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疑②
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「では、改めて。警視庁の朝倉と申します。こちらは進藤さん。今回の事件にご協力して頂いております」
「私立探偵をしている進藤と申します」
識が名乗ると、永沢が目を見開き驚く様子を見せた。すかさず、朝倉が切り込んだ。
「おや? 進藤さんの事をご存じですか?」
「え、えぇ。その、久川が……話していた親友の名前と職業が……一緒……?」
「その通り、彼は久川洋壱さんの関係者です」
「ちょ、ちょっと待ってください……関係者が何故捜査に協力を……?」
永沢の当然な疑問にも朝倉は表情一つ崩さず、相変わらずの穏やかそうな雰囲気を醸し出しつつ答えた。その声色は優しげなのにどこか有無を言わさない圧が感じられた。
「永沢さんの仰る通り、進藤さんは関係者ですが理由合ってご協力頂いております」
「は、はぁ……わかりまし、た……」
「では、林田さんと進藤さんも同席でお話を伺うという事でよろしいですね?」
流れるようにその場を仕切る朝倉を横目で見つめた後、識は永沢と林田の方へ視線をやった。永沢は額をハンカチで何度も拭きながら瞳を潤ませており、林田は挙動こそ落ち着いているがその瞳は暗く疲れているように感じられた。識は懐から紺色カバーの手帳を取り出せば、朝倉も手帳を取り出していて既にメモを走らせていた。
(この間に? もう何かつかめたってのか?)
「では、永沢さんと林田さん。お話をお聞かせ願えますか? もっとも、永沢さんには既に一度お話を伺っておりますがね?」
「は、はい……。自宅に貴方……刑事さんが来られて……その時に……」
「えぇ。その節はありがとうございました」
「そ、それで……? 他に何をお話すれば……?」
「再度、はじめから事件当日の永沢さん……それと上司であられる林田さん。お二人がどこで何をされていたのか? お伺いしたいですね」
朝倉の言葉に少しげんなりとした様子を見せる永沢と姿勢を正す林田。二人の様子を確認しつつ、識は朝倉の次の言葉を持つ。彼はあえてなのだろう、ゆったりとした口調で聴取を始めた。
「まずは永沢さん。事件発生時はどこでなにを?」
「ぼ……私は……。その、事件の前から風邪をひいておりまして……。あの日はようやく熱こそ下がりましたが……それでもしんどくて早くに寝てしまったんです……」
「病院には?」
「勿論行きました。そこで風邪と診断されて……薬を」
「今は完治を?」
「い、いえ。まだ……だるさが残っています……」
「なるほど? 汗がでやすいのは体質ですか?」
「え、えぇ。多汗症なものでして……」
「本調子でない中、再びのご回答ありがとうございました」
「い、いえ……。でも……」
ふと永沢の視線が斜め下に移る。しばらくして彼が静かに呟いた。その声色は悲しみを帯びているようにもまだ現実感がなさそうにも聞こえた。
「久川……は、本当に……亡くなったん、ですね……」
「まだ実感がない……ですよね……永沢さん……」
気付けば、識は口を開いていた。しまったと思ったが、開き直り識はそのまま話を続ける事にした。
「俺もそうです。アイツが死んだ事……まだ悪夢を見ているようなんで……」
「進藤、さん……」
「お二方ともショックの最中、ご協力ありがとうございます。勿論林田さんもです」
突然朝倉に話を振られた林田は少し驚いた顔をしたが、すぐに元の毅然とした表情へと戻る。そして永沢に向けていた視線を朝倉へと移すと口を開いた。
「この歳になって、若い部下を亡くすというのはどうにも耐えがたいものです……。ここにいる永沢君もですが、久川君も有能で大事な部下であり、戦力でしたから」
「お二人を評価されているのですね? 林田さん。そんな貴方にこれを聞くのは無礼と承知ですが、仕事なのでお尋ねします。事件当時、どこで何をされていましたか?」
朝倉に訊かれた林田は静かに淡々と答え始めた。その声色には、永沢と同じく悲しみを帯びているように感じられた。
「本来ならノー残業デーなのですが、その日はどうしても片づけたい業務がありまして……無理を言って残業をしていたんです。ここは社員証とカードキーをセットで持つのがルールなので、その記録と……防犯カメラもありますので確認できるかと思います」
「ふむふむ……では、後程確認させて頂きます。よろしいですね?」
「えぇ、勿論です。このビルの管理会社に連絡して頂ければ大丈夫だと思います」
「では、連絡させて頂き確認致します。……進藤さんから何かあります?」
今度は識に話を振る朝倉を見てペースが完全に彼に掌握されていると感じながら返事をした。
「そうですね……俺、いえ失礼しました。自分からお尋ねしたいのは二点です。その一、久川洋壱がトラブルを抱えていた様子があったか? その二、久川洋壱の対人関係についてどんな些細な事でも構わないので何かご存じの事があればお尋ねしたいです」
識からの問いに永沢と林田は互いに顔を見合わせる。二人の表情からは困惑の色が伺えた。どうやら思い当たる節がない様子で二人は首を横に振った。
「私立探偵をしている進藤と申します」
識が名乗ると、永沢が目を見開き驚く様子を見せた。すかさず、朝倉が切り込んだ。
「おや? 進藤さんの事をご存じですか?」
「え、えぇ。その、久川が……話していた親友の名前と職業が……一緒……?」
「その通り、彼は久川洋壱さんの関係者です」
「ちょ、ちょっと待ってください……関係者が何故捜査に協力を……?」
永沢の当然な疑問にも朝倉は表情一つ崩さず、相変わらずの穏やかそうな雰囲気を醸し出しつつ答えた。その声色は優しげなのにどこか有無を言わさない圧が感じられた。
「永沢さんの仰る通り、進藤さんは関係者ですが理由合ってご協力頂いております」
「は、はぁ……わかりまし、た……」
「では、林田さんと進藤さんも同席でお話を伺うという事でよろしいですね?」
流れるようにその場を仕切る朝倉を横目で見つめた後、識は永沢と林田の方へ視線をやった。永沢は額をハンカチで何度も拭きながら瞳を潤ませており、林田は挙動こそ落ち着いているがその瞳は暗く疲れているように感じられた。識は懐から紺色カバーの手帳を取り出せば、朝倉も手帳を取り出していて既にメモを走らせていた。
(この間に? もう何かつかめたってのか?)
「では、永沢さんと林田さん。お話をお聞かせ願えますか? もっとも、永沢さんには既に一度お話を伺っておりますがね?」
「は、はい……。自宅に貴方……刑事さんが来られて……その時に……」
「えぇ。その節はありがとうございました」
「そ、それで……? 他に何をお話すれば……?」
「再度、はじめから事件当日の永沢さん……それと上司であられる林田さん。お二人がどこで何をされていたのか? お伺いしたいですね」
朝倉の言葉に少しげんなりとした様子を見せる永沢と姿勢を正す林田。二人の様子を確認しつつ、識は朝倉の次の言葉を持つ。彼はあえてなのだろう、ゆったりとした口調で聴取を始めた。
「まずは永沢さん。事件発生時はどこでなにを?」
「ぼ……私は……。その、事件の前から風邪をひいておりまして……。あの日はようやく熱こそ下がりましたが……それでもしんどくて早くに寝てしまったんです……」
「病院には?」
「勿論行きました。そこで風邪と診断されて……薬を」
「今は完治を?」
「い、いえ。まだ……だるさが残っています……」
「なるほど? 汗がでやすいのは体質ですか?」
「え、えぇ。多汗症なものでして……」
「本調子でない中、再びのご回答ありがとうございました」
「い、いえ……。でも……」
ふと永沢の視線が斜め下に移る。しばらくして彼が静かに呟いた。その声色は悲しみを帯びているようにもまだ現実感がなさそうにも聞こえた。
「久川……は、本当に……亡くなったん、ですね……」
「まだ実感がない……ですよね……永沢さん……」
気付けば、識は口を開いていた。しまったと思ったが、開き直り識はそのまま話を続ける事にした。
「俺もそうです。アイツが死んだ事……まだ悪夢を見ているようなんで……」
「進藤、さん……」
「お二方ともショックの最中、ご協力ありがとうございます。勿論林田さんもです」
突然朝倉に話を振られた林田は少し驚いた顔をしたが、すぐに元の毅然とした表情へと戻る。そして永沢に向けていた視線を朝倉へと移すと口を開いた。
「この歳になって、若い部下を亡くすというのはどうにも耐えがたいものです……。ここにいる永沢君もですが、久川君も有能で大事な部下であり、戦力でしたから」
「お二人を評価されているのですね? 林田さん。そんな貴方にこれを聞くのは無礼と承知ですが、仕事なのでお尋ねします。事件当時、どこで何をされていましたか?」
朝倉に訊かれた林田は静かに淡々と答え始めた。その声色には、永沢と同じく悲しみを帯びているように感じられた。
「本来ならノー残業デーなのですが、その日はどうしても片づけたい業務がありまして……無理を言って残業をしていたんです。ここは社員証とカードキーをセットで持つのがルールなので、その記録と……防犯カメラもありますので確認できるかと思います」
「ふむふむ……では、後程確認させて頂きます。よろしいですね?」
「えぇ、勿論です。このビルの管理会社に連絡して頂ければ大丈夫だと思います」
「では、連絡させて頂き確認致します。……進藤さんから何かあります?」
今度は識に話を振る朝倉を見てペースが完全に彼に掌握されていると感じながら返事をした。
「そうですね……俺、いえ失礼しました。自分からお尋ねしたいのは二点です。その一、久川洋壱がトラブルを抱えていた様子があったか? その二、久川洋壱の対人関係についてどんな些細な事でも構わないので何かご存じの事があればお尋ねしたいです」
識からの問いに永沢と林田は互いに顔を見合わせる。二人の表情からは困惑の色が伺えた。どうやら思い当たる節がない様子で二人は首を横に振った。
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