溶けだす頃に

羅刹十鬼

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蜜

三

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「そりゃあずっと見られてたら気付くだろ」
なんだかすごく恥ずかしくなった。
俺はバレていないと思って調子に乗ってガン見していたが、本人には気付かれていた。
「すまないな。ずっと見られてるとか気持ち悪いって思っただろ」
聞いてなかったけど説明してもらったし、また今まで通り対面に戻ろうと立ち上がった。
しかし、腕を掴まれて引き寄せられる。
顔が近付く。
ほのかに感じ取れた柔軟剤の香りも、こんなに近づけばさっきより強く香った。
「戻っていいの？」
耳元で囁かれれば、自然に体が反応した。
「......っ！」
手で耳元を抑えた俺に対して、
「かわいいな」
と、初めて見るような優しい笑顔を向ける。
「ばかっ、耳はやめろよっ」
「耳以外ならいいのか？」
言い返す言葉もなく睨むことしかできなかった。
羞恥で顔が熱くなっていく。
「耳以外もダメだっ！」
「顔真っ赤じゃん。耳弱いんだな」
でた！この人を馬鹿にしたような顔！
「とりあえず座れば？」
そう言われて我にかえり、戸川の横の席に座った。
「お前って意外と素直だよな。やれって言ったことちゃんとやるし」
都合よく褒めやがって！
「進級できるか分からないから大人しく従ってるだけだ！」
そう反抗すれば、あっそと流される。
なんなんだこいつは。
話を適当にあしらうところとか、馬鹿にしてくるところとかなんとなく京介に似てるし嫌な感じがする。
「でも、俺は別に見られて気持ち悪いとか思わないけど」
「なんで。やっぱり男好きって噂は本当だったのかよ？」
さっきのやり返しとばかりに言ってやった。
「男好き？誰が？」
「あんただよ」
今の話の流れ的にお前しかいないだろ。
「俺男好きなのか？」
きょとんとした表情で聞かれた。
「あーもー！こっちが聞いてんだよ！」
会話のテンポが悪くてイライラする。
「別に。好きになったら男も女も関係ないんじゃね」
「じゃあ男もありかよ」
そう聞いても、知らねと吐き捨てられる。
自分の発言に責任持たなすぎだろ。
「逆に余湖は？」
「女しか興味ねーよ」
当たり前だろ。
「同性をどうやって好きになるっていうんだ？そもそも女が男に、男が女に恋をするなんて普通のことっていうか当たり前だろ？」
「なるほどな。そういう考えもあるのか」
って、なんで俺たちはこんなに同性愛のことについて話し合っているんだ？
「つまり同性愛はおかしいと思うか？」
それを聞かれたら即答はできない。この世に同性愛者の人たちは沢山いるし、その人たちのことを否定することになってしまう。
「さぁな。個人個人で好きな人と一緒にいれたらいいんじゃね。同性相手でも、動物相手でもな」
それから沈黙が続いた。
お互い黙ったままだ。
俺は古典のプリントに手をつけるわけでもなくただただ座っていた。
戸川のやつも隣で大人しく座っていた。
ふと、気になったことを聞いてみた。
「先生と生徒の恋愛はありだと思うか？」

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