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とある溺愛彼氏の一日(鷹城視点)

とある昼下がり

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 小春日和のある昼下がり。鷹城吾郎(たかじょう・ごろう)は駅裏のカフェで編集者の白川墨雄(しらかわ・すみお)と打ち合わせをしていた。
 室内はナチュラルなインテリアで、白や木目調の家具が多い。さりげなく置かれた観葉植物。全体的に清潔で落ち着いた雰囲気で、大きな窓から明るい日が差し込んでいる。
 二人はテーブル席に向かい合わせに座り、次回作について話し合っていた。

 「――では、これでいきましょう。鷹城さん、よろしくお願いします」

 白川がとんとんと書類を揃えて微笑んだ。

「ん」

 と鷹城がカフェオレをすすりながら相槌を打つ。

 打ち合わせはすぐに終わり、あとは雑談になった。

「それにしても、鷹城さんがこんな素敵なお店を知ってるなんて驚きです。意外ですね。いつもはスターパックスとかなのに」

 白川がブラックコーヒーを飲みながら言った。

「真琴(まこと)と一緒に散歩してて見つけたんだよ。入ってみたら静かだし、ケーキも美味いし、居心地もいい。二人でよく来るんだ」

 鷹城はチーズケーキを食べながら答える。

「へえ。影内(かげうち)君が見つけたんだ。センスいいですね」

 と白川は言った。彼には真琴と交際し始めたことを報告してある。 

「だろう? あいつすごいんだ。そういや、この前もそうだったんだぜ。一緒に出掛けた先でお昼になって、何か食べようって話しになったんだけど、初めて訪れた街だったから、どこの店が美味いか分からなかったんだ。で、迷いながら歩いてたら、真琴が急にある店の前で立ち止まって、『ここにしましょう』って言ったんだよ。そこはじいさんとばあさんがやってるような小さい食堂で、俺は正直『外したかな』と思ったんだ。でも、違った。頼んだ天ぷらそばがすっげえ美味いのよ。衣がサクサクで、海老がぷりぷり。ちょっと感動したよ。――ほんと、真琴はこういうことに鼻が利くんだ。あいつと出掛けてて食い物屋で失敗したことない」
「へえー」
「あと、あいつは見ただけで、パンとかの中にどのくらい中身が詰まってるか分かるんだ。例えばシュークリームは、どれがスカスカで、どれがクリームたっぷりなのか一目で分かる。パン屋でアンパン買う時なんて、もうすごいぜ。戦場の兵士みたいにギラギラした目をしてる。もう、おっかしいだろ? で、家に帰って食ってみて、いっぱい中身が入ってると、『当たってました』とか頬を染めて言うわけ。な、可愛いだろ?」

 鷹城はその時の真琴の様子を思い出して、明るく笑う。

「はあ……」
「あとな、真琴はスーパーで狙ってた商品が安く買えると、すっげえ嬉しそうな顔するんだぜ。朝早く並んでキャベツがいつもの百円も安く買えた、って喜んでるんだ。キャベツだぞ? キャベツ。それを使って今日は贅沢にロールキャベツにします、とか言っちゃうわけ。んもう、かっわいいだろ? たまんないよな」
「は、はあ……」
「でな、この前は……」
「ちょ、ちょーっと待って! ストップ、ストップ!」

 白川が両方の手のひらを向け、鷹城を制す。

「あ?」

 と、怪訝な顔をした。

「鷹城さんが影内君にぞっこんなのは分かりましたから、もうそのくらいにして下さい」
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