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【一章】『運命の番』編
13 Ω保護シェルター (回想)
故郷を離れた俺が初めに向かったのは、電車を乗り継いで四時間ほど離れた小さな町にある、Ω専用保護シェルターだった。
シェルターの存在は、高校生の時に知った。
間違いなく一人残す事になる孫を案じた祖父が、利用するかの有無に関わらず調べておくように言っていたからだ。もしもの時は迷わずシェルターを頼るように…と。
言われるままに調べたら、全国に数箇所、存在する事が判った。そのどの場所もが、街の喧騒から離れた田舎…とまではいわないものの、これといった特徴のない小さな町だった。
ただ、この時の俺は一人で生きていくつもりだったから、シェルターを頼る事は皆無だと、本当にただ、場所を調べただけだった。
それがまさか、数年後に頼る事になるとはー。
シェルターに身を寄せた俺は、『全て』の事情を説明した後、正式に入所を認められた。
シェルターには様々な事情を抱えたΩが居た。
番に捨てられた人、夫や恋人の暴力から逃げてきた人、強姦されて妊娠した妊婦など…。中には子連れの人もいた。
職員は全てβ。当たり前だが、Ωばかりの施設にαの人間はおけない。
Ω達は衣食住が約束された場所で、助け合って生活していた。
施設には、差別意識を持たないΩ性について学んだ職員が派遣されているが、彼らはΩではない。知識としては理解していても、本当の意味でのΩ性を理解する事は出来ないのが現実だ。
それでも彼らは、誠意を持って生活の面倒を見てくれ、親身になって話を聞いてくれた。
入所当時は心身に傷を負ったΩ達も、月日が過ぎて傷が癒えてくると、自主的に施設内で働き始める。β職員の手伝い、同じΩであるからこそ解る新たな入所者の心のケアや、発情期中の人の世話など…。
出来る事は何でも協力してやった。勿論、俺も。
Ωにだって自立心がある。けれど、Ωはαに依存…もしくは寄生する生き物だという偏見を持つ人は多い。
そう、『偏見』だ。Ωが悪い訳じゃない。世の中がそうなのだ。
まず、Ωだというだけでまともな職には就けない。俺自身が経験済みだ。住む所も簡単には見つからない。独り身のΩだというだけで、大抵嫌な顔をされて断られる。それが、『番』がいるというだけで解決するのだ。番がいれば他者がフェロモンで誘惑されないから。αとΩしか番になれないのに、生活の為に番になるか、愛人としてαに囲われるか…。最悪、その日の宿と食事を求めて『体を売る』Ωもいる。
全て生きる為の『選択』だ。それを『依存している』と言われ、蔑まれる。
だったら、Ωは死ねとでもいうのか…。
『Ω保護法』というものがある。その名の通り、Ωの人権を護る為もので、二十年程前に出来た比較的新しい法律だ。バース性が発見されてから百年以上が経っているというのに、保護法が出来たのは二十年前。遅すぎると思うが、法が出来るまでは、とにかくΩ性への差別や偏見が強く、現在でもそういう思想の持ち主は多いが、当時はその比ではなかったという。それを思えば保護法の施行を認めさせるのは並大抵の苦労ではなかった事は想像に難くない。だが、αが多い政治家の中で番を持つ者が増えた事でΩを護る風潮が生まれ、ようやく施行に至った…という。俺も学校で習って始めて知ったけど。
Ω保護シェルターも、保護法が出来てから各地に建てられたらしい。
ただ、保護法が出来ても人の意識は簡単には変わらない。今も変わらず、世の中はΩへの差別と偏見に満ちているのだ。実際に危害を加えなければ法には触れない。だから平気で言葉の刃でΩを傷付ける。暴力を振るわれたとしても、目撃者がいなければ、本人の証言だけでは信じてもらえない。
だから…Ωは『逃げる』しかない。
そんなΩを保護するのが『シェルター』だ。
少なくとも、シェルターに入っている間は護られる。
シェルターに滞在期限はない。けれど、殆どの人が短くて数ヶ月、長くても三年程で退所するという。
実家に帰る人もいれば、住む所と仕事を紹介してもらい、新たな場所で生活を始める人もいる。
そう。シェルターは国が運営する施設。傷が癒えて前向きになり、自立を希望するΩには、住む所を探して仕事も斡旋してくれる。国が後ろ盾になってくれるから、Ωの受け入れ体制も整っている所ばかり。住居も職場も一度だけ見学した後、皆が迷わず退所していくのだ。
俺は仕事の斡旋を頼んでいた。
入所したその日に。
俺も無傷でシェルターに来た訳じゃない。知らない男に暴行されたし、流産したし…。
けれど、俺は傷を癒やす為にシェルターに来た訳じゃないから。俺がシェルターを頼ったのは、まずは住む所がないから。取り敢えずの避難先に選んだだけ。もう一つは、仕事を斡旋してくれると知っていたから。
大和から『逃げた』俺は、今度こそ一人で生きていく決意を固めた。ただ、アパートも仕事も自力で見つけるのは困難だと思ったから。
元から長居するつもりはなかった。俺が無理しているとでも思ったのか、施設職員には「焦らなくてもいいんだよ」と言われたが、住む所と仕事が見つかり次第退所する意思はしっかりと伝えた。
ともあれ、Ωの受け入れ先がそう簡単に見つからない事も理解していたので、施設内の雑用、入所者の子供達の世話など、何でも手伝った。
気長に待つつもりだった。
そんな俺に、「住み込みでの働き先が見つかった」と伝えられたのは、俺がシェルターに身を寄せて半年ほどが過ぎた頃だったー。
シェルターの存在は、高校生の時に知った。
間違いなく一人残す事になる孫を案じた祖父が、利用するかの有無に関わらず調べておくように言っていたからだ。もしもの時は迷わずシェルターを頼るように…と。
言われるままに調べたら、全国に数箇所、存在する事が判った。そのどの場所もが、街の喧騒から離れた田舎…とまではいわないものの、これといった特徴のない小さな町だった。
ただ、この時の俺は一人で生きていくつもりだったから、シェルターを頼る事は皆無だと、本当にただ、場所を調べただけだった。
それがまさか、数年後に頼る事になるとはー。
シェルターに身を寄せた俺は、『全て』の事情を説明した後、正式に入所を認められた。
シェルターには様々な事情を抱えたΩが居た。
番に捨てられた人、夫や恋人の暴力から逃げてきた人、強姦されて妊娠した妊婦など…。中には子連れの人もいた。
職員は全てβ。当たり前だが、Ωばかりの施設にαの人間はおけない。
Ω達は衣食住が約束された場所で、助け合って生活していた。
施設には、差別意識を持たないΩ性について学んだ職員が派遣されているが、彼らはΩではない。知識としては理解していても、本当の意味でのΩ性を理解する事は出来ないのが現実だ。
それでも彼らは、誠意を持って生活の面倒を見てくれ、親身になって話を聞いてくれた。
入所当時は心身に傷を負ったΩ達も、月日が過ぎて傷が癒えてくると、自主的に施設内で働き始める。β職員の手伝い、同じΩであるからこそ解る新たな入所者の心のケアや、発情期中の人の世話など…。
出来る事は何でも協力してやった。勿論、俺も。
Ωにだって自立心がある。けれど、Ωはαに依存…もしくは寄生する生き物だという偏見を持つ人は多い。
そう、『偏見』だ。Ωが悪い訳じゃない。世の中がそうなのだ。
まず、Ωだというだけでまともな職には就けない。俺自身が経験済みだ。住む所も簡単には見つからない。独り身のΩだというだけで、大抵嫌な顔をされて断られる。それが、『番』がいるというだけで解決するのだ。番がいれば他者がフェロモンで誘惑されないから。αとΩしか番になれないのに、生活の為に番になるか、愛人としてαに囲われるか…。最悪、その日の宿と食事を求めて『体を売る』Ωもいる。
全て生きる為の『選択』だ。それを『依存している』と言われ、蔑まれる。
だったら、Ωは死ねとでもいうのか…。
『Ω保護法』というものがある。その名の通り、Ωの人権を護る為もので、二十年程前に出来た比較的新しい法律だ。バース性が発見されてから百年以上が経っているというのに、保護法が出来たのは二十年前。遅すぎると思うが、法が出来るまでは、とにかくΩ性への差別や偏見が強く、現在でもそういう思想の持ち主は多いが、当時はその比ではなかったという。それを思えば保護法の施行を認めさせるのは並大抵の苦労ではなかった事は想像に難くない。だが、αが多い政治家の中で番を持つ者が増えた事でΩを護る風潮が生まれ、ようやく施行に至った…という。俺も学校で習って始めて知ったけど。
Ω保護シェルターも、保護法が出来てから各地に建てられたらしい。
ただ、保護法が出来ても人の意識は簡単には変わらない。今も変わらず、世の中はΩへの差別と偏見に満ちているのだ。実際に危害を加えなければ法には触れない。だから平気で言葉の刃でΩを傷付ける。暴力を振るわれたとしても、目撃者がいなければ、本人の証言だけでは信じてもらえない。
だから…Ωは『逃げる』しかない。
そんなΩを保護するのが『シェルター』だ。
少なくとも、シェルターに入っている間は護られる。
シェルターに滞在期限はない。けれど、殆どの人が短くて数ヶ月、長くても三年程で退所するという。
実家に帰る人もいれば、住む所と仕事を紹介してもらい、新たな場所で生活を始める人もいる。
そう。シェルターは国が運営する施設。傷が癒えて前向きになり、自立を希望するΩには、住む所を探して仕事も斡旋してくれる。国が後ろ盾になってくれるから、Ωの受け入れ体制も整っている所ばかり。住居も職場も一度だけ見学した後、皆が迷わず退所していくのだ。
俺は仕事の斡旋を頼んでいた。
入所したその日に。
俺も無傷でシェルターに来た訳じゃない。知らない男に暴行されたし、流産したし…。
けれど、俺は傷を癒やす為にシェルターに来た訳じゃないから。俺がシェルターを頼ったのは、まずは住む所がないから。取り敢えずの避難先に選んだだけ。もう一つは、仕事を斡旋してくれると知っていたから。
大和から『逃げた』俺は、今度こそ一人で生きていく決意を固めた。ただ、アパートも仕事も自力で見つけるのは困難だと思ったから。
元から長居するつもりはなかった。俺が無理しているとでも思ったのか、施設職員には「焦らなくてもいいんだよ」と言われたが、住む所と仕事が見つかり次第退所する意思はしっかりと伝えた。
ともあれ、Ωの受け入れ先がそう簡単に見つからない事も理解していたので、施設内の雑用、入所者の子供達の世話など、何でも手伝った。
気長に待つつもりだった。
そんな俺に、「住み込みでの働き先が見つかった」と伝えられたのは、俺がシェルターに身を寄せて半年ほどが過ぎた頃だったー。
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