17 / 23
彼女が出ていくその時は
ディランの帰還
しおりを挟む
小競り合いが起こることもなかった。武器を集めていた隠れ家をこちらは無傷で制圧した。今回はベテランの上級騎士の部隊と共に行動していた。やはりベテランは違う。見事な手際だった。
あのような事故が起こった直後に3か月も屋敷を留守にしてしまった。シェリーからは手紙は来たが、ユカリナからはなかった。シェリーの手紙では、1月程前から文章に活気が感じられた。結局ユカリナとは顔を合わす事ができないまま出立となってしまった。後ろめたさから、まずはシェリーが待つであろう別邸に向かう。
なぜだろうか人気がなく静まり返った別邸に疑問を感じる。なぜ鍵がかかっているんだ。まさか噂通りユカリナが…私は速足で本邸に入ると、入口には屋敷中の人間が並んで立っていた。
「おかえりなさいませ旦那様」
使用人が頭を下げる。目はすぐにシェリーの姿をとらえ、私は大きく腕を広げた。
「おかえり!ディラン!」
愛しいシェリーが飛び込んでくるのを、私は抱き留める。
「ただいまシェリー。走ってはダメだろう?随分と大きくなったな」
優しく腹に触れる。あと3か月程で産み月となるはずだ。
「えぇ。この子が産まれる前にディランが無事に帰って来てくれてよかったわ」
出立前よりも元気なシェリーに安堵する。なぜかこの場にいない人物に気が付く。本当は今気づいたわけではない。入った瞬間探していた。
「ユカリナは?」
「ユカリナ様はいらっしゃいません」
彼女に付けていた侍女の一人が答える。私が帰還する日を知っているはずなのに出迎えないとは…まだあの事故を引きずっているのだろうか。この胸に大きく占めるのは罪悪感。やはり、あの時シェリーではなくユカリナの傍にいるべきだった。護衛に邪魔をされても、無理をしてでも傍にいるべきだった。
ユカリナの部屋に行こうとするが、まずは着替えをと執事に誘導された。久しぶりの私室は何も変わっていない。着替えを終え、隣にあるユカリナの部屋に行こうとした私の目に移ったのは机の上の腕輪だった。私の腕にはまっている腕輪と対になったその腕輪は、結婚当日にユカリナと互いに送りあった揃いの物だ。その封筒は、腕輪を重石にして置かれていた。嫌な予感がした。シルベスター伯爵家の封蝋が押された封蝋を剥がして開けると、中に入っていた1枚の書類を取り出す。ふとドアが開き、室内に微かな風が通る。
私の手にはユカリナのサインが書かれた離婚届。
なぜ…
どすんっと振動を感じると、シェリーが横から抱きついてきていて嬉しそうな顔をしていた。手にしていた封筒ははずみで床にパサリと落ち、反動でもう1枚入っていたらしい美しい模様の便箋が顔をのぞかせていた。拾おうとして、手が止まる。
それは細く、美しい字で
『お幸せに…』
と一言だけ書かれた手紙だった。
どうして…
シェリーは少し前からこの本邸で暮らしているのだと言う。回らない頭でなぜだか問うと、お腹の子供のためだと執事に説得されたそうだ。シェリーに離婚届を見せると顔色を悪くした。
「療養のために、ご実家に帰っているのだと執事に聞いていました。そんな…離縁だなんて…」
執事からは何も連絡はなかった。手紙でもなんでも私に知らせる事はできたはずなのに。何が起こっているんだ。妙な噂も耳にしていた。ユカリナがシェリーを追い出そうとしているとか、シェリーがユカリナの命を狙っているだとか。
そんなはずはない。二人とも心優しい女性だ。私が愛した女性だ。
あのような事故が起こった直後に3か月も屋敷を留守にしてしまった。シェリーからは手紙は来たが、ユカリナからはなかった。シェリーの手紙では、1月程前から文章に活気が感じられた。結局ユカリナとは顔を合わす事ができないまま出立となってしまった。後ろめたさから、まずはシェリーが待つであろう別邸に向かう。
なぜだろうか人気がなく静まり返った別邸に疑問を感じる。なぜ鍵がかかっているんだ。まさか噂通りユカリナが…私は速足で本邸に入ると、入口には屋敷中の人間が並んで立っていた。
「おかえりなさいませ旦那様」
使用人が頭を下げる。目はすぐにシェリーの姿をとらえ、私は大きく腕を広げた。
「おかえり!ディラン!」
愛しいシェリーが飛び込んでくるのを、私は抱き留める。
「ただいまシェリー。走ってはダメだろう?随分と大きくなったな」
優しく腹に触れる。あと3か月程で産み月となるはずだ。
「えぇ。この子が産まれる前にディランが無事に帰って来てくれてよかったわ」
出立前よりも元気なシェリーに安堵する。なぜかこの場にいない人物に気が付く。本当は今気づいたわけではない。入った瞬間探していた。
「ユカリナは?」
「ユカリナ様はいらっしゃいません」
彼女に付けていた侍女の一人が答える。私が帰還する日を知っているはずなのに出迎えないとは…まだあの事故を引きずっているのだろうか。この胸に大きく占めるのは罪悪感。やはり、あの時シェリーではなくユカリナの傍にいるべきだった。護衛に邪魔をされても、無理をしてでも傍にいるべきだった。
ユカリナの部屋に行こうとするが、まずは着替えをと執事に誘導された。久しぶりの私室は何も変わっていない。着替えを終え、隣にあるユカリナの部屋に行こうとした私の目に移ったのは机の上の腕輪だった。私の腕にはまっている腕輪と対になったその腕輪は、結婚当日にユカリナと互いに送りあった揃いの物だ。その封筒は、腕輪を重石にして置かれていた。嫌な予感がした。シルベスター伯爵家の封蝋が押された封蝋を剥がして開けると、中に入っていた1枚の書類を取り出す。ふとドアが開き、室内に微かな風が通る。
私の手にはユカリナのサインが書かれた離婚届。
なぜ…
どすんっと振動を感じると、シェリーが横から抱きついてきていて嬉しそうな顔をしていた。手にしていた封筒ははずみで床にパサリと落ち、反動でもう1枚入っていたらしい美しい模様の便箋が顔をのぞかせていた。拾おうとして、手が止まる。
それは細く、美しい字で
『お幸せに…』
と一言だけ書かれた手紙だった。
どうして…
シェリーは少し前からこの本邸で暮らしているのだと言う。回らない頭でなぜだか問うと、お腹の子供のためだと執事に説得されたそうだ。シェリーに離婚届を見せると顔色を悪くした。
「療養のために、ご実家に帰っているのだと執事に聞いていました。そんな…離縁だなんて…」
執事からは何も連絡はなかった。手紙でもなんでも私に知らせる事はできたはずなのに。何が起こっているんだ。妙な噂も耳にしていた。ユカリナがシェリーを追い出そうとしているとか、シェリーがユカリナの命を狙っているだとか。
そんなはずはない。二人とも心優しい女性だ。私が愛した女性だ。
280
あなたにおすすめの小説
君を自由にしたくて婚約破棄したのに
佐崎咲
恋愛
「婚約を解消しよう」
幼い頃に決められた婚約者であるルーシー=ファロウにそう告げると、何故か彼女はショックを受けたように身体をこわばらせ、顔面が蒼白になった。
でもそれは一瞬のことだった。
「わかりました。では両親には私の方から伝えておきます」
なんでもないようにすぐにそう言って彼女はくるりと背を向けた。
その顔はいつもの淡々としたものだった。
だけどその一瞬見せたその顔が頭から離れなかった。
彼女は自由になりたがっている。そう思ったから苦汁の決断をしたのに。
============
注意)ほぼコメディです。
軽い気持ちで読んでいただければと思います。
※無断転載・複写はお断りいたします。
身代わりーダイヤモンドのように
Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。
恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。
お互い好きあっていたが破れた恋の話。
一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)
【完結】イアンとオリエの恋 ずっと貴方が好きでした。
たろ
恋愛
この話は
【そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします】の主人公二人のその後です。
イアンとオリエの恋の話の続きです。
【今夜さよならをします】の番外編で書いたものを削除して編集してさらに最後、数話新しい話を書き足しました。
二人のじれったい恋。諦めるのかやり直すのか。
悩みながらもまた二人は………
初めから離婚ありきの結婚ですよ
ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。
嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。
ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ!
ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。
婚約者の恋は全力で応援します!
透明
恋愛
伯爵令嬢ジュディスと伯爵令息アランは婚約者同士。
ジュディスはアランが大好きだがアランには他に好きな人がいてジュディスのことはほったらかし。
ジュディスはアランの恋を応援することにしたが、なぜかアランはジュディスに執着してきて・・・
チグハグな2人の思いはどうなるか。
元恋人が届けた、断りたい縁談
待鳥園子
恋愛
シュトルム辺境伯の末娘ソフィに隣国の帝国第二皇子から届けられた『縁談』の使者は、なんと元恋人のジョサイアだった。
手紙ひとつで別れることになったソフィは、素直になれずジョサイアから逃げ回る。
「私に届けなければ、彼は帝国に帰ることが出来ない」
そう思いようやく書状を受け取ろうと決意したソフィに、ジョサイアは何かを言い掛けて!?
【完結】そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして
Rohdea
恋愛
──婚約者の王太子殿下に暴言?を吐いた後、彼から逃げ出す事にしたのですが。
公爵令嬢のリスティは、幼い頃からこの国の王子、ルフェルウス殿下の婚約者となるに違いない。
周囲にそう期待されて育って来た。
だけど、当のリスティは王族に関するとある不満からそんなのは嫌だ! と常々思っていた。
そんなある日、
殿下の婚約者候補となる令嬢達を集めたお茶会で初めてルフェルウス殿下と出会うリスティ。
決して良い出会いでは無かったのに、リスティはそのまま婚約者に選ばれてしまう──
婚約後、殿下から向けられる態度や行動の意味が分からず困惑する日々を送っていたリスティは、どうにか殿下と婚約破棄は出来ないかと模索するも、気づけば婚約して1年が経っていた。
しかし、ちょうどその頃に入学した学園で、ピンク色の髪の毛が特徴の男爵令嬢が現れた事で、
リスティの気持ちも運命も大きく変わる事に……
※先日、完結した、
『そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして』
に出て来た王太子殿下と、その婚約者のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる