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笑顔が柔らかい勇者から逃げた元魔王軍女幹部ですが、なぜ私に執着なさってますの?
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しおりを挟む市で野菜と卵を買って、肉屋に寄った。
リーゼさんには店前で荷物を見てもらって、
僕だけで店の店主に話しかけた。
目当ての肉はやはり下りていたようで、少し分けてもらいその分の金額を払う。
部位ごとに捌かれ紙で包まれたそれにはもう、元の魔物の面影はない。
店を出ると、リーゼさんは店前の宝石商の屋台を見ていた。
陽が落ちてきた夕焼け道に、彼女の真っ赤な髪がゆらゆらと燃えるように揺れて見えて、美しいなぁと胸が熱くなる。
アンクロットやブレスレットが並ぶ屋台は、宝石店というよりは、防具の装飾品を並べている様相で。
ああ、リーゼさんが想像していたのはこういう店だったんだな。と内心で少し反省した。
「いいものはありましたか?リーゼさん」
「ひっ…、い、いきなり話しかけないでくださる!?」
背後から話しかけただけで素直に彼女は驚いて背を揺らす。
以前は警戒心を剥き出しにしていたのに、たった数日暮らしただけで今は背後を取られても気がつけないくらい平気で油断してしまうのか。
(少し、心配だなぁ)
その油断が、僕に対してだけならいいけど。
「お嬢さんの連れの方かい?こりゃどえらい美男美女だなぁ。うちもいい宣伝になるよぉ」
「……どうも、」
口の軽そうな店主はヘラヘラと笑っていて、足元には空いた酒瓶が見えた。
夜は冷える場所だし呑んで暖を取るのは分からなくないが、こんな時間から呑んでいるのかと内心呆れてしまう。
口ぶりを聞くに彼は僕の″知り合い″ではないのだろう。
それは、気を遣わなくていいから、楽だ。
夕焼けの陽が反射する商品の中に、一つだけ
空の赤を閉じ込めたような美しい緋石を見つけた。
ネックレスというには短く、簡易的なチョーカーに見える。
それを見ていると、リーゼさんが突然ふと笑った。
「マスター、これをいただける?」
「おお、8000円になるよ」
「ありがとう。ではこれで」
この緋石のチョーカーを気に入ったのだろうか、
できれば僕から贈りたかったけど、乗り遅れたな。と思うレイズの前にチョーカーが差し出された。
「これ、欲しかったのでしょう?貴方があんなに熱心に見るなんて珍しいわね。」
…………ちがう。
違うよ、リーゼさん。
「………僕に、くれるんですか?」
その赤い石は貴女の目にそっくりだから、
貴女によく似合いそうだと思っただけなんだ。
「ええ。勇者様には加護なんて要らないかもしれませんけど」
………そう言って、
少しイタズラが成功した少女のように笑うリーゼロッテさんは、夕焼けに照らされて嘘みたいに輝いて見えた。
……好き、
好きだな。
勇者なんて、言わないでほしい。
貴女にはレイズと呼んでほしい。
でも、今はまだ、僕は彼女のパーティで、
ようやくパートナーとして動くことを認められたばかりだ。
今、距離を詰めて警戒されるのは得策じゃない。
大丈夫、顔を作るのは得意だ。
そう、なるべく温和に見えるように。
彼女の手から受け取って。
「…………ありがとうございます、リーゼさん」
「ええ。どういたしまして」
リーゼさんは、
装飾品はつけたことが無いと言う僕に、
彼女の瞳の色をしたチョーカーを着けてくれた。
彼女が付けやすいように屈んだ僕に、すぐ着けてほしがるなんて子供みたいね。なんてくすくす笑って。
きっと僕のどす黒い気持ちなんてカケラも気がついていないんだろう。
首に彼女の指が触れて、小さくて冷たい指が皮膚を伝う。
細いチェーンが首に巻き付いて、苦しくともなんともないのに胸がぐっと詰まる感覚がした。
防具のせいであまり見えないかもしれないけど、
それは貴女に所有されている証に見えて、
貴女にそんな気はないことが、少しだけ残念に思えた。
今日は少しいい日だったな。
当たり前のように二人で討伐にいって、
換金に行く間リーゼさんがパーティとして僕を待っていてくれる。
変な男にリーゼさんが絡まれたのは嫌な気持ちになったけど、
でも、これからは僕がもっと″目をつければ″いいだけの話だ。
装飾店で魔物の首を見られたのは、少しまずかったなぁ。
誰に売ったかなんて、顔を見分けられないから覚えていないし。
てっきりリーゼさんは報復心を持つかと思ったけど、案外、魔物間の情は浅いのかもしれない。
(秘密ばかりでごめんね)
あなたと交わした3つの約束。
人を害さないは、貴女が僕を信頼してくれている間は守り切れるだろう。
魔物とバレないは、貴女が僕から離れなければ守り続けられるね。
隠し事はしないは、残念だけど、僕は初めから貴女に正直な顔なんて一つも見せられてないな。
夕飯は、肉の味が分かりづらいように漬け込み汁の唐揚げにした。
『美味しい』と食をすすめるリーゼさんは、それが魔物肉であることは知らない。
でも、貴女が魔物である以上、魔力はどこからか補給しないといけないから。
どうか気がついたとしても、僕を嫌いにならないでほしいな。
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