷奈は、今までアワとフーがアイのことを名前で呼んでいたのを思い出した。友人の姉だったからこその、親しげな呼称だったのだ。
雷奈は震えながらうつむいた。万策尽きた。もう八方塞がりだ。そう思う一方で、何かが引っ掛かっている。
(待って……待って、もっと考えて。ユウは何と言ってた? お姉さんが医者? ううん、その前、確か……)
電流が走るように、雷奈の脳裏によみがえった声。
――私の家族や親戚は、医療従事者が多いの。
「流清さん、だめデスー。このままでは本当に命にかかわりマスー」
「ごめん、アイさん。それでも、ボクは……」
「待って、アイ」
雷奈が二度、話しかけた。その目には、確固たる自信が映っていた。
「アイ。医療従事者……あなたの親戚にもおるっちゃろ?」
アイが目を見開いた――ように見えた。糸目は変わらない。それでも、ハッとした表情になった。
「一番近い医療関係の親戚に電話して」
「応援を呼ぶのデスか? でも、親戚は眼科だったり研究関係だったり、専門外デスー。一人、従兄に薬師がいマスが、今はどこにいるのやら……」
「情報をもらうだけでも違うったい。早く!」
鬼気迫る雷奈の勢いに、アイはすぐさま室内の電話を取った。コールの間、芽華実がそっとフーに問いかける。
「フー、ユウって子とアイの従兄にあたるひと、誰か知ってる?」
「ええ、寡黙だけど優秀な薬師よ。でも、少し前に、弟子を探しに旅に出かけたって聞いたわ」
「だからどこにおるか分からんとね……」
雷奈がつぶやいた時、電話がつながり、アイが話し出した。
「サイ! 緊急デスー。実は……」
状況を話すアイ。相槌が雷奈たちにも聞こえてくるあたり、スピーカーフォンにしているようだ。気の抜けたような「うん、うん」という低い声に、雷奈たちは不安を感じ始める。
「……ということなんデスー。何か手立ては……」
『それはねー、今病院にある薬では無理かな』
スピーカー越しの彼は、気の抜けた声のまま、残酷にもそう告げた。
「……無理、って……」
『お、聞き覚えのない声だね。人間かな?』
「……そうだよ。水晶氷架璃ってんだ」
氷架璃がアイのほうへ歩み寄り、電話機をひったくった。
「そんなに簡単に言うなよ! あんたプロだろ!? 助けろよ!」
『君が言うかい? 流清君のパートナーにならなかった人間』
氷架璃が押し黙る。声はさらに迫った。
『知ってるんだよ、ボクは情報通だからね。確かに、突然わけのわからない世界からの使者に、パートナーになれって言われたら困惑するだろうね。断るのも一つの手かもしれない。でも、そのくせに彼を助けろと言ってボクを頼ろうとしている。フィライン・エデンと交わりたいのか、それとも違うのか、どっちなんだい。仮に流清君が助かったとして、永らえた彼をどうせまたフるんだろう?』
「……」
『そんな君がどうしてそこまで必死になる? エゴの可能性が考えられるね』
「……命助けんのがそんなにおかしいか、薬師ッ!」
部屋中に響く声で、氷架璃が激高した。
日常、彼女は短気だ。よく声を荒らげる。しかし、それとはまったく色の違う怒号が、人も猫も関係なくその耳朶を震わせた。
「ああ、断ったよ! 関わりたくないって言ったよ! だからなんだ、見捨てる理由になるか! 関係ないことごちゃまぜにしてんじゃねえよ! あんたならどうなんだ! 自分に関係ない他人だったら見殺しにすんのか! え? 薬師さんよ!」
電話の向こう、サイと呼ばれた男は黙っている。その猶予が幸いだった。氷架璃の胸中、決意が固まっていることを確認するのに、十分な時間だったから。
「……それにな。あんたはもう一つ間違ってる! もしやり直せるなら! 私にチャンスがあるなら! 私はっ……!」
『もういいよ』
サイは変わらず平坦な声で言った。
「……なんて?」
『もういいって言ったんだ、水晶氷架璃。全部わかったから。君の熱意も、決意も、そして――』
電話が切れる。ブツリと音を残して、静寂が支配した検査室。そのドアが、開いて。
「――この場所もね」
長身の青年だった。服は質素で、春らしさなどみじんもない。黒い髪は無造作に首の後ろでまとめられている。昏い、死んだ目をしているのに、野暮ったさはなく、世慣れた大人の空気をまとっていた。そんな彼の後ろから、二匹の猫がついてきている。
「サイ……!」
「お待たせ、アイ。二階だろうとは思ったけど、水晶君が大きな声で叫んでくれるから、どの部屋かまでもわかってしまったよ」
「どうしてここに……?」
「ちょうど弟子探しが終わって、帰ってくるところだったんだ。運がよかったね。ボク単体じゃなくて、一通りの薬草も、そして二人の有能な弟子もいるよ」
サイはアワの寝台の前に来ると、斜めがけにしていた鞄を下ろした。
「な、何するの?」
「その声、君が水晶君だね。もちろん、薬の調合さ」
「さっきは無理って……」
「今病院にあるものではね。ボクだって開発後、一定量生産しない限りは病院に売れないよ。これから調合するのは、今度病院にも売る予定だった、新作の漢方だよ」
「漢方……」
「サイは漢方が専門なんデスー。とはいえ、西洋薬の造詣も深いデスー」
サイは鞄の中から、さらに鞄を出した――と思いきや、鞄に見えたそれは、三つに折った布製の薬草ホルダーだった。それぞれのポケットに薬草の名前が書かれている。
「西洋薬では歯が立たないよ、アイの言う通り。従来の漢方でも綱渡りだね。でも、ボクがこの前調合に成功した漢方なら、副作用も後遺症も心配ないよ」
サイは薬草ホルダーを広げ終え、薬研と乳鉢も取り出すと、アワを見下ろして、
「色々大変だったと思うけど、流清君。ボクも君には死んでほしくないからね。悪いけど助けるよ」
「……うん」
「目が覚めたら全部終わってるだろうから、麻酔が効いているうちに寝てしまうことだね」
それだけ言うと、主体のまま付き従う二匹の猫に目線を向けた。一匹は白い体の折れ耳の猫。それも、ウサギのように少し耳が長い。もう一匹は薄茶色の、普通の三角耳をした猫。鼻で止まるタイプの眼鏡をかけている。
「ミンリ、ケイ。初仕事は大仕事。流清家が正統後継者の命を救うことだ。わかってると思うけど、失敗は許されないよ」
「はい、師匠!」
「よろしい。では、まず……」
***
刺すようなまぶしさに、アワは目を開いた。窓から入る日は、オレンジ色に輝いている。
瞬きを数回して、自分があおむけに寝ていることを把握。ぼんやりと記憶の糸を手繰り寄せ、これまでの経緯を思い出した。恐る恐る右手を掲げ、見慣れた普通の腕が視界に入ると、小さく息を吐く。
「……ああ、ボク助かったんだ」
「悪かったね、意向に沿えなくてさ」
声は右から聞こえた。ベッド脇に、氷架璃が腰かけている。
「……氷架璃」
「よ、アワ」
「……何食べてんの」
「見りゃわかるでしょ。たい焼きだよ、たい焼き」
言って、手にしたそれをぱくんと頬張った。口の端から魚の尾がのぞく。
「ふぁいふぁふぁふふぁふぁ」
「食べてからしゃべりなよ……」
「ごくん。雷奈たちなら、先に帰ったよ。早めの晩御飯食べたらまた来るつもりだってさ」
「君は……?」
「これが晩御飯」
抱えた紙袋の中には、まだいくつか詰まっている。アワは苦笑した。
「親御さん心配するよ」
「親は同居してないっつの。じじいとおばあちゃんと、時々、家政婦」
「そうだったね……言ってたね」
夢のようだった。氷架璃が、またフィライン・エデンに来ている。
(思えば、こうやって普通に話をして、時々フィライン・エデンに遊びに来てくれれば、それでよかったんだ。……ボクってば、いきなりパートナーなんて言い出したから、断られちゃったんだろうな)
十歳で学院を卒業してからの四年間を追憶する。パートナー締結を断られるなど、つゆほども考えに上らなかった。何の疑いもなく、仲良くなれると思っていた。
(これからどうしようかな。ボク……どうしたらいいのかな)
暗闇に足を踏み出すような心地だった。襲い来る不安を振り払おうと、無理に笑って氷架璃に話しかける。
「そういえば、ボクの分のたい焼きはないの?」
「あるよ」
「え、ホント!?」
「ただし」
紙袋入りのたい焼きを突き出した氷架璃は、ジト目でアワをにらむと、
「もしこれ食べるんなら、二度と私にパートナーの話をしないこと。もうここにも来てやんない」
「え……」
「でも、まあ、今朝のことは感謝してるから、どっちか選ばせてあげる」
アワの目が見開かれる。氷架璃は視線をそらして、唇を尖らせた。
「……どうすんの? いるの、いらないの?」
しばらくの間、アワは頭が真っ白になった。一面の白の中に、やがてぽつりと一つの感情が現れる。それは自身の存在を確かめるように広がっていき、アワの頭を埋め尽くした。温かいその感情の名前が「幸せ」であると気づいた途端、視界がにじみそうになって、ぎゅっと目をつぶる。ごまかすように思い切り破顔して、アワは手を伸ばした。氷架璃の、たい焼きの袋をつかんだ左手には目もくれず、
「ありがとう。よろしくね、氷架璃」
「……仕方ないなあ。よろしくね、アワ」
氷架璃の右手が握り返すその感触に、彼はずっと求めていた誇りと安堵を覚えた。
そんな光景を、扉からそっとのぞいていた、夕食から帰ってきた三人
雷奈と芽華実、フーは、互いに顔を見合わせて笑みをこぼす。扉を大きく開けて、中に入ると、
「おめでとう、アワ!」
「え、フーたち!?」
「よかったね、パートナー結成できて!」
「なんか、パートナーって響き、恥ずかしいな……」
「じゃあ、氷架璃は何がいいの?」
「うーん……バディ、とか」
「じゃあ、よろしくね、バディ!」
「私も改めてフーにあいさつしなくっちゃ。よろしくね。フー」
「こちらこそよろしくね、私のパートナー、芽華実」
それから、面会時間が過ぎるまで、彼女らの笑い声が絶えることはなかった。
――何の変哲もない普通の世界だったのだ。
まさか異世界と、そしてその住人と関わる突飛な生活が始まるなど、夢にも思うまい。
春休みの向こう、非日常が始まった。
五時間目、六時間目、そしてホームルームと、氷架璃は考えていた。
彼女がフィライン・エデンとのかかわりを拒んでいた当初の理由は、怪しいから、かつめんどくさいから。
この一週間を過ごしてきて、前者は杞憂かもしれない、と感じてきていた。
となれば、残る理由はめんどくさいから、これ一つ。
この単純な無精さで、人生をささげるほどの本気を一蹴していいのだろうか。
確かに、クロやダークという、忌避すべき要素はある。しかし、パートナー関係を結んでいない今でも襲われているのだから、結ばない理由にはならない。
(だったら、私は……)
「氷架璃」
突然、そばで声がして、氷架璃は座ったまま飛び上がりそうになった。
くだんのアワが、すぐ隣に立っていた。
(いつの間に、ホームルーム終わってたんだ……)
もう教室に担任の姿はなく、生徒たちもばらばらと解散しつつある。氷架璃の胸中も知らず、アワは暢気な声で言った。
「雷奈たちがね、帰りにたい焼き食べに行かないかって。屋台が出てるらしくてね」
「そう、私は別に構わないけど……。そういえば、あんた、たい焼き好きなの?」
「うん、好きだよ。あれ? 何で知ってるの?」
「……日曜日に買いに行ってたから、そうかと」
家族の分も買いに行っていたようだが、なんとなく、アワの好物なのかと思ったのだ。
すると、彼は満面の笑みを浮かべた。
「すごい、よく覚えてくれてるね! 氷架璃って意外と洞察力あるんだ……あ、意外とって言っちゃった」
「ああ、言っちゃったな!? 聞いちゃったぞ!?」
氷架璃がこぶしを振り上げるとともに、アワが「痛ぁっ!」と叫んだ。
「……まだ殴ってないじゃん」
あきれ顔の氷架璃は、腕を押さえて声を詰まらせるアワを見て……見つめて、そして気づいた。
「アワ、あんた……?」
「ご、ごめん、ちょっと冷やしてくる……」
右腕をかばいながら、彼は急ぎ足で教室を出て行った。氷架璃の中に、いやな予感がよぎる。手早く荷物をまとめると、廊下に飛び出した。そこに、氷架璃の準備を待つ雷奈と芽華実の姿があった。
「あ、氷架璃。準備できたっちゃか?」
「なんか、アワがすごい勢いで飛び出してきたけど……。今、フーが様子を見に……」
その直後だった。
廊下の洗面所のほうから、悲鳴が上がった。周りの生徒も、びくりと肩を震わせて、声のしたほうを振り返る。振り返るだけで、そちらへ行こうとはしない。悲鳴は短く、何かに驚いただけのようなものだったので、皆たいしたことないと判断したのだろう。
しかし、雷奈たちはすぐさま走り出した。その声は、まぎれもなくフーのもので。そしてフーが追った先には、ただならぬ様子のアワがいるはずで――。
「アワ、フー……、……っ!?」
そこへ駆けつけた雷奈たちは、立ちすくむアワとフーを見て――一瞬、アワの肘から先にあるものが何か、わからなかった。
それは、腕の形をしていた。さもありなん、それはアワの腕なのだから。
しかし、それは人の肌の色をしていなかった。毒々しい紫色のあざが、袖をめくってあらわになった右腕を覆いつくしていた。
「な……なんだよ、これ!?」
混乱した氷架璃が、怒鳴りながらアワへ歩み寄る。アワは茫然と自分の腕を見ながら、こぼした。
「……どうりで痛かったはずだ。しかもこの二時間で急に変色が広がった。……毒だ」
「毒……!?」
言葉を失う氷架璃。雷奈がハッと息をのんだ。
「まさか、あのダーク……傷口に毒ば仕込んだっちゃか!?」
「そうだろう。草術の中には毒を操るものがある。それにやられたかな」
「それって……命にかかわったりは……?」
「ともすれば、ね」
芽華実が声にならない悲声を上げた。
「それ、朝言ってた猫術で治らないわけ!?」
「毒抜きはできないよ。進行を遅らせることはできても」
「じゃあ、病院! あ、救急車か!?」
「焦りすぎだよ、氷架璃。ボクが人間じゃないのを忘れたの?」
「なら、どうしろっていうんだよ!?」
自分の身が危ないというのに冷静なアワに、いら立ちを隠せない氷架璃は声を荒らげる。そこへ、フーが震える声をしぼりだした。
「フィ、フィライン・エデンの病院なら何とかなるわ。私が先にワープフープまで迎えを手配するから……!」
「フィライン・エデンに行けばいいんだな? わかった。アワ、行けるか!?」
「まだ歩けるよ。……途中で痛みのあまり気が狂わないといいんだけど」
そう言う彼の頬には、すでに汗が伝っていた。変色した腕はだらんと垂れ、もう力も入らないことがわかる。
「そうと決まれば、急ぐったい。鞄は私が持つけん……」
言って、階下へ降りる階段を振り返った雷奈は、そこで初めて、周りにギャラリーができていることに気づいた。皆アワの腕を指さし、ざわついている。
「大丈夫か、あれ……」
「すごい色になってるけど……」
「さっき毒とか言ってなかった?」
「ど、どうしよう、フー」
うろたえる芽華実に、フーは「まかせて」と一言。震える体を叱咤し、右手を突き出すと、ぱちんと指を鳴らした。その途端、ギャラリーの生徒たちの目の前で、ポンと小さく煙が上がり、彼らはたちまちその場に崩れ落ちた。
「記憶を消したわ。起きるころには、アワの腕のことは忘れているはずよ。さあ、早く行きましょう!」
フーの声に急かされ、一同は足早に階段を下りた。
向かうは、ワープフープ。その先の、異世界へ。
***
道中、痛みの中自分の足で歩くアワを見かねて、雷奈は主体に戻ることを提案した。しかし、体が小さくなれば、毒が回るのが早くなるという理由で、人間姿「双体」のままワープフープを目指した。
やっとのことで青い輪をくぐり、人間界からフィライン・エデンへと転移した、直後。
それまで自力で歩いていたアワが、膝をついた。
「い……たい……っ、痛い痛い……!」
「アワ!」
骨を溶かされるような激痛が、アワの右腕を襲う。痛みのあまり、変色した部分に触れることもできず、少し離れた上腕を握りしめた。
もっと静かに蝕んでいくものだと思っていた雷奈たちは、想像以上の悶えようを見て、恐怖と焦りを募らせた。あの落書きのような化け物の攻撃がかすっただけ。それだけのはずなのに、ことは重大になりつつある。
(まさか……こんな)
氷架璃は茫然と、今朝のことを思い出していた。軽口を叩きあう、いつも通りのアワとの朝。ダークの出現によって一変した事態。その直前にあったのは、この状況に陥る原因となったのは――。
(私を、かばったから……)
氷架璃の頬を、冷たい汗が流れる。
と、その時。
「おい、こっちだ! 早く!」
斜め後方から、白衣の男性が駆けてきた。そのあとを、男性と女性一人ずつが追ってくる。先頭の男性は、フーに早口で話しかけた。
「さっき連絡をくださった風中さんですね? お待たせしました、流清さんを先に病院へお連れします」
「は、はいっ」
フーは雷奈たちを振り返り、「病院の人だよ!」と告げた。その間に、三人は手早く布担架を展開すると、あっという間にアワを包んだ。そして、
「っ、消えた!?」
「弾趾よ。猫術の一つ。私も使えるけど、あなたたちを置いていくわけにはいかないわ。ついてきて!」
言って、フーは走り出した。瞬速とは高速移動のようなものなのだろうと解釈した雷奈たちは、自分たちが足を動かすことしかできないもどかしさを感じながら、フーの後を追った。
二十分強ほど走っただろうか。雷奈たちは、いつか見た大きめの建物の一つと見られる場所に着いた。窓の数から、三階建てと見えるが、横幅の広い造りになっている。皇学園の中等部校舎より一回り小さいくらいか。フーによると、この地域はちょうどフィライン・エデンの首都のような場所で、その中央病院だという。
「それでこの規模ってことは、フィライン・エデンって人口少なかね。まあ、町並み見とってもわかるけど」
「確かにそうね。……そんなことより、ほら、戻ってきたわ」
受付から帰ってきたフーは、アワが二階の検査室にいることを三人に伝えた。雷奈たちが走っている間に、検査が一通り行われていたのだ。
受付と薬局、そして相談窓口のような場所を設けている一階を後にして、上の階へ上がると、とたんに病院特有のにおいが鼻をついた。いくつか並ぶ扉の上のプラカードに書かれているのは、処置室1、処置室2、薬品室、検査室1、そして検査室2――ちょうどその扉を開けて、中から半身を乗り出す一人の女性がいた。
「風中さん、人間さん、こっちデスー!」
「アイさん!」
フーがアイと呼んだ彼女は、淡い桃色のセミロングヘアに糸目の、一見おっとりした若い女性だった。しかし、身にまとう白衣の着こなしや、ポケットから四色ペンやらライトやらがのぞいているさまが、彼女がれっきとした医者であることを物語っている。
「今結果が出て、お伝えしようとしていたところデスー。どうぞ一緒に聞いてくだサイー」
間延びした甲高い声だが、表情は真剣そのものだ。雷奈たちが検査室に入ると、可動式のベッドに寝かされたアワと目が合った。
「アワ、大丈夫っちゃか?」
「一時は失神するかと思ったけど、今は麻酔のおかげでなんとかね。でも……よくないんでしょ、アイさん」
疲れ切った表情のアワは、ため息まじりにアイに話しかけた。アイは笑ったような糸目のまま、しかし難しい表情をした。
「ダークの毒デスが、悪い組み合わせの二種類が混ざっていマスー。はっきり言って、解毒できないんデスー」
「どういうこと!?」
氷架璃が声を上ずらせる。アイは冷静に答えた。
「まず、二種類をいっぺんに解毒する薬はありまセンー。それぞれに効くものならあるのデスが、やっかいなのは、一方の毒に対する解毒剤を使うと、もう一方の毒が助長されてしまうことデスー。前者と後者を入れ替えても同じで、はっきり言って、ここにある薬では手の施しようがないのデスー」
「なん……だよ、それ」
フィライン・エデンに来れば助かると言ったフー。気休めではなく、フー自身も、そう信じていた。それが、あっさりと裏切られた。
泣き出しそうなフーと、その隣で震える芽華実を背に、氷架璃はアイにつかみかかった。
「じゃあ、どうすんだよ!? 死ぬかもしれないんだろ!? 何とかしろよ、医者!」
「何とかするには」
アイの声が、きんと冷えたものになる。それは、命を預かる者が、残酷な事実を口にするときの声。
「――侵食された腕を切断して、毒が回るのを防ぐ。これだけデスー」
白衣をつかむ氷架璃の手から力が抜けた。
フーと芽華実が声を失った。
アワが目を見開き、雷奈は自分が呼吸を忘れていることに気づいた。
「切断……って」
「厳密には、投薬のタイミングや猫術を工夫して命を救うことはできマスー。しかし、投薬の結果毒の進行が早まって、命の危険や後遺症につながるのを防ぐためには、腕を切らなければならないのデスー」
淡々と告げるアイは、決して冷徹なのではない。一刻を争うがゆえに、要点だけを述べているのだ。
当人のアワは、想像だにしていなかった通達に、茫然としていた。腕を失うという事実が、事実として受け入れられない。なのに、
「処置には、流清さんの同意が必要デスー」
決断の時は、もう目前にあった。すごい速さで近づいてきたというより、瞬き一つの間に目の前に立ちはだかっていた。そんな感覚だった。
(アワの腕が……なくなる。たぶん、猫の姿に……主体に戻っても、腕はなくなったままだ)
自分の腕が切られるのを想像して、氷架璃はぞっとした。今までの彼の仕草を思い返せば、アワも右利きだったはずだ。その損失は大きい。
けれど。
(そうでもしないと、命ごとなくなる。だったら……)
「もういいよ」
静かな検査室に、ざらついた声が落ちた。
「アワ……?」
「アイさん、腕は切らなくていい。もう麻酔もしなくていい。このまま……、このまま……」
「何、言ってんの!?」
氷架璃はベッドのふちに手をついてアワに怒鳴った。彼の表情は、諦念がにじみながらも、穏やかだ。
「そりゃわかるよ、ショックだよ! でもそれで助かるんだよ! 腕一本失ったって、それで生きていけるなら……!」
「生きるの? パートナーを得られなかった正統後継者のボクが?」
二の句が継げなかった。言葉を詰まらせた氷架璃に、アワはゆっくりと静かに告げる。
「選ばれし人間がいながらもパートナーを得られなかった正統後継者はね、一家の恥なんだよ。ボクは人生をかけて君に臨んだ。そしてあっけなくフラれた。それだけで、ボクの価値はもうないんだ。この先どこへ行っても蔑まれ、指をさされる。そんなことになってまで、生きたくないなぁ、ボク。……そんなことになるくらいならさ、せめて……パートナーになるはずだった人をかばっての、名誉の死で終わらせたいよ」
氷架璃は、じわじわと心が腐食され、崩れ落ちていくのを感じた。命を簡単にあきらめたアワが解せなかった。その原因を作った自分が許せなかった。でも、それ以上に、
(なんで……そんな穏やかな顔で私に向かって言えるんだよ……!)
誇りを、名誉を、あまつさえ自分自身を失う原因となった少女に、淡い微笑みさえ浮かべて彼は言う。恨みも憎しみもなく、そこにあるのはあくまでも氷架璃を尊重する心。その理不尽な一途さが、気に食わなかった。
リンから聞いた、神託があってから一年間のアワ。
フーが口にした、正統後継者のこれまで。
遅まきに失して、それらを心の底から本当のことだったのだと信じた。そして、もしやり直せるなら、どうするべきなのかも。
(……違う。やり直せればとか、そういうのじゃなくて、今からでも、私は……!)
歯噛みして、決意する。氷架璃が口を開きかけた時、一瞬早く、沈黙を破る者がいた。
「ユウ……そうだ、ユウ!」
今まで黙っていた雷奈が、徐々に声量を上げて言葉を発した。アイに歩み寄り、興奮した様子で言う。
「アイ、ユウって子が、この辺にいるお姉さんが医者だって言ってたばい! ユウのお姉さんなら、もしかしてほかの薬を持ってたり、方法を知ってたり……!」
氷架璃と芽華実がいなかったときに交わされた会話を思い出して、雷奈はまくしたてた。新たな希望に、氷架璃と芽華実の表情が晴れる。
が、その喜びはほんの束の間だった。
「それは無理よ、雷奈」
「フー……?」
苦しげに口にしたフーの言葉の意味が分からず、呆ける雷奈。
「ユウなら、私たちの友達よ。よく知ってるわ。……でも、その子のお姉さんは」
「雷奈さん」
アイが自分の白衣の胸元を指した。そこにつけられた名札を見て、雷奈は希望が崩れ落ちる音を聞いた。
「……知念……アイ……」
「ユウは私の妹デスー。その医者とは、十中八九、私のことデスー」
「……そんな」
今更ながら、雷奈は、今までアワとフーがアイのことを名前で呼んでいたのを思い出した。友人の姉だったからこその、親しげな呼称だったのだ。
雷奈は震えながらうつむいた。万策尽きた。もう八方塞がりだ。そう思う一方で、何かが引っ掛かっている。
(待って……待って、もっと考えて。ユウは何と言ってた? お姉さんが医者? ううん、その前、確か……)
電流が走るように、雷奈の脳裏によみがえった声。
――私の家族や親戚は、医療従事者が多いの。
「流清さん、だめデスー。このままでは本当に命にかかわりマスー」
「ごめん、アイさん。それでも、ボクは……」
「待って、アイ」
雷奈が二度、話しかけた。その目には、確固たる自信が映っていた。
「アイ。医療従事者……あなたの親戚にもおるっちゃろ?」
アイが目を見開いた――ように見えた。糸目は変わらない。それでも、ハッとした表情になった。
「一番近い医療関係の親戚に電話して」
「応援を呼ぶのデスか? でも、親戚は眼科だったり研究関係だったり、専門外デスー。一人、従兄に薬師がいマスが、今はどこにいるのやら……」
「情報をもらうだけでも違うったい。早く!」
鬼気迫る雷奈の勢いに、アイはすぐさま室内の電話を取った。コールの間、芽華実がそっとフーに問いかける。
「フー、ユウって子とアイの従兄にあたるひと、誰か知ってる?」
「ええ、寡黙だけど優秀な薬師よ。でも、少し前に、弟子を探しに旅に出かけたって聞いたわ」
「だからどこにおるか分からんとね……」
雷奈がつぶやいた時、電話がつながり、アイが話し出した。
「サイ! 緊急デスー。実は……」
状況を話すアイ。相槌が雷奈たちにも聞こえてくるあたり、スピーカーフォンにしているようだ。気の抜けたような「うん、うん」という低い声に、雷奈たちは不安を感じ始める。
「……ということなんデスー。何か手立ては……」
『それはねー、今病院にある薬では無理かな』
スピーカー越しの彼は、気の抜けた声のまま、残酷にもそう告げた。
「……無理、って……」
『お、聞き覚えのない声だね。人間かな?』
「……そうだよ。水晶氷架璃ってんだ」
氷架璃がアイのほうへ歩み寄り、電話機をひったくった。
「そんなに簡単に言うなよ! あんたプロだろ!? 助けろよ!」
『君が言うかい? 流清君のパートナーにならなかった人間』
氷架璃が押し黙る。声はさらに迫った。
『知ってるんだよ、ボクは情報通だからね。確かに、突然わけのわからない世界からの使者に、パートナーになれって言われたら困惑するだろうね。断るのも一つの手かもしれない。でも、そのくせに彼を助けろと言ってボクを頼ろうとしている。フィライン・エデンと交わりたいのか、それとも違うのか、どっちなんだい。仮に流清君が助かったとして、永らえた彼をどうせまたフるんだろう?』
「……」
『そんな君がどうしてそこまで必死になる? エゴの可能性が考えられるね』
「……命助けんのがそんなにおかしいか、薬師ッ!」
部屋中に響く声で、氷架璃が激高した。
日常、彼女は短気だ。よく声を荒らげる。しかし、それとはまったく色の違う怒号が、人も猫も関係なくその耳朶を震わせた。
「ああ、断ったよ! 関わりたくないって言ったよ! だからなんだ、見捨てる理由になるか! 関係ないことごちゃまぜにしてんじゃねえよ! あんたならどうなんだ! 自分に関係ない他人だったら見殺しにすんのか! え? 薬師さんよ!」
電話の向こう、サイと呼ばれた男は黙っている。その猶予が幸いだった。氷架璃の胸中、決意が固まっていることを確認するのに、十分な時間だったから。
「……それにな。あんたはもう一つ間違ってる! もしやり直せるなら! 私にチャンスがあるなら! 私はっ……!」
『もういいよ』
サイは変わらず平坦な声で言った。
「……なんて?」
『もういいって言ったんだ、水晶氷架璃。全部わかったから。君の熱意も、決意も、そして――』
電話が切れる。ブツリと音を残して、静寂が支配した検査室。そのドアが、開いて。
「――この場所もね」
長身の青年だった。服は質素で、春らしさなどみじんもない。黒い髪は無造作に首の後ろでまとめられている。昏い、死んだ目をしているのに、野暮ったさはなく、世慣れた大人の空気をまとっていた。そんな彼の後ろから、二匹の猫がついてきている。
「サイ……!」
「お待たせ、アイ。二階だろうとは思ったけど、水晶君が大きな声で叫んでくれるから、どの部屋かまでもわかってしまったよ」
「どうしてここに……?」
「ちょうど弟子探しが終わって、帰ってくるところだったんだ。運がよかったね。ボク単体じゃなくて、一通りの薬草も、そして二人の有能な弟子もいるよ」
サイはアワの寝台の前に来ると、斜めがけにしていた鞄を下ろした。
「な、何するの?」
「その声、君が水晶君だね。もちろん、薬の調合さ」
「さっきは無理って……」
「今病院にあるものではね。ボクだって開発後、一定量生産しない限りは病院に売れないよ。これから調合するのは、今度病院にも売る予定だった、新作の漢方だよ」
「漢方……」
「サイは漢方が専門なんデスー。とはいえ、西洋薬の造詣も深いデスー」
サイは鞄の中から、さらに鞄を出した――と思いきや、鞄に見えたそれは、三つに折った布製の薬草ホルダーだった。それぞれのポケットに薬草の名前が書かれている。
「西洋薬では歯が立たないよ、アイの言う通り。従来の漢方でも綱渡りだね。でも、ボクがこの前調合に成功した漢方なら、副作用も後遺症も心配ないよ」
サイは薬草ホルダーを広げ終え、薬研と乳鉢も取り出すと、アワを見下ろして、
「色々大変だったと思うけど、流清君。ボクも君には死んでほしくないからね。悪いけど助けるよ」
「……うん」
「目が覚めたら全部終わってるだろうから、麻酔が効いているうちに寝てしまうことだね」
それだけ言うと、主体のまま付き従う二匹の猫に目線を向けた。一匹は白い体の折れ耳の猫。それも、ウサギのように少し耳が長い。もう一匹は薄茶色の、普通の三角耳をした猫。鼻で止まるタイプの眼鏡をかけている。
「ミンリ、ケイ。初仕事は大仕事。流清家が正統後継者の命を救うことだ。わかってると思うけど、失敗は許されないよ」
「はい、師匠!」
「よろしい。では、まず……」
***
刺すようなまぶしさに、アワは目を開いた。窓から入る日は、オレンジ色に輝いている。
瞬きを数回して、自分があおむけに寝ていることを把握。ぼんやりと記憶の糸を手繰り寄せ、これまでの経緯を思い出した。恐る恐る右手を掲げ、見慣れた普通の腕が視界に入ると、小さく息を吐く。
「……ああ、ボク助かったんだ」
「悪かったね、意向に沿えなくてさ」
声は右から聞こえた。ベッド脇に、氷架璃が腰かけている。
「……氷架璃」
「よ、アワ」
「……何食べてんの」
「見りゃわかるでしょ。たい焼きだよ、たい焼き」
言って、手にしたそれをぱくんと頬張った。口の端から魚の尾がのぞく。
「ふぁいふぁふぁふふぁふぁ」
「食べてからしゃべりなよ……」
「ごくん。雷奈たちなら、先に帰ったよ。早めの晩御飯食べたらまた来るつもりだってさ」
「君は……?」
「これが晩御飯」
抱えた紙袋の中には、まだいくつか詰まっている。アワは苦笑した。
「親御さん心配するよ」
「親は同居してないっつの。じじいとおばあちゃんと、時々、家政婦」
「そうだったね……言ってたね」
夢のようだった。氷架璃が、またフィライン・エデンに来ている。
(思えば、こうやって普通に話をして、時々フィライン・エデンに遊びに来てくれれば、それでよかったんだ。……ボクってば、いきなりパートナーなんて言い出したから、断られちゃったんだろうな)
十歳で学院を卒業してからの四年間を追憶する。パートナー締結を断られるなど、つゆほども考えに上らなかった。何の疑いもなく、仲良くなれると思っていた。
(これからどうしようかな。ボク……どうしたらいいのかな)
暗闇に足を踏み出すような心地だった。襲い来る不安を振り払おうと、無理に笑って氷架璃に話しかける。
「そういえば、ボクの分のたい焼きはないの?」
「あるよ」
「え、ホント!?」
「ただし」
紙袋入りのたい焼きを突き出した氷架璃は、ジト目でアワをにらむと、
「もしこれ食べるんなら、二度と私にパートナーの話をしないこと。もうここにも来てやんない」
「え……」
「でも、まあ、今朝のことは感謝してるから、どっちか選ばせてあげる」
アワの目が見開かれる。氷架璃は視線をそらして、唇を尖らせた。
「……どうすんの? いるの、いらないの?」
しばらくの間、アワは頭が真っ白になった。一面の白の中に、やがてぽつりと一つの感情が現れる。それは自身の存在を確かめるように広がっていき、アワの頭を埋め尽くした。温かいその感情の名前が「幸せ」であると気づいた途端、視界がにじみそうになって、ぎゅっと目をつぶる。ごまかすように思い切り破顔して、アワは手を伸ばした。氷架璃の、たい焼きの袋をつかんだ左手には目もくれず、
「ありがとう。よろしくね、氷架璃」
「……仕方ないなあ。よろしくね、アワ」
氷架璃の右手が握り返すその感触に、彼はずっと求めていた誇りと安堵を覚えた。
そんな光景を、扉からそっとのぞいていた、夕食から帰ってきた三人
雷奈と芽華実、フーは、互いに顔を見合わせて笑みをこぼす。扉を大きく開けて、中に入ると、
「おめでとう、アワ!」
「え、フーたち!?」
「よかったね、パートナー結成できて!」
「なんか、パートナーって響き、恥ずかしいな……」
「じゃあ、氷架璃は何がいいの?」
「うーん……バディ、とか」
「じゃあ、よろしくね、バディ!」
「私も改めてフーにあいさつしなくっちゃ。よろしくね。フー」
「こちらこそよろしくね、私のパートナー、芽華実」
それから、面会時間が過ぎるまで、彼女らの笑い声が絶えることはなかった。
――何の変哲もない普通の世界だったのだ。
まさか異世界と、そしてその住人と関わる突飛な生活が始まるなど、夢にも思うまい。
春休みの向こう、非日常が始まった。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
恋と首輪
山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。
絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。
地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。
冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。
「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」
イケメン財閥御曹司
東雲 蓮
×
「私はあなたが嫌いです。」
訳あり平凡女子
月宮 みゆ
愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。
訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる