公爵夫人の気ままな家出冒険記〜「自由」を真に受けた妻を、夫は今日も追いかける〜

平山和人

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フィリアの冒険者生活は、ルカの過保護と強力な殲滅治癒魔法(という名の攻撃魔法)により、非常にスムーズに進行していた。しかし、フィリアは、自分が治癒士として成長できていないことに焦りを感じていた。


ルカが「クロ」としてパーティーに加入して数日後、ルカはバルカスを呼び出し、テオリアの郊外にある静かな場所で密談を始めた。


「バルカス殿。君のパーティーはEランクに昇格したが、このままではフィリアの才能を真に開花させることはできない」ルカは真剣な表情で言った。


バルカスは怯えながらも、「そうでしょうか? シエルの治癒魔法は驚異的です」と反論する。


「それは私の『治癒魔法』の補助によるものだ。フィリア自身は、まだレベルアップを実感していない。彼女は、自分で考えて行動する機会を求めている」


ルカは、フィリアが自分を助けたいという真意を知ったことで、彼女の成長を妨げていることに自己矛盾を感じ始めていた。


「そこでだ、バルカス殿。君に頼みがある。私は君のパーティーから一時的に離脱する」


バルカスは耳を疑った。「え!? 閣下……いや、クロさんがですか? シエルはどうなるんですか?」


ルカは冷たい目をした。「彼女はまだEランクになったばかりだ。簡単に離脱するわけがない。だが、私は今から君に金を積む。公爵家からの援助だ」


ルカは、公爵家からの資金をバルカスに渡し、低い声で指示を出した。


「君たちは、フィリアに**『クロが他の高難度依頼に誘われた』**と説明しろ。そして、君たちは、私からの援助金で、より優秀なパーティーメンバーを雇い、フィリアをサポートする体制を整えろ」


バルカスは愕然とした。「つまり、俺たちに、シエルを安全に成長させるための資金援助と、より強力な冒険者を雇って、シエルの安全を確保しろと……?」


「その通りだ。私はフィリアの安全を、君たち冒険者のプロに託す。そして、私は影から、君たちの活動を全て監視する。もし、フィリアの安全に少しでも危険が及んだ場合……公爵家の制裁が下ることを覚悟しろ」


ルカは、恐怖による支配と、資金による支援という、公爵ならではの**「二重の安全保障」**を敷いた。


ルカはフィリアに「私は君の成長を応援するために、君の傍を離れる」と嘘をつき、実際には、もっと強固な護衛体制を、裏金と脅しで構築しようとしていたのだ。


バルカスは、ルカの異常なまでの溺愛と、その裏で動く公爵の権力に打ちのめされた。「わ、わかりました! シエルは、命に変えてもお守りします!」


ルカは静かに頷いた。「よろしい。君たちの成果は、フィリアの成長を通じて、必ず公爵家が評価しよう」


こうして、ルカは表向き「疾風の爪」を離脱したが、実際には、公爵家公認の最強護衛パーティーを、フィリアの傍に配置することに成功した。ルカは、フィリアを公爵邸へ連れ戻すために、公爵の権限を最大限に利用し始めたのだ。
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