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火炙りになった元聖女

追放された聖女は、幼馴染を訪ねます

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 住所の近くまできたが、とても人が住めそうなところではなかった。
 脇道の入り組んだ中にあり、近くには浮浪者ふろうしゃが何人もいる。
「酷いところね……」
 こんなところに住んでて、危ない目にったことはないのかしら?
 なんてことを考えてるうちに、すぐ彼の住む集合住宅の前まで来てしまった。

 ここね……。
 もしいきなり彼が出てきたらどうしよう。
 私って気が付いてくれなかったらどうしよう。
 そんなことを考えて、扉の前でうろうろしていると、誰か来る気配がした。

 彼だったらどうしよう……。
 いや、もしかしたら浮浪者とか変質者かも。
 ここに来るまで見たことを考えると十二分にあり得る。
 そんな人達に乱暴されては困る。
 そんな考えが彼をたずねる手伝いをしてくれた。

 急いで何回かドアを叩くと、中から間延びした返事が聞こえてきた。
「は~い」
 聞いたことない男の人の声だ。
 声変わりしてるから当たり前だが、もしリチャードじゃ無かったらどうしよう。
 そんな余計な考えが頭の中を駆け回り、ドアが開くまでの時間が、永遠のように感じられた。

 ゆっくりと扉が開くと、中からリチャードが出てきた。
 背は伸び、がっしりとした体つきになり、顔は大人びていたが、間違いなく私の幼馴染のリチャードだ!

「え? フローレンス?」
 ドアを開けたリチャードは、面食らったような顔をしていた。

「そうよ! 覚えててくれたの?」
 やった!
 リチャードが私のこと覚えててくれるなんて!
 ただ、あんなにすぐわかるなんて、私修道院を出た時から成長してないのかしら?

「まあね。とりあえず入れよ」
 少し恥ずかしそうにはにかむと、リチャードは中に入れてくれた。
「おじゃましまーす!」
 初めて入る部屋だったが、不思議と懐かしさがあった。

「絵が欲しいのか?」
 私が座るよりも早く、リチャードは尋ねてきた。
「そういうわけじゃなくてね……」
 一目会えればいいと考えていたので、話題がない。

「絵じゃないなら、帰ってくれないか? ここは聖女様が来るような所じゃない」
 なんで?
 確かに、ここに来るまでの道はお世辞にも安全とは言えなかった。
 それでも、折角会えたんだし、何か話したい。

「ねぇリチャード……、私もう聖女じゃないのよ」
「つまらない冗談言うなよ。フローレンスは聖女になるからって修道院から王宮に行ったんじゃん?」
「私にはもう加護がないの」
 部屋の中に一本だけ枯れかけた花があったので、治そうとしたが、全く変化が無かった。
 前までこんな花、一瞬で治せたのに。

「これで分かったでしょ?」
「人殺しでもしたのか?」
 なぜかリチャードはすっとんきょうなことをたずねてきた。
「へ? そんなことしてないわよ」
 虫すら殺せないのに、人なんか殺せるわけがない。

「私が人殺しそうに見える?」
 じっと、リチャードを目を見つめたら、彼はサッと視線をずらし、一冊の本を出してきた。
「いや、悪い。実はこの本に、聖女が加護を完全に失うのは、神に背く行為をしたときだけってあったからさ」

 リチャードが指したページを見てみたが、読めない……。
「ちょっと、これ外国語で書かれてるじゃない! 他国の本は禁書きんしょでしょ!」
「そうだよ?」
 リチャードは悪びれもせず、「なに当たり前のこと言ってるんだ?」とでも言いたげな顔でそう答えた。

「正直、この国で聖女と加護は神聖な物として研究対象になってないから、他国のものを見るしかないんだ」
「そうかもしれないけど……」
 まあ私自身、加護のことについて詳しく知らなかったから、それを知れるのは助かるけど。

「それで、主に背く以外で加護を失う原因ってあるの?」
「あーちょっと待ってろ」
 リチャードすごい勢いでページをめくり始め、突然ピタリと止まった。

「あー、いいか読むぞ。『聖女が神に背いていないにもかかわらず力を失った時、以下の原因が考えられる。なにかを強く拒絶したか、加護を使用するにあたり強い嫌悪を抱いたかである。そしてその場合、訓練をすることで、再び加護を取り戻す事ができる』だってさ」
「そうなの? けど、もう聖女にはなりたくないからこのままでも――」
 いくら祭司様の命令でも、特定の人しか助けられないのは嫌だし。

「なに言ってるんだよ。聖女じゃなくなったって事は、自分の好きなように加護を使えるってことだぞ。取り戻さなくてどうするんだよ」
「そうかしら?」
 まあ確かに今さら加護を取り戻しましたって言っても、もう聖女には戻れないだろう。
 それに聖女じゃなければ、上下の区別なく治したいと思った人を治すことができる。
 リチャードの言う通りだ。

「いや、そうね! 私加護を取り戻せるように頑張ってみるわ!」
 ずっと捕らわれてたから忘れてた。
 私は自由になったんだわ!

「ありがとう! リチャードに言われるまで気が付かなかったわ!」
「頑張れ! 俺になにかできることがあるなら協力するから」
「じゃ、じゃあ早速こんなこと言うは申し訳ないんだけど、しばらくここに住まわせてくれないかしら?」
 自由になったで思い出したけど、衣食住全てを犠牲ぎせいにして自由になったのだ。
 この先行く当てもない。
 もちろんお金も……。

「家事は私がするから……。ね?」
「……わかった、気が済むまで居ていいよ」
 最後ウィンクが効いたのか、リチャードは快く許可してくれた。
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