ソウキ王朝偽典・菜緒虎伝

那田野狐

文字の大きさ
50 / 81

47話 魏府王国より外交官来る

しおりを挟む
大陸歴3185年刈月かりつき(9月)。

マッサチン国のドラド辺境伯が、大陸南方にある自分の寄子貴族に対して討伐軍を興したという情報が大陸全土を駆け巡る。
公称では、騎兵を中心とした兵三千。ドラド辺境伯が直接指揮を執るという。
これに対し、東の隣国である魏府王国は、根回し済みなのか、早々に干渉せずと声明を出した。

・・・
・・


菜緒虎のクレ砦は、ソウキ領アキから徒歩で東に約5日ほど行ったところにある港湾砦である。
拠点としている建物は、クレ湾を形成する北側にある岬の山の中腹を、悪韋が特殊能力を駆使して岩石採掘したついでに削りだして創った中世欧州風の城。
湾には人工の防波堤とその内海に4本の桟橋があり、いまはガレー船2隻と小型帆船カッターが停泊している。
砂浜と土を区切るように存在する櫓を擁する土塁と、その後ろに建てられた家屋が港としてのきざはしを見せていた。

「魏府王国が沈黙を選んだのは、クレ攻防戦の後遺症ですかねぇ」
部隊の再編を経て、海兵隊の隊長に任命された環寧がぼそりと呟く。
環寧は、いまだ菜緒虎の奴隷という身分ではあるが、菜緒虎の執務室への出入りが許されていた。

「今年も魏府王国の飢饉は深刻で、遠征軍を養う兵糧がなかなか集まらない」
菜緒虎は、机に置いてある地図上の魏府王国がある場所の駒を北東方向に動かす。

「何より、ニーダ半島情勢の不安定化が激しい」
魏府王国のうえにあった駒の前、ニーダ半島に新たに駒を置く。

「魏府王国は今年、国王壇羽ダンパ十二世によるニーダ半島への親征ですかねぇ」
「国内の不満を逸らすための遠征。だが、失敗したときのダメージがな」
「それはマッサチン国も・・・ああ、こちらはドラド辺境伯の首で収める腹ですかねぇ」
ぽんと環寧が手を叩く。

「アルテミス様がトライアルに素顔を曝して恫喝したのがいまになって効いてると」
菜緒虎は机に両肘をついて腕を組んで息を吐く。
アンデットとゴーレムを主力としたリュウイチの国は、人間が支配者層に多いマッサチン国にとって目障りなのは予想に固くない。
今回、ドラド辺境伯の兵が公称三千といっても補給隊や工作隊込みの数字。
戦力になるのは良くて二千前後。
アタラカ森砦は未完成だった城門の設置も完了している。
アタラカ森砦を抜くのは不可能。「砦に張り付けば最後、後は擂り潰されるだけだ」とアルテミスは笑ったという。

「菜緒虎さま。魏府王国の使者が到着したようです」
天城が囁くように報告する。

「来たか」
菜緒虎は席を立った。

クレ砦にある畳に換算して二十畳はある、会議のための広間にある黒曜石で出来た巨大な机の前に五人の獣人が立っていた。
内容は三人が狐人ワーフォックス。二人が虎人ワータイガーだ。

「お待たせして申し訳ない。ソウキ領クレの責任者で奈緒虎と申します」
軽いノックのあと扉が開き、菜緒虎が部屋に入ってくる。

ざわり

僅かに空気が緊張する。二人を除く獣人たちは明らかに怒気をはらんでいる。
が、続いて入って来たスケルトンナイトメアを見てその怒気が一瞬で霧散する。

「魏府国の沛郡太守、僧操そうそうの配下で筍幾しゅんいくと申します」
如何にも文官らしい服に身を包んだ銀色の毛並みの狐人ワーフォックスが席を立ち上がり大きく頭を下げる。

「お久しぶりですね火候惇殿」
見知った顔を見つけ、菜緒虎が声を掛けると隻眼の虎人ワータイガー火候惇は苦虫を噛み潰したような顔をして頭を下げる。

「うちの上司の契約破りは安くなかったでしょう」
「ええ、火候殿の懐は当分下っ端兵士並みです」
菜緒虎の軽口に筍幾しゅんいくの顔が愉快そうに崩れる。

「なのであなた方のことは力も含めよく理解しているつもりです。交渉をお願いします」
「お話を承るよう仰せつかっています今日はよろしくお願いします」
菜緒虎も筍幾しゅんいくも顔を引き締めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

はらぺこ令嬢は侯爵様を満たしたい

有栖
ファンタジー
エルヴィラはいつもお腹を空かせている子供だった。あまりに大食いするので心配した両親が医者に連れていくと、それは彼女が持つ魔力量のせいだとわかる。彼女は多すぎる魔力を維持するため、いつも疲れるほど食べ続けていなければならなかった。しかしひとつだけ、有り余る魔力を放出する方法があった。料理だ。彼女が作る料理には、魔力がたっぷりこめられているのである。そんな彼女の元へある日、知らせが訪れる。 ※食事の描写は普通の日本のお料理になっています

あなたへの愛を捨てた日

柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。 しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。 レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。 「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」 エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。

『まて』をやめました【完結】

かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。 朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。 時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの? 超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌! 恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。 貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。 だから、もう縋って来ないでね。 本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます ※小説になろうさんにも、別名で載せています

欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜

水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。 魔王乱立の時代。 王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。 だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。 にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。 抗議はしない。 訂正もしない。 ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。 ――それが、誰にとっての不合格なのか。 まだ、誰も気づいていない。 欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。

「お前の代わりはいくらでもいる」と笑った婚約者が、翌日から報告書一枚書けなくなった件

歩人
ファンタジー
子爵令嬢リーゼロッテの取り柄は、文章を書くことだけ。 華やかさのかけらもない彼女は、婚約者アルベルトの政務報告、外交書簡、 演説原稿——その全てを代筆していた。 「お前の代わりはいくらでもいる」 社交界の花形令嬢に乗り換えたアルベルトは、笑ってそう言った。 翌日から、彼の机の上には白紙の報告書だけが積み上がっていく。 ——代わりは、いなかった。

処理中です...