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第二部

4-5.ムカつくあいつとずっと一緒に居ると決めました

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 留学期間が終わり、ラティーファは研究所の転移陣から母国へと旅立った。
 大勢の生徒が見送りを望んだものの、彼女はアリシアとロシュだけしか許さなかった。
 場所が極秘のため最後までとはいかなかったが、送り出せたことに安堵と寂しさが残る。

「あーあ、行っちゃった。なんか寂しいな」

「唯一話せた女だもんな」

「リャナがいるもん」

「あれは家族判定だろ」

 見送りの脚でマークの研究室に行くと、リャナは満面の笑みで出迎えてくれた。

「ママ、パパ、仲直りできたのねぇ!」

「うん。リャナのおかげだよ、ありがとう」

 ぎゅっと抱きしめるとマークの白衣と同じ匂いがする。
 そのことに微笑ましさやら僅かな不満やらを感じていると、リャナがにぱっと笑った。

「パパがママをいじめるのは、大好きで仕方ないからだものね!」

「えぇっ!? そんなことは……」

「分かってんならわざわざ言うな」

「ちょっと、ロシュってば」

 後ろから抱き寄せられると二人に挟まれる形になってしまう。
 とはいえ、マークはにこにこしながら見守ってくれているから問題ないだろう。
 リャナの荷物をまとめておいてくれたらしく、来る時より多い荷物に実家を思い出した。

「えーっ、もう帰るのぉ? アタシ、もっとマーク様と居たい!」

「二週間の約束だろう? リャナちゃんの部屋は寮なんだから」

「マーク様ってばひどぉい! 一緒のベッドで寝ていいよって言ってくれたのにぃ!」

「ま、待ってくれ! ここでその話は……っ」

「……へぇ?」

 ロシュの低い声に震え上がるマークだが、リャナは気にせず文句を言い連ねる。
 それは惚気にも近い発言ばかりで、無邪気な仕草に微笑ましさを感じた。
 ずっと一緒にいたい気持ちはよく分かる。
 それは今回の騒動で自分も強く感じたからだ。
 今も整っているとは言えない研究室を見回すと、卒業後について意識が向いた。
 研修もしたし、様々な関係からしてマークの研究室で働くのが現実的だろう。
 しかし、ラティーファの言葉で違う方向にも考えられるようになった。

「どうした?」

 ロシュはじゃれあっているリャナとマークから目を離していたらしい。
 ぴったりと寄り添いながら見つめられ、なんとなく後ろめたい気分になってしまった。

「なんでもないよ」

「隠しても無駄なんだよ。どんだけ一緒にいると思ってんだ」

 ふっと笑った顔を向けられると、あえて隠すのもどうかと思えてくる。
 二人の賑わいはまだまだ続くようだし、窓枠に手をついて空を見上げた。

「ラティーファさんの国、どんなとこかなって」

 この国の魔術師はしがらみが多く、派閥的な争いも絶えない。
 自由に魔法と関われる世界って、どんなものなんだろう。
 高い空に浮かぶ雲は自由そのものに見え、淡い憧れを抱いてしまう。

「お前があっちの国に行きたいなら、それでもいいんじゃね」

 さらりと言ってのけるロシュの言葉は素っ気なく、寂しさに襲われる。
 離れるなって言ったのに……。
 じとりとした目線をロシュに送ると、赤い唇がにぃっと引き上がった。

「あっちの魔法界を引っ掻き回すのも楽しそうだ」

「え……? ロシュも来てくれるの?」

「は? 当たり前だろ」

 呆れきった顔を向けられ、頬がじんわり熱くなった。
 国から出るなんて一大事だというのに、当然とばかりに言ってくれるなんて。
 なんとなく恥ずかしさを感じていると、ロシュが額をコンと叩いてきた。

「一緒にいるって言っただろ。俺はお前と違って約束は破んねぇんだよ」

「う……もう破らないもん」

「破らせねぇし。ま、今すぐ決めることじゃないだろ。
 どんな進路でも付き合ってやるから、ゆっくり考えろ」

 優しい言葉が嬉しくて、思わず隣に寄りかかった。
 肩に置かれた手は大きくて温かく、頼りがいのある存在にほっとする。
 しかし、これからはもたれかかるだけではいけない。
 自分からその手を引き寄せると、そっと頬を押し当てた。

「ロシュと一緒に居る方法、いっぱい考えるね」

「一緒に考えればいいだろ」

 そう言って、ロシュはアリシアの顎を自分のほうへ向けた。
 近づく顔は優しげなままで、触れるであろう唇を待ちわびてしまう。
 見られたら冷やかされそうな気もするが、この場に居る人なら問題ないだろう。
 華やかな言い合いが響く中、二人はどこまでも穏やかな時を過ごした。
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