【R18】笑顔が柔らかい勇者から逃げた元魔王軍女幹部ですが、なぜ私に執着なさってますの?

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笑顔が柔らかい勇者から逃げた元魔王軍女幹部ですが、なぜ私に執着なさってますの?

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「パーティを組むわけですから、
 生活基準を揃える必要がありますね。
 当然僕も貴女を監視下から外す訳にはいきませんから
 僕の家に住まいを移してもらいますが、かまいませんか?」


にっこりと逃げ場のない民衆の中で同居宣言をするこの男の言葉を、″構わない訳ないでしょ″と否定できたらどれほどスカッとするだろう。
しかし悲しいことにリーゼロッテには絶対に敵わない力量差がある存在に喧嘩を売る胆力はないし、周りの人間の″昰しか答えはないだろう″という空気に逆らう無神経さも持ち合わせていない。
パーティを組むと言った口で、平然と勇者は私を監視下に置くと言う。本音は″それ″かと思いながらも、彼の手を取り仕方なく微笑み返した。

周囲の賑やかな反応を横目に見ながら、
にこやかに微笑む勇者を見上げる。
なんて茶番なのかしら。と。
言ってやりたいほど清々しい笑顔だった。









「…何が目的よ」
「…何が、とは?」
「魔物を殺すのが貴方の役目でしょ?なのに、私を殺さないなんて気味が悪いわ。…それとも、冒険者の女達みたいに、愛人として貴方に飼われろということかしら」
「………、少し誤解があるようですね。」

荷物を詰め込まれた馬車の中、向かい合わせで膝をつきあいリーゼロッテと勇者レイズは話していた。
荷馬車の方には人間として彼女が過ごしてきた数ヶ月間の荷物が詰め込まれており、生活を運んで馬が家から離れていく。

住んでいた住居を突然解約することになったことを大家に説明に行った時、始めは怪訝な顔をしていた大家が勇者が出てくるなり顔を変えて承諾していて気持ちが悪かった。
過去の魔王と自分のやりとりを思い出す。
力の差は歴然で、刃向かえば命の保証はない冷酷で残虐な王だった。あの人を前にするとみんな怯えて首を縦に振ることしか出来ない、文句も苦言もあの空間には存在しなかった。

(怯えて従うか、喜んで従っているかの違いしかないわ)

契約者が突然いなくなり、大家には金銭的な負担があるはずなのに。にこにこと目を輝かせながら承諾する姿が震えながら魔王に従っていた自分に重なって見える。

(こいつを中心に、周りの人間が動いている)

世界を救った人間だというのに、
むしろ世界を掌握しているみたいだわ。


「誤解とは、どういうことかしら」
「…まず、勇者とは魔物を殺す者のことではありません。人間の繁栄を脅かし世界を閉ざそうとする脅威を打ち払う者のことです」
「…それがどう、魔物殺しと違うのよ」
「僕は貴女が人間の繁栄を脅かすとは思っていませんから」
「……随分、舐められたものね」

にこりと微笑む勇者と対照的に、リーゼロッテは眉間の皺を深くして彼を睨みつける。

「それに、僕と貴女は対等なパーティです。金銭で貴女に理不尽な要求をすることはありませんし、貴女の意思を僕は尊重するつもりですよ」
「…それも、神に誓って嘘がないと言えるのね」
「ええ、もちろん。」

(勇者が魔物の意思を尊重するなんて、あり得ないわ)

あの時無表情で魔物を切り捨てていた男と今目の前にいる男は本当に同一人物なのかしら。
見た目は全く同じに見えるけど、実は二重人格だったりしませんこと?



分厚い仕切り布の隙間から光が差し込んで、どうやら建物群を抜けたらしいことが分かる。


「少なくとも、僕は貴女を殺したりなんてしませんから。それくらいは信用してほしいな」
「……よく回る口ね」
「ふふ、″勧誘役″だった貴女に褒めてもらえるなら、自信にもなりそうです」
「褒めていないわ」

大型犬のように、目を細め口を開けて笑うものだから調子が狂う。本当にこいつは無害なんじゃないかって、勘違いしそうになる。そんなはずないのに。

(私が何をしていたかは、知っているのね)

当然といえば当然か。
あの時、魔王城に乗り込んできたこの男は″見つけた″と言っていたし、道中で討伐した魔物の中には私とが関わった奴らもいただろう。
名前も、知っていたしね。

……そういえば、


(なんで魔王でもない私に″見つけた″なんて、言ったのかしら…?)

魔王の場所を聞き出すために、知性がある魔物を探していた?
魔物が真実なんて、話すわけないのに?
きいてみる?
いや、でも、答えを得て何になるの?
この男から逃げられるわけでもないし、藪を突いて蛇が出るような馬鹿な真似はしたくないわ。


「貴女と、話ができて嬉しいな」

純粋無垢な顔をしてそういう勇者に、
リーゼロッテは何も言い返せなかった。

どうしてそんなに嬉しそうにするのか、話なんて誰とでもすればいいことなのに。



「貴女が何を好きなのか、何をしたいのか、沢山話してほしいです。……時間なら、幾らでもありますから。」






——————






こちらを睨みつける華奢な女性にしか見えない彼女を、勇者は嬉しそうに見ていた。
彼女の赤い瞳に自分が映ることが嬉しい。

ずっと、この日を夢見て過ごしてきた。


(あなたは、もう覚えてないのかもしれない)


勇者として僕が魔王討伐を言い渡される前のこと、
貴女はリーゼという名前で看護兵をしていた。

勇者になる前の生活は、それはもう酷かった。

僕たちは魔物を殺すための″囮″であり″特攻兵士″で、魔物から貴族を逃がすため少ない人数で大量の魔物と相対する。
消耗品のように人が死ぬからまともな装備なんて与えられず、碌に魔物の首も切れないなまくら剣を鈍器代わりにして魔物を倒し、少しでもあいつらの爪が擦れば薄い布と同様に皮膚は裂け致命傷になりかねないから大立ち回りで斬撃を避けた。
それでも、傷口からあいつらの魔力が侵入して毎日のように高熱が出る。そのまま、また魔物の前に立たされる地獄みたいな日々。

(消耗品なのだから、死ぬまでこうして使われるのだろうと思っていた)

何人も、何十人も、同じ役割を押し付けられたこどもたちが死んでいった。
魔物に殺されて絶命しているのに、僕たちは人に殺されているんじゃないかと悩むこともあった。



熱を出して、いよいよ動くこともままならない日があった。
ベッドから起き上がることも剣を握ることもできず、ああ、僕は今日処分されるんだろうなと確信していた。
けれど、扉をコンコンと控えめに叩いて僕の元に来てくれたのは死神でも理不尽な大人でもなく、真っ白な衣装を着た美しい看護兵だった。

「…こんな小さい身体で、随分無理をするのね」

あの頃の僕は幼くて、身長も今の半分程だったから彼女が分からないのも無理はないのかもしれない。
高熱で揺れる視界の中、宝石のような真っ赤な瞳と目があった。
死に際に面しているというのに、なんて綺麗な色なんだろうと感動したんだ。

侮蔑も侮辱もない真っ直ぐな視線。
僕を道具じゃなく人として見てくれた、初めての瞳。
真っ白な細い指が患部に触れて、「我慢してね」と聞こえてすぐ消毒布が傷口に触れる。
痛みで顔を歪める僕の頭を優しく撫でてくれた手は冷たくて、まるで人の手じゃないみたいだった。


「かわいそうね、あなた。こんなこと、いつまで続けるのかしら」
(……いつまで…?いつまで、なんだろう……)

終わりがあるなんて考えたこともなかった。
哀れんでくれる人がいるなんて思いもしなかった。
頬を撫で傷口を手当てしてくれるこの優しい手が、離れることが今はただ惜しかった。

「あんな人間たち、守る価値はある?あなたがこんなに傷ついてまで、たたかってもあいつらは感謝もしないわ。
 ねえ、本当にこれがあなたの役割だと思う?」

今思えば、あれは魔王軍に勧誘する彼女の常套句だったのかもしれない。
でも、僕にとっては初めて僕を人として見てくれて、慈しんでくれて、報いをくれたかけがえのない言葉だった。
彼女の声は、ただただ温かかった。
そこには愉悦も侮蔑もなくて、ただただ、僕が人として生きる時間を許してくれた。
だから———




「は?うちにリーゼなんて看護兵はいないぞ」

「……え?」


お礼がしたくて、任務終わりに花を摘んだんだ。
貴女に渡したくて医務棟の管理人にきいたよ、リーゼさんはどこにいますか?って。
そして知った。
リーゼなんて看護兵は初めから存在しなくて、
人間を魔物に勧誘するものが潜んでいたということ。
僕と同じ部隊にいたこどもたちが軒並み魔物になって、あの大人達を食い殺したんだ。
僕の元にも来たんだけど、何故だか僕には攻撃せずに行っちゃった。
たった一人生き残った僕は魔物を退けた奇跡の子供と謳われたよ。馬鹿みたいだよね。退けたんじゃなくて、みんなに置いて行かれただけなのに。





いつか、あなたを僕の故郷にも連れて行きたい。
王都からも魔王城からも離れた辺鄙な場所にある村だけど、
森は豊かで静かないい場所なんだ。
王様が魔王を倒したご褒美に、土地と家、それに一生困らないくらいの報奨金を持たせてくれた。
あそこは僕にとってはお金がないからなんて理由でこどもをあの部隊に売り付けたクソ親が生きてきた場所だけど。
どうやら街の人たちにとっては、生き別れになった両親と世界を救った勇者が穏やかに暮らせる安住の地らしい。

そんなものに、興味はないけど。
でもきっと貴女はあそこを気にいるだろうし、
そこに貴女がいるのなら、僕も愉しい毎日を過ごせそうだと思うんだ。





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