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笑顔が柔らかい勇者から逃げた元魔王軍女幹部ですが、なぜ私に執着なさってますの?
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しおりを挟む「レイズさん、まさか、その人が…」
「…はい。やっと探し人に会えたようです。すみません、彼女の所まで通してもらえますか?」
勇者の一言に呼応して、周りの人間が″ざっ″とリーゼロッテの周囲から離れ、勇者とリーゼロッテの前にだけ不自然な道が作られた。
周囲は人間に囲まれているし、能力を使うわけにはいかない。
注目されている状態で魅了を使えば、周りの冒険者を操って少しはこの男を足止め出来るかもしれないけど、この男に魅了が効かない以上時間稼ぎにもならない悪あがきだ。
カツ、カツ、勇者がリーゼロッテへ近づく足音が、命のカウントダウンが刻まれている音に聞こえた。
「今度は、逃げないで話が出来そうですね」
「……わ、わたしは、貴方を知りません。人違いではないですか…?」
「ふふ、声が震えていますよリーゼロッテさん。嘘が下手ですね。」
冒険者の登録名は″リーゼ″だけど、リーゼロッテだからリーゼかと周囲がザワザワ色めき立つ。
偽名だから別人じゃないかなんて、素性を詮索しないことがルールの冒険者ギルドでは通用しない。
恐怖が、限界だった。
逃げ場はない。囲まれている。
それでも周囲の人間を魔力と魅了で操れば、いくら勇者といっても人間相手に残虐な行動は出来ないだろうし、足止めくらいのことならこの大人数を一気に操るとしても私の魔力で間に合いそうだ。
使うのは、この瞳。
私に視線が集中していることを逆手にとって、一瞬で———
「ねえ、リーゼロッテさん。僕とパーティを組みませんか?」
———は?
「貴方が今、何をしようとしているか、僕は分かっています。試したければ試しても構いませんよ。その場合はこちらも力づくになってしまいますが」
「……なにが、いいたいのかしら」
「言葉の通りです。一人は寂しいので貴方とパーティを組みたい。強要するつもりはありませんよ。僕が何を″知っているか″は十分ご存知だと思いますから」
つまり、勇者が言っていることはこういうことだと、理解するリーゼロッテの額に汗がつたう。
今魅了を使ってここから逃げたら周りに魔物だということがバレた挙句この男に殺されるし、拒否をすれば私の正体をバラすと言いたいのね。
正直、魔力を全て使ってもこの男から逃げ切れる気はしない。
探し人に会えたはずなのにどこか浮ついた勇者の言動と私たちの会話に周囲の人間も少し疑念を持ち始めているし、もしかしたらこの男に見つかった時点でもう詰んでいたのかもしれない。
「……パーティを組みたい、本当にそれだけですのね」
「うん。勇者は神に誓って嘘は言わないからね」
「………、わかり、ました…。」
にっこりと、無害そうな顔で勇者が微笑む。
握手を求めるように手を差し出されて、リーゼロッテは眉間に皺を寄せながらもその手を握り返した。
たった一人で世界を救い、魔王軍を壊滅させた男が、パーティ?
逃げて生き延びていた魔物を監視するつもり?
殺すなら今ここで殺しているわよね。
まさかあの元同僚みたいに、殺すまでの過程が楽しみなんて言い出すんじゃないでしょうね…!?
リーゼロッテの思考を置き去りにして、歓声と祝杯で再び冒険者ギルドは包まれた。勇者が女と組んだことに咽び泣くもの、嫉妬を孕んだ目でこちらを睨むもの。千差万別の反応の中で勇者は相変わらず無害な笑みをして世界を救った時と同じまま温和に微笑んでいた。
彼に手を引かれ、連れ出される。
こんなに熱の籠った人集りが彼が歩き出すと自然と彼の前から身を引いて道をつくっていくのが、気持ち悪かった。
「これからよろしく。リーゼロッテさん。」
なにより、強制しないと言いながら平気で脅迫まがいの言葉を吐いて、それなのに一貫して″無害な顔″をするこの男が、リーゼロッテの目には恐ろしい怪物に見えた。
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