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元同期の天才魔術師を我慢させたら、地獄の絶頂我慢からの仲直りらぶらぶえっちする話。
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しおりを挟む頭上から機嫌が180度変わった濁音混じりの声が聞こえて、反射的にベルの身体がびく、と強張った。
部屋の空気までも急転直下したように冷たくなりハイドの声には怒気が滲んでいる。″まずい″とベルの頭で考えるより先に本能が察知する。
刺さるような視線を彼から感じるけど、顔を見ることが出来ない。だって今間違いなくブチギレてるし。
「あのね、ベル。何が不満なのか、ちゃんと言って?
俺、ベルちゃんが言うならちゃんとなおすから」
いやいやいや、声だけ優しい声作ってもバレてるから。
めちゃくちゃキレてるの分かってるから。
「それとも生活が不満だった?飯が好みと違ってた?
妊娠してたら酒は赤子によくないらしいから、悪いけど酒はしばらく諦めてほしいんだけど」
そりゃあんだけ出されてたらいつかは妊娠するよね。
でも既に妊娠してる前提みたいな話しやめてくれる?ていうか子どもつくる気でやってたんだ。まだ夫婦にもなってないのに。
「……ねぇ、ベル。聞いてる?」
「…き、きいてます…。」
どうすればハイドを納得させられるのか、ベルはぐるぐる回る頭の中の言葉を寄せ集めて組み替えては答えを探した。
下手なことを言えば地雷を踏む気がする。かなり慎重に選ばないと、軟禁どころか監禁生活もこの男ならやりかねない気さえする。
″まだ子どもできたら困るから距離置こう?″
いや悪手だ。じゃあ困らないように俺が手配してあげるね。とか言って私の仕事が無くなる未来が見える。
″夫婦になってないのに一緒に住むのはおかしい″
いやそれも良くない。だってそんなこと承知の上でこの男は家に私を連れ込んでいるんだから。協議会が承諾するまで部屋から出されなくなる未来しか見えない。
…なにより、別にハイドといるのが嫌なわけじゃないんだよ。
私だって彼が好きで、告白して、ここに居る。
だから心まで距離を置きたいわけではなくて、ただずっとこのぬるま湯につかって甘い蜜を口元に運ばれるような生活を送って、自分が変わってしまうのが怖いだけ。
「……慣れてないの」
「…ん?」
「こっちはハイドと違って、人に世話される生活も贅沢も毎日美味しいご飯食べて好きなだけ寝れる生活も、慣れてないの!
幸せなのは幸せなんだけど、許容を超えてんの!
あと前の生活も私はそんな嫌いじゃないから!?
討伐魔術隊は魔獣狩りの前線には立つし、そりゃ危険はあるけど前よりずっとマシな環境だし。働いたら働いた分だけちゃんとお給料も出るし。
王宮魔術師を纏める魔術長からしたらお金の感覚とか、私とは合わないかもしんないけどさぁ!
……そうやって頑張って、ハイドと友達みたいに酒飲んで愚痴言ってるのも、楽しかったんだよ。」
……言ってしまった。
喉でとどまっていた言葉が濁流のように押し寄せて、あらいざらい話した後。おそるおそるベルは顔を上げた。
…絶対怒ってるよね。ハイドは討伐魔術隊のこと大っ嫌いだし、いや、過去のこと考えたら好きな方がおかしいんだけど。私らが候補生だったときは魔力持ちだけど碌に魔術を扱えない子どもを集めて、候補生なんて名ばかりの奴隷みたいな生活で、何人も何人も魔術暴走して爆弾代わりに死んでいって…。
本当にクソなとこだったけど、
でも今は、あの時のクソ大人共はいつの間にかいなくなって魔術師が理不尽に殺されることもなくなった。
騎士兵との共同戦線が多いから魔獣相手に最前線で囮になりながら戦う必要もなくなったし、頑張れば頑張っただけちゃんと報われる日々が訪れた。
だから、今は、そんなに嫌わないでほしいんだけど———、
ハイドの反応は、ベルの予想と違っていた。
少しだけ、悲しいような、寂しそうな目をしてた。
でも、穏やかな顔をして、眉を下げて笑ってる。
「……そっか。…確かに、ベルちゃん遠征から帰るたびに楽しそうに一晩中愚痴ってたもんね」
いやそれは単に腹立つことがあったから、酒の勢いもあるしハイドがいて安心してるのもあるしでキレ散らかしただけなんだけど。
「…でも、ごめんベルちゃん。俺、手放すとか出来ないわ」
ぐるりと、彼の青い瞳が歪んで見えた。
——、あ、これ、駄目なやつ。
急激に意識が遠ざかっていくのを感じて、頭の中で生存本能がアラートを鳴り響かせてる。
待て、待て待て待て待て。手放せなんて言ってない。言ってないよ私。言ってないよね?
今気絶するのはまずい。頭が悪くても分かる監禁ルート一直線だ。知ってますかハイドさん、監禁って犯罪なんですよ。なんだったら拉致も軟禁も犯罪なんですよ。私気づいた時にはこの家に居たんですけど、それから一切外に出してもらえてないんですけど、それ諸々世間一般的にはアウトなんですよ。
規格外の魔力操作で、人の身体の自由を奪うのもね?
誰だよこの性格難あり男にこんな才能与えたやつ。神様も能力与える人間の選り好みくらいしろよ顔で選んでんじゃないの。
意識がハイドによって飛ばされないように、ぐるぐる回る頭の思考を必死に追いかけてなんとか繋ぎ止める。
自分の魔力操作を跳ね飛ばしたことにハイドは少し目を丸くして、言葉をなくしてた。
「……あのね、ハイド。私ハイドのこと好きってちゃんと告白したよね?」
「……うん」
「信用できない?」
「……信用、してる……」
「この部屋に軟禁されなくても、贅沢な生活をしなくても、ハイドが好きなのは変わらないし変えさせない。ただ普通の生活から離れすぎてるからちょっと環境を戻したいって話をしてるだけなの、分かる?」
あー、これ分かってるかなぁ?分かってないかなぁ?
目を丸くしたままこっちを見てるハイドの顔は、なんだか幼い。
見たことない表情に庇護欲が唆られるけど、今はそれどころじゃない。
説得を間違えたら即バッドエンドのクソゲーをしてる気分だ。
「……ちゃんと、俺のもとに帰ってきてくれるなら…いいよ。」
「帰るよ。帰らないわけないじゃん。許可した覚えはないけど私ら夫婦になるんでしょ?子が出来たら育てないといけないし、ていうか貴族に嫁入りなんてどうしたらいいかわかんないけど」
「……そう……。」
まずい、要らないことでも言ったかな。顔を伏せるハイドの頬を撫でて顔を上げてやりたくなるけど、でも、きっと今彼も悩んでいるんだろう。
(……待とう、ハイドがそうしてくれたように)
ごくりと、唾液を飲む音がやけに大きく聞こえた。
意を決したようにハイドが口を開いて、顔はいつもの笑顔が戻っていた。
「平日はベルちゃんが言うように、前の生活でいいよ。でも週末はここに来て、俺の好きなように甘やかしていい?」
空気が凍りついていたから、
なんだと思ったら、そんなことか。とベルは安堵した。
遠征から帰ってハイドと騒ぎながら週末を過ごすのはいつものことだった。その場所が少し変わるだけ。
彼が自分に譲歩してくれたことが嬉しくて、ベルは二つ返事で頷いた。
その反応に、ハイドも嬉しそうに笑みを浮かべる。
(なんだ、相談したらちゃんと話してくれるじゃん。
なんか最近は前のハイドと違う感じがして、ちょっと怖かったけど。何も違わないよね。実際、今もこう言ってくれてるし)
いいよ、ベル。
今のベルちゃんにはまだ、俺のこれは重いんだよね。
ならちゃんと、時間かけて慣らしてあげるから。
逃げないで、ちゃんと、帰ってきてね。
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