溶けだす頃に

羅刹十鬼

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「にしても、俺たちしかいないんだな。もっといると思ってたけど」
古典の補講で残っているのは今のところ俺と隼斗しかいない。
俺たちのクラスは成績優秀者がたくさんいるんだな。
「いや、みんな帰ったぞ?」
「えっ!残ってるの俺たちだけかよ!」
なんてことだ。
俺は補講の担当が戸川だし、そもそも進級できるかもわからない危機的状況で補講をサボるわけにはいかない。
くそっ……補講あるのに帰った奴は今日犬の糞でも踏めばいい!!!
「ま、俺もこんなに遅くまで残らなくても早く帰れるんだけどさ!」
そう言って隼斗はゴソゴソとバッグからプリントを取り出した。
「なんだよそれ」
「課題のプリント。ギリギリ赤点だった人はこのプリントをやれば補講は残らなくてもいいんだよ」
課題のプリント?そんなの渡されてないけど。
「景加は渡されてないの?」
プリントをまとめながら隼斗は聞いてきた。
「あぁ。渡されてないけど」
「もしかして景加、古典の点数1けたとかだった?」
うんと頷く。
古典は全く自信がなかった。
「だからだな。俺みたいに、赤点30点に対してギリギリ赤点の28点とかだった場合はプリントが配られるんだ」
「つまり俺みたいな4点のやつは残れってことだな」
そゆことだと言われれば、もっと勉強しとけば良かったなと後悔の波が押し寄せてくる。
「じゃ、俺は帰るぜ」
そう言って席を立つ隼斗。
「あ、ちょっと」
「久しぶりに話せて嬉しかったぞ、じゃあ!」
俺の言葉に聞く耳も持たずさっさと教室から出ていった。
せめて、戸川が来るまでいてほしかったし、俺と同じく居残りだと思ってたからもっと話せると勘違いしていた。
1人でぼーっと何も考えず座っていた。
しーんと静まり返った教室。いつもはクラスメイトたちの話し声でうるさいのに、放課後は誰もいないから静かだ。
しばらくすると、足音が聞こえてきた。
「待たせて申し訳ないな」
そう言って教室に戸川が入ってきた。
「いつまで待たせんだよ」
悪態をつくが、戸川は全部無視か、ごめんごめんと適当に謝るだけだった。
「お前の課題はこれ」
そう言うと戸川は机に大量のプリントを置いて、
「これもな」
次に古典文法のワークと書かれた問題集を俺に手渡してきた。
「待った割には、課題これしかないんだな」
「別に補講の準備をしてて遅れたわけじゃねーよ」
なんだよ、待ってんだから後回しにしろよと愚痴が喉まで出かけるが、ぐっと堪えた。
「簡単なプリントからでもいいから早くやればー?見ててやるからさ」
「うるせ!言われなくてもやる!」
問題集を置いて、大量のプリントを持ち上げるが、
「量多くね?」
さすがにこれは鬼畜すぎる。
「多いよな。俺だったら絶対やるの嫌だ」
自分がやらないからってこんな量出しやがって!
「まぁこの量だから持って帰ってやってもいいんだが......どうせ持って帰ってもお前やらないだろ?」
ぎくり。
図星を突かれ驚いていると、やっぱりと笑われた。
「プリント数枚でもいいから学校で終わらせていけば」
「お前は俺が終わるまでずっと付きっきりかよ」
当たり前だろ、とだけ言われた。
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