おとぎ話の結末

咲房

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アラビアンナイト

つがい ※

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 どうしてりぃとのキスはこんなに気持ちがいいんだろう。
 りぃはどこもかしこも綺麗な人だ。その綺麗な顔が近づくと、僕の心臓はどくどくと高鳴って頬が熱くなる。長いまつ毛が伏せられて唇が触れれば、僕の全ての神経がそこに集まり、痺れに変わって体じゅうに広がる。

 りぃに口を開けてって舌でつつかれて唇の力を抜いた。ゆるく開いた割れ目からぬるりと舌が口内に滑りこむ。

「ん……」

 捕らえられて吸われ、背筋がゾワゾワと粟立った。絡ませたまま角度を変えられてクチュリと水音がする。りぃの舌は僕の内側を端から端まで舐めまわして隠れる事を許してくれない。全てを捧げろと言わんばかりの口付けをされて頭がぼうっとなった。
 思う存分貪られ、糸を引きながら離れていく舌をぼんやりと目で追うと、大きな影が光を背にして僕を覆っていた。抱きしめられてりぃのいい匂いが僕を包む。深く息を吸い、肺の奥底までりぃを満たす。頭の中も体の中もりぃですっぽりと覆われている。
 今、世界の全てがりぃだ。

「食べて……いい?」

 くぐもった声が絞り出された。
 見ると、僕を抱きしめている大きな獣が、ご馳走に飛びつきたいのに主人の許しを待って歯を食いしばって我慢していた。

 ああ、僕のつがいが発情している……
 初めて見る余裕のないヒートの姿。

 獲物を狙う鋭い視線に射抜かれる。ゾクリと何かが背中を駆け上がった。
 僕を食べたいの?
 いいよ、存分に食べて。
 僕は立てた膝をゆるく開き、りぃを抱きしめる為の手を広げた。

「めしあがれ」



 身に纏った服を脱ぐりぃの姿は、美しくて扇情的だ。しなやかな獣が伸びをするように体をくねらせて、服の下から引き締まった腹筋と広い肩幅を露わにしていく。ふしのある長い指は掴んだシャツのシワさえも芸術的に見せる。
 彫刻のように形良い筋肉が付いた長い足、優雅な物腰。
 だがその中心からは猛々しい雄芯が現れた。そこは臨戦態勢で、はちきれんばかりに高ぶっていた。

 凄い……

 いつもだったらまともに見れないそこから今日は目が離せない。普段なら怖気付く大きさなのに、期待して息が上がる。

 あれが……僕の中に……

 入れられたらぎちぎちに圧迫されて、感じるところをグリグリと押されるだろう。凄く苦しいのに気持ちよくて堪らなくなる筈だ。
 口の中に唾液が溜まる。
 僕はきっと今、物欲しそうな顔をしている。

 熱い……

 自分から汗じゃない何かがぶわりと立ちのぼった。
 その匂いを嗅いだりぃが、あぁ、と感嘆の声を上げた。目を閉じて数回大きく呼吸をし、恍惚の表情を浮かべる。
 ゆっくり開いていく細められた獣の目が、僕に狙いを定めた。噛み付くようなキスで深く舌を絡められ、貪られる。

「ん、んっ……ぅん……はぁ、ぁっ、ぅん……」
「ん……はあっ」

 コクッ。
 混ざり合い、どちらのものかも分からなくなった唾液を嚥下した。その極上の美酒は二匹の獣を充分に酔わせた。

「はぁ、はぁ、……あっ、んっ」

 口付けの合間にも整った長い指が体をまさぐる。

「んっ、あっ」

 胸の粒は触られただけで充血してツンと固く尖っている。それを引っ掛けるように弾かれ、体が跳ねた。
 ツキンとした痛みが腰をダイレクトに刺激して、指先でコロコロと捏ねられると、ジン……と甘く痺れる。

「あぁん」

 首筋から甘いキスで降りてきた唇で左を舐られ、右は指先で引っ掻くように上下に弾かれ、胸を仰け反らせて身悶えた。尻から愛液がトロトロと溢れ出る。
 節くれだった大きな手がひざを割り、長い指が濡れてひくつく入口に潜った。中でぐるりと回すとぬちりと水音が立った。ぬちぬちと回して引き抜くと、指は愛液をまとって糸を引いていた。

 発情期ヒートのΩの体は、α‬を迎え入れようとして変化する。
 お尻の穴は柔らかくほぐれ、滑りのよくなる粘液が大量に出る。それは、αの精子を腸の奥にあるΩの子宮に着床させる為だ。
 挿入されたペニスの動きを滑らかにし、精子を子宮まで運ぶその蜜はα‬を酔わせるフェロモンでもある。

 りぃが指に絡んだ愛液の蜜を美味しそうに舐めた。ぺろぺろと舐め、指を咥えてしゃぶり、うっとりとしている。
 その淫靡な光景に煽られて僕の息も上がっていった。
 りぃは僕の腰を引き寄せてひざに乗り上げさせ、ももの裏を持ち上げてお尻を上向かせた。露わにした秘蕾にキスをして蜜をすすり、襞の中心から外に向かって舐め始める。

「あっ!」

 舌が中に差し込まれた。

「あっ、あっ!ああんっ」

 入口を舐めながら出入りする舌は、暖かくて柔らかくて擽ったい。軟体動物に穴を広げられるようなその感覚にゾワゾワと快感が広がる。

 りぃが……りぃの舌が……

 僕は初めて受けるその愛撫に身悶えた。快感をどう逃がしていいか分からない。赤子のように胸元でこぶしを握って身をよじる。
 りぃは腕を器用に使って僕の腿を押さえたまま、舌と交互に指も差し込んだ。中を掻き回して二本、三本と増やしていき、入口が充分広がっているのを確かめてから、はちきれそうになっているりぃの屹立をそこに宛てた。
 そのまま制止して僕の様子を伺う。
 ピタリと触れている僕の入口は濡れそぼり、期待してひくひくと開閉している。

 欲しい……早く……はやく、

 貰えないもどかしさで腰が揺れた時、

 バチュンッ!

「ああああ!」

 僕が怯えてないことに安心したりぃが、腰を掴んで僕を一気に奥まで貫いた。
 頭に火花が散って目の前がスパークする。
 ひと突きで僕はぜ、僕の胸とりぃの腹に白濁が飛んだ。

 バチュッ、バチュッ、グチュッ、グチュッ、パンッ、パンッ

「あっ!あっ!あっ」

 そのまま数回突き上げられ、その度に僕から白濁が溢れ、トプトプと茎を伝う。

「あんっ」

 りぃが胸に飛んだ僕の白濁を乳首にひと塗りして粒を捏ねてから口に含んだ。茎の粘液も茎を撫でながら指に絡め、長い指に滴るのを見せつけなが甘い蜜のように美味しそうに舐めた。綺麗に舐め取り、口のまわりに残った甘露も舐め、食べ掛けの獲物である僕を見て更に舌なめずりをする。
 ゴクリ。

 りぃが僕のひざ裏を掴んで左右に開くと、大きく抽挿を始めた。

「あんっ!あっ!あっあっあっ」

 深く押し込まれてのけ反り、ギリギリまで引かれて追い縋る。僕が感じ過ぎてるのか、りぃの屹立が大きいからか、いつもより圧迫感がある。抽挿のたびに感じる部分をゴリゴリと刺激されて、イったばかりの僕もまた駆け上がっていく。開いたままの口から唾液が流れても、拭う余裕がなかった。

「あっ、い、イきたい、イキたい、ああっ」
「んっ、一緒に、いこ、っ」

 りぃの動きが早さを増していく。肥大した陰茎がみっちりと胎内なかを蹂躙し、解放に向かって奥深くを叩く。

「気持ちい、りぃ、イク、イク」
「僕も、だ、クッ……」
「ああぁっ!」

 バチュッバチュッと激しい音を立てて出入りしていた屹立が、一際深い場所で熱い飛沫をほとばしらせた。

 ああ……気持ちがいい……

 体の中から手先、足先、頭頂部に至るまでジン……と痺れている。体中の細胞がつがいの生命の種を喜んでいた。ドクッ、ドクッと注がれていくそれを一滴たりとも零すまいと胎内なかが勝手に引き絞る。
 お腹のなか、熱い……

 これが発情期ヒート……

 何故か切なさが込みあげてきた。

「りぃ、りぃ」

 覆い被さってきたりぃに抱きついて、首に腕をまわす。

「好き……好きぃ……」
「僕もだ……晶馬くん……僕のつがい……」

 りぃの柔らかな髪と肩の滑らかな筋肉の手触りが気持ちいい。りぃの肩甲骨を触り、肩の広さにウットリしていると、髪を梳かれながら顔のあちこちにキスされた。

「晶馬くん……晶馬、私のつがい……なんて愛しいんだろう……」
「僕も……僕も……りぃ……」

 愛してる……
 耳元で囁かれて体中がソーダ水みたいにシュワッと痺れた。小さな泡がピリピリとあちこちで弾けてる。嬉しい気持ちが弾けてる。
 今までの発情期ヒートでこんな事はなかった。
 こんなになるのは僕がりぃを大好きだからだ。
 愛してる……
 ゼロ距離で囁きあう、唇が触れるか触れないかの位置の内緒話。


 りぃの頬に手を当てると、りぃはその手を握って指先を一本口に含んだ。それから指の又を舐め、隣の指も舐め、全てを舐めると手首に吸い付いて赤い花を咲かせた。そのまま腕、鎖骨、首筋へと吸い付き、あちこちを赤く咲かせながら登ってきて、耳の中をべろりと舐めた。

「ひゃっ」

 擽ったくて首を竦める。りぃが笑って鼻息が掛かる。笑わないで欲しい、背筋がぞわぞわする。

「かわいい」
「んっ、」

 感じる部分が胸や腰だけじゃないことは、りぃの体に教えられた。器用な指に触れられれば、どんな場所も反応してしまう。
 今も首筋に掛かる吐息でビクリビクリと体に力が入る。反射的に閉じようとする足がりぃの腰を挟む。胎内は緩く煽動して、中にとどまったままの彼を刺激した。再び中で屹立がむくりと頭をもたげた。

「あ……また大きく……」

 りぃが僕の耳たぶを噛み、爪でカリッと乳首を引っ掻いた。

「ああっ」

 甘い衝撃で胎内がギュッと絞られた。その刺激に反応したりぃが急激に硬さを取り戻していく。中がまたぎゅうぎゅうと圧迫されていく。
 するとりぃが今度は大きく腰を引き、中から出ていこうとした。

「やっ!」

 やめないで!もっと欲しい!
 追い縋る内壁が彼を追う。
 そのまま離れてしまいそうな位置まで腰を引いたりぃは、今度は一気に最奥へと突き上げた。

 パン!

「あああっ!」

 そのまままた腰を引いて、奥へ挿してを繰り返し、大きな抽挿が始まった。

 パンッ、パンッ

「あああん!あん、あぁん」

 濡れた隘路はぬるぬると滑り、バチュンバチュンと淫靡な音が耳を刺激して、瞬く間に僕を頂点へと押し上げていく。

「ひぁっ」

 りぃが突き上げながら乳首を捏ねた。熟れて色付いた小粒がジンと痺れ、僕の前はもうはち切れそうだ。りぃはもう片方の手で僕の前を握り、緩くこすった。

「ああぁん……」

 気持ちいい……爆発寸前になる。
 あちこち感じ過ぎて頭の中がくらくらしている。もうどこがいいのか分からないくらい全てが良かった。
 あ……イく……
 上り詰めて爆ぜる瞬間、りぃが先端を塞いだ。

「あっ、やっ、なに、」

 行き場を失った熱が体内に溜まり、暴走する。

「苦し、やぁ、離し、あっ、だめ、ぇ、やっ、やっ」
「いっ、しょに」

 その間もりぃは抽挿をやめない。堰き止められている快楽が出し入れされる度に出口を求めて暴れて苦しい。

「早く、イって、りぃ、はやく、はやく、あ、あ、あ」

 抽挿が早くなる。弾ける寸前の肥大した屹立が隘路を蹂躙する。接合部から腰と尻のぶつかる大きな音が響く。
 目の前がチカチカした。

「あああぁぁぁ!」
「くっ、」

 りぃの解放とともに僕を握っていた手も外され、一緒に快楽の頂点で爆ぜた。

「あふ……かはっ」

 頭が真っ白になって空に放り出されたみたいにフワッとなり、そのままフワフワと戻ってこれない。
 はぁ、はぁ、はぁ……
 力が入っていた全身が脱力した。

「ああ……気持ちいいね……」

 ドクッ、ドクッ
 中では放出が続いている。

 僕の中にりぃの愛が注がれている……
 喜びと愛しさが体中を駆け巡る。
 りぃが切なそうな顔で僕を見た。泣き出しそうなその瞳には言葉では言い尽くせない想いが詰まっている。

 それはきっと、さっきの僕と同じ想い。
 りぃ……
 好きだ。好きだ。好きだ。
 力の入らない手を背中に回すと、きつく抱きしめられた。

 幸せで幸せで、泣きそうになる。
 愛する人に愛されて、心も体も痺れている。


 ああ。
 魂が震える。
 僕たちはつがいなんだ。
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