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吹き荒れる雪風の中、シオンが放つ魔力によって世界は白一色に染まっていた。 エルナは、氷の上に跪き自分の靴に口づけをするシオンを見下ろし、震える声で問いかけた。
「……殿下、今、私の頭の中に流れてきたのは何ですか? あなたが泣きながら私を抱きしめていた、あの光景は……」
シオンの肩が微かに揺れた。彼は顔を上げ、氷のように冷たく、しかし地獄の業火のように熱い瞳でエルナを見つめた。
「気づいたか。……そうだ、エルナ。私は知っている。お前が処刑台に消え、私の心が死んだあの日のことを。お前のいない世界を私が自らの手で壊し、禁忌の魔術で時を戻したことを」
シオンの告白は、あまりに重く、残酷だった。 彼は一度目の人生で、エルナを冷遇し、彼女が追い詰められて罪を犯すのを止められなかった。彼女を失って初めて、自分の愛の深さに気づいたシオンは、国中の魔力と自分の寿命を代償に、時間を巻き戻したのだという。
「私は誓ったのだ。今世では、お前が私を憎もうと、蔑もうと、私の手の中に閉じ込めて守り抜くと。お前が死ぬ運命なら、その運命ごとこの世界を凍らせてやる」
(……嘘。この執着、重すぎるどころか「世界の理」を捻じ曲げた結果だったの!?)
エルナは戦慄した。彼女が前世の記憶を取り戻し、「逃げたい」と願ったことも、あるいはシオンが彼女を救おうとして歪んでしまった愛の結果なのかもしれない。 しかし、エルナはシオンの手を振り払った。
「殿下……それはあなたの『後悔』であって、私の『人生』ではありません。あなたが私を殺した過去があるなら、私は余計にあなたから逃げなければならない。だって、私の自由を奪っているのは、他の誰でもない……あなたなんですもの」
シオンの瞳に、絶望の色が広がる。愛ゆえの狂気は、皮肉にも最愛の女性からの「拒絶」をより強固なものにしてしまったのだ。
シオンの絶望に呼応するように、周囲の氷がさらに鋭く、巨大に成長していく。このままでは、商船もろとも全員が氷の檻に閉じ込められてしまう。 その時、凍り付いた商船の甲板から、まばゆい黄金の光が降り注いだ。
「シオン様、もうおやめください! その悲しみは、エルナ様を苦しめるだけです!」
光の主は、ヒロインのユリだった。彼女は「聖女」としての真の力――浄化の魔力を覚醒させていた。 黄金の光が氷を溶かし、シオンの荒れ狂う魔力を優しく包み込んでいく。
「ユリ……。貴様、なぜ邪魔をする。これは私とエルナの問題だ」 「いいえ! エルナ様は私の大切なお友達です! シオン様が彼女を縛り付けるなら、私がその鎖を断ち切ります!」
ユリの放った光がシオンの魔力を一瞬だけ無効化し、足元の氷が崩れ始めた。 エルナはその隙を見逃さなかった。彼女は腰に隠していた「商会製・煙幕魔石」を叩きつけた。
「ユリ様、今ですわ!」 「はい、エルナお姉様! 転送魔法、最大出力ーーーっ!」
二人の令嬢が手を取り合った瞬間、空間が大きく歪んだ。 シオンが手を伸ばしたが、彼の指先は空を切り、二人の姿は光の粒子となって消え去った。
後に残されたのは、ただ広大な氷の海と、膝をついて咆哮する孤独な王子の姿だけだった。 「エルナ……! どこへ行こうと無駄だ。お前の残り香さえあれば、私は何度でも地獄から這い上がってお前を見つける……!」
王子の執着は、もはや「恋」という言葉では説明できない、神話的な執念へと昇華していた。
「……殿下、今、私の頭の中に流れてきたのは何ですか? あなたが泣きながら私を抱きしめていた、あの光景は……」
シオンの肩が微かに揺れた。彼は顔を上げ、氷のように冷たく、しかし地獄の業火のように熱い瞳でエルナを見つめた。
「気づいたか。……そうだ、エルナ。私は知っている。お前が処刑台に消え、私の心が死んだあの日のことを。お前のいない世界を私が自らの手で壊し、禁忌の魔術で時を戻したことを」
シオンの告白は、あまりに重く、残酷だった。 彼は一度目の人生で、エルナを冷遇し、彼女が追い詰められて罪を犯すのを止められなかった。彼女を失って初めて、自分の愛の深さに気づいたシオンは、国中の魔力と自分の寿命を代償に、時間を巻き戻したのだという。
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エルナは戦慄した。彼女が前世の記憶を取り戻し、「逃げたい」と願ったことも、あるいはシオンが彼女を救おうとして歪んでしまった愛の結果なのかもしれない。 しかし、エルナはシオンの手を振り払った。
「殿下……それはあなたの『後悔』であって、私の『人生』ではありません。あなたが私を殺した過去があるなら、私は余計にあなたから逃げなければならない。だって、私の自由を奪っているのは、他の誰でもない……あなたなんですもの」
シオンの瞳に、絶望の色が広がる。愛ゆえの狂気は、皮肉にも最愛の女性からの「拒絶」をより強固なものにしてしまったのだ。
シオンの絶望に呼応するように、周囲の氷がさらに鋭く、巨大に成長していく。このままでは、商船もろとも全員が氷の檻に閉じ込められてしまう。 その時、凍り付いた商船の甲板から、まばゆい黄金の光が降り注いだ。
「シオン様、もうおやめください! その悲しみは、エルナ様を苦しめるだけです!」
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「ユリ……。貴様、なぜ邪魔をする。これは私とエルナの問題だ」 「いいえ! エルナ様は私の大切なお友達です! シオン様が彼女を縛り付けるなら、私がその鎖を断ち切ります!」
ユリの放った光がシオンの魔力を一瞬だけ無効化し、足元の氷が崩れ始めた。 エルナはその隙を見逃さなかった。彼女は腰に隠していた「商会製・煙幕魔石」を叩きつけた。
「ユリ様、今ですわ!」 「はい、エルナお姉様! 転送魔法、最大出力ーーーっ!」
二人の令嬢が手を取り合った瞬間、空間が大きく歪んだ。 シオンが手を伸ばしたが、彼の指先は空を切り、二人の姿は光の粒子となって消え去った。
後に残されたのは、ただ広大な氷の海と、膝をついて咆哮する孤独な王子の姿だけだった。 「エルナ……! どこへ行こうと無駄だ。お前の残り香さえあれば、私は何度でも地獄から這い上がってお前を見つける……!」
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