7 / 7
風を食べる教会
しおりを挟む
ヨルバス・ハニー王国郊外にて
王都にある、中央教会から、数千メートルは離れた小高い丘があった。
そこには1つの教会が建てられていた。
ヨルバス・ハニーが、領地を統一する前に存在した、旧サンミス小国の教会らしい。
その歴史は、史上において最も古くからあり、最初の神である「風の神 ヨーハナルガ」を信仰していたそうだ。
王都の中央教会──いや、王国全体では「雷の神 ガルドムーラ」を主神として信仰している。
風と雷。対となる存在が、ひとつになってしまった。
中央教会の神父である俺は、その教会に赴くことにした。領地が統一された以上、宗教の信仰も統一しなくてはならない。
──そのため、俺が雷を落としに行くのだ。
「……なるヨーハナルガ様。私に原初なる風の恩恵を授け、翼を授け、瞳を授け、器を授けてください。
風を食み、雷を流し、花芽を摘み、心を育てる
この人間という憐れな種族に、どうかお慈悲を」
……教会からバカバカしい祈りが聞こえてくる。
最初の詠唱か、基礎中の基礎だ。風魔法など。
正面扉を開けると、大きなヨーハナルガの石像と、膝を地につけるシスターがいた。
細く、風に吹かれて劣化した、黄金であったろう十字架をひたすらに握りしめていた。
このような小さな教会に、教えのひとつもあるものか。歳を重ねただけの老いぼれと同じだ。
中身は空っぽだ。
「どちら様?イルフエットかしら。今日も遊びに来てくれたの?」
女が振り向いた。
なんとも、長い黄金の髪の毛が揺れたので、風でも吹いたのかと思った。
心臓が跳ねていた。
「……、中央教会から来た。イルフエットとかいうやつは知らないが、領地が統一された以上、我々の教会の教えに合わせてもらうことになる」
シスターは、閉じた眼を開くことは無かった。
「統一……?私はそんなこと聞かされておりませんわ。」
その回答に少し驚く。
自身の国が無くなったことを、この女は知らないのか?
「……私はただ、最初の神 ヨーハナルガ様に忠誠を誓い、教えを授かっただけのシスター。
自身の国のことなどどうでも良く、ただただ私は、あなた方が愛する人に口漬けをするように、ヨーハナルガ様に祈りを捧げるのみです」
眼は開かれることはない。せっかくの美貌が台無しだ。その瞳をこじ開けてやりたい。
「……そうかい、あんた立派なシスターって訳だ」
「神父様、そこで立っていても難です。
こちらに来て、一緒に座りましょうか」
シスターが優しく微笑みかけた。
ずるい笑顔だ。その顔で、そんな事を言われては近くへ行く以外の選択肢は無い。
「…神父様、あなた恐らくガルドムーラを信仰しているのでしょう。
目が見えないと、匂いや触覚でわかるものです」
隣に座ったシスターは、手のひらでペタペタと俺の肩や、頬を触ってきた。
「そうだ。我々は雷の神を信仰している──シスター、悪いが最初の神を信仰しているならば、それを今すぐやめてもらいたい」
淡々と説明をした。
この話が済めば、彼女はシスターではなくなり、自由に生きていける。
そうすれば、俺は彼女を妻として看取ろうか。
盲目の女子に好意を抱く男など、そうはいなかろう。この瞳をこじ開けるのは、俺だ。
「……急に言われては困ります──ですが、やはり統一しなければならない名にあるのなら、私はそうします。寛大な心を持ってこそ、ヨーハナルガ様が望む人間のお姿です」
話が早く済みそうだ。そうだ、俺は一流の魔術師として彼女を看取るのだ。
「そうか……教えを授けられないというのはさぞ辛いだろうが、大丈夫だ。俺が君につこう」
「……本当ですか?なんと、優しい心の持ち主でしょう!」
シスターは、目を見開いた──いや、目は開かないのだが、俺の目にはそう映った。
「……少し、ここで待っていてください。町の者達に伝えて参ります」
彼女はそう言って、席を立つ。
しかし、こんな簡単に行っていいものなのか。
過去には、教えの進行を巡って争いまで発展している──
──異様だ。シスター……君は、席に座る時あんなにもふらついていただろう?
なぜ真っ直ぐ歩けているんだ──
──そう、異様だった。シスター……君は、なぜ俺が
立ったままだということを知っていた?
──目を見開いて、口元を手で覆い隠して笑うシスター。
「…ごめんなさいね、あなたあまりにも分かりやすくて。
心から隙間風が漏れ出ていますもの。」
シスターは、そう言いながら教会の扉を閉じた。
シスターは、薄気味悪く笑っていた。
シスターは、ネズミ捕りにかかった小物を見下すような眼をしていた。
「……」
何も言えないまま、薄暗い教会の中で座ったままだった。
そうだシスター、君は最初に祈りをしていたが──あれは、詠唱か。
最初の教会はずれより、シスターが丘をくだっていた。
目は光を反射して、黄金の髪は風に靡いていた。
ヨルバス・ハニー王国、王都より。中央教会の神父はかつて、魔術の基礎である風魔法に最も長けた人物であった。
彼は最初の教会に行ったきり、行方はしれない。
小高い丘の上。
閉じられた教会の扉から、隙間風が漏れ出ていた。
王都にある、中央教会から、数千メートルは離れた小高い丘があった。
そこには1つの教会が建てられていた。
ヨルバス・ハニーが、領地を統一する前に存在した、旧サンミス小国の教会らしい。
その歴史は、史上において最も古くからあり、最初の神である「風の神 ヨーハナルガ」を信仰していたそうだ。
王都の中央教会──いや、王国全体では「雷の神 ガルドムーラ」を主神として信仰している。
風と雷。対となる存在が、ひとつになってしまった。
中央教会の神父である俺は、その教会に赴くことにした。領地が統一された以上、宗教の信仰も統一しなくてはならない。
──そのため、俺が雷を落としに行くのだ。
「……なるヨーハナルガ様。私に原初なる風の恩恵を授け、翼を授け、瞳を授け、器を授けてください。
風を食み、雷を流し、花芽を摘み、心を育てる
この人間という憐れな種族に、どうかお慈悲を」
……教会からバカバカしい祈りが聞こえてくる。
最初の詠唱か、基礎中の基礎だ。風魔法など。
正面扉を開けると、大きなヨーハナルガの石像と、膝を地につけるシスターがいた。
細く、風に吹かれて劣化した、黄金であったろう十字架をひたすらに握りしめていた。
このような小さな教会に、教えのひとつもあるものか。歳を重ねただけの老いぼれと同じだ。
中身は空っぽだ。
「どちら様?イルフエットかしら。今日も遊びに来てくれたの?」
女が振り向いた。
なんとも、長い黄金の髪の毛が揺れたので、風でも吹いたのかと思った。
心臓が跳ねていた。
「……、中央教会から来た。イルフエットとかいうやつは知らないが、領地が統一された以上、我々の教会の教えに合わせてもらうことになる」
シスターは、閉じた眼を開くことは無かった。
「統一……?私はそんなこと聞かされておりませんわ。」
その回答に少し驚く。
自身の国が無くなったことを、この女は知らないのか?
「……私はただ、最初の神 ヨーハナルガ様に忠誠を誓い、教えを授かっただけのシスター。
自身の国のことなどどうでも良く、ただただ私は、あなた方が愛する人に口漬けをするように、ヨーハナルガ様に祈りを捧げるのみです」
眼は開かれることはない。せっかくの美貌が台無しだ。その瞳をこじ開けてやりたい。
「……そうかい、あんた立派なシスターって訳だ」
「神父様、そこで立っていても難です。
こちらに来て、一緒に座りましょうか」
シスターが優しく微笑みかけた。
ずるい笑顔だ。その顔で、そんな事を言われては近くへ行く以外の選択肢は無い。
「…神父様、あなた恐らくガルドムーラを信仰しているのでしょう。
目が見えないと、匂いや触覚でわかるものです」
隣に座ったシスターは、手のひらでペタペタと俺の肩や、頬を触ってきた。
「そうだ。我々は雷の神を信仰している──シスター、悪いが最初の神を信仰しているならば、それを今すぐやめてもらいたい」
淡々と説明をした。
この話が済めば、彼女はシスターではなくなり、自由に生きていける。
そうすれば、俺は彼女を妻として看取ろうか。
盲目の女子に好意を抱く男など、そうはいなかろう。この瞳をこじ開けるのは、俺だ。
「……急に言われては困ります──ですが、やはり統一しなければならない名にあるのなら、私はそうします。寛大な心を持ってこそ、ヨーハナルガ様が望む人間のお姿です」
話が早く済みそうだ。そうだ、俺は一流の魔術師として彼女を看取るのだ。
「そうか……教えを授けられないというのはさぞ辛いだろうが、大丈夫だ。俺が君につこう」
「……本当ですか?なんと、優しい心の持ち主でしょう!」
シスターは、目を見開いた──いや、目は開かないのだが、俺の目にはそう映った。
「……少し、ここで待っていてください。町の者達に伝えて参ります」
彼女はそう言って、席を立つ。
しかし、こんな簡単に行っていいものなのか。
過去には、教えの進行を巡って争いまで発展している──
──異様だ。シスター……君は、席に座る時あんなにもふらついていただろう?
なぜ真っ直ぐ歩けているんだ──
──そう、異様だった。シスター……君は、なぜ俺が
立ったままだということを知っていた?
──目を見開いて、口元を手で覆い隠して笑うシスター。
「…ごめんなさいね、あなたあまりにも分かりやすくて。
心から隙間風が漏れ出ていますもの。」
シスターは、そう言いながら教会の扉を閉じた。
シスターは、薄気味悪く笑っていた。
シスターは、ネズミ捕りにかかった小物を見下すような眼をしていた。
「……」
何も言えないまま、薄暗い教会の中で座ったままだった。
そうだシスター、君は最初に祈りをしていたが──あれは、詠唱か。
最初の教会はずれより、シスターが丘をくだっていた。
目は光を反射して、黄金の髪は風に靡いていた。
ヨルバス・ハニー王国、王都より。中央教会の神父はかつて、魔術の基礎である風魔法に最も長けた人物であった。
彼は最初の教会に行ったきり、行方はしれない。
小高い丘の上。
閉じられた教会の扉から、隙間風が漏れ出ていた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる