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第55話「茜と陽菜の邂逅」
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「今日はせっかく誘ってくれたのに、ごめんね」
「大丈夫だけど、茜本当に一人で帰れるの?」
「うん大丈夫」
いつも通りの作り笑顔でそう答えたつもりだったが、そろそろ友達にも通じなくなってきたらしい。
「ねえやっぱ家まで送るよ」
「ごめん独りになりたいの」
そう気を使ってくれた友達の手を無理やり振りほどくと、後ろを振り返らないようにして歩いた。
また最低なことしてる……。
振ったときからなんも成長してないじゃん。
けどこれ以上優しくされたら友達にも甘えてしまいそうになる。
「ごめんね、元気になったらちゃんと謝るから」
友達に聞こえないのはわかっていながら、道すがら許しを求めるようにそう呟いた。
おぼつかない足取りで、ふらふらと彷徨っていると、いつの間にか達也の家の前まで来てしまった。
「別れたから家まで来るとか完全にストーカーじゃん……」
いくら無意識とは言え、自分がやってしまった行動があまりに無様で乾いた笑いを浮かべながらその場にうずくまる。
なぜかあふれてくる涙が誰にもバレない様にと顔を伏せるとそっと肩を叩かれた。
「あの、大丈夫ですか?」
「ごめんなさい大丈夫です」
真っ赤に腫れた目をごまかすように何とか笑って返事をすると、そこには見知った顔がいた。
たしかこの子達也の妹さんだよね?
前家に来たとき挨拶してくれた気がする。
「お兄ちゃんの彼女さんですよね、どうしたんですか?」
「ちょっと散歩してたらここまで来ちゃって……、すぐ帰りますね」
言いながら違和感しかない言い訳だと思ったが、これ以上のをできる自信がない。
必死に拙い言い訳で乗り切ろうとしたが、妹さんには伝わらなかったみたいだ。
少しイライラした様子を見せると大きなため息を彼女はついた。
「ちょっと時間あります? 話したいことがあるんですけど」
「ごめんなさい、今忙しくて……」
「散歩してる人がですか?」
「少しだけなら」
出来ることならこれ以上話さずにさっさと離れたかった。
ただ妹さんの鷹のように鋭い瞳が私に拒否権がないことを悠々と物語っていた。
それにああ切り返されたらうまくやり過ごせる自信もない。
「飲み物はなにがいいとかありますか?」
「お構いなく」
部屋に通されると相変わらず不機嫌そうな様子でそう尋ねてきた。
達也がいないだけなのにどうしてこんな心細いんだろう。
前来たときはあんなに安心できたのに。
明らかに妹さんが不機嫌なのが伝わってくるからだろうか。
それもと達也を振ったという後ろめたさのせいだろうか。
「回りくどいのも嫌なので単刀直入に聞きますね。お兄ちゃんに何しました?」
「なにって特になにも」
「夜遅く出て行ったと思ったら死にそうな顔して帰ってきたんですよね。彼女としてなにか知ってます?」
「ごめんなさい、わからないです」
のど元にナイフを突きつけられたような緊張感の中、何とか絞り出すように声をだす。
ただなにを言っても妹さんは納得しないらしい。
氷のように冷たい目がこっちを見下ろしている。
「なら元カノとしてなにか知ってますか?」
「わからないです……」
「さっさと答え合わせしたいんだけど」とだるそうに小さくそう呟くと、私の目を見て尋ねた。
「一昨日お兄ちゃんのこと傷つけましたよね?」
「……多分」
「多分じゃなくて自覚があるかどうか聞いてくるんですけど?」
まるで取調室のような雰囲気の中、私にすべてさらけ出せと迫る妹さんの尋問は続く。
「傷つけました、ごめんなさい」
「で、なんで傷つけた人が相手の家の前にいるんですか?」
「それは、わからないです……」
そう聞かれてもふらふらと歩いていたらここまで来てしまったとは口が裂けても言えなかった。
「まあいいや、それよりなんでお兄ちゃんのこと振ったかぐらい教えてもらえますよね?」
貴女のせいですとか言えばいいんだろうか……。
貴女にばっかりかまって私に時間を使ってくれなかったからとでも言えば満足してくれるのだろうか。
「いつまで被害者面してるつもりですか?」
え、被害者面ってなに?
そんなことしてるつもりは……。
「自分から振っといて悲しいですみたいな顔されるのむかつくんですけど」
「そんなつもりないです」
「ならなに?」
「私にもわからないんです……。最近ずっと不安で、けど好きだし、邪魔してるんじゃないかって。ほかの人に取られちゃうんじゃないかって」
私の話を聞くと、まるでストレスを吐き出すかのように大きなため息をついた。
「バッカみたい。そんなくだらない妄想で振るぐらいなら引き留める努力をすればいいのに」
「それができたら――」
話しかけの口を無理やり押えると、不敵な笑みを浮かべながら妹さんは言った。
「元カノさんは性格めっちゃ重そうだし、顔だって世界で一番かわいいわけじゃない。けど大学とか何かのグループの中で一番になることが目的じゃなくて、お兄ちゃんと付き合い続けるのが目的でしょ。それだったらほかの人よりお兄ちゃん好みな人なればいいだけじゃないんですか?」
「けど、そしたら私よりいい人にいつか取られちゃうかも」
「そうやって自分以外の選択肢を無くして自分を選ばせるより、いろんな人の中から選んでもらった方が自信が付くんじゃないですか?」
本当にそれが出来たらどれだけ楽だろうか。
自信はつくけど、もし選ばれなかったらと思うと怖くてそんなことできなかった。
「色々言いましたけど、自分から振ったくせにまだ未練が残ってる図々しい女ってことで合ってます?」
冷静に事実だけを突き付けられると、なにも言い返せなった。
そうか傍から見てるとそう見えるのか。
「あってると思います……」
「ならまた付き合わせてあげますよ、お兄ちゃんも未練しかないみたいだし」
「え、どうしてそんな……」
「正直、貴女とまた付き合われるのもめちゃくちゃ嫌です。ただ失恋のショックで貴女よりひどい女と付き合われるよりましってだけですから。それに貴女と復縁できればお兄ちゃんも幸せでしょ」
ああまあ確かに今の達也の精神状態だと他の人に引っ掛かってもおかしくはない。
そっか、自分から達也がほかの人に取られる状況作ってたのか。
私バカじゃん。
「一応言っておきますけど、私はあくまでお兄ちゃんが幸せになってほしいって自分のエゴのために協力するので。もし貴女よりお兄ちゃんを幸せにできる人が出てきたらそっちに協力するからその時は恨まないでくださいね」
「わかってます……」
仮に今の一時だけでも、私のためじゃなくて妹さん本人のために協力してくれるのでも、安心感が違う。
私独りだと今のこの状態でまた達也と付き合いえる気はしなかった。
「じゃあちょっと通話繋いでもらっていいですか?」
協力してくれるからだろうか、さっき私に向けられていた敵意とは違い、表面上優しそうな笑顔でそう言ってきた。
「大丈夫だけど、茜本当に一人で帰れるの?」
「うん大丈夫」
いつも通りの作り笑顔でそう答えたつもりだったが、そろそろ友達にも通じなくなってきたらしい。
「ねえやっぱ家まで送るよ」
「ごめん独りになりたいの」
そう気を使ってくれた友達の手を無理やり振りほどくと、後ろを振り返らないようにして歩いた。
また最低なことしてる……。
振ったときからなんも成長してないじゃん。
けどこれ以上優しくされたら友達にも甘えてしまいそうになる。
「ごめんね、元気になったらちゃんと謝るから」
友達に聞こえないのはわかっていながら、道すがら許しを求めるようにそう呟いた。
おぼつかない足取りで、ふらふらと彷徨っていると、いつの間にか達也の家の前まで来てしまった。
「別れたから家まで来るとか完全にストーカーじゃん……」
いくら無意識とは言え、自分がやってしまった行動があまりに無様で乾いた笑いを浮かべながらその場にうずくまる。
なぜかあふれてくる涙が誰にもバレない様にと顔を伏せるとそっと肩を叩かれた。
「あの、大丈夫ですか?」
「ごめんなさい大丈夫です」
真っ赤に腫れた目をごまかすように何とか笑って返事をすると、そこには見知った顔がいた。
たしかこの子達也の妹さんだよね?
前家に来たとき挨拶してくれた気がする。
「お兄ちゃんの彼女さんですよね、どうしたんですか?」
「ちょっと散歩してたらここまで来ちゃって……、すぐ帰りますね」
言いながら違和感しかない言い訳だと思ったが、これ以上のをできる自信がない。
必死に拙い言い訳で乗り切ろうとしたが、妹さんには伝わらなかったみたいだ。
少しイライラした様子を見せると大きなため息を彼女はついた。
「ちょっと時間あります? 話したいことがあるんですけど」
「ごめんなさい、今忙しくて……」
「散歩してる人がですか?」
「少しだけなら」
出来ることならこれ以上話さずにさっさと離れたかった。
ただ妹さんの鷹のように鋭い瞳が私に拒否権がないことを悠々と物語っていた。
それにああ切り返されたらうまくやり過ごせる自信もない。
「飲み物はなにがいいとかありますか?」
「お構いなく」
部屋に通されると相変わらず不機嫌そうな様子でそう尋ねてきた。
達也がいないだけなのにどうしてこんな心細いんだろう。
前来たときはあんなに安心できたのに。
明らかに妹さんが不機嫌なのが伝わってくるからだろうか。
それもと達也を振ったという後ろめたさのせいだろうか。
「回りくどいのも嫌なので単刀直入に聞きますね。お兄ちゃんに何しました?」
「なにって特になにも」
「夜遅く出て行ったと思ったら死にそうな顔して帰ってきたんですよね。彼女としてなにか知ってます?」
「ごめんなさい、わからないです」
のど元にナイフを突きつけられたような緊張感の中、何とか絞り出すように声をだす。
ただなにを言っても妹さんは納得しないらしい。
氷のように冷たい目がこっちを見下ろしている。
「なら元カノとしてなにか知ってますか?」
「わからないです……」
「さっさと答え合わせしたいんだけど」とだるそうに小さくそう呟くと、私の目を見て尋ねた。
「一昨日お兄ちゃんのこと傷つけましたよね?」
「……多分」
「多分じゃなくて自覚があるかどうか聞いてくるんですけど?」
まるで取調室のような雰囲気の中、私にすべてさらけ出せと迫る妹さんの尋問は続く。
「傷つけました、ごめんなさい」
「で、なんで傷つけた人が相手の家の前にいるんですか?」
「それは、わからないです……」
そう聞かれてもふらふらと歩いていたらここまで来てしまったとは口が裂けても言えなかった。
「まあいいや、それよりなんでお兄ちゃんのこと振ったかぐらい教えてもらえますよね?」
貴女のせいですとか言えばいいんだろうか……。
貴女にばっかりかまって私に時間を使ってくれなかったからとでも言えば満足してくれるのだろうか。
「いつまで被害者面してるつもりですか?」
え、被害者面ってなに?
そんなことしてるつもりは……。
「自分から振っといて悲しいですみたいな顔されるのむかつくんですけど」
「そんなつもりないです」
「ならなに?」
「私にもわからないんです……。最近ずっと不安で、けど好きだし、邪魔してるんじゃないかって。ほかの人に取られちゃうんじゃないかって」
私の話を聞くと、まるでストレスを吐き出すかのように大きなため息をついた。
「バッカみたい。そんなくだらない妄想で振るぐらいなら引き留める努力をすればいいのに」
「それができたら――」
話しかけの口を無理やり押えると、不敵な笑みを浮かべながら妹さんは言った。
「元カノさんは性格めっちゃ重そうだし、顔だって世界で一番かわいいわけじゃない。けど大学とか何かのグループの中で一番になることが目的じゃなくて、お兄ちゃんと付き合い続けるのが目的でしょ。それだったらほかの人よりお兄ちゃん好みな人なればいいだけじゃないんですか?」
「けど、そしたら私よりいい人にいつか取られちゃうかも」
「そうやって自分以外の選択肢を無くして自分を選ばせるより、いろんな人の中から選んでもらった方が自信が付くんじゃないですか?」
本当にそれが出来たらどれだけ楽だろうか。
自信はつくけど、もし選ばれなかったらと思うと怖くてそんなことできなかった。
「色々言いましたけど、自分から振ったくせにまだ未練が残ってる図々しい女ってことで合ってます?」
冷静に事実だけを突き付けられると、なにも言い返せなった。
そうか傍から見てるとそう見えるのか。
「あってると思います……」
「ならまた付き合わせてあげますよ、お兄ちゃんも未練しかないみたいだし」
「え、どうしてそんな……」
「正直、貴女とまた付き合われるのもめちゃくちゃ嫌です。ただ失恋のショックで貴女よりひどい女と付き合われるよりましってだけですから。それに貴女と復縁できればお兄ちゃんも幸せでしょ」
ああまあ確かに今の達也の精神状態だと他の人に引っ掛かってもおかしくはない。
そっか、自分から達也がほかの人に取られる状況作ってたのか。
私バカじゃん。
「一応言っておきますけど、私はあくまでお兄ちゃんが幸せになってほしいって自分のエゴのために協力するので。もし貴女よりお兄ちゃんを幸せにできる人が出てきたらそっちに協力するからその時は恨まないでくださいね」
「わかってます……」
仮に今の一時だけでも、私のためじゃなくて妹さん本人のために協力してくれるのでも、安心感が違う。
私独りだと今のこの状態でまた達也と付き合いえる気はしなかった。
「じゃあちょっと通話繋いでもらっていいですか?」
協力してくれるからだろうか、さっき私に向けられていた敵意とは違い、表面上優しそうな笑顔でそう言ってきた。
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