ソウキ王朝偽典・菜緒虎伝

那田野狐

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56話 菜緒虎、魏府王国に出向く前にジャンにて補給

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大陸歴3186年張月はりつき(8月)

地震から3週間後、港湾都市ジャンに菜緒虎の姿があった。
護衛の環寧は一歩下がって辺りを見張っている。

「お待ちしておりました。準備は整っています」
浅く日に焼けたの肌に短い赤毛の人間の女性、ミカワヤ商会ジャン支店の支店長を任されている大志慈が頭を下げる。

大志慈の後ろには人の顔に牛の角と牛の耳。白目の少ない大きくつぶらな瞳の牝牛人ワーベルと呼ばれる種族の女性の獣人牛銅。
灰色狼の頭に人の体をもつ男の狼人ワーウルフイヌガミが立っている。
牛銅とイヌガミの首には奴隷を意味する首輪が嵌っていた。

「久しぶりですね。大志慈、牛銅、イヌガミ」
菜緒虎は声を掛けた後、あることに気付いて苦笑いする。
ここにいる4組全員がソウキ国の奴隷経験者ということに気が付いたからだ。

「牛銅、イヌガミ。アルテミスさまから契約書を預かってきている」
菜緒虎は腰のバックから4枚の羊皮紙を取り出し2枚を牛銅とイヌガミに渡す。
僧操が治める東呉州、沛郡までの道案内をもってふたりは奴隷の身分から解放され、望めばソウキ国の土地持ちの住民になる事を確約する契約書だ。
無論、そのまま魏府王国に戻ってのいいという旨のことが書いてある。

「ま、契約を更新せず、奴隷としての年季奉公を勤めるというのもあるので強要はしない」
素っ気なく言うと、最初にイヌガミが続いて牛銅が羊皮紙に血判を押す。
血を使うので、名前を署名するのは後でもいい。
ふたりが羊皮紙を返すと、菜緒虎は改めて持っていた羊皮紙をふたりに渡す。

「確認してくれ」
牛銅とイヌガミは、それが元の奴隷契約書であることを確認すると「破棄」と呟く。

ボッ

羊皮紙が青白い炎をあげて燃え上がる。

「契約再成立ということで、これを渡しておこう。ふたりの身分を示すものだ」
菜緒虎は腰のバックに羊皮紙を仕舞うと、代わりにバックには入りそうにない二本の短剣を取り出すとイヌガミと牛銅に渡す。
柄の所には、この度制定された骸骨の龍を意匠化したソウキ国の紋章が彫られていた。

「菜緒虎さま。それは、もしかしてマジックバッグなのですか?」
大志慈が尋ねる。

「そうだ。容量は少ないがな」
菜緒虎はうなずく。
実際は、菜緒虎が右手の人差し指に嵌めている真夜中の指輪リングオブミッドナイトがバージョンアップ。
指輪とバッグが異空間で繋がっており、指輪に収納した物がバッグを通じて取り出せるようになったのだ。
これは、指輪が腕ごと盗まれないための一応の保険である。

「状況は?」
「孫蚊が東呉王を名乗りました」
大志慈が現状を報告する。
東呉王は、魏府王国が建国される前にチュウカナ大陸の南東部にあった人が統治していた国の王の名前だ。
魏府国に攻め込み撃退され、逆に攻め込まれて従属を選び滅んだ国でもある。




孫蚊の檄文を受け、建業から南にある東呉州の会景郡、南晩州の公止郡、武領郡の太守が恭順。
孫蚊軍の兵数は一万を越えたという。

一方の魏府王国軍は、建業の北東にある沛郡の太守である僧操を討伐軍の総大将に任命。討伐軍が編成されつつある。
しかし、討伐軍の主力になる王都の北許郡軍が、建業へ延びる主幹道路が地震によるの被害で進軍が足止めされているので、集結に時間がかかるようだ。

「ジャンから沿岸に沿って北上しての建業入りは難しいな」
菜緒虎は頭の中でチュウカナ大陸の大まかな地図を思い浮かべる。
一度、ニーダ半島南部の沿岸まで進み、そこから北上して沛郡に入るのが楽であると判断した。
それに伴う若干の物資の追加を大志慈に指示するのであった。
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