公爵夫人の気ままな家出冒険記〜「自由」を真に受けた妻を、夫は今日も追いかける〜

平山和人

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ルカが「疾風の爪」に強制加入し、フィリアの真の動機を知ったことで、夫婦の関係は「追跡」から「協力」へと変わった。しかし、ルカの過保護な本質は、テオリアの街全体を巻き込んだ、壮大な騒動を引き起こすこととなる。


「疾風の爪」がEランクに昇格した夜、ルカ(クロ)は単身で冒険者ギルドへ向かった。彼の目的は、ギルドマスターのトマスと密談することだった。


トマスは、テオリアのギルドを取り仕切る歴戦の元冒険者だが、ルカが公爵だと知った瞬間から、彼の前では冷や汗を流しっぱなしだった。


ルカはトマスの執務室に入ると、静かに扉を閉めた。


「トマス殿。フィリアの安全について、君に改めて指示を出す」ルカは公爵としての威厳に満ちた声で命じた。


「は、はい! 宰相閣下!」トマスは直立不動になる。


「フィリアの依頼は、常に私が事前に審査する。彼女が向かうダンジョンや、討伐対象の魔物について、徹底した情報開示を求めたい」


「しかし閣下、冒険者ギルドの依頼情報は機密でありまして……」


ルカはトマスの言葉を遮った。


「機密? 私の妻の命よりも機密か? いいか、トマス殿。君は公爵家の権威を舐めているのか? 私は今、王国宰相の権限でこの街にいる。この街の治安、そして国境防衛は私の管轄だ」


ルカの冷徹な眼差しに、トマスは恐れをなした。「ご、ご容赦ください! すべて開示いたします!」


「よろしい」ルカは満足げに頷いた。「そして、もう一つ。テオリアの治安維持についてだ。フィリアが安全に活動できるよう、ギルド所属の冒険者たちに、夜間のパトロールと不審者の報告を義務付けろ。その費用は、私が公爵家の私費で負担する」


トマスは驚愕した。「公爵閣下の私費で、テオリアの治安が改善されると……!?」


ルカは無表情に言った。「フィリアが安全であれば、この街の治安は向上する。それは、結果的に国境防衛に繋がるだろう。ついでに、この街で悪質な行為を働く冒険者や、夜盗集団がいれば、その情報も全て私に報告しろ。フィリアに手を出そうとする者を、私は絶対に許さない」


トマスは、ルカの異常なほどの執着と、それがもたらす公爵家の莫大な資金に、恐怖と期待を覚えた。テオリアの治安は、公爵夫人一人の安全のために、劇的に改善されることになるのだ。


「承知いたしました! テオリアのギルド全体で、シエル様……もとい、奥様の安全を最優先いたします!」


ルカはさらに、テオリア周辺のダンジョンマップや、魔物の分布図、そしてテオリアに存在する孤児院のリストも入手した。孤児院のリストは、フィリアが以前、孤児院の支援を目標にしていたことを思い出したルカが、彼女を公爵邸に連れ戻すための**「餌」**として利用しようと考えたものだ。


ルカの介入により、テオリアの街は、公爵夫人を巡る**「超高度安全保障体制」**へと変貌し始めた。
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