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笑顔が柔らかい勇者から逃げた元魔王軍女幹部ですが、なぜ私に執着なさってますの?
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しおりを挟む「あらリーゼちゃん、今日の収穫はどうだい?」
「…程々ですわ。換金、よろしくて?」
世界の所有権が魔物から人間の手に移り、均衡がひっくり返って数ヶ月。リーゼロッテは王都の下町で人間に扮し細々と生きていた。
冒険者という職は、都合がいい。生まれも育ちも詮索されないし結果を出せばすぐに報酬が支払われる。
金に代わるのは知性のない魔物や魔獣を討伐した証拠となる魔物の″核″と呼ばれる魔力を凝縮した玉だ。同胞とは言っても幹部である彼女からすれば人間と家畜くらいの感覚だった。
最近は魔物の肉を″美食″なんて好んで食べる人間もいるらしく、状態が良い死体はとくに金払いが良かった。
角や骨は装飾品に加工して貴族に売り付けるらしいが、それを買う人間を悪趣味と感じるのは私が魔物だからだろうか?
過去魔王軍に居た、人間をすぐに殺さずわざわざ痛みつけて殺していた気色の悪い元同僚と似た感覚がして、大変気持ち悪いと思うのだけど。
(人間も魔物も、残虐なやつのカリスマ性が無駄に強いのは同じなのかもしれないわね)
その点、冒険者という職は人間との交流が少なくて済む面も、リーゼロッテには都合が良かった。
「美人さんな上に腕っぷしもいいなんて、一人でいるには惜しい女だなぁ。どうだい?俺のパーティなんて」
「…あいにく、どなたともパーティを組むつもりはありませんの。他を当たってくださる?」
ジロリとこちらを見た男の足のつま先から胸まで舐め回すような視線が不快でリーゼロッテは顔を顰めた。
魔王がいない今、生き残っている魔物の討伐くらい人の手を借りなくても事足りる。
隣に女を侍らせているのに、声をかけてくるなんて、なんて無神経な殿方かしら。
「そうかぁ残念だなあ。気が変わったらいつでも言ってくれよ、君のために稼いであげるからさ」
「…お気持ちだけで結構ですわ。ご機嫌よう」
男の話ぶりを見るに、この男女は対等なパーティではないのだろう。男が金を稼いで報奨金を分ける代わりに、女は愛人として男を満足させるのがこのパーティの役割だろうか。
「…無理しちゃって」
去り際、女が疎ましそうに呟いた声が妙に耳に張り付いた。
(…気持ちが悪いですわ。自分の力で生きられないなんて、
やりようなんて幾らでもある筈ですのに。
力がないのに冒険者になって、
男に媚びて生き繋いでいるなんて、
それを許容するあの女の人も、
させているあの殿方も、本当に気持ち悪い。)
人間の世界では沢山のルールがあって、力がなくても生きていける筈なのに。
結局こちらも力がルールなのは変わらないのかしら。
(…まぁ、どうだっていいですわ。それより今日の献立を考えないと…)
人間の冒険者並みの力量でいいのなら、私は力が理由で弾かれることはない。
私が望む自由も平和な暮らしも十分に確保できるもの。
あの人たちがどうであろうと、別に私には関係ないものね。
帰りは卸し市の方に寄って、魚がまだ売っていたら買って帰ろう。
人間の世界は素晴らしいわ。楽しく生きることに特化した仕組みがあって、美味しいものを食べれるように動物は家畜化されているし、そのおかげで食料の調理の仕方が何通りもレパートリーがあるのだもの。
毎日新しいものを作っても、一体何十年新しい味に出会えるのかしら。
保存してるバターがあるから根菜と茸もあれば買いたいわ。ムニエルにして、あまりは塩に漬けて乾燥させて保存するの。
「はい。お待ちどうさま。またよろしくね。」
「ええ、また。」
気風のいい受付役が金を纏めて袋にいれ、渡してくれる。
リーゼロッテはそれを受け取りギルドを出ようとして、妙に周りが騒がしいことに気がついた。
「うそ、まさか本物を見れるなんて…」
「最近ここいらに出入りしてるとは聞いていたが…」
どうやら入り口近くに有名人が来ているらしく、そのせいで人集りが出来て道が塞がっていた。
献立の構想に時間をかけすぎたのかもしれない。受付を急かしてさっさとこんなところ出てしまえばよかった。
人並み以上の力があるとはいえ、見た目は普通の人間の女性だ。変に能力を使えば正体がバレかねないし、力づくで出ようとすれば出られるだろうけどこの身なりでそんなに強靭な女がいるかと疑われるかもしれない。
(随分、人気があるようね。貴族か道化人の類いかしら?)
ひょこりと、人集りの中このリーゼロッテの時間を奪うクソ野郎が一体どんな人間か一目見てやろうとした。それだけだった。
背伸びをして視界の奥に、どこかで見た金髪が映る。
いや、
いやいやいやいや、
金髪なんて、人間にはよくある髪色ですわ。
背中に走る悪寒に耐えて、リーゼロッテは直ぐに人波の中に隠れた。まさか、そんなはずないと何度も頭の中で繰り返すのに胸がざわついて落ち着かない。
「探し人をしてるんだと、その人とパーティ組むんだって」
「ええ、パーティなんてあの人には必要ないだろ」
「私が立候補したいわ、見てあのお姿。酒場の男共が蝿に見えちゃう」
「ちょっと、やめときなさいよ。それに探し人は女の人って噂よ?色んな女が声かけてるけど、全然靡かないんだって」
「あ、今目があったかも。ほらほら!こっちに来るわ!」
「ええ?そんなわけ…」
耳が割れるくらい騒がしい声の中、人の背に隠れ少しでも出口に近づきたかった。本当は今直ぐこの場を離れたいけれど、こんなところで魔力をぶっ放したら即座に人間共に捕まって殺される。いや、そうじゃなくても…。
近くにいた女の言葉に怯えてそろりと、背後を振り返った瞬間、バチリと、目が合ってしまった。
「ぁ……」
全身の血の気が引き、喉を締められたようなか細い声が漏れるリーゼロッテに反して、周りにいる可愛らしいドレスに身を包んだ女冒険者達は沸き立っていた。
リーゼロッテが、生きているうちは絶対に会いたくない人間が、そこにいた。
魔物を易々と切り捨てて、こちらが知性があるとみるといなや、全身に魔物の血をベッタリつけているくせに、いかにも無害そうな温和な顔をして、にっこりと微笑んでいた。
握手を求めるようにこちらに伸ばされた手、
魔物相手だというのに気遣うように剣の血を拭い、抜き身の剣をわざわざ鞘に入れる。
それをしても危険にならないほど、圧倒的な力の差が私とあの勇者の間にはあった。
「ここに居たんですね」
視線が絡み合ったまま、花が開くように男が笑った。
「ああ、良かった。漸く見つけました」
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