黒猫ちゃんは愛される

抹茶もち

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僕の周りは皆心配性です

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 僕をギュってしたまま肩口に顔を伏せた奏さんが、小さな声で囁く。

「……じゃあさ、遥くん。俺の為にも、これからも一緒に色んなものを食べよう。俺だって、遥くんが美味しそうに僕の手から食べてくれたのも、俺に食べさせてくれたのも凄く嬉しかったし。いつでも寮監室においで?俺も連絡するからさ、一緒に美味しい、しよう?」

 僕は耳元でサラサラとくすぐる奏さんの柔らかい髪の毛をくすぐったく思いながらも、楽しみにしてます、とコクリと頷いた。

 苦い事を思い出したからか、また甘いものが食べたくなってきた……。チョコレート、もう1つ食べてもいいかなぁ?

 いまだ僕の肩口に顔を擦り付けている奏さんに、ぎゅうっと捕まっているから動けない。これはもう奏さんにおねだりしよう、そうしよう。

「奏さん、チョコレート、もう1つ食べさせて?お口の中、甘いのでいっぱいにしてください」

 僕のお腹に回ってる腕をチョンチョンと突っつきながらそう呟くと、急にバッと顔を上げた真っ赤な奏さんにまじまじと見つめられる。

「天然ってやべぇんだな……。」

 固まったように動かなくなって、何事かをブツブツと呟き僕を凝視してくる奏さんに、コテンと首を傾げクイクイと腕を引っ張ると、奏さんは引っ張った方の手を浮かせ、僕の頬をスルスルと撫でる。伊織先生の時みたいに僕また猫ちゃんだと思われてるのかな?でも拘束が無くなったのでこれでチョコレートが取れる。奏さんも食べたいのかなぁ?

 そう思って手を伸ばしてチョコレートを取る。包みを開けて奏さんの方を見ると、ぼうっとしたような、熱のこもったような瞳でじっとこちらを見ていた。そんなにチョコレートが食べたかったのか。僕の昔話なんて聞かせちゃったから食べる暇なかったよね。悪かったかな……?

「奏さん、チョコレート食べたかったの気付かなくてごめんなさい。あーん、です」

 そう言って口元にチョコレートを持っていくと、奏さんは一瞬、ん?と不思議そうにした後、ふふっと笑った。

「あぁ…ごめんな、遥くんのこの小さいお口は甘いものが欲しくてたまらなかったのに。こんな気持ちになったのが初めてで、ちょっと浮かれてしまっていたみたいだ。……俺だけのものにして大切に甘やかしたい、なんて、俺から1番遠い気持ちだったはずだったのにな」

 ……奏さん、いったい何の事を言っているんだろうか?僕が甘いものを食べたいのはもちろんだけど、こんな気持ち、とは?浮かれてる??ん??最後の方は声が小さすぎてこんなに近い距離でも聞こえなかったし……このチョコレートがとてつもなく気に入ったのかな?

「あの……そんなにこのチョコレートが気に入ったなら、元々奏さんのだし僕は我慢しますよ?」

 ちょっとしょぼんとしながら奏さんを見上げると、奏さんはトロリと微笑んで、遥くんは本当に優しいんだねって呟いてチョコレートを摘まんでいる僕の手を取って指ごとパクリと口に含んだ。

「ん…遥くんの指も甘くて美味しいね」

 柔らかくて温かい口内で、ぞわりとした感覚に見舞われた。奏さんは僕の反応をじっと見つめながら、飴玉を舐めるように、ゆっくりと指をねぶり、ちゅるりと吸う。

「ン……ふぁ……ッ?。か、なでさん?ぼくのゆび、ンッ……食べ物じゃ、ないです……ッ」

 指を舐られるたび、ふるりと身体が震え、甘えたような、いつもより高い鼻にかかったような声が勝手に出てしまう。こんなの、知らない。恥ずかしさのあまり顔は真っ赤になっているだろうし、目尻には涙が浮かんでいる。

「……ッ。遥、本当に可愛い。気持ちよくなっちゃったの…?」

 嬉しそうに、色香を含んだ笑みを向けられ、困惑する。

「ン……これ、ぞくぞく、してっ、きもち、の……?わかんな、ひぁ……ッ!」

「ふふっ。指だけでこんなに……。そう、それは気持ちいい、だよ、遥。気持ちいい事は悪い事じゃないからね」

「わる、い、こと、じゃ……んぅっ、な、い?」

「そう、たくさん気持ちよくなって良いんだよ。……気持ちいいって、言ってごらん?」

「……き、もち、いぃ、かなでさ……んッ」

「遥……可愛い。良く出来ました。遥は本当にいい子だね」

 そう言って奏さんは指をぴちゃぴちゃと舐めながら僕の頭をゆっくりと撫でる。指も頭も気持ちよくって、ふわふわトロトロしてしまう。何も考えられないまま奏さんを見つめると、ピタリと止まり僕を強く抱きしめた。

「……あー、クソッ理性ぶっ飛びそう……。ねぇ遥、俺以外にそんな顔、見せないで?」

 切羽詰まったような、少し切なげな顔をした奏さんは、今までみたいな遊びとは違うんだ……これ以上は我慢しろ俺ぇ……と小声で呟き、深呼吸を繰り返していた。

 ぼうっとした頭で奏さんの言っている事を理解しようと頑張るけど、思考が上滑りしていく。気持ちいいって、やばいんだな……。っていうかそんな顔ってどんな顔……?

 そのまま奏さんの胸元に縋って息を整えていると、バンバンと大きな音が鳴った。

 僕はビックリして多分奏さんの腕の中でちょっと飛び跳ねたと思う。ビックリしたことで惚けていた頭もハッキリしてきた。どうやら寮監室の扉が叩かれているようだ。

「あぁ……急用かな?遥くん、ちょっとここでチョコレートを食べながら待っていられる?」

 ふー……と最後に1つ大きく息を吐いてそう囁き、僕がコクンと頷くのを見届けた奏さんはチョコレートを僕の口にコロンと入れて寮監室の方へ向かった。

 ……なんで奏さんはあんな事したんだろう?あぁいうのって好き同士がするものじゃなくて?うーん……それとも仲がいい人とするのは普通なのかなぁ?じゃれ合い的な?でも、奏さんが悪い事じゃないって言ってたし、仲良しで気持ちイイ事をする事もあるんだなっ、うん。

 んー……それよりもやっぱりチョコレート、うまうま。

 一生懸命考えてたけど、思考がどんどんチョコレートの方に流れていく。まぁそんな事もあるか!と適当に納得した遥は、好物を食べてコロリといつもの調子に戻った。先程までの甘い空気はどこを探しても見当たらなくなり、ウキウキとチョコレートを頬張っている。花より団子だ。

 もぐもぐとチョコレートを頬張ってニコニコしていると、バンッと勢いよく扉が開かれた。

「遥!無事か?!」

「……へ?隆?」
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