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火炙りになった元聖女
都合が悪くなったら私のことを魔女って罵って火刑にするんですね。私は幼馴染と幸せに暮らすので、あなたたちは報いを受けてください!(2)
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――数週間後。
自由に生きたいという私の願いが神に届いたのか、あの日から私は徐々に力を失っていた。
「リチャード……」
物思いに耽っていると、従者のアンリが入ってきた。
私の幼馴染で気の許せる友人の一人だ。
「失礼しますフローレンス様。明日は加護試しです。もうお休みになられた方がよろしいかと」
時計を見ると短針はすでに頂点を超えていた。
「ええそうね……、ただ寝付けなくて」
明日が心配だわ。
どちらに転んでも私の人生は変わる。
どうせなら、明日なんか来なければいいのに……。
どこからか私の力が衰えているという噂を王が聞きつけ、本当に私が聖女であるか試すと言ってきた。
よほど義娘になる女のことが気になるのだろう。
「ねぇ、アンリ。リチャードは元気かしら?」
「いきなりどうしたんですか?」
突然もう一人の幼馴染のことを尋ねたからか、アンリはキョトンとした顔をしていた。
「聖女だとわかった時から、常人には戻れないと覚悟したつもりだったけど、明日私の将来が決まるって思うと、なんだか急に昔が懐かしくなって」
「フローレンス様はリチャードのこと大好きでしたもんね。一目見るくらいはいいんじゃないですか?」
アンリは一通の封筒を渡してきた。
差出人はリチャードと書かれている。
「これは、一体?」
「リチャードからの手紙です。私未だに彼と連絡を取ってまして、住所も載っているので見てみてください。マナー違反ではありますが、フローレンス様にだけなら、見せても許してくれるでしょう」
中を見ると、彼が今美術商を営んでいることや、私への祝いの言葉が紙一杯びっしりと書き込まれていた。
「けど、私が行ったら彼に迷惑が――」
ただでさえ聖女の行動は厳しく制限されているのに。
「少しなら大丈夫だと思いますよ」
私の言わんとすることを察したのか、アンリはそっと微笑んでくれた。
「そうね……」
一目見ることができたらいいのだけど。
「その手紙は渡しておくので、今日は寝てください」
「わかったわ、おやすみ」
「おやすみなさい」
その夜、私は夢を見た。
懐かしい、修道院最後の日の夢だ。
◆
「嫌だ! 王宮なんて行きたくない!」
「行きましょうフローレンス様、アンリもついていきますから」
修道院を離れる日、私はもの凄い駄々をこねていた。
それはもうこねてこねて、カチカチになるくらいこねていた。
「リチャード、助けて!」
「いいかいフローレンス、聖女になるなんてとても名誉なことなんだよ――」
「知らない! 名誉なんかより今のままがいい!」
いきなり「君は聖女だ」なんて言われても実感はないし、そんなものに興味もない。
「リチャード前に言ったじゃん、私をずっと幸せにするって。幸せにしてよ」
嗚咽交じりの声で、リチャードに縋りつく。
「ごめんねフローレンス……。本当にごめん」
俯いたリチャードの噛み締めた唇には、血がにじんでいる。
リチャードのそんな表情初めて見た。
「ねぇ……、いつか私を迎えに来てくれる?」
「あ、ああ。必ず迎えに行くよ!」
「なら私聖女になる……」
迎えに行くという言葉が聞けただけでも良かった。
「フローレンス……」
「大丈夫。このナイフ貴方にあげる。私だと思って大切にして」
「だけどこれは――」
「父の思い出の品だけどいいの。これを見ると甘えてしまいそうだから」
こうして、私は王宮へと旅立った。
自由に生きたいという私の願いが神に届いたのか、あの日から私は徐々に力を失っていた。
「リチャード……」
物思いに耽っていると、従者のアンリが入ってきた。
私の幼馴染で気の許せる友人の一人だ。
「失礼しますフローレンス様。明日は加護試しです。もうお休みになられた方がよろしいかと」
時計を見ると短針はすでに頂点を超えていた。
「ええそうね……、ただ寝付けなくて」
明日が心配だわ。
どちらに転んでも私の人生は変わる。
どうせなら、明日なんか来なければいいのに……。
どこからか私の力が衰えているという噂を王が聞きつけ、本当に私が聖女であるか試すと言ってきた。
よほど義娘になる女のことが気になるのだろう。
「ねぇ、アンリ。リチャードは元気かしら?」
「いきなりどうしたんですか?」
突然もう一人の幼馴染のことを尋ねたからか、アンリはキョトンとした顔をしていた。
「聖女だとわかった時から、常人には戻れないと覚悟したつもりだったけど、明日私の将来が決まるって思うと、なんだか急に昔が懐かしくなって」
「フローレンス様はリチャードのこと大好きでしたもんね。一目見るくらいはいいんじゃないですか?」
アンリは一通の封筒を渡してきた。
差出人はリチャードと書かれている。
「これは、一体?」
「リチャードからの手紙です。私未だに彼と連絡を取ってまして、住所も載っているので見てみてください。マナー違反ではありますが、フローレンス様にだけなら、見せても許してくれるでしょう」
中を見ると、彼が今美術商を営んでいることや、私への祝いの言葉が紙一杯びっしりと書き込まれていた。
「けど、私が行ったら彼に迷惑が――」
ただでさえ聖女の行動は厳しく制限されているのに。
「少しなら大丈夫だと思いますよ」
私の言わんとすることを察したのか、アンリはそっと微笑んでくれた。
「そうね……」
一目見ることができたらいいのだけど。
「その手紙は渡しておくので、今日は寝てください」
「わかったわ、おやすみ」
「おやすみなさい」
その夜、私は夢を見た。
懐かしい、修道院最後の日の夢だ。
◆
「嫌だ! 王宮なんて行きたくない!」
「行きましょうフローレンス様、アンリもついていきますから」
修道院を離れる日、私はもの凄い駄々をこねていた。
それはもうこねてこねて、カチカチになるくらいこねていた。
「リチャード、助けて!」
「いいかいフローレンス、聖女になるなんてとても名誉なことなんだよ――」
「知らない! 名誉なんかより今のままがいい!」
いきなり「君は聖女だ」なんて言われても実感はないし、そんなものに興味もない。
「リチャード前に言ったじゃん、私をずっと幸せにするって。幸せにしてよ」
嗚咽交じりの声で、リチャードに縋りつく。
「ごめんねフローレンス……。本当にごめん」
俯いたリチャードの噛み締めた唇には、血がにじんでいる。
リチャードのそんな表情初めて見た。
「ねぇ……、いつか私を迎えに来てくれる?」
「あ、ああ。必ず迎えに行くよ!」
「なら私聖女になる……」
迎えに行くという言葉が聞けただけでも良かった。
「フローレンス……」
「大丈夫。このナイフ貴方にあげる。私だと思って大切にして」
「だけどこれは――」
「父の思い出の品だけどいいの。これを見ると甘えてしまいそうだから」
こうして、私は王宮へと旅立った。
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