溶けだす頃に

羅刹十鬼

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執着

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名前を見ようと思って、ちゃんとはるかの名前が書いてあることを確認してから急に紙が取り上げられた。
「もー、そんな見ないでくださいよー」
そう言ったはるかの声はどこか冷たかった。
「うわ、ごめんっ」
慌てて謝るがそれも無視だ。
「早く帰りましょー」
俺を置いてさっさと教室を出ていこうとするはるかを急いで追いかけた。


帰りの道にて。
早く帰りたいのかはるかは少し早歩きだ。
会話もすることないし。少し気まずい。
ふと、先ほどのことを思い返す。
はるか…ほんとは頭良かったのか?
俺は勝手に成績を見た申し訳なさより、そっちの衝撃の方が大きかった。
紙には、学年順位8位という好成績者の実力が綴られていた。
いやいや、まずはどこから突っ込もうか?!
自分より馬鹿な奴に勉強とか教えてもらう必要ねーもんな。
今になって勉強会に参加しなかったはるかに納得がいった。
しかし、京介ははるかが勉強会に参加しない理由が別にあることを知らなかった。
「お前さ……」
特に話すこともなく、気まずさがMAXになった時、あまり話題に出したくなかったさっきのことを思い切って聞いてみることにした。
「なんすか?」
「テスト……」
言いにくそうに言えばはるかは、あぁ、あれっすね~といつもと同じく流暢な口調で話し始めた。
「いやぁ、今回は5位内に入れるんじゃないかと思ったんすけどね。なかなか難しいっす!」
「さすがに5位は難しいだろ......」
俺でもって言い方変だけど、10位内に入れないのに5位なんてやばいだろ。
「ん!?そういうことじゃなくて!」
慌ててつっこむとはるかはクスクスと笑う。
「ふふっ、馬鹿じゃなかったのかよって言いたいんすよね?」
その問いにうんうんと首を縦に振る。
「これでも意外と頭いいんすよ~」
へへん、と胸を張るはるか。
「なんで今まで勉強できない感じに言ってたんだよ」
「んー、馬鹿にしてくる人たちが面白いからですかねー」
そう言われて、俺は今まではるかを馬鹿にしたことがあったかと色々振り返ってみる。
いや、ないな。
「あんたはいい人でしたね。なんなら勉強会とかしてくれようとしてたし」
うん、良かった。馬鹿にしないで。
心の中では少ししてたことは内緒にしておこう。
「でもなんか申し訳ないな。ほんとは頭良いのに、俺が2人に教えるみたいな形で偉そうに勉強会ひらこうとしていて」
そう謝れば、はるかはまた笑い出す。
「なに言ってんすかあんた。バレないようにしてたんだから分からないのは当然のこと。さっきも言った通り、あんたは馬鹿にしてこなかったし、勉強会も企画してくれたし、騙してて申し訳ないってこっちが謝りたいっす」
そんなことねーよと返すと、やっぱりあんたは良い人だと言われた。
それから適当な話をしながら帰っていた。
今までずっと遠くに感じていたのに距離が縮まった気がした。
あれ、そういやなんか今日よく笑うな......。こんな笑ったところ初めて見たかも。
俺も自然と笑顔になっていた。
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