聖女物恋愛短編集(魔女として追放された聖女,火炙りになった元聖女)

下等練入

文字の大きさ
3 / 9
火炙りになった元聖女

都合が悪くなったら私のことを魔女って罵って火刑にするんですね。私は幼馴染と幸せに暮らすので、あなたたちは報いを受けてください!(2)

しおりを挟む
 ――数週間後。
 自由に生きたいという私の願いが神に届いたのか、あの日から私は徐々に力を失っていた。
「リチャード……」
 物思いにふけっていると、従者のアンリが入ってきた。
 私の幼馴染で気の許せる友人の一人だ。

「失礼しますフローレンス様。明日は加護試かごだめしです。もうお休みになられた方がよろしいかと」
 時計を見ると短針はすでに頂点を超えていた。

「ええそうね……、ただ寝付けなくて」
 明日が心配だわ。
 どちらに転んでも私の人生は変わる。
 どうせなら、明日なんか来なければいいのに……。

 どこからか私の力が衰えているという噂を王が聞きつけ、本当に私が聖女であるか試すと言ってきた。
 よほど義娘ぎじょうになる女のことが気になるのだろう。

「ねぇ、アンリ。リチャードは元気かしら?」
「いきなりどうしたんですか?」
 突然もう一人の幼馴染のことを尋ねたからか、アンリはキョトンとした顔をしていた。

「聖女だとわかった時から、常人には戻れないと覚悟したつもりだったけど、明日私の将来が決まるって思うと、なんだか急に昔が懐かしくなって」
「フローレンス様はリチャードのこと大好きでしたもんね。一目見るくらいはいいんじゃないですか?」
 アンリは一通の封筒ふうとうを渡してきた。
 差出人さしだしにんはリチャードと書かれている。

「これは、一体?」
「リチャードからの手紙です。私未だに彼と連絡を取ってまして、住所も載っているので見てみてください。マナー違反ではありますが、フローレンス様にだけなら、見せても許してくれるでしょう」

 中を見ると、彼が今美術商をいとなんでいることや、私への祝いの言葉が紙一杯びっしりと書き込まれていた。
「けど、私が行ったら彼に迷惑が――」
 ただでさえ聖女の行動は厳しく制限されているのに。
「少しなら大丈夫だと思いますよ」
 私の言わんとすることを察したのか、アンリはそっと微笑んでくれた。

「そうね……」
 一目見ることができたらいいのだけど。

「その手紙は渡しておくので、今日は寝てください」
「わかったわ、おやすみ」
「おやすみなさい」

 その夜、私は夢を見た。
 懐かしい、修道院最後の日の夢だ。

 ◆

「嫌だ! 王宮なんて行きたくない!」
「行きましょうフローレンス様、アンリもついていきますから」
 修道院を離れる日、私はもの凄い駄々だだをこねていた。
 それはもうこねてこねて、カチカチになるくらいこねていた。

「リチャード、助けて!」
「いいかいフローレンス、聖女になるなんてとても名誉なことなんだよ――」
「知らない! 名誉なんかより今のままがいい!」
 いきなり「君は聖女だ」なんて言われても実感はないし、そんなものに興味もない。

「リチャード前に言ったじゃん、私をずっと幸せにするって。幸せにしてよ」
 嗚咽おえつ交じりの声で、リチャードにすがりつく。
「ごめんねフローレンス……。本当にごめん」
 うつむいたリチャードの噛み締めた唇には、血がにじんでいる。
 リチャードのそんな表情初めて見た。

「ねぇ……、いつか私を迎えに来てくれる?」
「あ、ああ。必ず迎えに行くよ!」
「なら私聖女になる……」
 迎えに行くという言葉が聞けただけでも良かった。

「フローレンス……」
「大丈夫。このナイフ貴方にあげる。私だと思って大切にして」
「だけどこれは――」
「父の思い出の品だけどいいの。これを見ると甘えてしまいそうだから」
 こうして、私は王宮へと旅立った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

結婚するので姉様は出ていってもらえますか?

基本二度寝
恋愛
聖女の誕生に国全体が沸き立った。 気を良くした国王は貴族に前祝いと様々な物を与えた。 そして底辺貴族の我が男爵家にも贈り物を下さった。 家族で仲良く住むようにと賜ったのは古い神殿を改装した石造りの屋敷は小さな城のようでもあった。 そして妹の婚約まで決まった。 特別仲が悪いと思っていなかった妹から向けられた言葉は。 ※番外編追加するかもしれません。しないかもしれません。 ※えろが追加される場合はr−18に変更します。

妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~

サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――

傷物の大聖女は盲目の皇子に見染められ祖国を捨てる~失ったことで滅びに瀕する祖国。今更求められても遅すぎです~

たらふくごん
恋愛
聖女の力に目覚めたフィアリーナ。 彼女には人に言えない過去があった。 淑女としてのデビューを祝うデビュタントの日、そこはまさに断罪の場へと様相を変えてしまう。 実父がいきなり暴露するフィアリーナの過去。 彼女いきなり不幸のどん底へと落とされる。 やがて絶望し命を自ら断つ彼女。 しかし運命の出会いにより彼女は命を取り留めた。 そして出会う盲目の皇子アレリッド。 心を通わせ二人は恋に落ちていく。

孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます

天宮有
恋愛
 聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。  それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。  公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。  島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。  その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。  私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。

聖女の任期終了後、婚活を始めてみたら六歳の可愛い男児が立候補してきた!

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
23歳のメルリラは、聖女の任期を終えたばかり。結婚適齢期を少し過ぎた彼女は、幸せな結婚を夢見て婚活に励むが、なかなか相手が見つからない。原因は「元聖女」という肩書にあった。聖女を務めた女性は慣例として専属聖騎士と結婚することが多く、メルリラもまた、かつての専属聖騎士フェイビアンと結ばれるものと世間から思われているのだ。しかし、メルリラとフェイビアンは口げんかが絶えない関係で、恋愛感情など皆無。彼を結婚相手として考えたことなどなかった。それでも世間の誤解は解けず、婚活は難航する。そんなある日、聖女を辞めて半年が経った頃、メルリラの婚活を知った公爵子息ハリソン(6歳)がやって来て――。

処理中です...