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2.夢現
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部屋の中は異質な空気で満たされていた。結島さんの発言はもうそこまで迫っていて、避けようとしても避けられないものだった。
「もし私が優斗くんのこと好きって言ったらどうする?」
僕は一瞬結島さんが何を言ったのか理解できなかった。僕の返事を待たず結島さんは次々に言葉を紡ぎだした。
「あんな自分勝手でわがままな子なんてやめて私にしちゃいなよ。絵里に優斗くんはもったいないよ。」
「結島さんどうしたの? だいぶ酔ってる?」
「酔ってるけど酔ってないよ」
結島さんは僕の肩に手をまわしてきて顔を近づけてきた。夜の闇の匂いが僕の肺の中を満たして、体の中を巡っていくのを感じた。
「ちょっと待って、ほんとにどうしたの?」
「ねえ、ほんとは絵里なんていなくなっちゃえばいいなんて思ってるんでしょ」
「い、いや、そんなことないよ……」
「嘘つき」
結島さんの言っていることを全力で否定できない自分が情けなかった。もう二週間近く絵里とは連絡を取っていない。このままいっても遅かれ早かれ別かれることになるのだろう。もうこの流れに身を任せてしまった方がいいのではないかと思ってしまった。押し負けた僕は結局結島さんと唇を合わせてしまった。結島さんの唇はお酒と背徳感の味がした。
「私、優斗くんのこと前から好きだったんだよ。でもその時はもう絵里の彼氏だったから……」
「そんないまさら言われても。こんなことしたらまずいよ」
「もう絵里なんてほっといて私と付き合っちゃおうよ」
結島さんが再びキスをしようと顔を近づけたとき、僕は違和感に気づいた。結島さんの綺麗で整った顔が徐々に崩れていっているのだ。結島さんの頬に手を伸ばして触れてみると粘土のような感触があった。
「優斗くんもその気になっちゃった?」
「い、いや、顔が」
手を離すと結島さんの頬は僕の手の形にへこんでいた。僕は小さな悲鳴を上げた。結島さんは作り途中のドミノを倒してしまったかのようにどんどんと顔が醜くなっていく。僕の体は恐怖で硬直してしまい、目の前の光景を見届けることしかできなかった。結島さんの顔の中で何かが暴れまわっているのではないかと思うほど、顔の筋肉は四方八方に引き伸ばされたり縮んだりして、手が付けられないほどグチャグチャになっていった。最初はまだ人の顔の形を保っていたのに今はもうただの化け物に成り果ててしまっている。僕は目の前のかつて結島さんだったものに慄いていると、それは徐々に四角く変形していき、気づいたときには冷たい金属製のロボットになっていた。
目の前の出来事に呆然としていると後ろから「あ、そのロボット買ったんだ」と声が聞こえてきた。振り向くといつから戻っていたのかルームメイトが部屋の前に立っていた。「それどうだった? 面白いなら俺も買おうかな」などと訳の分からないことを口にしている。女の子と戯れているところを見られたという恥ずかしさは全く感じず、僕の心の中には安堵という感情だけがあった。
夢はここで終わり、目が覚めると僕はソファの上でぐっしょりと汗をかいていることに気づいた。気味の悪い夢を見たなと思い、僕は水を汲みにキッチンに向かう。ルームメイトの部屋は扉が閉まっていて、彼はまだ起きていないようだった。水を流し込んだあと、僕は玄関に見慣れない靴があることに気づいた。そこには綺麗に揃えられたハイヒールがあった。
「もし私が優斗くんのこと好きって言ったらどうする?」
僕は一瞬結島さんが何を言ったのか理解できなかった。僕の返事を待たず結島さんは次々に言葉を紡ぎだした。
「あんな自分勝手でわがままな子なんてやめて私にしちゃいなよ。絵里に優斗くんはもったいないよ。」
「結島さんどうしたの? だいぶ酔ってる?」
「酔ってるけど酔ってないよ」
結島さんは僕の肩に手をまわしてきて顔を近づけてきた。夜の闇の匂いが僕の肺の中を満たして、体の中を巡っていくのを感じた。
「ちょっと待って、ほんとにどうしたの?」
「ねえ、ほんとは絵里なんていなくなっちゃえばいいなんて思ってるんでしょ」
「い、いや、そんなことないよ……」
「嘘つき」
結島さんの言っていることを全力で否定できない自分が情けなかった。もう二週間近く絵里とは連絡を取っていない。このままいっても遅かれ早かれ別かれることになるのだろう。もうこの流れに身を任せてしまった方がいいのではないかと思ってしまった。押し負けた僕は結局結島さんと唇を合わせてしまった。結島さんの唇はお酒と背徳感の味がした。
「私、優斗くんのこと前から好きだったんだよ。でもその時はもう絵里の彼氏だったから……」
「そんないまさら言われても。こんなことしたらまずいよ」
「もう絵里なんてほっといて私と付き合っちゃおうよ」
結島さんが再びキスをしようと顔を近づけたとき、僕は違和感に気づいた。結島さんの綺麗で整った顔が徐々に崩れていっているのだ。結島さんの頬に手を伸ばして触れてみると粘土のような感触があった。
「優斗くんもその気になっちゃった?」
「い、いや、顔が」
手を離すと結島さんの頬は僕の手の形にへこんでいた。僕は小さな悲鳴を上げた。結島さんは作り途中のドミノを倒してしまったかのようにどんどんと顔が醜くなっていく。僕の体は恐怖で硬直してしまい、目の前の光景を見届けることしかできなかった。結島さんの顔の中で何かが暴れまわっているのではないかと思うほど、顔の筋肉は四方八方に引き伸ばされたり縮んだりして、手が付けられないほどグチャグチャになっていった。最初はまだ人の顔の形を保っていたのに今はもうただの化け物に成り果ててしまっている。僕は目の前のかつて結島さんだったものに慄いていると、それは徐々に四角く変形していき、気づいたときには冷たい金属製のロボットになっていた。
目の前の出来事に呆然としていると後ろから「あ、そのロボット買ったんだ」と声が聞こえてきた。振り向くといつから戻っていたのかルームメイトが部屋の前に立っていた。「それどうだった? 面白いなら俺も買おうかな」などと訳の分からないことを口にしている。女の子と戯れているところを見られたという恥ずかしさは全く感じず、僕の心の中には安堵という感情だけがあった。
夢はここで終わり、目が覚めると僕はソファの上でぐっしょりと汗をかいていることに気づいた。気味の悪い夢を見たなと思い、僕は水を汲みにキッチンに向かう。ルームメイトの部屋は扉が閉まっていて、彼はまだ起きていないようだった。水を流し込んだあと、僕は玄関に見慣れない靴があることに気づいた。そこには綺麗に揃えられたハイヒールがあった。
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