【完結】悪の尋問令嬢、″捨てられ王子″の妻になる。

Y(ワイ)

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【最終章】

11

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星が滲んで見えるほど、夜の空気は冷たかった。
国境沿いの野道、木々に囲まれたその場所で、ひとつの焚き火が心細く揺れている。
もうすぐ火は尽きて、跡形もなく風に攫われてしまうのだろう。

 

セラフィーヌとアルフォンスが去っていったあと、私はその背を見送ったまま、しばらく立ち尽くしていた。
泣くような気持ちでないけれど、胸の奥に火傷のような熱が残っている。

罪を侵した者は、その重さを一生抱えて生きることになる。
それでも、後悔はない。
 

静寂を破ったのは、ユリウスの声だった。

 

「これで僕も共犯者だ」

 

焚き火を眺めたまま、彼は穏やかに言った。
その声音には、達観とも諦観ともつかない色がある。

 

「叛逆を暴いた人間が、叛逆者になるなんてね」

 

そうね、と心の中でだけ頷いた。

 

「君の手も、離してあげられない」

 

そう言いながら、ユリウスは私の手をとった。
繋がれた掌は、あたたかくも冷たくもない。
私たちはもう、何かに抗う段階ではないのだと思った。

 

「元から離す気なんてなかったでしょう?」

 

そう返す私の声は、思ったよりも穏やかだった。
皮肉にまぶしてしまうのは、素直になれない癖のようなもの。

 

「……あれほど入念に外堀を埋めておいて、共犯者になっておいて、もう貴方の嘘には騙されませんわよ」

 
口を尖らせ意地悪に微笑む彼女に、
ユリウスは少し目を伏せて、淡く笑った。

 

「……そうだね。僕たちは共犯者で、救世主で、……そして夫婦だ」

 

その言葉が、夜気よりも胸にしみる。

 

私たちが今、こうして罪を背負っていることは、王国にとっては害なのだろう。
けれど、この手を繋ぐことだけは、間違いではないと、そう思いたかった。

 

「ええ、旦那様」

 

唇が自然とそう動いた。
これまでにないくらい静かで、小さな声だった。

 

たぶん今の私は、
あの夜空よりも、ずっと正直にいれる。


 

「……でも、勘違いしないでくださいまし」

 

焚き火の灯りが、静かに音を立てて弾けた。
その一瞬だけ、彼の横顔が赤く染まって見えた。

私はまだ、彼の手を握ったまま立っていた。
自分でも驚くほど、手のひらは汗ばんでいて、鼓動がうるさくて仕方がない。


「私は……ユリウス様を慕っているから、貴方の手を取るのであって、
 これはもう、“協力関係”ではありませんのよ」


この手を、もう二度と離すものかと。
そう思っているのはきっと、私のほうなのだ。

言い終えた瞬間、全身が熱に包まれた気がして
声が震えないようにするだけで、精一杯だった。




何を言っているのだろう、私は。

 

それでもユリウスは、しばらくの沈黙のあと、やや不器用に笑った。

 

「……レティシア、それは……」

彼は、こちらをじっと見つめた。

 

「もう少し、ストレートな言葉で言ってもらっていい?」

 

途端に、顔がかあっと熱くなる。

 

「っ……、で、ですからっ……」

 

やめて、もう言わせないで、と思いながらも、
言葉は喉の奥からせりあがってきて止められなかった。

 

「……あ、愛しております……ユリウス殿下を……!」

 

夜風に舞って消えてしまいそうな、小さな声だった。
でも、確かに言った。
心の奥に秘めてきた言葉は、逃げ道をなくしてようやく口に出せた。

 

ユリウスは静かに聞き入れ、
そして。

次の瞬間、彼の手がそっと私の頬に触れ、
熱を帯びた唇が、静かに重なる。


口付けは、思ったよりも優しくて、静かで、
まるで「大丈夫」と言われているみたいに、あたたかかった。

 

「……僕もだよ、愛している。レティシア」

 

唇を離したあと、彼はまっすぐにそう言った。

その声は、いままでで一番、真実の響きを持っていた。

 

罪を侵した私たちが、
それでもなお手を取り合い、生きていくために必要な言葉だった。

 

たとえ誰にも許されなくても。
たとえ、この先に罰があっても。

 

私は彼を愛し、彼も私を愛してくれる。
それならこの先の苦難は、きっと乗り越えていける。


私はもう一度、彼の手を握りなおした。
しっかりと、決して離さぬように。

 

「……もう手は離せませんわね」

「うん。元よりそのつもりだけどね」



貴方となら、きっと国を導ける。
誰よりも強かで、だけど本当はすこし脆い、王となる貴方を
今度は私が、隣に並んで支えていきましょう。




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