僕は頭からっぽのバカだから

たらこ

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6.まいにち

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 お兄さんのお部屋に遊びに行くようになってから二回目の木曜日。お兄さんの部屋を探索していた僕は、ゴミ袋の中からすごいものを見つけてしまった。

「お兄さん! これ! 読むの教えて!!」
「あ? どれ?」

 床に寝転がって携帯を見ていたお兄さんはゴロンと僕のほうに体を転がして、すぐに飛び起きた。

「おいコラっ! お前は何勝手に人ん家のゴミ漁ってんだ!」
「ねえねえ! これ! お兄さんの名前でしょ?」

 僕が燃えるゴミの袋から拾った封筒を持っていくと、お兄さんは嫌そうな顔をしながら封筒の表に書いてある名前を覗き込んできた。

「あー……まあな」
「僕お兄さんの名前知らないよ」

 だけどお兄さんは、封筒に書いてあるすごく難しそうな漢字をどう読むのか教えてくれなかった。
 お兄さんは嫌そうな顔のまま僕の手から封筒を取って、ぐしゃぐしゃに丸めて立ち上がった。

「生ごみも入ってただろ。汚ぇから手ぇ洗え」

 そう言ってキッチンまで行って、僕があさっていたゴミ袋の中に封筒を捨てて、ゴミ袋を縛って手を洗う。僕もお兄さんの真似してキッチンで手を洗った。またお部屋のほうに戻るとき、お兄さんはちょっと機嫌が悪そうだった。 
 お兄さんは床にドスンと座った。僕はお兄さんのお膝の上に座った。

「お兄さん」

 僕が呼んでもお兄さんは嫌な顔のまま何も言ってくれない。

「お兄さん」

 もう一回呼んで、お兄さんの腕にぎゅっとした。そうしたらようやくお兄さんは返事をしてくれた。

「……んだよ」
「ごめんなさい」

 僕はお兄さんの腕を両脚で挟んで、お兄さんの手が僕のお尻にあたるようにした。そうしたらお兄さんは僕のお尻をぎゅって握って、機嫌が悪いのをなおしてくれた。

「お前は知らなくていいんだよ。俺の名前じゃねえし」
「お兄さんの名前じゃないの?」
「俺のだけど、俺のじゃない」

 なぞなぞみたいだ。僕がうーんと悩んでいると、お兄さんは僕の脚から腕を引き抜いて、僕の上の服のなかに手を入れて来た。それで僕の胸を触って、おっぱいのでっぱりのところを摘まんだ。

「んー……」

 ちょっと痛いけどむずむずくすぐったくて、僕は脚をごしごしした。
 お兄さんは意地悪するみたいに僕のおっぱいのでっぱりのところを引っ張りながら言った。

「名前とかねーから。俺」
「なんで?」
「まともな親じゃなかったんだよ。まともじゃない生き物の中でもまともじゃないヤツらから生まれて、親からはゴミとしか呼ばれなかったし。そんで親父が殺された後は仲間っつーか同類みたいなやつらに拾われて汚れ仕事させられてて……なんつーかな。名前とか住む場所はそいつらが用意すんだよ。で、足が付きそうになったら新しい名前と住所もらって、別の人間として生きてく。……ずっとそうやって生きて来たから、封筒にある名前も俺のじゃねーし……まーそういう感じだからお前は知らなくていい」

 やっぱり難しくてよくわからなかった。だけど一個だけわかって、僕は体の全部がぎゅーっとつぶされるみたいに苦しくなった。

「また『アシガツキソウ』になったらいなくなっちゃうの?」
「お前……さ」

 お兄さんがぼそっと言って、僕の服の中から手を抜いた。
 僕は怖くて悲しくて、お兄さんのほうをふりかえった。お兄さんは何か言いたそうな怖い顔で僕を見下ろしていた。

 しばらくお兄さんは何も言ってくれなくて、だけど僕が「やだ」と言って抱き着いたら、僕のことをぎゅーっとしながら笑った。

「俺みたいな嫌われもんに懐くの、お前くらいだぞ」
「……うん」

 僕がお兄さんに顔をぎゅーぎゅー押し付けながら言ったら、お兄さんはまた笑った。

「最近マジで意味わかんねえんだけど、お前俺のどこがいいわけ?」
「……いい?」
「なんで毎日俺んとこくんだよ。ヤられるだけだってのに」

 ちょっと考えてから、僕は答えた。

「僕がくるなら、お兄さんいてくれる。……っ言ってた」
「いや、そーゆーんじゃなくて……んー、なんていうかな……」

 お兄さんは嫌そうな顔でお部屋の中をきょろきょろ見て、僕がずっとお兄さんが言うのを待っていると、ようやく僕を見て、怒ったみたいに聞いてきた。

「……好きか? 俺のこと……」
「うん!」

 僕はすぐにいっぱい頷いた。
 だけどお兄さんは、頭をぶんぶんする僕にゴツン、と頭突きしてきた。

「いたい!」

 僕が頭をおさえると、お兄さんは僕をぎゅーっとして言った。

「……来るか?」

 小さい声だった。
 こんなに近くじゃなかったら聞こえてないくらいだ。
 お兄さんの顔は僕の頭のところにあるから、お兄さんがどんな顔をしてるのかは見れない。だから僕は何も聞こえなかったことにして、お兄さんにぎゅーっと抱き着いて甘えるみたいにお願いした。

「毎日いてね、ずっと」

 お兄さんが深く息を吸い込むような音が聞こえた。
 くっついた胸のところが、どくどくしていた。
 
 お兄さんは吸い込んだ息を吐くようにしながら、ああ、とだけ答えた。
 それだけ。
 それからもう、お兄さんは「来るか」とは言わなくなった。
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