おとぎ話の結末

咲房

文字の大きさ
9 / 81
運命のつがい

自己評価

しおりを挟む
「前から思ってたんだけど、日野はさ、自己評価が低いよな」

 ある日、田中くんが僕にそう言った。

「そりゃあ、少し痩せててモブ感があるからΩオメガには見えないけど、あの藤代さんに仲良くしてもらってるんだぜ、もっと自信持てよ」
「それは先輩が僕を後輩だと思ってるからだよ」
「先輩、ねえ。言っとくけど俺だってお前と同じ酒井ゼミだからな。でも呼ばせてもらえない。他の酒井ゼミ生も、だ。多分、藤代さんのゼミでも呼んでる人はいないと思うぜ。お前だけが許されてるんだ」
「そう、かな……」
「そうだよ。それにここ酒井ゼミは人気があるから倍率が高かった。選考されるだけの論文を書いたんだから俺たちアタマ悪くないんだぜ」
「田中くんと一緒で?」
「そう、俺と一緒で」 

 ドヤ顔でおどける田中くんに笑う。

「顔はΩとして見れば地味だけど、Ωオメガと考えなければ可愛らしい部類だぞ。それなのに僕なんかが、っていつも一歩引くんだよな。なんでそんなに自分に自信がないの?もっと先輩に甘えに行けば?」
「あのキラキラ集団の中に行けって?無理無理。はあ?って顔されてポイされちゃう」
「うっ、確かにあそこは俺も無理」
「先輩の周りにはαとΩのあんなに綺麗な人達がいるんだ、少し可愛がってもらってるからって、真に受けて調子に乗りたくない。近くに行って笑われたくないんだ」
「そっか。日野が甘えたら先輩も嬉しいと思うんだけどな」

 そんなことないよ、迷惑だよ。もしそうだったら、そうだったならば僕も凄く嬉しい。



 僕には兄さんと姉さんがいる。二人とも αアルファと Ωオメガの特徴がよく出てて、αの兄さんは成績優秀でスポーツ万能、Ωの姉さんはロングのウェーブがよく似合う艶やかな美人だ。
 小さい頃、僕は体が平均よりひとまわり小さく、家族みんなが僕の成長を心配していた。おかげで兄さんと姉さんは過保護になって、友達と遊ぶ時も僕を一緒に連れ回していた。小さい時、二人は天使のように可愛らしかったから友達が多かった。みんなは僕に優しくて、僕も彼らに懐いて小さな我が儘も言うくらいに甘えていた。
 小学校に上がったばかりのある日、部屋でみんなで遊んでいる最中に僕がうたた寝をした事があった。
 しばらくすると兄さんと姉さんは母さんに呼ばれて部屋を出て行き、残った友達たちは対戦ゲームで遊んでいた。彼らのおしゃべりを、僕はうつらうつらと聞いていた。

「……でさ、…で、……。…日野くん達いないのに何で俺たちがこいつの面倒見なきゃいけないんだよ」

(あれ?僕の事言ってる?)

 意識が眠りから浮上してきた。

「いつもいつも付いてきて邪魔ばっかしてさ。いい加減にどっか行けばいいのに」
「こいつも日野くん達みたいに綺麗なら喜んで世話するけどな。何で同じΩなのに弟はブサイクなんだよ。家族の中でこいつだけがハズレじゃん」
「足遅いしガリガリだし。 βベータでこいつより可愛い奴いっぱいいるし」
「ははは。本当。でもうっかり洩らすなよ。日野くん、怒ったら怖いからな」
「言わねーよ。こいつの面倒みれば日野くん機嫌がいいもん」

  バタン

「みんなー。母さんがケーキを作ってくれたんだ。分けて食べよう。晶馬はまだ寝てる?」
「あ、日野くんおかえりなさーい。晶馬くん可愛い顔で熟睡してますよ。うわー、美味しそう!日野くんのお母さんってケーキ作れるんだ。凄いねー!」
「晶馬くん起きて。お母さんがケーキ作ってくれたってよ。美味しそうだよ」

 子供心に衝撃だった。僕に優しく接してくれてたのは嘘だった。僕は兄さんと姉さんのおまけとして構ってもらっていたのだ。
 その時、自分が他人からどう見られているかを知った。家族はみんな僕に甘いから、僕は自分を普通だと思っていた。けれども本当は βにも劣る粗悪品だったのだ。それなのに図々しく居座って、当たり前みたいにわがままを言ってた。煙たがられてることも知らないで。
 それ以降、兄さん達の友達が遊びに来ている時は部屋で一人で遊ぶようになった。
  αアルファと Ωオメガの集まる集団が少しだけ苦手になった。


 彼らと先輩は違う。優しさが本物だって分かってる。純粋に僕を可愛がってくれて、心配してくれてる。でも勘違いしてはいけない。後輩だから優しくしてもらってるんだ。僕は出来損ないのΩだから、立場を弁えなきゃ。

 自惚れちゃ駄目だ。
 これ以上好きになっちゃ、駄目だ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...