あの日の恋

河衣佳奈

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既婚女性と独身男性との恋

引き寄せられた男女2

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今思えうとそのまま約束をスルーしても良かったはずなのに、私がそこに向かったのは彼に対して嫌な想いが無かったからだと思います。

少しデパートで服や靴を見て回ったけど特段買いたいものも見当たらず、少し早めに約束したカフェに着くと間もなくして彼がやって来た。

「お待たせしてすいません。あっ、お飲み物は何か」

二人でカウンターに行き注文してテーブルに戻る。電車内と同じように彼はじっと私の顔を見つめていた。

「そんなに見られたら恥ずかしいですよ」

流石に私は照れもあり、彼に言う。

「あっ、本当にすいません。でも本当にお綺麗で……ご結婚されてらっしゃるんですよね?」

「はい。もう23年になります。子供も一人います。もう大学生ですが」

「そうなんですね。私は今年で44になりますが未だ独身です」

(やっぱり私より年下なんだ。派手ではないけど、どこか若々しいものね)

私は彼をまじまじと見つめ、そんなことを考えていた。

訊くと彼は会社勤めをしながら資格を取り、4年前に開業したとのこと。家は同じ路線の駅近くで青森の出身のようだった。

「私は何の特徴もないただの専業主婦です。夫とは社内恋愛で結婚して……」

私はそれ以上、自分を語るものが見つからないことに気付きました。

(私はただの専業主婦でしかないんだ)

こうしてあらためて人と話すと、自分のことがよく分かります。少ししょんぼりしてしまった私に気づきいた彼は、

「主婦も母親も立派なお仕事だし、真奈美さんにしかご主人の奥様もお子様の母親も務まらないと思いますよ」

と言ってくれた。

薄っすらと涙が溢れてきた。

昼時で混んでいたカフェで、男女が向き合い話をしながら女が泣いている光景に周囲の目が気になった私は、

「場所、変えましょうか?」
とカフェを出ました。

とは言え、どこもかしこも混んでいて二人は途方に暮れて、あてもなく歩いていました。

「こっちはどうかしら?」
私が左を指差し角を曲がると、そこはホテル街に入ってしまいました。

前を歩いていた若いカップルがそのひとつに滑り込むように入っていき、向こう側から歩いてきていた年配の男性と若い女性もまたそのひとつに入っていき。

私と彼はいつしか無言で歩いていました。

そしてあと10m程でその通りが終わろうとした頃、彼が私の手を握ります。はっとして彼を見ると、真剣な面持ちで私を見つめます。

私はその瞬間、このまま彼と冒険してみたいーー気が付くと彼の手をぎゅっと握り返していました。


そしてゆっくりとホテルの中へ入って行きました。




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