黒猫ちゃんは愛される

抹茶もち

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体育祭の時期だそうです

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 僕のボタンを留め終わった大和先輩は、僕が大和先輩のボタンを留めているのをじっと見つめて待っていてくれた。

「よし、できました」

「ん」

 ボタンを留め終わり大和先輩を見上げると、満足そうにうなずいた。

「も、かえ、る?」

「はい、今日は着替えたら寮に帰ろうと思ってます」

 そう答えると、またコクリと頷いた大和先輩は、何故か僕をひょいっと縦に抱きかかえ、そのままスタスタと教室の外に出てどこかへ向かって行ってしまった。

 え?あれ?なんか僕ナチュラルに運ばれてる。九条くんが大和先輩は口下手だけど、すごくいい先輩だって言ってたし、応援合戦もすごく一生懸命太鼓の練習してた真面目な先輩って印象だし、さっきの様子からも優しい人だと思うからこのままでも危険はないんだろうけど・・・・・・これは一体どういう状況?

 出てきた教室から、生徒会の人たちとか隆たちの声が聞こえる気がするんだけど、大和先輩は何も気にせず長い脚を動かしてあっという間に教室が見えなくなっちゃった。あんなに声が聞こえてたのに誰も来なかったのは、皆着替え中だったから追いかけられなかったのかな?

 縦抱きにされているので、視線が高くて正直ちょっと楽しい・・・・・・んだけど、この抱き方子供みたいで恥ずかしい。っていうかどこに行くのか聞かなきゃ。慌てて大和先輩のつむじを見下ろしながら問いかけた。

「や、大和先輩?どこに行くんですか?僕自分で歩けるので、あの、降ろしてもらえませんか?」

「ん、きゅ、け。降りる、の・・・・・・だ、め。あ、ぶな、い、から」

「んと、学園は危なくないと思いますよ?それに休憩、ですか?どこで休憩するんですか?」

 きょとんとして首を傾げていると、扉の前で立ち止まった大和先輩が、ココ、と呟いてガチャリと扉を開けた。

 すると外につながっていた扉からふわりと風が吹き、薔薇の香りに包まれた。

「うわぁ・・・・・・!」

 外は薔薇が咲き乱れるイングリッシュガーデンだった。色とりどりの薔薇が至る所に咲いており、所狭しと植えてあるグリーンと相まってとても素敵な空間で、思わず見惚れて言葉を失った。こんな場所、学園にあったんだ。

 僕がボケっと見惚れている間に、イングリッシュガーデンの中に慣れた様子で入っていった大和先輩は、死角になるような位置にある噴水の傍のベンチに僕を座らせ、自らもストンとこぶしひとつ分くらい開けて座った。

 そのまま無言で景色を見ている大和先輩のゆるゆるとした落ち着く空気に、一緒にボケっとしそうになっちゃったけど、そうじゃない、今はそうじゃなかった!

「あの・・・・・・、ココ、素敵な場所ですね。どうしてここに連れてきてくださったんですか?ゆっくりで、いいので、教えていただけませんか?」

 きっと大和先輩、喋るの得意じゃないんだよね?寡黙とはまた違う感じだし。ゆっくりだったらお話しできるんじゃないかなぁ?

「・・・・・・ここ、つかれ、た、時、くる。ハル、いっぱい・・・・・・が、んばった。きゅ、けいする。それ、に、ぶつ、かって、痛い、思い・・・・・・させた、お詫び」

 しばらくジッと僕を見つめていた大和先輩を見つめ返してそのまま待っていると、ゆっくりと言葉を紡いでくれた。お話ししてくれてよかった。さすがにどうしてここに来たのか分からなかったらどうしようもないし。

 それにしてもやっぱり大和先輩は優しい人みたいだ。何も言わずに連れてきちゃうあたりは、ちょっと不器用そうだけどね。

「そんな風に思ってくださってたんですね。ありがとうございます。こんな素敵な場所を教えていただいてとっても嬉しいです。・・・・・・ただ、突然何も言わずに連れていかれちゃうと、びっくりしちゃうし友達も心配しちゃうので、次からはゆっくりでいいので声をかけてもらえると嬉しいです。僕、基本的にのんびりしてるから待つのは全然苦じゃないんです。だから伝えたいことは言葉にしてもらえると、もっと大和先輩の事が知れて嬉しいし、すれ違いもないと思うんですけど、どうですか?」

 ちゃんと言いたいことが伝わるかな、と自分の言葉のチョイスに不安になりながらも大和先輩にそう尋ねると、僕の目をジッと見つめて、ゆっくりと問いかけられた。

「ハル、は、いや、じゃ、ない?おれ、は、なすの、下手、で、詰まっ・・・・・・て、遅い、から。イライラ、しな、い?」

「僕は全然嫌じゃないですよ。さすがによっぽど急用があって今すぐその場を離れないといけない、とかの時だと待つ余裕が僕にないかもしれないですけど、そんなときはだいたい誰との会話も無理ですし。僕的には寧ろ大和先輩は、ゆっくり言葉を選んで話してくださってる感じがして、一緒に居て心地いいですよ。それにさっきみたいに一緒にぼーっとしてるだけでも楽しいです」

「え?心地、いい?たの、し?おれ、おもし、ろ、い事・・・・・・何も、言え、ない、の、に?」

「それを言われると、僕の方が面白い事何も言えないです」

 フフッと笑いながらそう言うと、目を丸くしていた大和先輩が、ふわりと笑って、うれし、と言ってくれた。

「ハル、あり、が、と」

「いえ、こちらこそありがとうございます」

 2人でお礼を言い合いながら、フフッと顔を見合わせて笑った。

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