溶けだす頃に

羅刹十鬼

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ちょうど廊下に出ると、授業が始まる鐘が鳴った。
後ろを振り返ると、京介が睨んできていた。
申し訳ないが、次の授業も恥さらしなんてごめんだ。
だったら俺はサボる!この一択。
とりあえず中庭にでも行くか。あそこなら座れるベンチあるし。
「京介にはわりーがサボらせてくれ!」
携帯をいじりながら、廊下を歩いていると見慣れた人物が他のクラスの教室から出てきた。
あれは......はるかだ!
はるかは俺の幼馴染。京介よりもずっと長い付き合いだ。
クラスが離れて話す機会が多少は減ったが毎日メッセージでやりとりしている。
「はるか!」
声をかけられたはるかは、振り返った。
「おー、景加ー」
手を振られる。
仲間を見つけたようで嬉しくなった俺は、はるかの方へ走って駆け寄った。
「はるかもサボりか?」
「そうっすよー、景加もサボりっすか?」
うんうんと頷く。
こいつは語尾が特徴的だが、まぁ俺が長年友達として付き合ってこれてるってことは相性はいいってことだ。
ちなみに俺ほどではないけどはるかも授業をサボったりするし、俺と同じくらいの学力である。まぁいわゆる馬鹿だ。
たまに2人で一緒に話したりゲームをしたりするのが楽しみでもあった。
それなのに......
先ほどのことを思い出し、複雑になったがそんなこと忘れることにした。
「中庭でゲームやらね?」
「自分もそれ言おうと思ってたっす」
やっぱり気が合うな。



「あ!敵そっちいる!早くっ」
「どこっすかー?見当たらないっすけど......」
中庭でゲームをしている。
俺ははるかの画面を覗き込み、いろいろ指示をしている。
「ばか、そっちそっち、あ!やられた!」
後少しだったのに。
「あー、残念っすね」
「本当に思ってんのかよ、まぁいいや」
もう一回やろうと言い出せば、もう飽きたとばかりに嫌な顔をされる。
「つーか、もうちょっとでテストっすねー」
あからさまに話題を変えられたが、テストという言葉がどうしても引っかかった。
「ん?テスト?」
「そうそう。勉強した?って聞こうとしたけど愚問っすねー」
あぁ、期末テストか。
「こんなとこでサボってるような奴がまともに勉強してるわけねーだろ。どうせお前もしてねーだろ?」
「する必要がないんでねー、諦めてるっす!」
こういうところも似てるわ。
テストの話をしてから一気に現実に引き戻されたような気がした俺は流れで、先ほどの出来事をはるかに話した。
すると、はるかは表情を変えずに
「え、欠席ギリギリなのにサボってるんすか?」
と聞いて来る。
「あぁ。だってあんなのただの恥さらしじゃねーか。俺はもうあんなの絶対嫌だ!」
「いやそれは絶対あんたのせいっすよ。あと1、2回休んだらアウトって教科もあるんだったら本当にサボらない方がいいと思うっす。アウトって可愛い言い方してますけど、普通に退学っすからね」
はるかの言葉を聞いて再び現実を叩きつけられる。
「わかってるけど......」
「今までサボってたんだったらこれから多分ずっと馬鹿にされ続けるし、授業でもきっとさっきみたいな扱いされるっすよ。それはあんたのせいっす。仕方ない」
正論を言われすぎてなんか理不尽に腹立ってきたけど、マジでこいつの言う通りなんだよな。
「うーん、まぁ今度のテスト、高得点でも取れれば今よりはだいぶマシな扱いになるんじゃないっすかね」
「まじ?!じゃあ一緒に勉強しようぜ!お前も俺と同じくらいだろ!」
はるかも決して頭がいいわけではない。
頭良かったらサボらないと思うしな!
「あんたより酷いかもしれないっすね。勉強かぁ、どうせあいつも来るんすよね?」
あいつとは京介のこと。
「おう。京介は頭いいから2人で教えてもらえばいいじゃん!」
「遠慮しとくっす、2人で勉強会頑張ってくだせー」
はるかがその場に立ち上がる。
そのタイミングで授業終了を知らせる鐘が鳴った。
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