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53話 環寧の仕官と大陸の動き
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「おめでとう」
張涼の南海郡太守の赴任式からクレに帰還し、砦に戻った菜緒虎は、ニッコリと笑いながら環寧たち二十人に羊皮紙の束を差し出す。
「これは、まさか」
環寧たちが喉を鳴らす。
「正式にソウキ国に仕えて欲しい。秘匿する情報も無くなったからな。無論、他国に出ても構わない」
羊皮紙には以前に菜緒虎も交わした契約に近い内容が書いてあった。
もっとも、月に金貨一枚の俸給か耕作用の土地30m×30mと労働力として供与されるスケルトン二体とかなりお安めだが。
「これまで以上に励ませてもらいます」
環寧以下22人は、書類上でも正式にソウキ国の民となった。
この年のチュウカナ大陸の北と南は、比較的穏やかだった。
それとは対照的に、西のマッサチン国ではドラド辺境伯の没落に伴う権力闘争で、東は元州牧である孫蚊の動向で人為的に不安定となる。
「僧操さまが、ソウキ国との貿易で食料に余裕があったのがここにきて混乱に拍車をかけています」
如何にも文官らしい服に身を包んだ銀色の毛並みの狐人の筍幾は、出された緑茶をずずずと啜ると穏やかに笑う。
「それで、できれば売ってくれる食料を増やしてほしいと」
菜緒虎は、「そんなことを言われてもなぁ」と心の中で呟く。
「何分、去年の親征では得られたものが少な過ぎまして」
筍幾の屈託のない返事に、菜緒虎は額を抑える。
去年末のニーダ半島親征に直接駆り出された東呉州では、「壇羽十二世のニーダ半島親征は王の自慰。示威と掛けてます」と、平然と陰口が叩かれているという。
領民の不満は既に限界にまで達しているという。
「ご希望の量を揃えられるかどうかは判りませんが、話は承りました」
菜緒虎は小さく頭を下げる。
「助かります。次に打診した僧植子建さまの留学の件ですが」
「当面は、ここで劉美が宮廷での所作を関翅が武術の指導をいたします」
「重ねてお礼申し上げます」
菜緒虎の答えに、再び筍幾は満足そうな顔をする。
僧植子建は、今年で10歳になる僧操の直孫(父系によってつながる孫)。
英才教育を施すなら不思議ではない年齢だが、その留学先が国外というのは異例である。
アルテミスは、この留学の理由を僧操の立場の危うさにあるとを看破し、僧植の受け入れを決めていたのだ。
「僧植子建と申します。よろしくご指導ご鞭撻のほどを」
菜緒虎を前に、頭に唯一の獣人成分であるクマ耳の少年がぺこりと頭を下げる。
髪の色は栗色。くりくりとした大きな瞳の色は紺色。顔立ちは美少年と言っていい。
父である僧植子徳と奥方、どちらに似たのだろうかと、菜緒虎はぼんやりと失礼なことを考える。
「はわうっ」
菜緒虎の隣りに立っていた兎人の劉美の口から、悲鳴にも似た声が上がる。
その悲鳴から、僧植はかなりの部分で祖父や父に似ているのだろうということが推測できる。
「関翅、張緋、二人だけにならないよう気をつけろ」
僅かに顔を引きつらせながら菜緒虎は指示を出す。
「それは我が主に対して、いささか失礼ではないか?」
「そうだ」
二メートル近い偉丈夫の竜貴人関翅が反論。
それに虎人の張緋が同調する。
「片方にその気が無くても、何かあったら洒落にならんし、下手なトラウマ抱えて転んでもヤバいだろ」
「だから」
「今の劉美の悲鳴を聞いて断言できるか?」
「本人がいる前で変なこと言わないで下さーい」
それまで何かを堪えていた劉美が大声を上げて抗議した。
張涼の南海郡太守の赴任式からクレに帰還し、砦に戻った菜緒虎は、ニッコリと笑いながら環寧たち二十人に羊皮紙の束を差し出す。
「これは、まさか」
環寧たちが喉を鳴らす。
「正式にソウキ国に仕えて欲しい。秘匿する情報も無くなったからな。無論、他国に出ても構わない」
羊皮紙には以前に菜緒虎も交わした契約に近い内容が書いてあった。
もっとも、月に金貨一枚の俸給か耕作用の土地30m×30mと労働力として供与されるスケルトン二体とかなりお安めだが。
「これまで以上に励ませてもらいます」
環寧以下22人は、書類上でも正式にソウキ国の民となった。
この年のチュウカナ大陸の北と南は、比較的穏やかだった。
それとは対照的に、西のマッサチン国ではドラド辺境伯の没落に伴う権力闘争で、東は元州牧である孫蚊の動向で人為的に不安定となる。
「僧操さまが、ソウキ国との貿易で食料に余裕があったのがここにきて混乱に拍車をかけています」
如何にも文官らしい服に身を包んだ銀色の毛並みの狐人の筍幾は、出された緑茶をずずずと啜ると穏やかに笑う。
「それで、できれば売ってくれる食料を増やしてほしいと」
菜緒虎は、「そんなことを言われてもなぁ」と心の中で呟く。
「何分、去年の親征では得られたものが少な過ぎまして」
筍幾の屈託のない返事に、菜緒虎は額を抑える。
去年末のニーダ半島親征に直接駆り出された東呉州では、「壇羽十二世のニーダ半島親征は王の自慰。示威と掛けてます」と、平然と陰口が叩かれているという。
領民の不満は既に限界にまで達しているという。
「ご希望の量を揃えられるかどうかは判りませんが、話は承りました」
菜緒虎は小さく頭を下げる。
「助かります。次に打診した僧植子建さまの留学の件ですが」
「当面は、ここで劉美が宮廷での所作を関翅が武術の指導をいたします」
「重ねてお礼申し上げます」
菜緒虎の答えに、再び筍幾は満足そうな顔をする。
僧植子建は、今年で10歳になる僧操の直孫(父系によってつながる孫)。
英才教育を施すなら不思議ではない年齢だが、その留学先が国外というのは異例である。
アルテミスは、この留学の理由を僧操の立場の危うさにあるとを看破し、僧植の受け入れを決めていたのだ。
「僧植子建と申します。よろしくご指導ご鞭撻のほどを」
菜緒虎を前に、頭に唯一の獣人成分であるクマ耳の少年がぺこりと頭を下げる。
髪の色は栗色。くりくりとした大きな瞳の色は紺色。顔立ちは美少年と言っていい。
父である僧植子徳と奥方、どちらに似たのだろうかと、菜緒虎はぼんやりと失礼なことを考える。
「はわうっ」
菜緒虎の隣りに立っていた兎人の劉美の口から、悲鳴にも似た声が上がる。
その悲鳴から、僧植はかなりの部分で祖父や父に似ているのだろうということが推測できる。
「関翅、張緋、二人だけにならないよう気をつけろ」
僅かに顔を引きつらせながら菜緒虎は指示を出す。
「それは我が主に対して、いささか失礼ではないか?」
「そうだ」
二メートル近い偉丈夫の竜貴人関翅が反論。
それに虎人の張緋が同調する。
「片方にその気が無くても、何かあったら洒落にならんし、下手なトラウマ抱えて転んでもヤバいだろ」
「だから」
「今の劉美の悲鳴を聞いて断言できるか?」
「本人がいる前で変なこと言わないで下さーい」
それまで何かを堪えていた劉美が大声を上げて抗議した。
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