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瘴気に汚染された大陸からの脱出 その1
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「魔物を引き連れながら走ってくる者がいます。助けてください!」
カプセルを割った浄化の聖女が言う。言っていることがよくわからなかった。
いや、怪物に追い掛けられる状況を作り出して他人の近くに行き、そいつに怪物を押し付けるトレインとか呼ばれる行為の存在は知っている。しかし、そもそもの敵の目的は浄化の聖女の奪還であって、決して殺害ではないはずなのだが……。
百年に一度の割合で現れる浄化の聖女は瘴気を浄化する。瘴気が浄化されないでいると、人々の健康は損なわれ魔物と呼ばれる怪物が大量発生する。
俺の上司のゲームマスターはこの大陸の存在自体が害悪だとして一年後には大陸全体を沈めることを決定した。前任者が意図的にこの大陸の大地から瘴気を発生させ、瘴気によって生み出される魔石を重要なエネルギー源に、発生する魔物の皮や骨や牙を貴重な素材として使える仕様にしていたためだ。
増えすぎた瘴気を聖女によって浄化させる対処療法はそろそろ限界がきていて、他の地域に多大な迷惑をかけ始めている。瘴気の発生自体がこの大陸の土地と根本的なところで結びついてしまっているので、大陸ごと沈めて地中のマグマに浄化を任せるのが一番と判断したそうだ。
大陸の住人を無慈悲に大量虐殺するのも忍びないので移転の支援はする。ただし汚染の拡散を防ぐように海流も空流も調整済みで、新しく設置された転移門が主な移動方法となる。
そして今、その転移門の一つが攻撃されようとしている。
「防御壁!」
この前と同様、光の網付きの防御壁を張り巡らせてから、俺は怪物を引き連れて走っている男のもとへと飛ぶ。そして腹に一発。
何百もの怪物たちは、火球、火の矢、水球、水の矢、雷球、雷の矢などで一斉に攻撃してきたが、俺の盾や剣、鎧の反射機能によって全ての攻撃が自分へと跳ね返るため、どんどん自爆していく。
木の蔓を使って攻撃してきた奴は、打撃のダメージが自分に返ってくるだけでなく、俺をぐるぐる巻きにしようとしたらなぜか自分がぐるぐる巻きになったことに戸惑っていた様子。これが本当の自縄自縛?
毒や呪いもきっちり反射させてもらったが、自家製の毒や呪いには完全ではないにしろ耐性があるのか即死まではいかないようだ。他の攻撃をしてきた奴らの中にも息の根がとまっていない奴が混じっている。
一瞬迷った。怪物たちを連れてきた男ごと範囲攻撃で殲滅するか、それとも男だけは生かしたままにして尋問するか。俺は剣から光のビームを出して縦横に薙ぎ払い、怪物たちと男を肉片に変えた。俺に与えられている時間は三分間のみ。尋問するには短過ぎる。他の場所に潜んでいる刺客や次の襲撃予定についての情報を引き出そうにも、彼が知っていた可能性は低かったと思う。俺だったらわざわざそんなことを教えて送り出したりしない。
怪物たちと男の肉片は風の魔術で寄せ集めてから、火柱で燃やし尽くすことにした。俺のできる浄化っぽいことは精々このくらい。火柱を背にして転移門の側まで駆け戻る、というか飛び戻る。
「なあ、走ってきた奴らは始末したが、結局あれは何をしたかったんだと思う?」
残り二分弱。俺は浄化の聖女に尋ねてみる。
「わ、わかりませんが、もしかしたらわたくしの浄化の力は諦め、転移門を潰して人の流出を力づくでとめようとしているのかも」
「俺が消えたらこちらの防御壁も消えるかな。永続性のある防御壁の設置と、次に俺が現れるまでの冷却期間の短縮を、頼めたら上司に頼んでみるよ」
俺の時間制限が三分間で一定の冷却期間を必要とする仕様なのは、世界をあまり破壊しないようにする配慮によるものだ。どうせ一年後には消される大陸なら、あたり一面焼け野原になろうと瓦礫の山になろうとかまわないんじゃないかな、なんて少々無茶なことを考えたりする。
そこに耳が痛くなりそうな雑音混じりの大音声。
「——ピーッガガガ————逃げては駄目だ——ザザザ————祖国への愛はないのか——キーンギュルギュル————我々は一丸となってこの————」
王冠をいだいた男女が空中に大きく映し出されたかと思うと、一瞬のうちに歪んで砂嵐のような画像に変わる。
「ええと、あの男が君の元婚約者で放送と演説の権能持ちの王様で、その隣にいた女が浮気相手の魅了の聖女?」
「はい。彼らは民の半数以上が残りさえすれば大陸は存続できると思い込んでいるのですよ……。だからあの手この手で移住を妨害しようとします」
「どこからそんな考えを。それにしても神が代替わりした後なのに、姿と声を届けることができるのは偉いと評価するべきか」
「恐らく王家に伝えられている緊急放送用の魔道具を使ったのでしょう。
本来は民を逃すために使うことはあっても、逃げることなく自分たちに尽くせと強制するために使うものではないと思うのですが」
「了解。それも報告と相談の対象だな」
ここで三分経過で時間切れ。俺は消えた。
カプセルを割った浄化の聖女が言う。言っていることがよくわからなかった。
いや、怪物に追い掛けられる状況を作り出して他人の近くに行き、そいつに怪物を押し付けるトレインとか呼ばれる行為の存在は知っている。しかし、そもそもの敵の目的は浄化の聖女の奪還であって、決して殺害ではないはずなのだが……。
百年に一度の割合で現れる浄化の聖女は瘴気を浄化する。瘴気が浄化されないでいると、人々の健康は損なわれ魔物と呼ばれる怪物が大量発生する。
俺の上司のゲームマスターはこの大陸の存在自体が害悪だとして一年後には大陸全体を沈めることを決定した。前任者が意図的にこの大陸の大地から瘴気を発生させ、瘴気によって生み出される魔石を重要なエネルギー源に、発生する魔物の皮や骨や牙を貴重な素材として使える仕様にしていたためだ。
増えすぎた瘴気を聖女によって浄化させる対処療法はそろそろ限界がきていて、他の地域に多大な迷惑をかけ始めている。瘴気の発生自体がこの大陸の土地と根本的なところで結びついてしまっているので、大陸ごと沈めて地中のマグマに浄化を任せるのが一番と判断したそうだ。
大陸の住人を無慈悲に大量虐殺するのも忍びないので移転の支援はする。ただし汚染の拡散を防ぐように海流も空流も調整済みで、新しく設置された転移門が主な移動方法となる。
そして今、その転移門の一つが攻撃されようとしている。
「防御壁!」
この前と同様、光の網付きの防御壁を張り巡らせてから、俺は怪物を引き連れて走っている男のもとへと飛ぶ。そして腹に一発。
何百もの怪物たちは、火球、火の矢、水球、水の矢、雷球、雷の矢などで一斉に攻撃してきたが、俺の盾や剣、鎧の反射機能によって全ての攻撃が自分へと跳ね返るため、どんどん自爆していく。
木の蔓を使って攻撃してきた奴は、打撃のダメージが自分に返ってくるだけでなく、俺をぐるぐる巻きにしようとしたらなぜか自分がぐるぐる巻きになったことに戸惑っていた様子。これが本当の自縄自縛?
毒や呪いもきっちり反射させてもらったが、自家製の毒や呪いには完全ではないにしろ耐性があるのか即死まではいかないようだ。他の攻撃をしてきた奴らの中にも息の根がとまっていない奴が混じっている。
一瞬迷った。怪物たちを連れてきた男ごと範囲攻撃で殲滅するか、それとも男だけは生かしたままにして尋問するか。俺は剣から光のビームを出して縦横に薙ぎ払い、怪物たちと男を肉片に変えた。俺に与えられている時間は三分間のみ。尋問するには短過ぎる。他の場所に潜んでいる刺客や次の襲撃予定についての情報を引き出そうにも、彼が知っていた可能性は低かったと思う。俺だったらわざわざそんなことを教えて送り出したりしない。
怪物たちと男の肉片は風の魔術で寄せ集めてから、火柱で燃やし尽くすことにした。俺のできる浄化っぽいことは精々このくらい。火柱を背にして転移門の側まで駆け戻る、というか飛び戻る。
「なあ、走ってきた奴らは始末したが、結局あれは何をしたかったんだと思う?」
残り二分弱。俺は浄化の聖女に尋ねてみる。
「わ、わかりませんが、もしかしたらわたくしの浄化の力は諦め、転移門を潰して人の流出を力づくでとめようとしているのかも」
「俺が消えたらこちらの防御壁も消えるかな。永続性のある防御壁の設置と、次に俺が現れるまでの冷却期間の短縮を、頼めたら上司に頼んでみるよ」
俺の時間制限が三分間で一定の冷却期間を必要とする仕様なのは、世界をあまり破壊しないようにする配慮によるものだ。どうせ一年後には消される大陸なら、あたり一面焼け野原になろうと瓦礫の山になろうとかまわないんじゃないかな、なんて少々無茶なことを考えたりする。
そこに耳が痛くなりそうな雑音混じりの大音声。
「——ピーッガガガ————逃げては駄目だ——ザザザ————祖国への愛はないのか——キーンギュルギュル————我々は一丸となってこの————」
王冠をいだいた男女が空中に大きく映し出されたかと思うと、一瞬のうちに歪んで砂嵐のような画像に変わる。
「ええと、あの男が君の元婚約者で放送と演説の権能持ちの王様で、その隣にいた女が浮気相手の魅了の聖女?」
「はい。彼らは民の半数以上が残りさえすれば大陸は存続できると思い込んでいるのですよ……。だからあの手この手で移住を妨害しようとします」
「どこからそんな考えを。それにしても神が代替わりした後なのに、姿と声を届けることができるのは偉いと評価するべきか」
「恐らく王家に伝えられている緊急放送用の魔道具を使ったのでしょう。
本来は民を逃すために使うことはあっても、逃げることなく自分たちに尽くせと強制するために使うものではないと思うのですが」
「了解。それも報告と相談の対象だな」
ここで三分経過で時間切れ。俺は消えた。
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