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姫の執事
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僕はどうやら、執事向きらしい。
この数日、瑞姫の家で生活しているけれど、瑞姫の世話を焼いているのはわりと楽しいと感じる。
瑞姫は朝も弱いし、案外だらしない。
洗濯物や食器なんかはちょっと溜まらないとやらないし。「後でいいや」と思うとどんどん後回しにしてしまう。
逆に僕は、朝は同じ時間にきっちり目が覚めるし、瑞姫と付き合うようになってから、マメに家事をするようにもなっていた。
たぶん、僕の部屋が散らかっていたのは、最初に瑞姫が来たオフ会の日だけだと思う。
瑞姫がちょこちょこ来ると思うと、ちゃんとしなきゃと思えて、それがもう習慣になってしまったのだった。
妙に忙しい仕事明けだったから、もっとのんびりしてもよかったのだろうけれど、瑞姫を見ていると自然と世話を焼いてしまう。
朝は瑞姫が起きる前に朝食を作って、目覚めには紅茶を出す。瑞姫が仕事にいけば、掃除と洗濯と夕飯の買い物をして、瑞姫が帰宅する時には駅まで迎えに行く。
これがまったく苦ではないのだ。
もともと彼女に求められていた「S執事」とは違って「激甘執事」だとは思うが、正直「S執事」よりもずいぶんしっくりきていた。
サディスティックな自分も嫌いではなかったけれど、今の方が楽な気がする。
瑞姫も仕事で疲れているからか、特にそういうプレイは求めてこないし、幸せそうにしてくれている。
しかも、彼女に尽くして彼女が満ち足りた様子なのを見ると、普通に勃つようになった。
どうやら僕の特殊な「支配欲」は、なにもエロくある必要はないらしい。要は、相手の表情を自分が創り出せさえすれば良いのだ。
今まで悩んでいたのがバカバカしく思えるが、まあ、「自分の手で幸せにしてやった」と考えていることと同義だと思うと、やっぱり自分の性癖は特殊で、「支配欲」と呼ぶのがふさわしいのだとも思う。
結局ヤバイ奴なことに変わりはない。
そんなわけで、僕は瑞姫の専属執事として、満ち足りた気分で週末を迎えようとしていた。
ピンポーン、とドアフォンが鳴った。
瑞姫の家なので、どうしようかと逡巡したものの、モニターを確認すると配送業者の制服だ。代わりに受け取っても問題はないだろう。
荷物は二つあって、一方は「化粧品」、一方は袋に入っていて、持った感じは衣類みたいだ。
瑞姫に渡し忘れるといけないので、テーブルの上に置いておくことにした。
しばらくすると、滅多に鳴らないスマホが鳴った。
博己だ。
「おう、この前は急な仕事で悪かったな」
「いやいや、仕事おつかれ。今電話大丈夫?」
「ああ。今週代休消化で休みだからな」
「そういやそんなこと言ってたっけ? ああ、じゃあ、今からちょっと会えるか?」
「いいけど、今瑞姫ん家だから✕✕駅にいるよ?」
「マジか。ちょうどいいわ、俺○○駅にいるから、10分くらいで行けるわ」
そんな会話をして、最寄駅で会うことになった。
どうせ駅近くのスーパーで買い物をしようと思っていたからちょうど良かった。
博己とは先週末のキャンプ以来、数日ぶりだ。佑と違って普段はそんなに会わないので珍しい。
博己も時間があるというので、雑に挨拶を交わして適当な店に入った。
「で? なんか用事あったんじゃないの?」
「ああ、忘れるところだった。これ渡そうと思ってさ」
そう言って博己が出してきたのは、室内プールの株主優待券だった。
プールといっても、大型のアミューズメントパークだ。人工の波が出るプールや、長いウォータースライダーもあったと記憶している。施設内で飲食やショッピング、エステなんかも楽しめたはずだ。
「だいぶもらってさ、あちこち配ってんの。そんなにプールとか行かねーもん」
「女の子誘って行けばいいじゃん」
「水着の女の子は魅力的だけどよ」
でもまあ、たしかに電車で2時間くらいかかるところまで、わざわざ何度も行かないだろうと思う。
「ヒメちゃんと行ってくればいいかなって。ソウはこの前のキャンプも途中で帰ったしさ」
「おまえ瑞姫に手出してないだろうな?」
「出さねぇよ。俺約束は守るもん。おまえの誕生日以来指一本触れてませんよ」
誕生日、と聞いて思い出す。
そういえば悪ふざけで瑞姫の乳首を触ったんだった。今更ながら、ちょっとイラッとする。
「そんな怖い顔するなって。あの時は付き合ってるの知らなかったんだから」
博己が両手をあげて、肩をすくめてみせる。
「あー、すまん。どうも俺って独占欲強いっぽいんだよな。最近気づいた」
「今頃かよ」
遅ぇよ、と言いながらくつくつと笑っている。
「ところでさ、」
博己が、ちょっと顔を寄せて小声になって聞いてくる。
「アッチのほうはどうなのよ?」
「どうって……普通だよ」
どうと聞かれても困る。まさかオフ会の後に乳首にクリップを付けたり、あそこに指示棒を突っ込んだり、お尻を叩いたりしていましたとは言えないし、ましてや鞭や蝋燭まで経験済みですとは言えないだろう。
ここ最近はノーマルだし、嘘ではない返答だと自分に言い聞かせる。
「普通って……だって、ヒメちゃん特殊性癖だって言ってたじゃん。普通じゃまずいんじゃね?」
「いや、別に問題なさそうだけど」
今週のやり取りを思い返して答える。「支配欲」を感じないと勃たない自分のが勃つくらい、瑞姫は幸せそうにしている。嘘じゃない。
「えー。ヒメちゃん、調教してくれる執事が欲しいって言ってたじゃん」
「執事はやってる」
「は?」
「朝ご飯作ったり、紅茶淹れたり、洗濯したり」
「待て。それは執事っていうか主夫だろ。」
「意外と尽くすのが楽しい」
「マジか。……まあ、ソウが幸せならそれでいいわ」
くだらない話をして、博己と別れ、夕飯の買い物をして帰宅した。
この数日、瑞姫の家で生活しているけれど、瑞姫の世話を焼いているのはわりと楽しいと感じる。
瑞姫は朝も弱いし、案外だらしない。
洗濯物や食器なんかはちょっと溜まらないとやらないし。「後でいいや」と思うとどんどん後回しにしてしまう。
逆に僕は、朝は同じ時間にきっちり目が覚めるし、瑞姫と付き合うようになってから、マメに家事をするようにもなっていた。
たぶん、僕の部屋が散らかっていたのは、最初に瑞姫が来たオフ会の日だけだと思う。
瑞姫がちょこちょこ来ると思うと、ちゃんとしなきゃと思えて、それがもう習慣になってしまったのだった。
妙に忙しい仕事明けだったから、もっとのんびりしてもよかったのだろうけれど、瑞姫を見ていると自然と世話を焼いてしまう。
朝は瑞姫が起きる前に朝食を作って、目覚めには紅茶を出す。瑞姫が仕事にいけば、掃除と洗濯と夕飯の買い物をして、瑞姫が帰宅する時には駅まで迎えに行く。
これがまったく苦ではないのだ。
もともと彼女に求められていた「S執事」とは違って「激甘執事」だとは思うが、正直「S執事」よりもずいぶんしっくりきていた。
サディスティックな自分も嫌いではなかったけれど、今の方が楽な気がする。
瑞姫も仕事で疲れているからか、特にそういうプレイは求めてこないし、幸せそうにしてくれている。
しかも、彼女に尽くして彼女が満ち足りた様子なのを見ると、普通に勃つようになった。
どうやら僕の特殊な「支配欲」は、なにもエロくある必要はないらしい。要は、相手の表情を自分が創り出せさえすれば良いのだ。
今まで悩んでいたのがバカバカしく思えるが、まあ、「自分の手で幸せにしてやった」と考えていることと同義だと思うと、やっぱり自分の性癖は特殊で、「支配欲」と呼ぶのがふさわしいのだとも思う。
結局ヤバイ奴なことに変わりはない。
そんなわけで、僕は瑞姫の専属執事として、満ち足りた気分で週末を迎えようとしていた。
ピンポーン、とドアフォンが鳴った。
瑞姫の家なので、どうしようかと逡巡したものの、モニターを確認すると配送業者の制服だ。代わりに受け取っても問題はないだろう。
荷物は二つあって、一方は「化粧品」、一方は袋に入っていて、持った感じは衣類みたいだ。
瑞姫に渡し忘れるといけないので、テーブルの上に置いておくことにした。
しばらくすると、滅多に鳴らないスマホが鳴った。
博己だ。
「おう、この前は急な仕事で悪かったな」
「いやいや、仕事おつかれ。今電話大丈夫?」
「ああ。今週代休消化で休みだからな」
「そういやそんなこと言ってたっけ? ああ、じゃあ、今からちょっと会えるか?」
「いいけど、今瑞姫ん家だから✕✕駅にいるよ?」
「マジか。ちょうどいいわ、俺○○駅にいるから、10分くらいで行けるわ」
そんな会話をして、最寄駅で会うことになった。
どうせ駅近くのスーパーで買い物をしようと思っていたからちょうど良かった。
博己とは先週末のキャンプ以来、数日ぶりだ。佑と違って普段はそんなに会わないので珍しい。
博己も時間があるというので、雑に挨拶を交わして適当な店に入った。
「で? なんか用事あったんじゃないの?」
「ああ、忘れるところだった。これ渡そうと思ってさ」
そう言って博己が出してきたのは、室内プールの株主優待券だった。
プールといっても、大型のアミューズメントパークだ。人工の波が出るプールや、長いウォータースライダーもあったと記憶している。施設内で飲食やショッピング、エステなんかも楽しめたはずだ。
「だいぶもらってさ、あちこち配ってんの。そんなにプールとか行かねーもん」
「女の子誘って行けばいいじゃん」
「水着の女の子は魅力的だけどよ」
でもまあ、たしかに電車で2時間くらいかかるところまで、わざわざ何度も行かないだろうと思う。
「ヒメちゃんと行ってくればいいかなって。ソウはこの前のキャンプも途中で帰ったしさ」
「おまえ瑞姫に手出してないだろうな?」
「出さねぇよ。俺約束は守るもん。おまえの誕生日以来指一本触れてませんよ」
誕生日、と聞いて思い出す。
そういえば悪ふざけで瑞姫の乳首を触ったんだった。今更ながら、ちょっとイラッとする。
「そんな怖い顔するなって。あの時は付き合ってるの知らなかったんだから」
博己が両手をあげて、肩をすくめてみせる。
「あー、すまん。どうも俺って独占欲強いっぽいんだよな。最近気づいた」
「今頃かよ」
遅ぇよ、と言いながらくつくつと笑っている。
「ところでさ、」
博己が、ちょっと顔を寄せて小声になって聞いてくる。
「アッチのほうはどうなのよ?」
「どうって……普通だよ」
どうと聞かれても困る。まさかオフ会の後に乳首にクリップを付けたり、あそこに指示棒を突っ込んだり、お尻を叩いたりしていましたとは言えないし、ましてや鞭や蝋燭まで経験済みですとは言えないだろう。
ここ最近はノーマルだし、嘘ではない返答だと自分に言い聞かせる。
「普通って……だって、ヒメちゃん特殊性癖だって言ってたじゃん。普通じゃまずいんじゃね?」
「いや、別に問題なさそうだけど」
今週のやり取りを思い返して答える。「支配欲」を感じないと勃たない自分のが勃つくらい、瑞姫は幸せそうにしている。嘘じゃない。
「えー。ヒメちゃん、調教してくれる執事が欲しいって言ってたじゃん」
「執事はやってる」
「は?」
「朝ご飯作ったり、紅茶淹れたり、洗濯したり」
「待て。それは執事っていうか主夫だろ。」
「意外と尽くすのが楽しい」
「マジか。……まあ、ソウが幸せならそれでいいわ」
くだらない話をして、博己と別れ、夕飯の買い物をして帰宅した。
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