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第44話「陽菜の忠告」

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「おはよう達也たつや

 目覚ましを止め、枕に顔を埋めていると、そう声がした。

「もう起きてるの?」
「なんか今日紹介するのかって思ったら緊張して目が覚めちゃった」

 ああそうか、今日会うんだったな。
 そう思うだけで胃がぎゅーっと握り閉められる気分だった。
 言われたこと自体は大したことないはずなんだけどな。
 あかね本人にまた振られたわけでもないし。
 頭では気にする必要ないってわかってるんだけど。

「お酒に逃げなかったんだね、ありがとう約束守ってくれて」
「まあね、さすがに三回も不安とか心配はかけられないし」

 まだ一割も動いていない頭でなんとか言葉をつむいでいると、そっと頭をでられた。

「終わったら二人で飲もうか。楽しく飲めれば変な飲み方しないでしょ?」
「茜って飲めたっけ?」

 どんなに記憶を掘り返しても、彼女が飲んでいるシーンを見たことがない。
 それどころか、半同棲してた時全くと言っていいほどアルコールを見かけなかった。
 強いて言えばみりんと、料理用に使う清酒やワインを都度都度つどつど買っていたぐらいだろうか。

「飲めるけど、飲まないだけだよ」
「そうだったのか」
「けどお姉ちゃんが認めてくれたら楽しく飲めるかなって思って」

 祝杯というわけではないが、記念に飲むのは悪くないかもな。
 どうせなら旅先の地酒ってのも悪くないかもしれない。

「そうだね、二人で楽しく飲めたらいいな」
「そのためにも今日頑張るからね、なるべく私が説得するから」
「無理しなくていいよ、矛先は全部俺に向かうだろうからどうにか頑張るよ」

 実際今の状況を事細かに説明したら刺されかねないしな、そこは上手い具合に説明しないと。

「ありがとう、じゃあ今日も一日彼氏役よろしくね」
「こちらこそよろしく」

 茜は小さく頬にキスをすると、「お水持ってくるね」と言って出て行ってしまった。

「指輪着けてるし彼氏というか婚約者役だよな」

 まだまぶしい朝日に目を細めながらじっと指輪を観察する。
 まさかこれを買ったときにはこんな関係になるとは思わなかった。
 ただ悪くはないのかもな……。

「ねえお兄ちゃん、ちょっといい?」

 ぼーっと天井と指輪の焦点をずらして遊んでいると、扉の向こうからそう聞こえてきた。
 陽菜ひなか。

「いいけど、なに?」
「ちょっと話したいことがあってね。私の部屋来てくれる?」
「わかったよ」

 寝起きで凝り固まった体に鞭をうち、なんとか陽菜の部屋まで行くとそっと鍵を掛けられた。

「なんで鍵かけた?」
「茜ちゃんに聞かれたくないから」

 それなら別にLINEで話してくれればいいのにとは思ったが、わざわざ密室で話すってことはそれなりの意味があるのだろう。

「で、なに話すの?」
「それつけてから嬉しそうな顔することが増えたけど、そんないい物?」

 陽菜は仏頂面だか、静かに怒っているのかわからない顔でそうたずねてきた。

「まあそうだね、いいものっちゃいい物かな」

 実際茜の指についているを見ると、飼っていることを思い出すし、それ以上に特別な関係なんじゃないかと錯覚さっかくしてしまう。

「お兄ちゃんが気に入ってるならいいんだけどさ、二人の間で通じている意味と、世間からどう見られるか、見られた結果どういう選択を取らされるかは考えたほうがいいよ」
「まあ場所が場所だからね」
「お母さんが何考えてたのかは知らないけど、茜ちゃんのお姉さんは二人に都合のいいようには振舞ってくれないんじゃない?」

 絶対この指輪に何か言われるのはわかってるけどさ、ある方がより真剣に付き合ってる感が出るからと茜に言われたとは言えなかった。

「まあ何とかするよ」
「できるといいね」
「なにその言い方、なんとかするって言ってるだろ」

 なにもわかってないなとでも言うかのように大きくため息をつくと陽菜は言った。

「まあお兄ちゃんがそう思ってるならいいんじゃない」
「なんだよ、その言い方!」

 茜を小ばかにしたような言いぶりに思わず食ってかかると、なにも聞こえていなかったかのように言った。

「はいこれで言いたいことはおしまい。茜ちゃんは嫌いじゃないけど、変なおまけがついてこない様に頑張ってね」

 言いたいことだけ言い終えると、さあ行った行ったとばかりにドアの方へ押してきた。
 なんか釈然しゃくぜんとしなかったがこれ以上なにを聞いても求めたい答えが返ってこないことは目に見えていたし、諦めて立ち去ることにした。

「あ、達也。話終わったの?」

 部屋を出ると不安そうな顔をした茜が、水をもって立っていた。

「待たせてごめん、終わったよ」

 その顔から聞かれたのか?とは思ったがそれを確認することはできなかった。

「じゃあはいこれ」
「ありがとう」

 水を受け取ると、陽菜や茜への質問を飲み込むように一気に胃に流し込んだ。
 確認しなければ、余計なことを知る必要もない。
 そう自分へ言い聞かせていると、暗い顔をしていた茜が重い口を開いた。

「ごめんお姉ちゃんあと三十分ぐらいで来るって」
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