ソウキ王朝偽典・菜緒虎伝

那田野狐

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45話 マッサチン動く

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大陸歴3185年翠月みどりつき(5月)下旬。
大陸に、長雨だった去年よりもさらに早く雨の季節がやってきた。

マッサチン国からの返事は今だ無い。
この状況を受けて、アルテミスは部隊の再編を指示する。

まず菜緒虎隊は、幹部であるゴーストの天城、悪夢の骸骨スケルトンオブナイトメア皇帝イカエンペラースクウィッド、指揮官である名前持ちネームド死騎士デスナイトの元就、隆元、元春、隆景を残してすべて解散。
リベッチオ隊も幹部である屍食鬼グールのディ、ゴーストの葛城、悪夢の骸骨スケルトンオブナイトメア、指揮官である名前持ちネームド死騎士デスナイトのダルタ、アトスポ、ルトスア、ラミスを残してすべて解散。
新設される悪韋隊を含めて均等に再編成される。
これは、クレ砦の防衛戦で投入された菜緒虎隊のスケルトンたちがカタパルトやクロスボウといった大型間接攻撃兵器を使った実戦経験を積んでいるという点が大きい。
また、それぞれが得意の近接、間接の特化部隊ではなく、汎用のものに、構成される魔物もスケルトン系だけではなく、木や石や骨のゴーレムも加わっていた。
ゴーレムが配属されたのは、兵士がアンデットだけでは支障が出るという進言が受け入れられたからだ。
これに加え、クレ砦の菜緒虎隊には、環寧率いる人間20人からなる海兵隊と皇帝イカエンペラースクウィッドがコツコツと捕獲してきたオクトパス5頭が配下に収まる。

「掛かれ」
菜緒虎の号令の下、名前持ちネームド死騎士デスナイトの元就が指揮する紅組中隊と隆元が指揮する白組中隊の演習が始まる。
まず、長距離での弓の撃ち合い。
前衛のスケルトンが、盾を上空に掲げて矢を受けながら、距離を詰めていく。
スケルトンやゴーレムは失っても簡単に補充がきくので、本気で戦闘を行っていた。
新兵として配属されたスケルトンやゴーレムがレベルが低いのは問題ない。
鍛えることで能力の高い上位種が生まれ易いからだ。

「うらぁ」
茶髪の箒頭、ガラの悪い三白眼の人族の男、環寧かんねいが率いる腕に赤い布を巻いた10人の人間の戦士が、ピンボールのように演習場を跳ね回っている。

「攻めよ」
見事な白髪を後頭部のところで縛った人族の男、公蓋こうがい(環寧の河賊時代の副官)が率いる腕に白い布を巻いた10人の人間が動かず迎撃に徹している。
彼らは命にかかわる怪我をする可能性があるので、慎重に細かく経験値を稼いでいた。

「菜緒虎さま」
演習場が俯瞰ふかんできる櫓に立っていた菜緒虎の足元の床からすっと天城が姿を現す。

「菜緒虎さま。ジャン支店の大志慈から、商業ギルドとドアホー殿から相談があると」
天城が言う大志慈とは、以前、ジャンの奴隷商から買い入れた女奴隷で、ミカワヤ商会のジャン支店を設立したときに支店長に据えた人物だ。
ミカワヤ商会ジャン支店は、大志慈と護衛の戦士5人。そして連絡用のゴースト一体が店員として活動している。

それがしに緊急の判断を仰ぐ案件ね」
菜緒虎は、くるくると指を回しながらステータス画面を開くと、ジャンをタップしてジャンにいるゴーストに思念を繋ぐ。
これは、真夜中の指輪リングオブミッドナイトに登録された相手なら、思念が飛ばせる新機能だ。
指輪の所持者側からしか使えない機能なので、ジャンのゴーストから連絡は天城に思念を通す必要がある。

『菜緒虎さま。マッサチン国からジャンの全ギルドに対し、食料と武器の供出命令が出ました』
ゴーストの報告に、菜緒虎はくしくしと頬を掻く。
アルテミスが伝達最優先の情報だ。

「アルテミス様と相談のうえ判断するが、それまでにマッサチンの情報を出来るだけ集めるように大志慈に命令を」
『解りました』
ゴーストとの思念を切り、アルテミスに思念を繋ぐ。

「アルテミス様よろしいでしょうか?マッサチンがジャンに対し食料と武器の供出命令を出しました」
アルテミスからの返事に一瞬の間があく。

『マッサチンはこちらとの関係を切ったのですね。ただジャンとの関係が切れるのは不味いので要求には応じておきましょう』
「よろしいのですか?」
『ギルドにはたっぷりと貸しは付けておくのですよ?』
アルテミスは意地の悪い声で指示を下した。
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