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【第3章 楽園の行方】大聖堂へ
儚い約束
しおりを挟む それでも、と思う。それでも──。
「オリンピア、おれと逃げよう。その腕じゃもう何もできないだろ。仲間なんてどうせお前の技術ウデしか必要としてないんだ。ドイツのどこか……外国でもいい。二人で逃げ……」
細い身体を抱き締めた。拳を叩き込まれてもいいし、突き飛ばされてもいい。そう思って。しかし彼女は微かに呻き声を上げただけだった。弾丸が掠った右腕が痛むのだと気付いてロックは慌てて手を放す。だがオリンピアは好戦的に顔を上げた。
「わたくしは戦えますわ。このくらいの怪我じゃ銃を撃つのに支障はないわ。わたくしにはこの技術ウデがある。他の誰も持っていない技術です」
彼女の頑なすぎる態度。その苛立ちがロックの思考を奪った。
「……な、何でお前が戦うんだ。イカれた銃なんて造ってどうなるってんだ」
他に何も出来ないから? 他に居る場所もないからか?
ロックは彼女の両腕をつかんだ。痛みと脅えに悲鳴を上げかけるその声を自らの唇で覆って、彼はオリンピアの身体を僧房の床に押し倒した。
「オリンピア、おれと逃げよう……な?」
何度も何度も耳元で名前を囁く度に、彼女は激しく首を振る。こんなにもおれは拒絶されているのか? ロックの絶望が広がった。
「手を放して!」
声には殺意すら窺える。
「何故……?」
何故受け入れてもらえない? 彼の想いは確かに歪んだ情熱だ。それでも、と思う。
「オリンピア、愛しているのに……」
唯一確かな想いを口にする。全てを失った自分に寄り添ってくれるのは、もう彼女しか居ないのだから。
「何……、ロック?」
一瞬硬直した唇を指先で触れて、赤く染まった耳たぶを舌先でなぞった。
「ロック……」
耳から首へ唇が移動する度、オリンピアの頬が紅潮する。
「どうして……?」
頬を張られたような気がしたが、その手には力がなかった。つかんだ手首には連戦の負傷か、打ちつけたように赤く染まった跡が見える。痛々しい。その痕に優しく唇を寄せる。
「うっ……」
呻きには涙声が混じっていた。
「オリ……」
組み敷いた女の顔を見て、ロックの動きは一瞬凍り付く。薄い茶色の双眸を潤ませながらも、彼女は真っ直ぐこちらを見据えていたのだ。
「おれを見るな……」
例えようのない敗北感に打ちのめされて、ロックは片手で彼女の目元を覆った。それでも愛しさが込み上げる。ロックは彼女を抱き締めた。
「ロック……」
彼女の腕がおずおずと自分の背に回される。
歪み切った自分。しかしこの瞬間、想いが通じた気がした。
「……二人で逃げよう。どこか遠く……銃も何もない所……。おれは裏切らない。だからお前も……。な、オリンピア」
まぶたが重く、言い得ない満足感が全身を駆け巡る。腕の中で彼女が頷いたような気がして、ロックはそのまま目を閉じた。
※ ※ ※
「オリンピア、おれと逃げよう。その腕じゃもう何もできないだろ。仲間なんてどうせお前の技術ウデしか必要としてないんだ。ドイツのどこか……外国でもいい。二人で逃げ……」
細い身体を抱き締めた。拳を叩き込まれてもいいし、突き飛ばされてもいい。そう思って。しかし彼女は微かに呻き声を上げただけだった。弾丸が掠った右腕が痛むのだと気付いてロックは慌てて手を放す。だがオリンピアは好戦的に顔を上げた。
「わたくしは戦えますわ。このくらいの怪我じゃ銃を撃つのに支障はないわ。わたくしにはこの技術ウデがある。他の誰も持っていない技術です」
彼女の頑なすぎる態度。その苛立ちがロックの思考を奪った。
「……な、何でお前が戦うんだ。イカれた銃なんて造ってどうなるってんだ」
他に何も出来ないから? 他に居る場所もないからか?
ロックは彼女の両腕をつかんだ。痛みと脅えに悲鳴を上げかけるその声を自らの唇で覆って、彼はオリンピアの身体を僧房の床に押し倒した。
「オリンピア、おれと逃げよう……な?」
何度も何度も耳元で名前を囁く度に、彼女は激しく首を振る。こんなにもおれは拒絶されているのか? ロックの絶望が広がった。
「手を放して!」
声には殺意すら窺える。
「何故……?」
何故受け入れてもらえない? 彼の想いは確かに歪んだ情熱だ。それでも、と思う。
「オリンピア、愛しているのに……」
唯一確かな想いを口にする。全てを失った自分に寄り添ってくれるのは、もう彼女しか居ないのだから。
「何……、ロック?」
一瞬硬直した唇を指先で触れて、赤く染まった耳たぶを舌先でなぞった。
「ロック……」
耳から首へ唇が移動する度、オリンピアの頬が紅潮する。
「どうして……?」
頬を張られたような気がしたが、その手には力がなかった。つかんだ手首には連戦の負傷か、打ちつけたように赤く染まった跡が見える。痛々しい。その痕に優しく唇を寄せる。
「うっ……」
呻きには涙声が混じっていた。
「オリ……」
組み敷いた女の顔を見て、ロックの動きは一瞬凍り付く。薄い茶色の双眸を潤ませながらも、彼女は真っ直ぐこちらを見据えていたのだ。
「おれを見るな……」
例えようのない敗北感に打ちのめされて、ロックは片手で彼女の目元を覆った。それでも愛しさが込み上げる。ロックは彼女を抱き締めた。
「ロック……」
彼女の腕がおずおずと自分の背に回される。
歪み切った自分。しかしこの瞬間、想いが通じた気がした。
「……二人で逃げよう。どこか遠く……銃も何もない所……。おれは裏切らない。だからお前も……。な、オリンピア」
まぶたが重く、言い得ない満足感が全身を駆け巡る。腕の中で彼女が頷いたような気がして、ロックはそのまま目を閉じた。
※ ※ ※
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